121話 人探しは大変……なはず
こんにちこんばんは。
あけましておめでとうございます。
本年も宜しくして欲しい仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
何はともあれ、不思議な島であることを理解した私たちはとりあえず島を探索することにした。
どうやら錬金術師の島と言えど、住んでいる人達は普通の人ばかりのようだ。……少し顔が青白い気はするが。
「うーん。皆さん、体調が悪いんでしょうか。顔が白いです。」
「ああ。それは彼らが幽霊族だからだよ。」
隣から聞こえてきた声になるほどと頷く。そう言えば幽霊族という種族もいるのだと神様が以前言っていた。幽霊なのだと分かれば肌の青白さはむしろ幽霊にしては顔色がいい……気がする。普通の人に見えますからねぇ。
その隣ではアイテールさんも私と同様に頷いていた。何やら腑に落ちたことでもあったらしい。
「ふむ。なるほど。だからか。この場所とワシの相性が悪いのは。」
「全く。清浄なる大気を司るくせにだらしのない。」
「そ、そうは言ってもだな!?ワシは少しばかり弱体化しておるのだぞ!それは姉殿も同じであろう!」
ビシりと指さすアイテールさんにガイアさんはそっぽを向いた。どうやら図星のようだ。
確か、以前もそのような話を少し聞いた気がしますね。旧神の方々が少し弱っているとして、それって具体的にはどれくらいなんでしょう。
疑問には思ったものの、神様に尋ねたのは別のことだった。
「神様。この島を一通り見て周りましたが、次の島に行く為の発着所がありませんね。何処にあるんでしょう?」
「うーん。そうだね。それを見つけるのはプティの役目かな。」
にこりと笑って言う神様に悟る。あっ。これ、何時ものやつだな、と。
まーた言えない、言ったら面白くないってやつですか……。
まあ、神様としてもゲーム性を壊すのは本意ではないでしょうし、いたし方がないことではあるんでしょうからもういいんですけど。
さて、それならば何か取っ掛りを探さなければならない。人工的な島といえば、思いつくのはこの島自体が何かのカモフラージュであるということだ。即ち、真の姿は別にあるというなんともありふれた考えである。
だとすれば……
「ガイアさん。ちょっといいですか?」
「ええ。何?」
「この島の地下には何がありますか?」
そう。そこに地面があるならばなんでも分かってしまうのがガイアさんだ。この場で話を聞くのに最も相応しい人物だろう。
ガイアさんは聞かれるのを待っていたようで、得意げに話してくれた。
「ん。よく聞いてくれた。
私の権能がかなり弱まる場所。だけど、だからこそ分かる。地下約50メートル下のところに空洞がある。」
「つまり、そこに人がいる……ヘルメスファミリアの本拠地があるということですか?」
「確証はできない。そこまで判断できる権能はない。」
「なるほど。とりあえず、それさえ分かれば後は行き方を考えるだけですね。ありがとうございます!」
「……そう。ならいい。」
少し考え、入口を探すことに決める。勿論、そのためにガイアさんには力を貸してもらうとして、山の頂上へ向かうように歩くことにした。地下に行く何かあるなら山だと考えたからだ。人目につかないという点から考えても可能性が高いだろう。
そうして暫く頂上をめざしている時、ガイアさんではなくロノさんが何かを見つけた。
「あそこ、最近動いた形跡があるぞ。」
「え。そうなんですか?」
ロノさんが指さした先を見る。それは歩いていた場所からは少し外れたところにある木だった。どう見ても何の変哲もない木でしかない。強いて言えば、幹が太くて大人4人でやっと囲めそうなくらいだということくらいか。
あ。でも、人が中に入れると仮定することもできますね。
もしかして、この木の幹がパカッと開いてエレベーターになったりするのかも……?と心の中で想像してみる。それはなんだか面白い光景に思えた。
「ガイアさん、中は空洞ですか?」
「ん?……ええ。当たり。よく分かった。偉い偉い。」
「あ、ありがとうございます……。」
よしよしと頭を撫でてくるガイアさんに戸惑ったが、大人しく撫でられることにする。
なんでしょう……。海の記憶のせいか、こういった触れ合いにはどうにもなれませんね……。あと、やっぱりガイアさんが背伸びしている感じがしてなんとも微笑ましいです。
どんな顔をしたらいいのか分からず、つい俯きがちにガイアさんの手を受け入れていると、唐突に前方から鋭い視線を感じた。慌てて視線を向けると、そこには頬をふくらませているウラノスさんの姿が目に入る。もしかしたら嫉妬でもしているのかもしれないと思い至り、ガイアさんに声をかけることにした。
「あの、私だけ撫でられるのもなんだか気恥しいのでウラノスさんにも是非……。」
「天弟も?」
こてりと首を傾げたガイアさんにウラノスさんが慌てた様子で手を振った。顔が赤くなっていることからも恥ずかしがっているだけなのがよく分かる。
「わ、我か!?我は要らぬぞ!?」
「……そう。」
ガイアさんはウラノスさんを撫でたかったのだろうか。顔には出ていないが、少し残念そうだ。
まあ、ガイアさんは母性か強いみたいですから、甘やかしたくなるのかもしれませんね。
「……まあ、す、少し、なら?我を撫でても良いぞ!」
「……ん。ありがとう。」
「我は寛大だからな!」
……あれ?ウラノスさん?いつの時代のツンデレさんになったんですか……?
いつもなら喜んでもっと撫でろ!と言いたげに頭を差し出している気もするのですけど。まあ、ウラノスさんも思春期に入ったのかもしれませんね。
少し気になったが、ガイアさんが嬉しそうだから良いかと先を目指すべく木に向き直った。
とりあえず魔力を流してみましょうか。
試しに木全体に魔力を纏わせてみると、淡く木が光出す。元々魔力が通る通路でもあったのか、その光はある一定の規則性をもって何かの図形を描いた。
「おお!綺麗ですね!神様!」
「うん。綺麗だよね。」
思わず見とれていると、気がつけば木に大きな穴が空いていた。
魔法と言うよりはまるで近未来のような木の入口にどうするべきか神様を見る。神様は私の視線に気が付き、不思議そうに首を傾げた。
「入らないの?」
「あっはい。入ります!」
言えない……ちょっと不安だったから神様を見てたとか言えない……!
なんとも言い難いが、ほんの少しの気まずさからささっと中に入る。恐らく、これで合っているはずだ。
少しドキドキしながら待っていると、旧神達も全員で揃って中へと入ってきた。思ったよりも広い中に全員が入り切ると、室内が目を開けていられないほどの光に包まれる。
気がつくと似たような入口が目の前にあり、外へと出ると沢山の歯車達がカタカタと回る不思議な空間だった。
「なんだかカラクリ仕掛けの世界にでも迷い込んだみたいです。」
「ふむ?カラクリ……とは、このような物なのか?」
「えっと、恐らくですが。」
言っておいて私もよく知らないことをアイテールさんに問われて思い至る。曖昧な返事となったがいたし方がないだろう。
まあ、神様が隣で頷いているのだからあながち間違ってはいないだろう。
「人の子が作るものは不思議。」
「ああ。だからこそ面白いんだけどな。」
「む。……それより、この島に来てから妙に死の気配が強い。この島にいるのではないか?」
感心しているガイアさんとロノさんは2人して口を開けていてなんだか可愛らしい。ウラノスさんは頬を膨らませ、話を変えた。どうもウラノスさんはガイアさんが感心しているのが気に食わないのかもしれない。
面倒臭い男は好かれないんですが……ガイアさんはむしろ、喜んでお世話しそうですね。
ある意味お似合いの2人なのだろうなと言う考えが頭に過ぎったが、それよりもウラノスさんの言葉が気になった。
「えっと、誰がでしょう?」
「お前の半身だ。」
「空がですか!?」
ウラノスさんの言葉に思わず大きな声が出る。ウラノスさんはビクッとした後、頷く。どうやら何か確信があっての事のようだ。
ようやく空に会えることに喜びからその辺を走り回りたくなったが、神様の前だと自制する。
そこで少し冷静になったのか、ウラノスさんの言葉に疑問が浮かぶ。
「……あれ?でも、死の気配が強いからって空がいるとは限らないのではないですか?」
「ああ。それはな、元々お前の力自体死の気配がしておるからだな。我は知らぬが、半身と言うからには似たようなものなのだろう?それならば間違いあるまい。」
「そう、なんですね。」
一旦冷静になるとだんだん思考回路がクリアになってくる。
そうですよね。空が居るかもしれないとはいえ、何処にいるかも分かりませんし。ここはひとつ落ち着くとしましょう。
それよりも、私と空が似た気配……。
「うふふ、うふふふふふ……。」
「なんだ?あれ。」
「ま、まあ、プティも嬉しかったんだろうね。だから、そんな目で見ないであげて?ね?」
「死の気配で喜ぶやつを初めて見たが……まあ、喜んでいるのはいい事だな!」
「なんか、違う気がする。」
「ああ。我もだ。」
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それから数分が経ち、ようやく私が正気に戻った頃。
「それにしても、空が居るとしたら何処にいるんでしょう?ここはどうもカラクリ屋敷のように複雑になっているようですし。」
「まあ、それはプティに……って思ってたけど、こればっかりはさすがに無理そうだからね。
でも、多分そのうち迎えが来ると思うよ。」
そういうものなのかと頷いていると、何故かウラノスさんが微妙な顔をしている。
すると、それに気づいたガイアさんやロノさんは嫌そうに顔を顰めた。あっ。この反応は……。
「……あのさー。出にくくなるようなこと言わないでもらえるぅ?」
はぁ、とため息をついて出てきたのはエロスさんだった……うん。なんだか私の神様が申し訳ありません。
次回、エロスさんがんばれ
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




