114話 新しい街は洞窟の中
こんにちこんばんは。
やるときはやる作者な仁科紫です。
話進まない……。
それでは、良き暇つぶしを。
なんとかアイドル抗争を制した私たちはカンタとニュクスさん、へメラさんを置いて次の島、鉱山の島へとやって来ていた。
「へぇ。鉱山の島と言うだけあって……山、ですね。」
「うん。山だね。」
「山だな!」
「うるさい。鳥頭。」
「なんだか最近ワシの扱いがより雑になってないか!?」
流石、鉱山の島とでも言うべきか、飛行船に乗ってやって来たこの島では地上ではなく地下に街が形成されているらしい。幾つかの山脈が集まったかのような山々に圧倒される感覚とどうやってこんな所に山ができたのかという疑問が浮かぶ。
アイテールさん、元から対応が雑だったことは気づいていたんですね……。
なんだか少しばかり虚しいような可哀想なようななんとも言えない気持ちが胸中に広がったが、何も言わないことにした。
それより、と神様の方を向く。神様はまだ山を見上げていた。
「それで、入口は何処なんでしょう?」
「あっち。」
「あっち……?」
尋ねた神様ではなくガイアさんが返事をした。
指さされた方向には確かに洞穴のようなものが見えた。まるで鉱山の入口のような木で支えられたトンネルは木々に囲まれ、よく見なければ気づかなかったことだろう。
「おー。本当です。よく気づきましたね。」
「当然。大地の事ならお見通し。」
エッヘンと胸を張るガイアさんに微笑ましくなり、頬が緩む。それをガイアさんに気づかれる前に気持ちを切り替え、早速トンネルへと向かったのだった。
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「さて。ここが鉱山の島。ヘファイストスファミリアが治める地なけだけど……。」
「わぁああ!凄いですよ!神様!キラキラしてます!」
「聞いてないよね……。」
だよねーと何処か遠い目をする神様に首を傾げ、どうしたのかと考えたがいつもの事だと結論付けて周りの光景に目を向けた。
そこは想像していたような薄暗い地下洞窟ではない。
様々な形に加工された鉱石が天井からシャンデリアのように垂れ下がり、それぞれがキラキラと輝いている。鉱石自体が光を放っているのか、比喩ではなく本当に輝いているのだ。
特に全長10mはありそうな巨大なものがこの空間を明るく照らし出していた。まるで太陽のような暖かい光を放つそれに見蕩れる。
暫くぼんやりとそれを眺め、ハッと我に返ったあとようやくその下に広がる街に目がいった。
街……いや、まるで工房の集まりとしか思えないそれらは一つ一つの煙突からもくもくと煙が上がり、地下でありながら公害の心配はないのかと感じるほどだった。
もっとも、煙はどういった仕組みでか何処かへと吸収されているようだ。視界が遮られたり、煙で息がしにくかったりといったことはない。
そこまで考えて今のうちに聞いておくべきことを思い出し、神様を見る。
「神様。この街に空がいる可能性はありますか?
偶像の島ではここには居ないだろうとおっしゃっていましたが。」
そう。実は偶像の島でも私は探索をある程度行っていたのだ。しかし、その探索2日目に神様から『ここには居ないだろうね』とあっさり言われ、めぼしい場所も探し尽くしていたために渋々探すのをやめたのだ。そう言うなら初めから言って欲しいと考えて言ってみた。
……のだが。
「うーん。頼ってくれるのは嬉しいんだけど、まだ開示は出来ないかな。一度探してからじゃないと。」
「えー!二度手間になるから教えて頂きたいんですが!?」
ガーンっとわざとらしくショックを受けたフリをする。神様は苦笑を浮かべ、残念なことにダメだとキッパリと言った。どうやらフリである事はバレているらしい。
むむむ!私の思考回路を理解しつつありますね……!?しかーしっ!ここで終わる私じゃないのです!
キリッと脳内で決め顔をした後、右手と左手の人差し指同士をちょんちょんと触れ合わせて俯く。
「神様は、最近少し冷たいですよね……。」
殊勝な態度を心がけてその場にいると、やがて神様はため息をついた。
チラッと顔を上げると、神様と目が合う。そして、にこりと笑った。
「うん。でも、ダメなものはダメだから。」
「な、なんですって……!?」
ガーンッと今度は素で驚く。神様はそれに対してじとりとした視線を送っていた。
な、なんてことでしょう。
「神様が、私のからかいに引っかからなくなった、ですって……!?」
「いや、なんでそこに対してショックを受けているのかな?せめてそこは自分の意見が通らなかったことに対して悲しもうよ!?ねぇっ!?」
何やら神様からツッコミをいれられているが、こちらは知ったことではないのである。
教えて貰えないのはいつものことですし?ショックを受けるにはもう時期も遅いんですよねぇ。
なんの事やらと神様の言葉はスルーし、そのうち探索しようと今回の街に今度こそちゃんと目を向ける。
複雑に交差した通りにはずんぐりむっくりとした背の小さなおじさん達が行き交っている。いわゆるドワーフと呼ばれる種族の人々だろう。大きな荷物をトロッコで運んでいる姿は何処か童話の一場面のようだった。
「ところで、ここでも特殊抗争?でしたっけ。しなければならないんですか?」
疑問から首を傾げる。別に神様の問から逃げたかったわけではないと主張するべく神様をじっと見つめる。
その意思が通じたかどうかは分からないが、神様はため息をしつつ頷いた。
「うん。これから先もそのシステムは変わらないよ。星界ならどこでも特殊抗争は変わらず存在する。
それで、ここでは……ああ。アレだね。」
そう言って神様が指さした方向を見る。所狭しと並んでいる工房の真ん中辺りにポッカリと空いた空間を見つけた。そこは広場になっており、大きな樽を中心に人々が集まっていた。どうやらちょうど何かが始まる時間だったらしい。
大柄な女性と男性が樽を間に挟んで向き合うと野太い歓声が沸き起こる。
一体何が始まるのか。そんな事を考えながらも周りの雰囲気にのまれ、今か今かとワクワクしてくる。
そして、そう待たないうちに二人が樽に肘をつき、手を組んだ。審判役と思しき人がその上に手を置く。
「レディ……ゴーッ!」
一斉に動き出した樽の上の様子がいつの間にか現れていた頭上のスクリーンに映し出されていた。右に左にと傾くことなく均衡を保ちながらも微かに動く腕にハラハラドキドキとした緊張感を感じる。
そう。それは腕相撲だった。
「なんと言うか……。」
「ちまちましておるな!」
「地味。」
「い、言っちゃダメなやつですからね!?それ!?」
なんて事を言い出すんだとアイテールさんの嘴を上と下を摘むことで閉じさせ、ガイアさんにはシーッと人差し指を口元に当てることでアピールする。賢明なガイアさんはそれで分かってくれたのか、頷いた。
しかし、ホッとしたのも束の間の話だ。
「これなら俺でも勝てる。」
「当然、我もだ!」
何故か張り合うように主張し始めた悪ガk……ちびっ子二人組にニッコリと笑顔を作る。
「ウラノスさん。ロノさん。」
「ん?なん……ヒィッ……!?」
「ど、どうしたんだ?怒って……いるん、だよな?」
「はい!私、怒ってますよ?」
ここはまだ距離が離れているから大丈夫かもしれないが、余計なことを言えば試合の邪魔になること間違いないのだ。私も人のことは言えないとはいえ、口に出すのはまずい。
自分の言葉に責任が取れないならば言わない方がいい事もある。それを旧神達は理解していないことが多いような気がしてならなかった。
まあ、本人たちはその責任をとれるつもりでいるんでしょうが。見ているこちらはハラハラするんですよね。
事実、ワイワイと騒いでいたウラノスさんとロノさんの言葉を聞き咎めたのか痛い視線がチクチクと周囲から刺さっている。
これでは神様に迷惑がかかってしまうかもしれない。
本当に、後先考えませんね?この方たち。
「では、場所を変えましょうか?」
「えっ。あー。いや、我、少し用事を……」
後ろに一歩下がるウラノスさんの胴体を魔力糸で縛り、腕も一纏めにする。ロノさんは特に逃げる様子はなかったが、ウラノスさんが納得しないだろう。少し緩めに巻いておいた。
そして、行先はこっちだと背の高い建物が並ぶ西側へと歩き出す。あちらが宿泊施設がある場所だろう。ドワーフ以外の種族が行き来していることからして間違いない。
「問答無用!さー、行きますよーっ!」
「いぃやぁあああああっ!」
「……まあ、自業自得か。諦めろ。」
「なんで末弟はそんなに落ち着いているんだ!?我は、我は嫌だぁあああぁあああああ……!」
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「と、いうことで、いいですね?
街では騒がない。騒ぎを起こさない。敵を作らない。よろしい?」
「「ハイ……。よろしいデス……。」」
あれから時間が経ち、かれこれ二時間ほど説教をしてしまった。まあ、半分……いや、八割ほどは私の八つ当たりだった気もするが、そこは目をつぶって欲しい。あんなところで敵を作るような真似をしたのだ。この程度で済んだだけマシと思ってもらおう。
「プティ。そろそろいいかい?」
「……はぁ。いいですよ。少しは落ち着きました。
まったく。旧神の方々は敵を作らないという優先事項を忘れがちですよね。」
「それを君が言うかい……?」
何やら胡乱げな視線を神様から頂いたが、きっと気のせいだろう。
ええ。私は自分に素直に生きると決めていますからね!喧嘩を売るのはそうなる覚悟の上ですし。
なので、ウラノスさんからのなんとも言えない顔とか、ロノさんからの呆れた視線だとかはまったく気にならないのです!
エッヘンと胸を張ると、何やら気の抜けた視線を感じた。きっとこの子アホの子だとでも思われているのだろうが、そこは気にしない。
「いや、気にしようよ?ねぇ。」
「まあ、らしいと言えばらしいがな!」
ガハハッと笑うアイテールさんに、いつの間にか指が離れていたことに気づく。すぐに近づいて嘴をつかもうとしたが、流石に素早い動きで逃げられた。
仕方がなく諦めたように見せかけ、魔力糸を後ろから接近させてぐるぐる巻きにする。
「むー!?むぐむーっ!?」
「あー……なんだろう。今日はプティ、随分と機嫌が悪いね?どうしたの?」
「そうですか?特に何もありませんよ。気の所為です。」
そう。それは神様の気の所為なのだ。なんてことはない。決して、現実世界での出来事に落ち込んでいる訳では無いのだ。
そうです。だから、早く空を見つけないと……あの体は空のものなんですから。
次回、腕相撲大会
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




