117話 確認はよくしておくもの
こんにちこんばんは。
アイテールさんを弄るのが楽しい仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
「ギャッギャ!」
「こ、これ!そんなに乱暴にするものでは……うぉっ!?危ないであろう!」
「ギャッギャァ♪」
「ふふふ。楽しそうでなによりですね。」
あの後、諸々の事が解決し、和解に至ったアイテールさんと蜥蜴モドキ……レッサーワイバーンは仲良さそうに空で追いかけっこをしていた。
いえ、あれはアイテールさんがレッサーワイバーンに弄ばれているのかもしれませんが。
今回のことの次第は、アイテールさんが洞窟内で手に入れた鉱石をレッサーワイバーンの頭上に落としたことから始まる。
どうやら、持ち上げようにも鉱石の大きさがアイテールさんが持ち上げられる大きさではなかったらしい。
落とした直後にレッサーワイバーンがアイテールさんを捕捉。これはヤバいとアイテールさんが外に飛び出し、レッサーワイバーンがそれを追いかけたという事だった。
今ではすっかり仲良くなったようですね。
「仲良くなったのでは無い!むしろ、玩具扱いであろう!?これ!」
アイテールさんが何かを言っているようだが、距離が遠くて聞き取れない。まあ、聞こえていたところで手を貸す気はないのだから、同じことなのだが。
一先ず、鉱石の確保からすべきですね。
「神様、鉱石を取ってきますね。
アイテールさんが落としてきたのを拾ってくるだけなら私でも十分なはずですから。」
「下に危ない気配もないから大丈夫だとは思うけど、気をつけてね。」
「はいです!」
久しぶりに翼をひろげてみる。
あ。そういえば、彼女をお蔵入りにしたままなのでした。たまには使わないと怒られそうですね。
すっかり忘れていたことを棚に上げ、怒られる心配をしながらもインベントリから装備する。
そのアイテム名はニケの翼、だ。
白く輝く翼が現れ、今までにないほどの爽快感をもって空をかける。今ならどんな事でも出来るような全能感を得た。……って、危ないですね。目的を忘れるところでしたよ!?ニケ!怒ってますね!?
《はい。》
(なーんてって……えーッ!?)
返ってくることを期待せずに心中で呟いた声に返答があった。驚きで固まりながらも気づけば目的地である崖下におり、危うく地面に激突する所をスレスレで回避する。
そこから見えた洞穴目掛けて今度はゆっくり飛びつつ、久しぶりのニケとの会話をすることにした。
(わ、忘れていた訳では無いんですよ?)
《つまり、忘れていた。嘘は侮辱。侮辱は許すまじ。
本当のことを言いなさい。》
(忘れてました。ごめんなさい……。)
《よろしい。》
許して貰えたかは分からないが、少し機嫌が良くなったニケにホッとする。
確かニケを手に入れたのはアイテールさんと出会ったあとの事だったか。あの後、いろいろとあってすっかり忘れてしまっていたのだ。
もう少し余裕があれば使ってみようと思ったのかもしれないが、元々飛行能力を自前で持っている私である。思い出すことも無く今日の今日まで使うこともなかったのだ。……まあ、放っておかれたニケからすると言い訳にしかならないんですが。
ゴツゴツとした洞穴に入り、中を見渡す。キラキラとした鉱石の輝きが洞窟の全面にある。どうやら埋蔵量がかなりある採掘場のようだ。
(そういえば、ニケはインベントリに入っていたらお話出来ないんですね。)
《はい。私は翼に遺った残留思念のようなもの。次元を超えての会話は力不足。》
ニケの言葉になるほどと頷きながらアイテールさんが持っていこうとしたのであろう鉱石を発見する。
それはどう見てもアイテールさんには厳しそうな大きさの鉱石だった。私の腕を回しても少し余裕がある程度には大きい。
アイテールさん……よくこれを運ぼうと思いましたね……。
流石と感心するべきか、バカと罵倒すべきかと悩みつつ魔力糸を練り上げていつもより頑丈にする。そして、落ちないようにしっかりと鉱石に巻き付け……何故か鉱石が真っ二つになった。
え。何故に……?いや、割と本気で何故そうなりました!?
困惑のあまりに目を点にしていると、ふと目に入った魔力糸がいつもより光っている気がした。気のせいかとも思ったが、確かに以前より光っているのは間違いない。いや、何で……って、もしかして?
(ニケの効果にパラメータの上昇ってあります?)
《はい。全パラメータの1.5倍上昇、隠形、飛行、状態異常無効、〈勝利の女神〉の使用許可が私の機能であるが故に。》
「いっ……!」
1.5倍上昇ってアホですか!?思わず叫びかけた口を慌てて塞ぐ。
つまり、私のあのおかしなMPが更におかしな事になっているということである。まあ、空に渡している分を考えるとそこまで増えている訳では無いのかもしれないが、多いことに間違いは無い。
《何か?》
(いえ。なんでもありません。)
とりあえず、今度は魔力糸に回す魔力を半分にして太くすることだけを意識する。
いっその事、糸という形を考え直してしまいましょうか。この場合、持ち運ぶなら手ぬぐいのようなものがいいでしょう。
広く薄く。いつもの糸を横に伸ばすような感覚で魔力を形作る。
そして、そう時間がかからない内に魔力の布……面倒ですし、魔力布でいいですね。魔力布が完成した。
完成した魔力布で2つに分かれた鉱石を包み込む。見た目はただの青白い布に包まれた何かといったところか。
これで良しと考えたところで、崖の上まで運ばなければならなかったのだと思い出す。
……魔力糸に魔力布を連結させて引っ張る、とかですかね……?
しかし、作り出した魔力糸に魔力布を近づけると、まるで同じ極の磁石を近づけた時のように反発を起こした。どうやらこのままでは上手くいかないらしい。
うーん……同じ魔力は同じ魔力に反発する。それなら、異なる性質の魔力なら引き合う……?
魔力布から闇の魔力を少しだけ表面に多く分布するように固定する。そして、魔力糸の魔力を念の為、光の魔力が多くなるように調節してから近づけた。
すると、先程の反発が嘘のように引き合った。合わさって何かが起こるといったこともなく、問題なさそうだ。
何度か確認をした後、くるりと巻き付けて持ち上げる。持ち運びしても大丈夫だと判断したところで洞穴を出た。
《それにしても随分と器用。》
(そうですか?)
《はい。魔力の扱いに関しては今までで見てきた者の中で二番目に凄いかもしれない。》
何故か褒めてくれるニケだが、流石にそこまでではないだろう。とはいえ、二番目という言い方が気になった。二番目だと言うなら、一番が居るはずだ。
(そんなことないと思いますよ。でも、一番は誰なんですか?)
《それは……》
「あっ。プティ、帰ってきたんだね。」
「神様!」
答えを聞く前に崖の上へとたどり着く。今か今かと待っていたのだろう。すぐに気づいた神様が手を振ってくれた。
旧神達もその場に集まっており、レッサーワイバーンも居る。どうやら遊び疲れて眠りについたようだ。その近くにアイテールさんがおり、レッサーワイバーンに掴まれて動けないでいるらしい。何処か諦めた顔でレッサーワイバーンを見ているが、その顔に少し母性のようなものを感じないこともない。
「……お母さんにでもなりますか?アイテールさん。」
「ならんぞ!?何を急に言い出すか!」
それは残念と首をすくめ、神様にオリハルコンを渡した。魔力布を霧散させて地面に落としたのだが、これで良かったらしい。
神様はその大きな塊を手に取るとひとつ頷いた。
「うん。状態がいいね。目的のものを取ってきてくれてありがとう。」
「どういたしましてなのです!」
ふふんっと胸を張るが、それはそうと……と神様はニケの翼に視線を向けた。
何とも言えない視線を感じるが気のせいではないだろう。以前にも似たような視線を向けられたことを思い出す。やはりニケには何かあるのだろうか。
(ニケ、神様と何かありましたか?)
《……機密事項より、黙秘。》
なるほど。何かあったのは間違いないらしい。しかし、それ以上のことは分からない。致し方がないと神様の方へと焦点を当てた。
「神様、この翼に何かありましたか?」
「いや、ないよ。それよりも、今回それを出したのは何故だい?手にして以来使っていなかったと思うけど。」
食い気味の返答にやはり何かあるのだろうと言いたくなるが、そうは言っても詮ないことだ。
神様がはぐらかすのはいつもの事ですし?もう今更ですよねぇ。……そのうち、反抗期になってグレてやるのです。
それにしても妙にニケを使うことに対して否定的な感じがするのが気にかかる。
「そうですね。いろいろあって忘れていたんですけど、飛ぶ方法を思い返した時にそう言えばわす……コホン。タイミングがなくて使ってあげていなかったなと思いまして。」
《やっぱり忘れて……》
(じ、冗談ですよ!あはははは……。)
何故だろう。視線を感じないはずのニケからの視線が痛い。そして、この会話が聞こえていないはずの神様からの視線も痛い気がする……。
とにかく、この場を切り抜けようと神様に笑いかけた。
「使えるものは使うべきですよね?」
だから使ったんだと遠回しに言ってみる。こう言われれば神様も頷くしかあるまい。我ながら良い誤魔化し方だったと心中で頷いていると、神様はやがてため息をついた。
「うん。いや、それはそうなんだけど、あのさ。プティ。」
「はい。何でしょう?」
「ニケの翼はさ。移動手段というより、武器なんだよ?分かってる?」
「……はい?」
え。全然分かってませんでしたが、翼が武器……?意味が分からないと愕然としていると、2人からため息が聞こえた。
「知らなかったんだね。」
《私の主となったにも関わらず、忘れられたばかりか私が何であるかさえ把握していないとは……!》
「うっ……言い訳のしようもないです……。けど、まさか翼が武器だとは思いませんよねぇっ!?」
分かっているのか分かっていないのか、2人からお説教を受けることとなったこの状況に嘆くしかないのだった。
いや、そりゃあ私が悪いですけどね!?逃げ場がないとか本当に私にどうしろと!?
次回、ようやく武器づくり(多分)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




