111話 アイドルに準備は必須
こんにちこんばんは。
システムとかは何かのアニメで見たようなのを参考にしている仁科紫です。
難しいことは考えない方針でお願いしますm(_ _)m
それでは、良き暇つぶしを。
『今回の挑戦者は〜っ!神様ランキング31位!イナンナファミリアのオクタグラムですっ!』
『美の女神を象徴とするファミリアの中でも好戦的なことで有名ね。私たちの相手に不足はないかしら。』
体育祭のとき以来だろうかとステージ上のラパンさんとサルーラさんを見る。2人は体育祭で司会を勤めていた訳だが、その理由はここにあったのかもしれない。
慣れた様子で司会をするさまは実に堂々としていた。
『あら!今日こそ勝たせていただくわよ!ヘスティアファミリア!』
『そうだそうだ!』
『ま、負けません……!』
赤、黄、青の髪色順に話すのは挑戦者らしきアイドルの格好をした少女たち。これから何が起きるのだろうかと目を瞬かせた。
登場とともに上がっていた歓声はステージが暗くなるにつれて次第に収まっていく。そして、次の瞬間。
『〖特殊抗争:愛の饗宴〗!開幕です!』
バンッとスポットライトが一気に点灯され、音楽が流れ出すと共に空中にゲージが現れた。それと同時に観客からハートのようなものが浮かび上がり、ゲージへと向かっていく。どうやら、ハートがゲージにたどり着くとゲージがたまるというシステムのようだ。
ステージの上では先程の3人の少女たちが踊りながら歌っており、見事なパフォーマンスが行われている。
何より注目すべき点は魔法も同時に使用されている事だ。ターンをした瞬間に星が散ったり、蹴りあげる動作をすると炎が立ち上ったりとなんとも華やかで見ていて楽しい。
それはそうと、改めて神様に説明を求めることにした。
「それで、これは何なのですか?私たちにも関係があるのでしょうか。」
こてりと首を傾げると、神様は頷いた。
ゲージは既に7割ほどたまっている。もうそろそろパフォーマンスも終わるのだろう。曲は最後の盛り上がりを見せ、動きのキレも魔法の輝きもよりいっそう増している。キラキラとしたその光景は目が離せないほどだった。
「この島ではアイドルこそが権力者なんだよ。
次の島へ行くには、ここであの2人に勝たないといけない。ヘスティアファミリアの、あの2人にね。」
そう神様が言った丁度その時。まるで女神が降臨するかのようにサルーラさんが空から降りてきた。どうやらイナンナファミリアのパフォーマンスは終わったらしい。舞台は暗闇に包まれていた。
妖精族であり、広いステージではデメリットであるはずの小さな体は光り輝き、むしろ神々しささえ感じさせる。そして、その体から一体どうやって出しているのかと思うほどの圧倒的な歌唱力。まるでオペラの一場面かのような登場の仕方に一瞬で目を奪われた。
そこへ静かで優しげな歌声が合わさった。うさ耳の少女、ラパンさんだ。
優しげだからといってサルーラさんに負けていない。むしろ、サルーラさんの声を包み込むかのようであり、見事に調和している。
ステージはまるで女神と少女の邂逅のような別世界と化していた。目をそらすことも出来ないほどにその世界に入り込む。
そして、気づけば二人揃って観客席に礼をするところだった。
慌てて拍手を送ると、ドッと歓声が沸き起こる。ゲージを見るとほぼMAXだった。
これに勝たなければならないって、どんな無理ゲーですか……?
あまりの事にポカーンと間抜け面を晒すが、慌てて取り繕う。それはそうと、あれを私がすることになるのだろうか。私が今からやるとしてもただの付け焼き刃にしかならないだろう。かなり無理がある気がするのだが、神様は何か策でもあるのだろうか。
「えっと。あれに勝つんですか?」
「うん。実際に辛くも勝利できたファミリアはあるからね。……年に一組くらい。」
「え。それってほぼ可能性がないと言っているもののような……。」
なんとも言えない顔で神様を見る。神様も気まずげに目を逸らした。
あれ。これって結構まずいのでは……?
どうにもなりそうにない現実に呆然としていると、ちょんちょんっと肩を叩かれた。何事だろうと後ろを見ると、そこにはガイアさんが。
どうしたのかと話しかけると、ガイアさんは胸を張ってニコリと笑った。
「私と、ニュクスがやる。」
「あら。ご指名かしら。お姉様に言われてやるのは少しばかり癪だけれど……でも、良いわね。夜の女神の力を見せつけなければいけないもの。
やってあげない事もないわよ?」
クスクスと笑うニュクスさんはやる気満々のようだ。
これで二人、とへメラさんを見る。てっきりへメラさんも参加すると言い出すのかと思ったが、ニコニコと笑っているだけでその気はないようだ。
珍しいように思え、へメラさんをじっと見る。私の視線に気づいたへメラさんはニッコリと笑って私を見た。
「なぁに?」
「いえ、へメラさんも参加しないのかと思いまして。」
「あぁ。あたし、あーいうのしちゃダメなんだ。
ニュクスはみんなからの愛を糧にするけど、あたしはニュクス一人のために愛を与えることで糧を分け与えてもらうものだもん。だから、他の子に愛はあげれないんだ。」
絶えずニコニコと笑うへメラさんからは特に負の感情も感じず、ただ事実を言っただけに聞こえた。実際、それは本当のことなんだろう。ただニュクスさんだけが居ればいい。歪んでいるようで、それでいてへメラという旧神のあり方として自然に思えた。
「では、舞台に立つのはガイアさんとニュクスさんにお願いするとして、音楽とかはどうするんですか?衣装とかも準備に時間がかかるんじゃ……。」
どうしようかと神様を見ると、神様はここぞとばかりにインベントリから二着の服を取り出した。
片方はモスグリーンの生地に白いレースをふんだんに使った裾のふんわりとしたアイドル風のワンピース。
もう一方も似たようなデザインだったが、膝下のスカートにスリットが大きく入ったものだ。紺色の生地に金色のレースが大人っぽくあしらわれている。
色合いだけでなくデザインからも前もって準備されていたものだと分かるものだった。
「おー。さすが神様!準備万端ですね!」
キラキラとした目で神様を見る。神様は少し照れくさそうに目を逸らした。
しかし、そこへ否を唱えた人物たちがいた。
「ちょっと待つ。それは幼すぎる。」
「そうね。ちょっと可愛すぎないかしら。
私はどんな衣装でも着こなせるけれど、流石にその衣装で勝負はできないわ。」
当の本人たちである。やはり自身が戦うためか、見ただけで感じるものがあったらしい。
真剣な表情の2人に続々と他の旧神たちも同意を示していく。神様の用意した衣装は本人だけでなく周りから見てもイマイチだったようだ。
「今の母様に似合うのは似合うだろうが、母様らしくないな。」
「ああ。ガイアはもっと包容力がなければ!」
「ニュクスにこれを着させるぅ〜?舐めてるの?パパ。さすがに有り得ないんだけど。」
「しゃ、しゃしゃしゃっしゃ!しゃぁ……しゃしゃしゃ。」
「うむうむ。カンタの言う通りである!悪いとは言わんが、良いとも言えんな!」
ガハハッと笑うアイテールさんにそれもそうかと頷く。確かに可愛らしいのは可愛らしいが、二人が着るにしては少し印象がチグハグだ。
アイテールさんにしてはまともな事を言っていると感心していると、神様が困ったように頬をかいた。
「えーっと、じゃあ、何処をどう変えたら良いかな?」
「レース外して。」
「もっとエレガントにして下さいませ。」
あーだこーだと言い始めたガイアさんとニュクスさんに面食らった神様は、すぐに切り替えて真剣な表情で頷き始める。
なんとか満足のいくものが出来そうなところまで話が進み、やはり初めの問題に戻った。
「後は歌……ですね。お二方とも、歌は得意ですか?」
「あら。当然じゃない。歌は夜の下で歌うからこそ恋に落ちるの。魔性の歌をお聞かせするわ。」
「歌は我が大地から生まれしもの。根源たる私が歌えない理由はない。」
なんとも頼もしい言葉を聞き、では曲はどうするかと話をしようとしたところで乱入者が現れた。
「話は聞いたよ!お困りのようだねぇ?」
ニヤリと笑う桃色の髪の青年。エロスだ。
「あ。呼んでないのでお帰りください。」
「酷くない!?」
こういう所、本当にそっくりだよねぇとしみじみ呟くのをとりあえず無視し、神様に話しかける。
「神様、流石に曲を作れたりしませんよね?」
「そうだね。流石に曲は作れないかな。知り合いにならいるにはいるけど……。」
考え込む神様との間にエロスさんが割って入る。
いや、だから呼んでないんですってば。
なんだかなーと乗らない気分のままにエロスさんを見る。流石に用件くらいは聞かねばこの人も帰ろうとするまい。仕方がなく話を促すことにした。
「それで?今更なんの用でしょう。忙しいのですが。」
突き放すように言うが、残念ながら相手には通じなかったようだ。相変わらずの人好きのする笑顔を向けてきた。
それを見てげんなりとするが、寧ろ面白がっている雰囲気すら感じ、無表情を作る。
しかし、そんな私の態度ですら面白いのか、エロスさんはクスクスと笑った。わー。腹立たしいですネー。
「いやぁね?さすがに困ってたら可哀想かなーって思ったからさ。下準備くらいは手伝ってあげようと思って。」
ほら、童話の魔法使いみたいな感じ?と言ってウィンクするエロスさんから飛んできた気がする星を叩き返す。正直、『余計なお世話だ』と思わなくもなかったが、冷静になればここは上手く利用した方が時間のロスは少なそうだと思い至る。
渋々、エロスさんに視線を向けた。
「……見返りは何ですか。」
ジトーッと信じられない思いを込めて見る。可笑しそうに笑っていたエロスさんは一瞬目を丸くし、機嫌良さげに笑うと口を開いた。
「うーん。素直。いい子だねぇ。でも、見返りは要らないんだよねぇ。」
「元凶に遠慮はいらない。さっさと話を進める。」
「そうねぇ。どうせ、もう準備してくれているんでしょうし、早く渡してくれないかしら?」
じろりと睨むガイアさんにニュクスさんが便乗する。面白くないとブツブツ呟きながらもエロスさんは何かを取りだした。
それはト音記号のマークが中心に描かれた虹色のキラキラとした謎の物体だった。それをエロスさんがガイアさんとニュクスさんへ差し出すと自然に分裂し、2人の体へと吸収された。
「ふむ。確かに受け取った。」
「相変わらずいい腕ね。兄様。」
「当然でしょ。」
ニコリと笑う青年はいつもと違って少し嘘くさく無かった。
何処と無く少年のような幼い印象を受ける笑顔。それはいつものエロスさんからはかけ離れており、意外で印象に残った。……のは、まあ、いいんですが。何時までいる気なんでしょう?
次回、街めぐり……挟まずに勝負かもしれません
(予定は未定)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




