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102話 姉は強し

こんにちこんばんは。

短くなるかもと思いながら書いたら思いのほか長くなった仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 走り出した4人のうち、一番初めに交戦状態に入ったのはガイアさんとへメラさんだった。



「やぁっ!」


「よいしょっと!」


『ガイアさんとへメラさんが衝突!同時にマウント取り合戦が始まりました……!』


『あー……そうだな。どちらが馬乗りになれるかが勝負の鍵だろう!』



 両者共に相手の上に乗ろうとしているが、それは私の思い浮かべるプロレスとは異なるものだった。

 これは……ただの喧嘩ですね。


 チビッ子2人が時に激しくぶつかり、時に髪を掴んで引っ張り合う様はなんとも子供の激しめな喧嘩に見えた。

 プロレスってなんでしたっけ……?と不思議に思いつつ、もう一方のニュクスさんとロノさんの方へと目を向ける。

 そこには未だに一定の距離を置いたままの二人がいた。



『一方のクロノス選手、ニュクス選手共に動きません!

 これは一体どうなっているのでしょうか!?』


『ふむ。多方、互いの出方を伺っているのだろう。

 どちらも自身から動くのではなく、動かす側だからな。支配するのに慣れているものはそう簡単には動こうとするまい。そういう性格という事もあるだろうがな。』



 フンっと不満そうにアイテールさんが鼻を鳴らすとほぼ同時に2人が動き出す。どうやら見つめ合う時間は終わりのようだ。

 尚、動き出す前に二人がこちらをチラッと見た気がするが、きっと気のせいだろう。何やら隣の調子に乗った鳥が震えている気もするが、唐突に寒くなったからに違いない。



「シャァ……。」


「カンタよ。マイクを交代しよう。ワシは疲れた……。」


「シャァ?シャッシャァ。」


「おお。そうか。ならば……うむ。これで良し。」



 慰めるカンタに気を良くしたアイテールさんはマイクに何か魔法をかけたようだ。それをカンタに渡し、アイテールさん自身はどうするのかと見ているとコソコソと隠れるように私の背中へと隠れ始める。思わず胡乱な目をアイテールさんに向けるが、アイテールさんは隠れることに必死のようだ。



「もしもーし?アイテールさーん?」


「ギクッ……!?」


「何処に……」


「あ!今!今、いい所だな!ナイスキックだ!」



 よっぽど指摘されたくなかったらしいアイテールさんは余裕のない声でリング上を指さす。今回はその必死さに免じて見なかったことにしてあげようとリングへと視線を戻した。

 そこでは丁度、クロノスさんの飛び蹴りがニュクスさんの後頭部へと突き刺さったところだった。一体どうして後ろから攻撃されるような事になったのかと不思議に思ったが、縦に揺れるロープを見て察する。どうやら勢いよく駆けたクロノスさんはニュクスさんとすれ違い、ロープの反動を利用して飛び上がったようだ。



『ロノさんの飛び蹴りがニュクスさんに襲いかかる……!ニュクスさんは耐えきれずロープまで吹き飛ばされたァっ……!

 しかし、耐えるニュクスさん!すぐさま起き上がり、不敵な笑みを浮かべる……!ノーダメージだとでも言うのでしょうか……!?』


『クロノスさまはとてもみがるっしゃぁ!だからそこまでダメージはないっしゃぁ!』


『へぇ。そうなん……か、か、カカ、カンタが喋ったぁああああっ!?』



 驚きのあまりカンタを見るが、どうやらマイクを通してのみカンタの話していることが分かるらしい。隣から聞こえてくる声はシャァシャァといういつもの声なだけにギャップが酷い。



「何を驚いている?ワシがさっき施してやったではないか。」


「何をしたかは聞いてませんが!?」


「む……?……そうだったかもしれんな!」


「そうだったんですよ!報連相はしっかりお願いします!」



 惚けたことを言うアイテールさんへのツッコミに疲れを感じたが、それを言ってはなんだか負けた気持ちになる気がする。

 気持ちを切り替えてリングを見ると、丁度ロノさんがゆっくりと着地するところだった。確かにロノさんはニュクスさんに飛び蹴りをした後、勢いのままに空へと飛び上がっていたが、いくら身軽とはいえここまで重力を感じさせずに落下するものだろうかと考え、頭を振る。それは見れば分かることだったのだから。

 ロノさんが落ちるのがとてもゆっくりなだけなのだ。風になびく服の裾でさえゆっくりである事からもどういうカラクリなのかは分かるというもの。

 気づけばロノさんの手には懐中時計が握られ、頭には兎の耳がひょっこりと出ていた。

 着地したクロノスさんは手から懐中時計を消すが、頭には依然としてぴょこぴょこと動く兎の耳が付いたままだ。それを見てニュクスさんが眉を顰めた。



「ちょっと?末っ子。貴方、今、権能を使ったでしょう。この神聖なる儀式において権能の使用禁止は誰もが知るルールではなくて?」


「それは攻撃には使わないという話だけだろう。補助として使う分には問題なかったはずだ。」



 どうやら、プロレスで決着をつけさせるという考えは旧神達に自身の権能を使わせないためという思惑からであったらしい。被害を考えればそれも当然と言えたが、他に何かなかったのだろうか。

 なんとも納得しがたい事実に首を傾げつつ次に起こった出来事に目を奪われる。



「あはっ。それなら、悪い子にはお仕置しなきゃだね?」


「はっ……ガハッ!?」



 突如としてロノさんの後ろから現れたへメラさんは驚くロノさんの足元を払い、ロノさんの両脇を挟むように両足を入れて顔を持ち上げ、上半身を反らさせる。



「うぁあああっ!?」


『ロノさんの上半身がギリギリと音がなりそうな程に反らされております!痛そうですねぇ……。』


『きまったっしゃぁ!キャメルクラッチっしゃぁ!

 完璧に入ってるから仕掛けたのが非力な女子でも抜け出すのはほぼ困難っしゃぁ!』



 キャメルクラッチという技名なのかと頭の片隅に置いておき、それよりも気になる目下の問題があった。

 それは……



「あのー。アイテールさん?」


「む?なんだ?今、いい所なんだが。」


「あのですね……カンタの語尾、どうにかなりません……?」



 コソッとカンタに聞こえないようにアイテールさんに話しかける。別にあのマイクの翻訳が悪い訳では無いのだ。英文の日本語翻訳のように不自然な点がある訳でもない。しかし、妙に耳に残る語尾がどうしても引っかかる。それはどう考えてもアイテールさんの翻訳マイクとも言うべきものの能力不足としか思えなかった。

 ジーッとアイテールさんを見つめると、何故かアイテールさんはうるうるとさせた瞳でこちらを見てくる。懇願するようなその瞳におやっと思った。



「すまない……。ワシの全力がこれでな……。」


「そうでしたか……とでも言うと思いましたか?」



 ニコリと笑ってアイテールさんの羽をがしりと掴む。アイテールさんは潤んだ瞳も何処へやら。ギョッと目を大きく開いて私を見ていた。

 どうやらこの鳥は殊勝な態度を取っておけばなんとかこの状況を乗り越えられるとでも考えていたらしい。勿論、それに対する私の答えは否だ。

 私が思うに、アイテールさんは基本的に素直な方なのでどうにかならないかと聞かれれば謝るのではなくどうにか努力しようとするんですよ。すぐに諦めるのはアイテールさんらしくないです。


 不思議なものを見るように私を見るアイテールさんに更に言葉を綴る。



「ねぇ。鳥さん?何か、私たちに隠していることありませ」


『おおっと!?こんどはニュクスさまの足四の字がきまるっしゃぁ……!?これはいたい、いたいっしゃぁ……!?』



 不信感から出た言葉はカンタの声によって遮られる。どうやらロノさんはへメラさんに頭を固定されている間にニュクスさんによって足も固定されてしまったらしい。その姿は正にシャチホコを連想させるものであり、とても痛そうだった。



「ぐぅう……!」


「ふふふ。合体、シャチホコ固めってところかしら?」


「わぁ!シャチホコかぁ。可愛い名前だね!」



 ニュクスはネーミングセンスもあるんだからやっぱり完璧だよね!っと無邪気に笑うへメラさんにシャチホコってこの世界にもいるのかと漠然と考え、世界観が合わなさそうだとこの世界にいるシャチホコを思い浮かべる。

 それとほぼ同時に不自然な事実に気がついた。



「あれ……?ガイアさんはどこに居るんでしょう……?」



 リングの上に4つあるべき人影は3つしか見当たらないのだ。どう見ても不自然だ。

 しかし、そこでロノさんが空を見上げる。何故か。単純な話だ。そこに味方がいたから、だ。



「末っ子を離す……!」


『ガイアさんが空から強襲!?どうやってかは分かりませんが、ニュクスさんの首に抱きつき、3人纏めて空へと投げ飛ばしましたー!?』


『母の愛っしゃねぇ。』



 それで済ませていいのかと思ったが、何も言うまい。ついでに守ろうとした相手であるはずのロノさんも飛ばしたとか言ってはいけないのだ。

 こうして吹き飛ばされた3人は場外となり、この場はガイアさんの勝ち……という事で、ロノさん、ガイアさんペアの勝利となった。



「なんだかすっごく納得がいかないわ。」


「そうだよ!どうして私たちが負けなの!」



 後日、何事も無かったかのように神様の店に戻った2人が不貞腐れたように頬をふくらませて店内の清掃をしていた。勝手に居なくなった罰としてガイアさんに指示されたらしい。



「えへん。私の勝利は末っ子の勝利。」


「俺も投げ飛ばされたんだが……。」


「何か?」


「いや、母様。何も無い。」


「そう?」



 監督という名目でその2人についてまわるガイアさんの後ろをロノさんがついていく。そんな姿を微笑ましく思いながら私はと言うと、椅子の上で正座をさせられていた。そろそろ1時間ということもあり、何も出来ないこの体勢に飽きてきたのだが目の前の人物の眼光は未だに鋭い。



「プティ?どこを見ているんだい?」


「えーっと、神様?そろそろ許していただいても……」


「ダーメ。これも罰だって言っただろう?勝手に居なくなって。心配した僕の気持ちにもなってよ。」


「うっ。その節は誠に申し訳なく……。」



 そう。私も絶賛罰を受け中であり、ニュクスさん達の事を言えないのであった。

 うー。神様との見つめ合いはご褒美でしかないんですが、とはいえただ見ているだけだなんておもs……コホン。時間が勿体ないですし……!


 何はともあれ、こうしてニュクスさんとへメラさんが戻り、新しくロノさんという仲間が増える事になった1人と1匹の旅は終わったのだった。

 それはそうと、ポントスさんと空は何処に居るんでしょう……?心配です……。これは、1人と1匹旅パート2を……!



「プティー?反省してるのかなー?」


「わ、私は何もやましい事なんて考えていませんからね!?」


「今、また1人と1匹旅をしようって言ったばかりじゃないか!次からは僕も連れていくこと!いいね!?」



 念を押され、長い物には巻かれろとばかりに頷く私でした……。なんで心の声って呟いちゃうんでしょうね……?

次回、残りの人を探して(多分)


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 容赦なく全て吹き飛ばしたガイアさんの勝利!これはまさしく「私以外ひれふせ!」と言外に言っているのでしょうか?それとも「私が一番!」とのアピール? オシオキはお店の掃除に正座でのお説教は定…
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