112話 幕は上がる
こんにちこんばんは。
ギリギリ投稿の仁科紫です。
見直していたら時間が……!
それでは、良き暇つぶしを。
「え。順番待ちで早くても2日後、ですか?」
そんなに挑戦者がいるのかという驚きから声を上げた。てっきり今日見た挑戦者くらいで他にはいないと思っていたのだが、想像以上にアイドルの戦いは日夜行われているようだ。
申し訳なさそうに眉を下げる受付の人に、とりあえず予約だけは済ませて近代的なビルを出た。
外はビルが多く建ち並ぶビル街だ。あちこちにラパンさんやサルーラさんの看板や広告が見られることから、どこかのオタク達が集まるという街に似ている気もする。
勿論、他の人の姿もあるが、やはりメインはヘスティアファミリアの2人のようだ。
「ふむ。待たなければならないとは難儀なものだな。」
「ですね。アイドルを進んでやりたいなんて変わった人もいるものです。」
肩に止まるアイテールさんの言葉に頷く。
しかし、よく考えるとむしろ現実でアイドルになろうと思わないからこそ、この世界でなろうとするのかもしれない。
そう思い当たり、寧ろ少ない方なのかもしれないと納得したところで神様たちとの待ち合わせ場所に辿り着く。
待ち合わせ場所はこの街のホテルだ。なんでも、異なる界には神様のお店とはいえ自由に行き来するのは難しいらしい。特にこの星界ではその制限が強くなっているのだとか。
そのため、この街に滞在するにはセーブポイントとして拠点が必要ということで、私たちはホテルで一番大きな部屋を借りていた。流石に7人と2匹が過ごすには子供が多いとはいえ、それなりの大きさの部屋が必要だったのだ。
因みに、別々の部屋にそれぞれ泊まるという選択肢もあったのだが、何をしでかすか分からないため全員同じ部屋となっている。それが誰かは言うまでもないだろう。一応いくつかの部屋に区切られているため、文句は出なかった。
指定された部屋番号へと辿り着き、呼び鈴を鳴らす。すぐにカンタが扉を開けてくれた。
ありがとうと言いつつ扉の向こう側へと進むと、そこは修羅場だった。
「ここはこう!」
「いいえ!こちらの方が魅力的よ!」
「趣味が悪い!」
「そう言うお姉様こそ趣味が悪いわ!私の魅力が伝わらないじゃない!」
「ま、まあまあ、落ち着いて。ね?」
「「ふんっ!」」
神様にとめられたものの、納得がいかなかったのかガイアさんとニュクスさんは不満げに神様を一瞥した。そして、互いにそっぽを向いた2人はどうやら振り付けで揉めているらしい。私にはよく分からない世界だなとぼんやり眺め、ふと思った。
「まったく同じ必要ってあるんですかね?」
ピタリと止まった2人が私の方をじっと見てくる。なんだか視線が痛いし怖い。
話を促されている気がして言葉が喉につっかえそうになるのを抑えながらなんとか言葉を発した。寧ろ、話さなければじっと見られ続ける気すらしたのだから、2人の目力には恐れ入るばかりである。
「えっと、ですね。
そもそもお二人って雰囲気も全然違うじゃないですか。
ガイアさんはおっとりしていて可愛らしい感じで、ニュクスさんは妖艶な美人。
元々違うのに振り付けを同じにしてもお二人の魅力を引き出すことにはならないと思うんです、けど……お二人はどう思われますか?」
なんとか言い切ったと小首を傾げた後、達成感から胸を張る。
この子何してるんだろうという神様の視線を感じたが気にするまい。それよりもあの二人の視線の方が怖かったのだ。神様の視線なんて怖くないのである。……少々気まずいが。
それよりもと、ガイアさんとニュクスさんの反応が気になり、視線を向ける。おそらく大丈夫だとは思うが、内心戦々恐々とするのは仕方がないことだろう。
「なるほど。納得。」
「それは盲点ね。そもそも二人一緒なんて無理だったのよ!」
目からウロコとばかりに頷き、なにやら考え込む二人。しばらく待っていると、ほぼ同時に顔を上げた二人が視線を合わせた。それだけで互いが何を考えているのか分かったのか、ニヤリと笑ってこちらを振り向く。
どうやら私の発言は適切なものだったようだ。
ホッとして二人を見る。目が合った二人はニコリといい笑顔を浮かべた。あれ。なんでしょう……。嫌な予感がします。
「もっとアイデア言って。」
「そうよ!貴方の意見は聞く価値があると判断したわ!もっと言いなさい!」
「えっ。えぇっ!?」
何故そうなるのかと困惑し、ふと気づく。
そもそも、この案ってそう難しいものじゃないですよね?他の方も思いついていたのでは……?
前に見た他のアイドルのライブとて全く同じ振り付けではなかったのである。絶対に誰かは気づいていたはずだ。
半目で辺りを見渡す。……周りから目を逸らされた。
「やっぱり!気づいていて言ってませんでしたね!?」
度し難いことに私は可哀想な生贄にされてしまったらしい。気まずそうな視線はその現れだろう。チラチラと見なくてもいいのにわざわざそうするのは私の様子が気になるからだ。間違いない。
「神様!」
「あ。えっと……頑張って?ほら、僕は衣装作りがあるからさ!」
「頑張って?じゃないんですが!衣装作りは頑張って欲しいですけど……!」
せめて道連れにとばかりに神様の目を見つめるが、残念なことに神様は目をそらすばかり。巻き込まれる気はないらしい。
そうしている間にもガイアさんとニュクスさんが両脇を固めてしまう。
「?なんで怒ってる?早く行く。」
「そうよ。ほら、つべこべ言わずに行くわよ。」
「神様……!次会ったら覚えておけ!なのですっ!」
「何を!?」
こうしてよく分かりもしないダンスの振り付けを見ることとなったのだった。
いや、本当に私、ずぶの素人なんですが!?あ。海の記憶にバレエの知識が……私の体験ではないので全くとまでは言いませんが、参考にはなりませんね!?
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こうしてなんやかんやとあったものの、2日はあっという間に過ぎていった。
最初はどうなるものかとハラハラしたが、どうにか形にはなったように思う。
まあ、本当は2日でどうにかなるような事じゃないんですけどね。1ヶ月くらいは最低でも必要な所を2日でどうにかしてしまったんですから、旧神というのは本当にスペックが高い方たちですよね。
そんなことを考えながら舞台の上を見る。舞台の上にはヘスティアファミリアの2人が居た。
『さて!本日の挑戦者は〜!』
『なんと初挑戦。最近よく話題に上がるファミリア。謎も多い分、楽しみも一入ね。
カオスファミリアのガイアとニュクスよ。』
パッとライトが照らされ、現れたのはフードを被った怪しい2人組だった……って、え!?そんな予定無かったですよね!?
驚きのあまり、神様を二度見する。神様も目を見開いている様子からして知らなかったのは私だけではなかったようだ。尚、他の旧神達は呆れた目で見ていることから、予想の範囲内だったらしい。
カンタは驚きから腕を上げているので仲間ですね。良かったです。
現れた謎の人物達に周囲がざわめく。それもそうだろう。可愛い女の子が登場すると思ったら謎のフードの2人組だったのだ。驚くのも当然である。
そうしてざわめきが収まらない中、サルーラさんが皮肉げに笑ったのが見えた。
『あら。あなた達、勝負をなんと心得ているのかしら。初めから姿を隠しているなんてよっぽど自信が無いのかしらね?勝負する相手に対して礼儀がなっていないわ。』
『こら!サルーラちゃん!ダメですよ。これもパフォーマンスの一環なのであれば口出しは無用です!』
『でも……!』
ラパンさんの制止に尚もサルーラさんは言い返そうとするが、ラパンさんはそれに対してニコリと笑って口元に指を添える。静かにという事だろう。それにしても笑顔の圧が凄いが。
『ふふふ。言われているわね。お姉様。』
『……だから、やめた方がいいと言った。』
そこへ真剣な雰囲気をぶち壊すような声が響く。楽しげな雰囲気のニュクスさんと不本意そうなガイアさんの声だ。
今回の犯人はニュクスさんだったらしい。まあ、やるとするならニュクスさん以外には居なかっただろうが。何せ、隣でへメラさんが目をキラキラと輝かせていたのである。間違いようもなかった。
『何はともあれ、自己紹介をお願いできますか?』
『ええ。構わないわ。』
苦笑したラパンさんに促され、ニュクスさんがバサりとフードをとる。しかし、まだローブは脱がない。
フワリと広がった黒髪に目がいく。次に夜空のような星空の瞳に目が集まった。
ほぉっとため息をついたのは誰だったか。もしかしたら観客の全員だったかもしれない。やはりニュクスさんの美貌は美人が多いはずのゲーム内でも飛び切りのようだ。
『私がニュクスよ。』
『私はガイア。』
『『2人合わせて、月光。』』
同様にフードを外したガイアさんと背中合わせになり、決めポーズをする。
尚、何故グループ名が月光になったのかは私も知らない。揉めに揉めた結果、止めに入ったアイテールさんが叩き落とされたのを見て関与するのをやめたからだ。あれは触らぬ神に祟りなしという言葉を正に体現した出来事だった。
あれは凄かった……と遠い目をしていると、どうやらいつの間にか紹介が終わっていたらしい。舞台の上には未だにローブを着たままの2人だけが残されていた。
向かい合った2人が一斉にローブを脱ぐ。それと同時に音楽が流れだすと歓声が上がった。
当然だろう。2人の衣装は間違いなく魅力をひきたてるものだったのだから。
ガイアさんの服はヒラヒラとしたフリルを外され、つけ襟にリボンがある以外はシンプルなモスグリーンのワンピースに金色の花の刺繍が描かれている。それが光を浴びる度にキラキラと輝き、シンプルな装いに上品さを醸し出していた。白いつけ襟にまかれたリボンがワンポイントだ。
普段は下ろされている髪がポニーテールで一纏めにされ、リボンに花飾りのついた装飾が可愛らしい。
一方のニュクスさんはというと、大人な色気を醸し出す服装だった。臍より上までしかない白いシャツはノースリーブであり、上から黒いベストをきている。黒いロングのスカートには大きくスリットが入っており、白くスラッとした綺麗な足が見え隠れしている。幅の広いベルトが腰の細さを強調していた。
かといってただ肌の露出が多いというわけではない。服で隠れていないお腹部分は黒いレースで覆われており、上品な色気を感じさせる。腕は透ける布に覆われ、ヒラヒラと動く度にちらりと見える白い腕がなんとも色っぽい。更に幅の細い黒いネクタイが大人っぽさを醸し出していた。
「神様、いい仕事しましたね。」
「うん。あれだけ言われたら、そりゃぁね……。」
一人遠い目をした神様は放って舞台は幕を開けたのだった。
次回、2人は勝てるのか!?
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




