122話 冒険は唐突に
こんにちこんばんは。
ようやくひと段落がついたのでのんびりしつつ更新していこうと思う仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
溜息をつきながら現れたのは何かを知っているであろうエロスさんだった。登場の仕方が仕方だからか、神経が図太そうなエロスさんでさえ流石に不本意であることを隠そうとしていない。
何かを言えば凍りつきそうな場の雰囲気に、とはいえ何かを言わなければ何も始まらないだろうと口を開いた。ここは一つ咳払いをしましてっと。
「えーコホン。え、エロスさん……!?どうしてここに!?」
「うん。無理があるし、余計に惨めな気持ちになるからやめてくれる?」
「あっハイ。」
一瞬で冷え込む空気に縮こまり、から回りでしかなかったことに少し後悔する。冷たい視線と声に冷えきった私は神様の後ろに隠れることにした。
それにしても、この重い空気をどうしたものか……。
「えーん。エロスさんが年端もいかない少女に大人対応を求めてきますぅ……。」
「すっごい棒読みだね……。」
神様の後ろ姿で顔を隠し、ギュッと服を握りこんでエロスさんを避難してみるが、残念なことに私に演技の才能はなかったらしい。
上からのじとっとした視線は私を見下ろしており、服から手を離して欲しいと言っているようだ。いえ、まあ、多分私の勘違いでしかないんですけど。
誰か一人くらいは味方がいるはずだと後ろの旧神たちを見回して首を傾げた。
「あれ?棒読みでした?」
「棒読みだな。」
「棒読み。」
「ガイアが言うなら棒読みだ。」
「うむ!棒読みだったぞ!」
……どうやら私に味方は居ないようですね!
ならもういいやと不貞腐れ、その場でしゃがみこむ。そこに書くのはもちろん、誰に向けたわけでもない言葉たち。え?そこは神様に向けて書くものではって?いいえ?私は神様の信者ですし?(定期的に忘れますけど)神様への敬いをもって行動しませんとね。なので、神様の創造物を貶すわけにもいきませんし?
そこはまあ……私に向けてって事になりますよね?
あーほ。ばーか。空気読めないおにんぎょー。おにんぎょーならしずかにしとけー……っと。こんなものですかね。
ふふふ……どうせ、どうせ私なんて……。
「おーい。プティー。僕らが大人げなかったから帰っておいでー。」
神様の声にハッとして遠くに飛ばしていた意識が戻ってくる。どうやらぼんやりとしていたらしい。
まあ、流石に悪口を書きながらぼんやりとする子どもなんて不貞腐れている人代表っぽくて嫌ですよね。
うーん。どうしましょう。このまま神様の励ましを聞いていたいような、他の人たちも説得しに来るまでもう少し待っていたいような……よし。待ってみましょう!だって気になりますし!
膝を抱えたままうじうじを再開する。
えーっと、私は神様の役たたず、どうせ戦力外、旧神たちと仲良しでいいですね……
「戻ってきたらいい子いい子してあげる。」
「落ち着け。何気に気にしてるのは分かったから戻って来い。」
「意外と繊細だったのだな。我と同じだ!」
ピクリと震えた肩に危ない危ないとまた手を動かす。流石にウラノスさんと同類だと思われるのは癪に障ったが、しかしながらここで動いては聞き出したい言葉も聞き出せない。
えーっと、えっと、そろそろネタがきれてきました。……あっ。そうですね。あとは……空、会いたいです。
「……はぁ。本当に君たちの愛は一直線でそのクセ交わり合わないんだから見てられないよね。
ほら、今日は君が探している空くんからのメッセージをお届けに来たよ。」
「空からですか!?」
ガバッと起き上がり、神様の後ろからエロスさんを覗き込む。先程までの不機嫌は何処へやら、気がつけば私は目の前の餌に食いついていた。神様は苦笑いをしていたが、特に止めるつもりはないようだ。
でもそれも仕方がないですよね!ようやく、ようやくなんですから!
「それで、空はなんて言っていますか?
ボクのことは気にせず放っておいて、ですか?それとも、会うだけは会ってあげるから大人しく去れ、ですか?」
「うーん。惜しい。今回は秘密基地に招待、だよ。その後はさっさと帰れーって言っていたけれども。」
「そっちでしたか。……チッ。」
「舌打ちした!?ちょっと!?姉妹揃って扱いが酷くないかい!?」
何やらエロスさんが騒いでいるが私は知らない。知らないったら知らないのだ。
さて。それはそうと、空は遂に秘密基地を手に入れたんですね。秘密基地は海の幼い頃の夢でしたし、きっと秘密基地を大喜びで作ったんでしょうね。へー……私も一緒に作りたかったなー。
「流石というか、なんというか……プティは空君のことよく分かってるね。」
呆れているのか、感心しているのか。神様がそんなことを言うものだから、私は思わず口を尖らせた。
「当たり前じゃないですか。空の事なら大方想定がつきます。」
「ん?間違えておったよな?」
「あっ。」
「はぃ?アイテールさん。何か?」
「いや、間違えて「何か?」……なんでもないぞ!ハハッ!」
誤魔化すように笑いながらロノさんの後ろに隠れるアイテールさんに冷たい視線を突き刺し、前を向く。そろそろ神様の後ろに隠れているのも格好がつかないだろうと神様の横に立った。
「さて。茶番はこれで終わりにしましょう。今回の目的は空からの招待なんですよね?当然受けるので、早く案内をして下さい。」
「せっかちだね。まあ、いいよ。それじゃあ行ってらっしゃい♪」
「え。」
言葉の違和感にまさかと下を見ると、さっきまではなかったはずの穴がぽっかりと開いている。あ。これ落ちるヤツと、頭に過った次の瞬間に体は重力に従って落ち始めていた。
「こ、今回は空の顔をたてて落ちてあげますけど!次は落ちてあげませんからね!?」
ビシッと穴から覗き込んでくるエロスさん向けて指差す。
穴には私だけではなく、何故か飛んでいたはずのアイテールさんまで落ちていた。
「そんなこと言ってる場合じゃないからね?プティ。ここ、飛べない設定になってるから!」
「なっ!?なんとえげつないグェっ!?」
「これで良し。」
「すまん。上に邪魔するぞ。ほら、乗ろう。」
「う、うむ……。すまん。」
「乗るなー!?お、落ち、落ち……グェッ……。」
あー。アイテールさんが皆さんの下敷きになって落ちていきましたね……。
ほとんど乗れていない気もしますけど、重量オーバーな事には変わりないですし、落ちる運命は変わりなさそうですね。下で怪我をしていなければいいんですが……と、思考が逸れていた時だった。
ガチャンっと何か仕掛けが動く音がした。
「えっ。」
「プティ!後ろ!」
神様の声に慌てて振り向く。そこには金属でできた手のひらが迫っていた。
「えっ。えぇえええええええっ!?」
慌てて避けようとするがもはや目前にまで来ており、空中でできる程度の回避では意味をなさない。想像よりも優しく掴まれ、横に空いていた穴へと一人放り込まれた。
「プティ!」
「神様……っ!
えっと、何があっても神様の一番の信者は私ですからねぇええええ……っ!!」
「あっうん。……それ、今言うことかな……?」
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こうして神様たちと別れることになった後、体感時間としては既に2分は落ちている。
うーん。それにしても、本当に飛べそうにないですね。神様がそういう設定だと言ったからにはそうなのでしょうけど……ニケさんならワンチャンありそうなんですよね。
まあ、流石にああ言った手前、落下に備えるだけにしましょう。
翼を広げ、落下によるダメージを回避すべく待っていると薄暗いだけの空間の先に光が見えた。もう少しで地面だと構える。
そして、その先にあったのは……。
「森、ですか。」
広い空間に出た瞬間、飛べるようになったのを理解する。背中の翼をはためかせて着地した。
あっ。そうです。折角ですし、ニケを出しておきましょう。普段はうるさ……コホン。神様たちが居ますし、出さないようにしているんですよね。
というわけで、出番ですよー。ニケ!
《何か悪口が聞こえた気がするが。》
(えっ。何のことでしょう?
それより、ここをどうにか抜け出さなければならないんです。手を貸していただけませんか?)
《ふむ。状況説明を。》
ニケさんに簡単に説明しつつ森の中を進んでいく。どうやら木より上には飛べないらしく、周りがどうなっているのかすら把握出来ない。
一先ず、通った場所に魔力糸を垂らしながら歩いていくことにする。こうすることで迷子だけは防げるだろう。
《そういう事であれば、このまま真ん中へと向かうといい。》
(えっ。どうしてですか?)
《大抵こういう時は主が誘われていると考えられる。故に、どう歩いてもたどり着くように目的地は真ん中にあるだろう。》
(なるほど!ありがとうございます!……で、真ん中ってどっちですか?)
《……さぁ?》
(……ニケさぁあああんっ!?ちょっとぉっ!?)
うぅ……不安です。でも、空に会うためにも頑張らねばですね!
こうして私とニケさんという不安な二人のちょっとした冒険が始まったのだった。……始まって欲しくありませんでしたね。はぁ……。
次回、どうにかたどり着いて欲しい2人の道中
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




