125話 苛立ちは抑えて
こんにちこんばんは。
文章が迷子な仁科紫です。
前より拙く感じるのは何故なのか……。
それでは、良き暇つぶしを。
「ほんと!神様ったら大事なことは教えてくれなくて!」
「うんうん。」
「『プティがしたいようにしていいんだよ』って、結局私任せにするんですから!」
「あの人はそういう所があるよね。」
「私が神様って遊び半分に呼び始めた時も許しちゃうくらいですし?今回もどうせ、『バレちゃったか。プティはどうしたい?』って聞いてくるんです……!!」
「うん。惚気かな?」
手元にあったティーカップを手に取り、飲み干してダンッと……鳴らす寸前に力を弛め、カチャンッと音を鳴らす程度に留める。その程度の理性はあったが、逆に言えばそこ程度しか理性がなかったわけで。神様への鬱憤が溜まりに溜まっていたことを自覚する事となった。ほんと。ほんっと!なんなんでしょうね!?神様は!!
ふぅっと息をつき、気持ちを落ち着かせる。
あれからなんとか空の説明を理解するべく頭の中で整理しようとしたのだが、それよりも神様への怒りが頭の中を占領してしまい上手くいかなかった。そのため、少し休憩を挟むことにして今に至る。尚、お茶を入れたのはタルタロスさんである。
空ったらタルタロスさんを顎で使うんですから、この2人の関係性が気になるところですよね。
ふと思考が逸れたことである程度落ち着いて来たことを自覚する。これなら続きの話も聞けるだろう。
空に声をかけ、空に説明を求める会を再開した。
「とりあえず、今までの話をまとめますね。
旧神達がタルタロスさんによって封印されたのは、アルファさんがもう一度封印されるのを防ぐため。ですが、結局神様によってアルファさんの封印はなされてしまった。その事にタルタロスさんは焦っていたが、私が封印を解除し始めたのに勘づいてそれに便乗。神様を欺くための偽の封印を解いてタルタロスさん達は他の旧神達が弱っている間にアルファさんの救出を行ったということであっていますか。」
「うん。大体あっているよ。ついでに言い忘れていたんだけど、そのイベントの過程で神様ランキングの今のトップ11位が決まったんだ。」
「へぇ。11位が……ん?11位?」
なんで11位……?今のトップは12位までですがと首を傾げていると空は可笑しそうに笑った。この反応は想定済みだったらしい。
「そもそも、神様ランキングなんてものは存在していなかったんだ。ファミリアもなかったしね。出来たのはイベントでの報酬として特に活躍した11人に権限が与えられてからなんだ。」
情報量が多すぎるとはこの事だろうなという考えが頭を過ぎったが、頭を振って追い出し、空の言葉を咀嚼する。
つまり、今の神様ランキングは旧神達がこの世界で自由に過ごしていた頃はなかった。出来たのはその後。ファミリアの誕生とほぼ同時だったと推測出来る。
では、何故作られたのか。普通ならばゲームで面白そうだったから運営が採用したと考えられるが、今回のこれは間違いなく必要だったからだろう。神様が無駄なことを採用するとも思えませんしね。
神様ランキングでの騒動からして、この世界では一人一人に崇める神というものが存在している。そこから想像できるのは、神のいない世界をこの世界の人々が受け入れられず、世界中で混乱が生じたという可能性だ。だから、それを阻止すべく新しく神という存在をファミリアに求めた……というところでしょうか。
……ただ、以前、旧神達に聞いた話だと神様ランキングはそれより前から存在してはいたらしいんですよねぇ。ここで空が嘘をつく意味もないですし、恐らくこれは空も又聞きの部分なんでしょう。
「……神は居なかった、いえ、居なくなった。だから新しく創って世界を保とうとした……?……うん。意味が分からないですけどパワーバランス的な理由だと推測しましょうか。」
「そうだね。世界の均衡を保とうとしたという意味では合っているよ。
とにかく、コイツの思惑通りに世界は回って今の現状がある訳だ。」
「なるほど……。」
結局、分かったような分からないような説明だったなと息をつく。……っと、うっかり本題を忘れるところでした。
「それで、どうして空は私の前から居なくなったんですか?」
「ちぇ。流されてくれなかったか……。」
ボソリと呟いているが、聞こえてしまっているのはわざとなのかなんなのか。何はともあれ、これだけの長話の意図はやはり聞いて欲しくないことがあったから、ということで間違いないようだ。
「なんでも答えてくれるって言いましたよね?」
「そうだけど……でも、聞いたところで姉さんは納得しないと思うよ?ボクが答える必要は……「ダメです。」……はぁ。分かったよ。」
渋々とため息をついた空は少し間を置いてから口を開いた。
「ボクの目的は、ボクの親友である彼女を助けること、だよ。それ以上でもそれ以下でもない。
例え姉さんが立ち塞がったとしてもボクはやり遂げるから。」
決意の籠った目は私の目を見つめてそらさない。よく知らない人ならばこの言葉を真に受けるだろう。しかし、私は空のお姉ちゃん、ですよ?
「空、そんな嘘をつかないで下さい。」
「は?嘘じゃないよ。本当のこと。」
「ええ。そうですね。それも理由の一つかもしれません。しかし、全てではありませんよね。
だから、それは嘘です。海は、少なくとも、私たちの元となった彼女は嘘をつくとき、相手の目を見る癖があったんですから。」
暗に空も同じだろと言葉を返せば、空は黙って口をへの字に曲げた。
そう、海は嘘をつくとき、嘘がバレることを恐れて相手の目を見るのだ。そして、それは私もやりがちな事だ。特に、バレたくない嘘の時は尚更。
「ねぇ、空。あなたは私に嘘をついてまで何がしたいんですか?」
「……海は、でしょう。ボクは海じゃない。」
「でも、思い当たることがあるから不機嫌なんですよね?」
どうしても話したくないのだろう。顔を顰めた空はその場で立ち上がり、私に背を向けた。
「ごめんね。姉さん。そろそろボクは行かないと。」
「待ってください空っ!」
「……ごめん。行くよ。タルタロス。」
「うむ。」
反対側のソファへと手を伸ばす前に空とタルタロスが消える。それと同時に洋館も全て解けるように消えてしまった。
突然森の中に一人取り残され、呆然と空のいた方を見続ける。まるで白昼夢だったかのように空のいた痕跡は消え去っていた。その事に段々と苛立ちが募っていく。もう、なんなんですか。本当に……
「……そらの、空のバカぁあああああっ!!」
いくら叫ぼうと空に届いているのかすら分からない。ただ、この行き場のない感情をどうにかしたかった。
《騒いでもどうにもならないというのに、人とは難儀なものだな。》
呆れたようなニケの声だけが私を現実へと引き戻す。
あーもうっ!空が勝手にするなら私も勝手にしてやるっ!ですっ!!
とりあえず、森から脱出して神様と合流することから始めようと決心するのだった。
・
・
・
「そして、今に至る、と。」
「はい……。」
「合流出来て良かった。」
「うむ!あの時はもう無理かと思ったからな!」
あの後、特にこれといった収穫もなく洞窟を抜け出し、私はその先にいた神様たちと合流していた。なんでも、その場所は神様達がまとめて落とされた場所らしく、私も一緒に落ちていればここに辿り着いていたらしい。
「プティ、大丈夫?」
「何がですか。」
「空くんの事だよ。あれだけ会いたがっていたじゃないか。」
不思議そうに尋ねる神様の言葉に間違いはない。確かに私は空と再会すれば何かが分かると思っていた。これからの行動も決まると思っていたし、実際にどうするかはある程度の方針は決まった。
それでも……
「なんだか、空が遠く感じてしまったんです。空が、私の知らない人になったみたいで。
おかしいですよね。私たちはまだ出会って一ヶ月も経っていないのに。」
「プティ……。」
声は震えない。ただ、感じたがままに言葉を綴る。神様は私を心配そうに見ていたが、気づいてはいても気にならない。それ程に空との再会は私にとって大切で衝撃的なことだった。
ただ少し一人になりたいだけならそれで良かった。ただやらなければならない事があって離れるのならそれでよかった。……はず、なのにこうも私という存在を無視して自分の望みを叶えようとする空がただ悲しかった。もっと頼ってくれたらいい。私は確かに神様のことを尊重してはいますが、一番は空なんですよ?それをわかっていないかのように空は逃げるように姿を消したんです。
そもそも、封印も解かれて自由なはずのアルファさんを助けるってどういう意味です?まさか、ルナさんに戻そうと画策しているわけでは……あぁ。いいえ。そうですね。彼女は親友と言っていました。つまり、それは彼女が助けなければならないと感じる相手のはず。つまり、私がすべきことは。
「神様!」
「う、うん。なんだい?」
「私は空の望みを妨げたくはありません。それが例え神様にとって不都合なことであったとしても、です。」
「……うん。それを君が望むのなら、僕は止められないし、止めない。
それに、君の判断なら誰も文句は言えないからね。」
苦笑する神様にやっぱりかと心中で呟く。その肯定が少し寂しく感じたとしても。今回ばかりはたとえ神様であっても利用しなければならない。
私は、空にどうしてもしてもらわなければならない事があるのだから。だから、今はもう思う存分神様に甘えることとしましょう。私の願いが叶うまでは。だから……
「分かりました。では、アルファさんについての情報を頂けますか。
今回ばかりは、教えてもらいますよ?」
そう言って、私はにこりと笑った。
次回、神様は教えてくれるのか?
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




