幕間 クロの処遇
こんにちこんばんは。
ガリガリとストックを削りながら投稿しているが故にもうなくなりそうな仁科紫です。
今回は短くなってます。やらかしたクロの処遇について書いたのですが、人によっては微妙…となるかもしれません。それでもよろしければどうぞ、お読みください。
それでは、良き暇つぶしを。
それは私がふと疑問に思ったことから問いかけた事だった。
「そういえば神様。どうして私があそこにいた事が分かったのです?あと、クロー…クロさんを最近見かけない気がするのですが。」
私にとってはなんてことの無い質問。しかし、神様にとっては動揺するに十分なものだったらしい。
店番中の休憩と称して飲んでいたコーヒーを吹き出し、気管にでも入ったのかゴホゴホと咳き込む。
…ん?でも、ゲームの中でも気管に入ることなんてあるんですかね?普通はないと思うんですけど。
気になって尋ねずに居られなくなった私は、未だに噎せている神様に話しかけた。
「神様。どうしてゲームの世界の中なのに噎せるんですか?」
「けほっ…うん。このゲームのモットーは『二度目の生』『人々へ夢を届ける』といったもので、そういった体の反応とかもかなり再現されているんだ。
正直、向こう側の体と遜色ないくらいの再現度ではあるね。」
喉を擦りながらも何処か誇らしげにスラスラとそう答えた神様に首を傾げつつ、プレイヤーの保護者になるような人だからそういう事もあるかと納得した。
それはそうと、クロと呼ばれた彼のことが気になる。先程の神様の様子では答えてくれるかは五分五分だが、もう一度聞いても損にはならないだろう。
「それで、クロさんの事ですが。」
「あー…彼はね。今頃後悔していると思うよ。多分、二度と会うことはないと思うから忘れた方がいい。」
「?…はあ。神様が仰るなら、忘れますね。正直、関わるなら気になるという程度だったので。」
「それはそれで彼が可哀想な気もしなくはないね…。」
仕方がありませんよね。神様ファーストですし。……今のところ。海が現れない限り、ですが。
とにかく、私は神様を最優先にしますから正直、もう会うことがないならどうでもいいんですよ。
そう考えて、私はそれ以降クロさんについて思い出すことは無かった。
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時が遡り、これはエンプティが店から飛び出して行った直後の話───
バンッと扉を開けて飛び出していく人形。それを見てクロードは首を傾げた。
「なんだったんだ?アイツ。」
ただの世間話のつもりだったクロードは、それをエンプティがどう受け取ったかも知らぬまま、呑気に変なやつだなと考えていた。
……が、すぐにその感情は邪魔者を排除できた喜びに塗りつぶされる。
(よく分からないけれどラッキーね。ここ数日はアレとばかりあの方がいらっしゃるから、2人きりになれなかったもの。
この機会は逃せないわ。)
実はこのクロード。外見は男であるが、中身は女性である。より語弊のない言い方をすると、リアルで女性なのである。
それも、現実の神様…アルベルトに恋をしてこちらにまで付きまとうようなストーカー気質のある女性だったのだ。エンプティが言う敵というのはあながち間違いではなかったのである。
アバターを男性にしているのはもちろん、アルベルトにより近づくためであり、少しでも独占したいという欲から来るものであった。
内心ニマニマと笑いつつ店を物色していると、そこへアルベルトが戻ってくる。
「クロ。来てたんだね。」
「ああ。ちょっと用があってな。」
こうしてクロードが訪ねてくることは珍しいことではないため、特に気にすることなくアルベルトは周りを見渡した。そこで異変に気づく。
「あれ?クロ。彼女を知らないか?人形の子。店番を頼んでいたんだけど。」
その言葉にクロードは苛立ちを覚える。今、目の前にいるのは私なのにどうしてあんな人形を気にかけるのかと。
だがしかし、ここで声を荒らげる訳にはいかない。あの人形をアルベルトが気に入っているのは分かっていたことだ。変な態度をとればアルベルトに少し問題があったことがバレてしまうかもしれない。
クロードにとっては些細なことではあったが、それでもアルベルトに嫌われる訳にはいかないのだから。
「彼女?知らないね。誰のこと?俺が来た時には誰もいなかったけど。街にでも出かけたんじゃないか?」
その言葉にアルベルトは違和感を覚えた。アルベルトの知る彼女が無責任に店番から離れるとは思えなかったのだ。そもそも、街を案内した時ですら興味の対象は常にアルベルトにあるエンプティである。到底考えられるものではなかった。
何かの事情があったとして一人では何も起きはしないだろう…と、そこまで考えてはたと気づく。そう言えば、目の前の男と彼女は出会った当初から険悪な雰囲気ではなかったかと。
まさか…そう思いつつクロノスターに問いかけた。
「彼女は街に一人で出かけるような子じゃない。本当にそうなのか?」
「はぁ?当たり前だろ。なんで俺が嘘をつかないと行けないんだよ。」
とぼけるクロード。しかしながら、アルベルトは気づいてしまった。エンプティの称号【神様(?)を崇拝するもの】による効果によって。
アルベルトはその証拠となりえる言葉を口にした。
「じゃあ、どうして彼女は今、森に居るのかな?門の外には行かないように言ったのに。」
その言葉にクロードは驚く。
「いや、知らねぇって本当に!…ただ、勝手に出てったんだよ。アイツが。」
森に居るという話は全くもって知らなかったが、クロードは自分が怪しまれている事に慌てて誤魔化す。しかし、アルベルトは矛盾を含むその言葉に眉を寄せた。
「勝手に出ていった…?さっきと言っていることが違うが。」
「いや、それは…。」
「何か知っている事があるなら、話してくれないか?」
アルベルトの言葉を無視しきれなくなったクロードは渋々と頷き、話し出した。そこまで悪いことをしていないという認識である為に反省の色もないまま。
「……分かった。実は…」
簡単に、ここでエンプティに会ったこととエンプティに人形族について教えたことを伝えると、アルベルトは険しい顔でクロードを見た。
「なんてことをしてくれたんだ!」
「だって…」
本当のことだと続けようとした言葉をアルベルトは遮る。
「人形族は特に精神面に疾患をもつプレイヤー向けの治療用アバターでしかないんだ!
それを曲解して『愛されない空っぽな奴が多い』だと?君はナビゲーターでありながらもこの世界の目的を知らないのか!!」
滅多に怒らないアルベルトの荒々しい声にびくりとする。そこで、この世界の目的…つまるところ、このゲームの使用目的について漠然と思い出す。それは───
「医療目的、だろ?でも、なんで俺が怒られてんの。」
意味が分からないと呟くクロードにこれ以上話しても無駄だと思ったアルベルトはすぐに彼女の元へと向かうことにした。大切な、彼女の元へ。
「意味がわからないなら君は別の世界に行った方がいいだろう。後で連絡が届くだろうから、覚悟しておくように。」
その言葉を聞いてクロノスターは慌てふためくものの、既に管理者権限によって店から追い出されたクロードはアルベルトにそれ以上話しかけることは出来なかった。
「……え?私、何か悪いことした…?」
アルベルトに否定されたクロノスターは男性の口調で話すのも忘れ、女性口調になっている事にも気づかないまま、打ちひしがれていた。
夕方、彼女の元にはこのような手紙が届いたという。
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クロード様
この度は『second memorial online』をご利用頂き、誠にありがとうございます。
残念ながらこの度、重大な利用規約違反が確認されました。
それにより、ログイン資格を剥奪させて頂きます。
また、唐突なお話に困惑なさるかもしれませんが、『生きる勇気を人々に』という当社の方針に貴方は不適合であると判断致しました。
今後、別のアカウントであっても作成することは不可能となっておりますので、楽しむならば別の世界をお探しください。
ご利用ありがとうございました。
P.S. まさか、当社に務める人間の認識がここまで酷いとは思っていなかったよ。君がしたのはとても危険な事だとも気づかないなんて…君は他所の方がお似合いかもしれないね?
second memorial online 運営一同
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尚、神様がエンプティを助けるのが遅くなったのは現実世界に一度戻り、今回起きた案件の処理をしていたためです。
また、ゲーム内では現実の2倍速で時間が進むので、その関係で助けるのがギリギリになりました。
次回、狩りだ!肉だ!食べ…人形って、お肉、食べれるの…?
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




