109話 世界は変わりやすくできている
こんにちこんばんは。
気づけばお話がいい感じに進んでいることに気づいた仁科紫です。
予定を特に立てずに書き始めるからこうなる……。
それでは、これ以降も良き暇つぶしを。
コソコソと覗き見をしていた少年を捕まえた私たちは、少年を新しく出した椅子に縛り付けて話を聞いていた。
「だ、だからだな?我は長兄に言われてだな……。」
「外は危ないから隠れてろって?」
「あ、ああ。」
胡乱げな視線をロノさんに向けられ、居心地が悪そうに頷く少年は自分の立場というものを案外分かっているのかもしれなかった。
ただの覗き魔じゃなかったんですねぇ。
なんとも言えない目で少年を見ていると少年は私の視線に気づき、びくりと体を震わせた。
「わ、我とて分かっておる!また騙されたんだろう!?だから、そんな目で見るな!」
警戒する猫のようにこちらを睨みつける少年。『また』と言っている辺り、旧神達の間ではよくあった事のようだ。
不憫なめにあっていたのだろうかと考えていると、警戒する少年を愛おしげに見つめたガイアさんが少年に笑いかけていた。
「よしよし。姉のお膝へおいで。」
「がいあぁ……!」
拘束が解除され、ガイアさんの膝の上でうわぁぁんと泣き始める少年に少しばかり考えを改める。どうやら、思っていた以上にこの少年の精神年齢は幼いようだ。
それなら、優しくしてあげないとですね。
「ほら、プティ。プリンだよ。食べない?」
「食べます!」
先程まで考えていたことを忘れ、神様が差し出したプリンに食いつく。
トロリとした滑らかな食感にミルクの風味が豊かなカスタード。それに絡みつくほろ苦いカラメルは正に大人の味と言っていいだろう。
頬を押えてこの喜びを表現する。やはり神様のプリンは最高ですね!
「アイツら、やっぱり両片思いじゃないの?」
「姉には難しい。判断は任せる。」
スンっと泣き止んだ少年がガイアさんにそんな事を問いかけていたが、私には聞こえていなかった。
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「さて。改めて、我はウラノスだ。先程は取り乱した姿を見せたな。」
コホンっと一つ咳払いをしたウラノスさんに視線が集まる。ここは先程の神殿のような場所だ。移動する案もあったのだが、先に話を聞きたいという神様の一言で留まることとなった。
何故かウラノスさんは未だにガイアさんの膝の上だが、本人は気にすることなく身を委ねている。いつもの事らしかった。
「いえ。私はエンプティです。神様の信者、ですよね?」
コテリと首を傾げ、神様を見る。神様は不思議そうな顔で私を見ていた。
「なんで僕に聞くの?それから、信者だっていうのは初耳なんだけど?」
「いえー。そろそろ表に出していく時期かと思いまして。タイトル詐g」
「はいストップ!さあ!早速話していこうね!?」
えーと口を尖らせるが、残念なことに神様にはスルーされてしまった。流石に遊びすぎたようだ。
気持ちを切り替え、ウラノスさんの話を聞く。
なんでも、長兄……タルタロスという方がウラノスさんに引きこもっているよう唆した本人らしい。以前、ニュクスさんとへメラさんからも聞いた名だ。
ウラノスさんが言うには、あまり他の旧神を見かけないと思っていたときに声をかけられた。普段はあまり話しかけられたことがなかっただけに不審に思ったとの事だったが、聞いた話があまりにも信じられなさすぎてそれどころではなくなったらしい。
「その話とはなんですか?」
「うむ。その話とはな。父上とガイア達が喧嘩して、封印されてしまったという話だ。父上とガイア達は母上の件で仲良しじゃないと認識していたからな……。
いつかはそういう日も来ると思っていただけに、納得してしまった我がいたのだ。」
「それは……。」
気まずげな顔でお互いに顔を見合わせる神様とガイアさん。ウラノスさんの認識は当たりとまでは言わないまでも、まるっきりハズレでもないようだ。
「ふ、ふむ!それでだな!お主はどうしたのだ?確認をしないほど愚かではなかろう?」
「当然だ!鷲兄に教えられたことを忘れる我ではない!いくら鷲兄と言えど、言っていいことと悪いことがある!」
空気を変えようと考えたのか、大きな声でウラノスさんにアイテールさんが話しかける。それに対し、心外だと言わんばかりに胸を張って答えるウラノスさん。意外にもこの2人は仲が良いようだ。満足そうにアイテールさんが頷いているところからもそれはよく分かる。
「天弟。確認の方法は。」
「ああ。直接この地に降り立った。あまりの変わりように驚いたのを覚えている。」
「変わりよう……ですか?」
こくりと首を縦に振ったウラノスさんに疑問が深まる。この地……ということは、街がかなり変化したということだろうか。だが、そんなに直ぐに街の姿が変わるようなことがあるかが分からない。そもそも神様が止めようとするはずなのだが。
なんとも摩訶不思議な言葉に頭の中が?で一杯になる。
「そう不思議がるな。確かに、我らが父が管理している世界ではあるが、世界の成長は流れに任せられている。
故に、今回の変化も受け入れられたそうだろう?我らが父よ。」
「ああ。よく覚えていたね。クロノス。
その通りだよ。この世界はそもそも変化に寛容だからね。大元の仕組みさえ壊れなければ後は僕らが手を加えることはないよ。」
今までジュースに夢中になっていたロノさんが空気を読んでか顔を上げ、頷いた。周りの旧神達の異論がないことからも神様の言葉に偽りはないようだ。
「まあ、とにかく。我はその現状を確かめた結果、封印されているのは間違いようのない事実だと理解したのだ。
そして、だからこそ我はこの神殿に姿を隠した。」
「え。姿、隠し……?」
あまりにも信じられず、ウラノスさんを二度見する。心外だと嫌そうに顔を歪めるが、こちらにとて言い分はあるのだ。
「なんだ。その顔は。」
「いえ。……一つ、お聞きしたいんですが。」
「……なんだ。」
「えっと……。」
「早く言わんか。」
もじもじと間を取り、ウラノスさんが急かしたところで意志を固めた……ように見せかけ、さっさと言ってしまう。
「では、あの落書きは一体どのような意図で書かれたものなんですか?きっと、何か素晴らしい考えがあって書いたと思うんです。それが気になって仕方がなくてですね。」
ニコリと笑って首を傾げる。あえて無邪気を装ってはいるが、実際のところ、あの小学生並みの落書きにも深い意味くらいあるよね?と言っているようなものなのだ。
いえ、普通にこんな事言ったら怒られそうですし。それなら、相手が急かしたから言ったという免罪符を用意するべきでしょう。私は腹黒さんなのです!
「あー……その話か。」
「確かにな。俺も気になる。」
「うむ!ワシもだ!」
「シャァッシャ!」
気まずげなウラノスさんにニヤリと笑うクロノスさんは恐らくわざとだろう。アイテールさんとカンタの無邪気な視線がウラノスさんに刺さる。恨めしげに私を見たウラノスさんは一つ咳払いをすると、ボソリと呟いた。
「……だ。」
「はい?」
「だから!……長兄を騙すために、書いたのだ。それ以外にあるわけなかろう。」
途端に落ちる沈黙に居た堪れない様子のウラノスさんは身動ぎする。少しばかり拗ねているようだが、どちらかというと恥ずかしさが勝っているようだ。
口をとがらせ、頬を染めている姿はイタズラがバレた少年のようでなんとも可愛らしい。こういったところがガイアさんの庇護欲をそそるのだろう。
「やはりいい子。可愛い子。」
よしよしとガイアさんが頭を撫でると、ウラノスさんは一瞬、手を避けようとしたが大人しく撫でられている。その目に光がないような気がしたが、見ないことにした。
「あ。そういえば気になったんですが、封印された順番って私たちが解放してきた順番であっているんですか?
バラバラの可能性もありますよね?」
「ああ。そのことに関しては疑うまでもない。街が生まれた順番故な!」
「街が生まれた……ですか?」
うむ!と頷くアイテールさんに首を傾げる。先程もウラノスさんが言っていたが、この地の異変とはなんだったのだろうか。街が生まれたということは、元々は街自体がなかったのだろうか?あまりにもの不思議さにキョトンとする。
「それについては僕から説明しよう。
元々、この大地には一つの大きな王国があるだけだった。でも、それが一変する事態が起きた。それが旧神の封印だよ。旧神たちの封印によって土地に異変が起きた。それぞれが独立した街になったんだ。」
「では、ダンジョンも同一の原因からですか?」
「いや、あれは……」
「あれ自体が封印術式。強固であればあるほど広くなり、抗う力が弱ければ弱いほど地下深くへと誘われる。深くまで封印されたものはいずれ奈落の住民と成り果てる。そういう、術式……。」
神様の説明を奪うようにガイアさんが口を開く。そこには忌々しげな感情が読み取れた。余程腹に据えかねているらしい。
ガイアさんの言葉に他の旧神たちも各々なんとも言い難い顔をしており、普段は喧しいアイテールさんでさえも感情の読めない顔で菓子をつまんでいる。
「えーっと、じゃあ、話を纏めようか。
まず、ガイアとアイテールが封印された。その後、宙島が生まれた。
そして、次々と他の旧神が封印される中、ウラノスはタルタロスから声がかけられた。ウラノスは状況を確認後、タルタロスの思惑を知るために自ら封印されることにした。
これであっているかい?」
神様の問いかけにウラノスさんは頷いた。
一つ一つの出来事を整理してみると、事態は思いのほか単純な出来事のように思える。全ての出来事にタルタロスさんが関与しているのだから。
「やはり、黒幕はタルタロスさんという方なのでしょうか。」
頭の中を整理するためにポツリと呟く。しかし、その推測はあっさりと否定されることになった。
「アイツにそれだけの考えがあるとは思えないな。」
「うむ。だいたい、長兄は幼子が好きなだけの意気地無しである。大事は到底起こせまい!」
うんうんと頷く他の3人からしても間違いないようだ。
一体それはどんな人なのかと考えてポカンとしていると、腕を摩って苦い顔を浮かべるウラノスさんが目に入った。少し青い顔をしているように見えるのは気のせいだろうか。
「ああ。恐らく、今の我を見ればまず間違いなく抱きついてくる……嫌だな。」
「安心する。私が守る。」
「ガイア……!」
感動したように抱きつくウラノスさんに満更でもないように笑うガイアさんの姿はなんとも微笑ましかった。
何はともあれ、タルタロスさんの人柄からこの事態が想像も出来ないと言うのであれば、誰が黒幕というのだろう。
どうもハッキリとしないまま、この日は時間が来て解散する事となった。うーん。気になりますねぇ。
次回、そろそろ空のところへ
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。
〜2022/08/28 13:56 タルタロスの名前は既にニュクスとへメラによって出されていた為、一部変更しました。〜
うっかり忘れていた私、駄作者……。




