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私、神様推しです!〜信者(自称)の恋模様〜  作者: 仁科紫
序章 記憶喪失な私と神様
11/212

11話 展開はご都合主義に

こんにちこんばんは。


話の緩急が激しすぎる気がしないでもない仁科紫です。だが、悔いはない。


それでは、良き暇つぶしを。

 そろそろ帰らねばと、道がないか辺りを見渡す。…が、道を見つけるよりも先に最悪の状況を悟った。



「グルルルゥ…。」



 今までどうして気づかなかったのか。すぐ木の下にまで近づいている狼たちを見つけたのだ。

 どうやら木の上には登れないらしく、グルグルと木の周りを歩いているだけだったが、それだけでも恐怖を覚えるには十分だった。


 え、えっと、えっと…ど、どうしましょう!?わ、私美味しくないですよー!?生物じゃないですからね!お人形さんですから!…って、頭の中で考えても無駄ですよ!?私!

 一旦。一旦、落ち着きましょう。こういう時は…深呼吸ですね!すぅ…はぁ…すぅ……うん。少し、落ち着きました。


 それにしても、この状況をどう打開しましょうか?正直、私のような無力なお人形さんにはどうしようもないと思うのです。

 でも、そうですねぇ……あれ?そもそも、これは飛んでしまえばノープロブレムな話ではないですか?難しく考えなくともなんとかなる気がするのです。


 そう考えたちょうどその時、痺れを切らしたように一匹の狼が木に飛びかかった。



「グルァッ!」



 ガッという音ともに幹が削れ、飛び散る木片に目が奪われる。

 そこは私がいる場所より下ではあったもののほんの僅かしか差がなく、枝の上が必ずしも安全地帯にはなり得ないのだと私に告げていた。


 ……さ、流石にまっずいですね。これ。

 思いの外、ジャンプ力があるようですし、飛んでいたとしても下手したら飛びかかってこられてアウトですよ!?


 そう考えている間にも狼たちは次々と飛びかかる。

 こうしては居られないと覚悟を決め、私は翼をはためかせて上空へと飛び出した。


 ・

 ・

 ・



「グルゥ…ガゥッ!」



 飛びかかってくる狼を右に移動することで避ける。しかしながら、その先にも別の狼は狙いを定めて飛び上がっていた。慌てて高度をあげることで何とか躱す。


 ふぅ…危ないところでした。この数分で分かったことなのですが、動きが増えるとかなり疲労を感じるようなのです。更に、一定以上高く飛ぶとグッと消耗が大きくなるんですよね。

 原因は…と、考えていると視界の端に何かが現れた。緑と青の2つの細長い棒に見えるそれはよく見るとHP、MPと横にそれぞれ書いてある。しかも、そのうちのMPのゲージはもう半分をきっていた。


 なるほど。このMPを消費して飛んでいたのですね。そして、それは無尽蔵にある訳ではなく、有限です。だからこそ、消費を抑えて飛ばねばならないのですが…。



「ガゥッ!」

「グルァッ!」

「ガゥガゥ!」



 残念ながら、そうも言っていられない状況。狼はただ群れる習性があるから群れるのではなく、賢いから群れるのです。


 目が暗闇に慣れてきた今、森にいる狼たちの姿がはっきりと見えるようになっていた。その数は5匹と、たかが人形でしかない私には多すぎる数だ。

 そもそも、私を5匹で割って食べるとか非効率にも程があるのです。狼さんは賢いと思っていましたが、実はお馬鹿だったのでしょうか?


 若干呆れた目で地上から狙いを定め続ける狼達を見下ろすと、言葉にせずとも馬鹿にされたのは分かったのか、より激しく飛びかかってくる。

 今はまだ避けながら進むことが出来るものの、方角があっているのかさえ分からない。

 つまり、不利なのは私、ですね。


 ただがむしゃらに進み続け、ようやく森から抜けた…そう思った瞬間、喜びよりも落胆が勝る。

 そこには平原が広がっていた。……げっ。真逆じゃないですか。


 街案内をしてくれていたときに神様から聞いたことを思い出す。



『あの森の奥はどうなっているんですか?』


『あの奥は草原が広がっていて、そこを越えると街があるんだ。

 でも、君にはまだ早いから一人で行かないでね。』



 その時は子供じゃないのだから行くわけが無いと思っていましたが…本当に草原が広がっていたんですねぇ。念の為に聞いておいて良かったかもしれません。

 …しかしながら、そろそろ限界のようです。


 MPの使いすぎのためか意識が朦朧とし、フワフワとさえしてくる。

 空中でふらつく私を見た狼たちは今か今かと落ちてくるのを待っていることだろう。落ちた瞬間に待ち受けているものはきっと一瞬の痛みだけだ。何せ、私のHPは10しかないのだから。

 そもそも、防御力を表すVITですら1なんですから、ほんと笑えません…。


 そう苦笑しつつも人形を支えていた翼の力が消え、落ちていく。これが初めての死かと思いながら、飛び跳ねて近づいてくる狼をただぼんやりと眺めていた。


 もし、これがこの世界での本当の最期になるのならば、もっと慌てるべきなのかもしれません。ですが、未練なんて神様のことぐらいですし、私なんて神様の近くにいる価値もありませんからねぇ。

 ただ、一つ思うことがあるなら…神様に、もう一度会えるといいのですが。会って、もっと神様について知れたら…なんて、私を傍に置いてくれただけでも奇跡でしたのに。…贅沢な話です。


 そんなことを考えながら衝撃を待つも、一向にやってこない。どうしたのかと狼を見た。

 その直後、目前にまで迫っていた狼の頭がズレる。驚いて他の狼を確認するも、同様に首から上が落ちていった。

 ……えっと?これはどういう状況なんでしょう?


 まるで存在さえしていなかったかのように青い光に包まれ、徐々に青白い光となって消えていくそれに目を奪われる。

 わぁ。綺麗ですねぇ…。



「無事かっ!?」



 その声にハッとし、この場に自分以外の人がいたことに気づく。そして、その声は目覚めてからずっと聞いていた今の自分の全てとも言える、とても大切な人のものだとも。

 ……え。かみ、さま…?


 振り向けば、そこに居たのは紛れもなく私の大切な人。すっかり夜になったというのに、未だに漂うフワフワとした青白い光が照らすその完璧なまでの美貌からは、触れられないような神々しい眩しさを感じた。

 ……と言いますか、私の神様依存度、上がってません?自分の全てってヤバい人なんですが。


 自分で自身の危うさに戦慄していると、神様がいつの間にか近づいて私をその手で包んでくれた。

 いつもの如く肩に乗せられるのかと待つものの、一向に神様は動き出さない。

 うっ。何故に神様と見つめあってるんです?私。そろそろ光もなくなってしまいますし、動き出した方がいいと思うんですが。



「あの、神様…」


「どうしてこんなところまで一人で来たんだ!」



 その言葉で神様が心配してくれたことが分かった。

 あー。うーん。……言い難いですねぇ。



「すみません。ちょっと一人になりたくて飛んでいたんですが、目的地も決めずにフラフラと飛んでいたら気づいたらここまで来ていたようです…。」



 言っていてなんだか情けなくなり、慌てて言葉をつぎ足す。



「そ、そんなに遅くにならないようにって考えていたんですよ!考えていたんですけどね…。……色々と混乱が酷くて…。」



 どこか落ち込んだ様子の私に神様は一つ息を吐いた。



「……それで、説明はできそうかい?」



 首を縦に振った。いつか話すならば、今話しておいた方がいい。そう判断したからだ。



「分かった。なら、とりあえず店まで戻ろう。」


「…はいですっ!」



 また神様の店に行けるのだと思うとなんだか嬉しくて、私は満面の笑みを浮かべた。



 ・

 ・

 ・



 それから神様のお陰で無事に店までたどり着き、私たちは二階にあるリビングで向かい合っていた。



「じゃあ、説明してくれるかな。」


「はい。ちょっと、言い難い事なんですが…」



 そうして私は話し出した。どうしてあそこに居て、あの状態に陥ったのかということはもちろん、記憶喪失のことも思い出したきっかけも…消えてしまったかもしれない()のことも。

 全て話して、自分の納得のいくところまで話して…それからしばらく沈黙が落ちた。


 先に耐えられなくなったのは私の方だ。これ以上気まずくなる前にと話し始める。神様は何かを考え込んでいるように見え、これでは話が進まないと早々に見切りをつけたのもあるが。



「まあ、海のことは多分、それで良かったんですよ。あのまま生きていても、今度こそ生きるお人形さんになっていたこと間違いなしなんですから。

 それに、海はまだ私の中で生きている。そんな気がするんです。」



 そう言うとようやく神様は私の方を見た。



「……なるほど。ということは、次にあちらで目が覚めるとき、どちらなのか分からないということかな。」


「そうなりますね。」



 あっさりとその事実を認めると、神様は意外そうな顔をする。まるで、私が(エンプティ)であることを望んでいるのではないかと考えていたようだった。

 あー。まあ、考え方によってはそうなるのでしょうか。個人的には違うのですけど。



「案外、あっさりと肯定するね?」


「嘘を言ってどうするんですか。それに…」


「それに?」



 一度、自分の言いたいことを纏めるために言葉を止め、また話し出す。



「別に私がどちらになろうとどうだっていいんですよ。私は私です。どちらも同一人物であり、同じ価値観を持った同じ人間です。多少異なるところはあるでしょうが、根本は同じなんです。

 だからこそ、私は『エンプティ』を名乗りました。それが答えなんですよ。ですから、次に目覚めた私が私でなくとも構わないんです。」


「本当に?次に目が覚めたとき、君は居なくなっているかもしれない。それでも?」



 尚も私のことを試すように神様は尋ねる。



「構いません。寧ろ、そちらの方が私としては喜ばしいことですよ。…海に起きる理由が出来たということなのですから。」



 ポツリと呟いたその言葉に、理解できなかったのか神様は首を傾げた。

 まあ、そりゃそうですよね。誰だって自分が可愛いはずなのにこんな事を言い出しているんですから。でも、本心なんですよねぇ。



「理由…?」


 あ。そっちですか。


「はい。理由です。空は生きる理由をなくしたから眠りにつきました。彼女にとって両親が全てだったんですよ。例え、道具として見られていたとしても、両親の為に心折れることなく生きてこれました。

 ……まあ、道具扱いだったから空っぽのお人形さんになったんですけどねぇ。」



 皮肉なものだと苦笑まじりに答えれば、ますます神様は変な顔をして私を見た。

 うーん。これ、伝わってますかねぇ?……これ以上の説明…。



「えっとですね、言ってしまえば、こう…出来の悪い妹?が幸せになったら嬉しいなぁみたいな感覚でしょうか。…まあ、私の方が後に生まれたので姉の方が正しいのかもしれませんが。

 私は何分、図太く出来ているようなので海の方が妹っぽいんですよ。」


 言葉を重ねてから思う。……なんか、話が違う方向へと飛んでいっている気がしますね。えっと、うーん……これ以上の説明はちょっと、面倒臭いですね。



「とまあ、色々と言ってきましたが結論から言うと、『海がハッピーなら私もハッピー』ということです。

 そして、基本的に私の優先順位は海がファーストで神様がセカンドです。分かりましたか?」


「う、うん…って、は?なんで俺がセカンド!?」



 おおー。神様、焦ってますねぇ。ふふふ。俺って言っちゃってますよ?面白いですね!



「ふっふっふー。そんなの当然じゃないですか!神様に仕える天使様っていうのもなかなかに乙なものかなぁと思ったからですよ!



 ……と言いつつ、本当は神様をからかうのが面白いからなんですけどね。ふふふ。これからもからかってやるのです…!」


「いや、本音が隠せてないからね?聞こえてるからね!?」


「ありゃ。それはどうも失礼いたしました(笑)」


「(笑)って…わざとか!?わざとなんだな!?それ!!」


「もっちのろんです!」


「……なんだか、この関係は切れそうにないな…。」



 はぁとため息をつく神様になんだか楽しくなってきたが、それはそうと真面目な話もしておく事にする。

 これだけは言っておきませんとね。



「あ。そうそうです。神様。

 どうも、海は元から奉仕するのが好きなタイプだったみたいなんですよねー。」


「……それで?」



 散々からかわれたためか、警戒心の滲んだ視線を向けてくる神様にパチンっとウインクをしつつこう言ってやる。



「ですから、私、神様のためならなんだってしますよ?それこそ、掃除洗濯家事全般なんでもします!…勝手に。許可なしで!」


「最後の言葉で余計に不安になったんだけど!?せめて僕の確認を取ってくれ!!」



 その後、暫く話し合ったものの神様の許可を得た場合にのみ、神様のために行動する権利を獲得することとなった。

 ちっ。あんな事やこんな事を勝手にする気でしたのに…まあ、バレなきゃ良いですよね?バレなきゃ。



「なんか不穏なこと考えてない?」


「……ナンノコトデショウ?」


「…棒読みすぎてもはや突っ込む気にもなれないんだけど!?」



 何はともあれ、こうして私の記憶は戻ったのでした。それはそうと、何か忘れているような…。



「あ。そう言えば、海の体はどうなっていて、ここは何処なんでしょう?」


「そう言えばって…今更だね!?」



 いや、正直あまり気にしてなかったんですよねぇ。治療目的と分かってしまったのでどうせ病院なんでしょうし。神様は知っているんでしょうかね?

ーこぼれ話ー

「そういえば、君、本体はその輪の方なんだから、〈透明化〉をして人形の方を囮にすれば良かったんじゃない?」

「…あっ…。…いえ!神様から頂いたお人形を囮になんてできる訳ありませんよね!」

「忘れてただけか…。」

「忘れてませんから!」


次回、目覚め


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。


〜2024/09/07 02:39 一人になりなくて→なりたくて

誤字報告を適用しました〜

報告して頂き、ありがとうございますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒーローは遅れてやって来るのが定番ですね。でも、神様なんだからエンプティちゃんの危険には、直ぐに駆けつけないといけませんね♪ [気になる点] エンプティちゃんのアンナコトヤコンナコトって?…
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