126話 意外な遭遇は続くと疑いがちなもの
こんにちこんばんは。
結局空と遭遇して分かったことって脇道逸れてたよなと実感する仁科紫です。
……もっと話進めやすくなる予定だったのに……。
それでは、良き暇つぶしを。
「うん。ダメだよ?急に何を言い出すかと思えば。まったく。」
「デスヨネー。」
まあ、そうだろうなとまた心中でこぼす。これが神様だ。でも、対価を示せば褒美をくれるのも神様だと私は知っている。だから、私は神様にメリットを提示しなければならないんですよねぇ。
「神様。無理を承知で言っているんです。これは、プレイヤーの選択ですよ?」
「……うん。知ってる。でも……」
「でも、じゃないです。せめて、どこかにアルファの情報を……あっ。」
どうにか神様を説得できないかと更に言い募ろうとした時、はたと思い至る。
そう言えば、アルファさんは月に封印されていたんですよね?それはつまり、月に何らかのヒントが残っていることを意味しているはず……?もっと言えば月の欠片でもあるこの島にもその痕跡が残っているはず、ですよね?
ふむふむ。なるほどなるほど!
「……どうしたの?」
なんだか嫌な予感がするとばかりに歪められた神様の顔を見て決める。よし、これからの方針、確定です!
「神様!」
「何かな?」
「全ての島を回りますよ!」
「う、うん。別にいいけど……急にどうしたの?」
訝しむ神様にニヤリと笑う。まあ、神様からしたら怪しいですよね?ですが、神様には暫く気づかないでいて欲しいですし?ここは適当な理由をでっち上げるとしましょう。嘘は真実に混ぜると悟られにくくなると言いますからねぇ…。
「ここまで来ましたし、どうせならあと9つ島を回りたいと思ったんです。空には会えましたけど、せっかくですから。」
「……怪しい。それだけじゃないでしょ。」
「さぁ?どうでしょうね?」
クスクスとただ笑う。ここで大事なのは追い詰められているように見せないことだ。笑えば大抵誤魔化せると海の記憶が言ってますし!
あとは、決して言わないという意思を相手が悟って諦めるのを待つだけですね。根比べでは負けませんよ?
私の思いを感じ取ったのだろう。神様はやがて重くため息をついた。
「いいよ。君が何を考えているのかは知らないけど、島を回ろう。」
「やったー!ですっ!」
神様が折れるのを確認し、両腕を上にあげてその場でくるくると回る。
周りで私たちの様子を見ていたガイアさん達がどこかほっとした顔で私と神様を見ているのが少し不思議だったが、何はともあれ私の勝利には変わりない。
これで手がかりを探しながら空が何をしたいのか分かるかもしれません!よくよく考えてみると結局、空が何をするつもりなのか聞けてませんしね!?
「そうと決まれば、早速次の島に行くための試練を受けに行きますよーっ!」
「「おー!(?)」」
「……空くんのことはどうするつもりなんだろうなぁ。」
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「えっと?もしかして、次の島に行きたい……とかです?」
「はいです!」
にっこにこと笑いながら発見した地下の第一住民に話しかける。この地下に居るのならば間違いなく何かしらの事情は分かるだろうと踏んでいたが、思惑通りだったようだ。
あれから私たちは地下をひたすら進み続け、時に上空の穴へと向けて飛んだり、落とし穴を躱したり、宝箱だと思って開けた箱がまさかのトラップで慌てて回避したりとかなり本格的なアクションをする羽目となっていた。
え?宝箱を開けた人物ですか?……まあ、言わない方がいい事って沢山ありますヨネ。
そうして進むこと10分。壁に寄りかかるように立っていた人物に今話しかけているのだった。
「うーん。」
「難しいでしょうか?」
「いや、それは大丈夫です。
でも、お姉さんたちが試練に参加するですよね?」
「そうですよ?」
答えるとまた黙りこみ、唸り始めた第一住民を少し観察する。見た目はごく平凡な少年だが、黒い髪と目に対比したような白い肌がどうにも儚い印象を受けさせる。
恐らく幽霊族なのだろうが、地上で見た幽霊族達よりも生気を感じる点が少し違って見えた。
「ふむふむ。そういう事なら分かりましたです。お姉さんたちが参加する試練を用意してくるですよ。」
「えっ。貴方が、ですか?」
やがて頷いた少年がにこりと笑った。
しかし、まるでその権力が自分にあるとでもばかりの少年に首を傾げる。
「はいです。申し遅れたですね。
僕はカルマ。この楽園の島を統べるヘルメスファミリアの長。とーっても偉いですよ?」
「……えっ。ぇえええええええっ!?」
まさかの第一住人がギルマスという展開には私も唖然とし、こんな事ってあるんだなと思考してすぐに打ち消す。いや、ないですよ。当たり前ですけど。
うーん。まさか、怪しい行動をしていたからとか、この地下に入り込んだいたからといった理由から目をつけられていたんでしょうかね?
どちらにせよ嫌だなと弄れた考えに嫌気がさしつつ、カルマと名乗った少年に詳しく話を聞くことにした。
「凄いですね。こんな偶然があるなんて。それで、具体的な試練の内容は教えて貰えるんですか?」
「今知りたいです?」
「教えて貰えるなら。」
猜疑心を誤魔化すべく驚いて見せたが、上手く誤魔化せれてくれたかは自信がない。それよりもギルマスであるなら情報を教えてくれるかもしれないとカルマさんに話しかけた。
「うーん。……さすがに今言うと怒られるですね。」
「はい?」
「あっ。こっちの話です。ある程度内容は決まってるですが、言うと面白みにかけるですから、言わないきまりになってるです。」
難しい顔をしていたカルマさんは私が尋ねた次の瞬間にはにぱっと笑って誤魔化した。その間数秒もかかっていない。凄い早業だ。
ギルマスともなれば必要な技術なのでしょうか?これは検討が必要ですね……。
「いてっ。……なんですか?」
直後頭頂部に衝撃が走り、何事かと振り向くと神様がいた。
「なんですか?じゃないよ。どうせ、また変なことでも考えてたんでしょ?たとえば、表情筋を鍛える方法とか。」
「おお!よく分かりましたね!遂に神様と以心伝心になりましたか!?」
「多分、誰でも分かると思うよ…。」
ですよねーと心の中で呟きつつ話に戻ろうとカルマさんを見ると、そこには目が笑っていないカルマさんがいた。あまりにも嘘くさいその笑顔を訝しんでいると、視線に気づいたらしいカルマさんはすぐにまた笑顔に戻った。直感的に嘘くさいと判断した笑顔に感情がのる瞬間は、先程見たものが見間違えであったかのように思える程に僅かだった。
うーん。いい人かと思いましたが、勘違いかもしれません。なんと言うか……読めない人、ですね。
「と、とにかく、それならいつ受けることが出来ますか?」
「うちも忙しいです……なんなら、今からの方が僕の手も空いてるです。ファミリアには話を通しておくですから、ここに来てもらえるです?」
カルマさんから渡されたのはこの先の地図らしいものが描かれた紙だった。丸印のついている場所が目的地なのだろう。
「分かりました。では、今から向かいますね。」
「ホッとしたです。先に行ってるですね。待ってるですよ。」
胸をなで下ろしたカルマさんは手を振り、その場でポンっと消えてしまった。
あっ。そこは幽霊らしくスゥっと消えるんじゃないですね。
意外と派手だった退場の仕方に驚きつつ、行き先を神様に渡す。神様なら道案内もしてくれるでしょう。
「……なるほどね。」
「場所は分かりましたか?」
「ああ。任せて。」
「む。道案内なら私がする。」
頷く神様に待ったがかかった。どうやらガイアさんは以前道案内してからというもの、道案内する楽しさに目覚めたらしい。
見た目も相まって小さな子が背伸びしているようで可愛らしいと思ったが、言えば怒られそうだ。黙っていましょう。
「うーん。でも、ここ分かるかな?」
「分かる。こっち。」
見せられた紙に頷くガイアさんに任せ、その後ろを着いていく。時々後ろを振り向くガイアさんはやはり幼く見えた。微笑ましいですね。
「ついてくる。」
「はーいっ!待ってください!ガイアさん!」
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「こっちか?」
「ん。」
「こっち?」
「ん。」
「こっちか!?」
「うるさい。」
「す、すまん!!」
「あはははは……。」
ウラノスさん、ロノさんには静かに頷いていたガイアさんは、やはりと言うべきかアイテールさんには厳しかった。ここまで区別がハッキリしているのもガイアさんらしさと言うべきだろう。
アイテールさんが落ち込んでいますが、いつもの事ですしね。淡々と後ろについて行くとしましょう。
そうして15分ほど歩いた頃、何処からか賑やかな声が聞こえて来た。……まあ、前方からなんですけど。
「久しぶりの挑戦者が来るぞーっ!」
「なーに試そっかなぁっ!」
「ヒッヒッヒ……この日のために用意していたアレを……ヒヒッ……。」
「こら!被験者じゃないんだからマッドはバックに帰れっ!」
「「えー!?面白くなーいっ!!」」
「挑戦者だっつってんだろーがっ!!遊びじゃねーんだよっ!しっしっ!」
「「はーい……。」」
「はぁ……ったく。」
ため息をつくその人はこの場の責任者らしく、場をまとめるのに苦労しているようだ。見えてきた洞窟の奥には三階建てでドーム型の屋根が特徴的な大きな建物があった。ベージュと黄色をメインとしたその建築物は黒色も用いられており蜂を連想させる。なんだか危険そうですね。
建物には近寄らないでおこうと決心する中、私たちに気づいたその人が近づいてきた。
目立たない焦げ茶の髪に暗い茶色の目。何処にでも居そうな青年は苦笑いを浮かべている。その笑顔に既視感を覚えたことが少し不思議だった。
「ああ。来たのか。ここまで迷わなかったか?」
「ちょっとま「迷ってない。」……はいです!」
「そ、そうか……。」
実は途中で少し迷ったのだが、ガイアさんからするとなかったことにしたいらしい。ある意味当然なのですが。
どう見ても小さな子が自分の失敗を隠そうとしているようにしか見えないガイアさんには、やはり微笑ましげな視線が送られる。当の本人は非常に不服そうだがこれはいたし方のないことだろう。
緩んだ空気を変えるように青年が咳払いをした。
「コホン。何はともあれ、ようこそ。ここがヘルメスファミリアのラボだ。僕はクラウド。ギルマスに頼まれて君たちを歓迎するよ。
そして、ここで我らが試練、ニセモノ探しを開催することを宣言する!」
こうしてなし崩し的にではあったが、楽園の島での第三の試練が始まったのだった。
次回、ニセモノ探し(イミテーションルック)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




