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100話 遭遇は思わぬ展開に

こんにちこんばんは。

祝・100話!と、思ったものの総合で見ると100話は5話ほど前に過ぎ去っていたことに気づいた仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 こっちだと言うロノさんの後に続き、薄暗い廊下を歩く。ヒタヒタコツコツペタペタという足音が暫く鳴り響いた後、やがて1つの扉の前でロノさんは止まった。

 静かに振り返った少年は私を見て首を傾げた。



「ここ……だが、どうする?」


「どうするって、その向こう側に居るんですよね?」



 誰とは言わず、抽象的に話を進める。ロノさんの問いの真意が知りたかったからだが、少年は考え込んだ後、ややして口を開いた。



「……ああ。居るには居るが……彼女たちは、恐ろしい。」



 ロノさんの淡々とした口調に何があったのかと尋ねようとしたが、僅かに肩が震えているのが目に入って止める。必要以上に怖がらせるのは本意ではない。

 見なかったことにし、入らないことには始まらないだろうと扉を開けようと手を伸ばす。



「……本当に行くのか。」



 再度確認する静かな声にピタリと手を止め、振り返る。余程行きたくないのか無表情にも関わらず、ロノさんからは何処か苦虫を噛み潰したような雰囲気を感じ取れた。



「まあ、時間は有限ですから。」


「……それも、そうだな。」



 私の言葉に固まった後、頬を緩めて頷いたロノさんにどうしたのかと思ったが、気の所為だったのかすぐさま無表情に戻っていた。

 ロノさんってデフォルトが無表情なんですよね。ここまで無表情なのは久しぶりに見た気がします。


 出会ってから扉までの間でロノという少年の人柄もある程度分かってきていた。基本的にロノさんは無表情だ。話しかけても表情は動かず、浮かべるとしても口元を軽く歪めた笑みだけ。今は子どもだからそんな姿も愛らしく見えるが、恐らく成長すると嫌味な笑みに見えることだろう。

 お姉さんとしては少し心配ですねぇ。


 今の身長はそう変わらないにも関わらず、お姉さんぶって心の中で呟く。

 何はともあれ、納得したようだからと勢いよく扉を開け放った。

 そして、私がその場所で目にしたものは───



「もう!そろそろいいでしょう?」


「あははっ。いいじゃん。もうちょっとだけ。やっぱりニュクスは綺麗なお肌してる……って、あれ?」


「ん?どうしたのかし……あら。」



 ───湯煙漂う泉の縁にてじゃれ合うニュクスさんとへメラさんだった。


 視線がこちらを捉える前にと瞬時に扉を閉め、隣のロノさんの手を掴んで走り出す。カンタはいつの間にか頭によじ登っており、はぐれる心配はない。

 それよりも、だ。



「なんで言ってくれなかったんですか!?ロノさん!!」


「言わなければならなかったか?」


「当然です!あの2人の間には入っちゃダメなんですから、情報共有くらいお願いしますよ……!」


「シャァ、シャァッ……!」



 必死な私とカンタの様子に首を傾げてよく分からないと言いたげなロノさんに苛立つ。では、さっき引きとめようとしていた理由はなんだったのかと問いただしたくなったが、その前に招かれざる客がやってきた。



「随分なご挨拶じゃない。神々の愛し子。」


「そうだよ!どうして逃げたの?鬼ごっこかな?」


「えっと、えっと、その……覗いてすみませぇぇぇぇん……!」


「シャァアアアアッ!」



 クスクスと笑い合う2人の声から逃れるようにバタバタと走り出す。ロノさんは迷惑そうだったものの、一緒に走り出してくれた。

 行先なんてものは特に決めていない。一階を一周回れば集会所なんて知識もロノさんの後に続いて歩いていただけの私にはちっとも役に立ちそうにない。何より、現在地も分からない私がこの館での鬼ごっこで有利に立てるわけもないのだ。

 何か、何かないですかねぇ!?



「……おい。なんで逃げてる。」


「分かりませんか!?入浴中のあの2人の姿を見てしまったんですよ!?アウトです!ア・ウ・トッ!」



 そういうものか?と首を傾げるロノさんに頬を引き攣らせ、一体どういう環境で育てばこうも情緒が分からない人になるのかと心中で独り言ちる。

 私も人のことは言えませんが、それにしたってこれはないでしょう!?


 どうしたものかと考えようとするが、何故か掴んだ手を上手く引っ張れずにビタンっと地面に突っ伏す。痛みを感じない人形で良かったと思いながら立ち上がり、何をするのかとロノさんを見ると、ロノさんはニュクスさんとへメラさんに向き合っていた。



「おい。姉さん方。」


「ロノさん!?」



 急に知り合いかのように話し出すロノさんに仰天し、姉さん方という言葉に呆然とする。その間にも信じられない光景が続いていた。



「何よ。末っ子。」


「そうだよ。何の用事?末っ子のくせしてお姉ちゃんたちの邪魔でもする気かな〜?」



 ニュクスさんはムスッとした不機嫌そうな表情で。へメラさんはニコニコと笑みを作って話しかけてくる。それに怯むことなくロノさんは口を開いた。



「何故追いかけてきた?姉さん方。

 姉さん方にその必要は無かったはずだ。」



 ごく当たり前のことのようなその言い方に今度は私が首を傾げる番だった。

 え。それが事実なら、私が逃げる必要って本当に無かったということになりません……?


 頭上ではてなマークを散らし、一体どういう事なのだろうかと3人のやり取りに耳を傾けた。



「あら。逃げるものを追いかけるのは私たちの本能よ。誰が止められるというのかしら。」


「そうだそうだ!本能を馬鹿にするならニュクスを馬鹿にしたも同じだよ!ニュクスを侮辱するなら許さないんだから!

 そーれーにっ!質問にも答えてないでしょ!お姉ちゃんに失礼だと思わないの!」


「ふむ。やはりそうか。つまり、逃げる必要は無いということだな。」



 うんうんと頷くロノさんに戸惑いながらも納得する。どうやら、ニュクスさん達はただ逃げられたから追いかけてきただけらしい。逃げなければ危険だという認識は私の早とちりだったようだ。

 その割には目が怖かった気もするのですが……。


 私の見たものは何だったのだろうかと考え、視界の端に何やら精一杯触手を振るカンタが映った。カンタの様子からしてやはり私の見たものは勘違いでも何でもなかったらしいと悟る。つまり、だ。

 追いかけているうちにどうして追いかけていたのかも忘れてしまった。というところが妥当っぽいですね。



「もー!やっぱりマイペース……!ニュクス!今からこの末っ子を元の場所に返してきてもいい!?」


「ダメよ。へメラ。この子はこの子で有用なんだから。」


「むー!」



 唸るへメラさんにそう言えばと先程から気になっていたことを尋ねることにした。



「あの、ロノさんが末っ子ってどういう事ですか?」



 途端に静まり返る場の雰囲気にのまれ、尋ねたことを後悔するが今更だ。何処にも視線を定められず、うろうろとさせて結局行き着いたロノさんはただ無表情でそこに佇んでいた。何を考えているのかは分からないが、目が見えないからか他のメンツに比べて少しだけ安心感を得られた気がした。

 ややしてロノさんが口を開く。



「……俺は……」


「あら。クロノス。貴方、ロノなんて呼ばせているの?」


「えー!?愛称!?いいな!私も欲しい!愛称!」



 如何にも不満げに唇を尖らせるへメラさんの頭をニュクスさんが軽く小突く。その顔は苦笑いという表現がピッタリであり、同情めいたものにも見えた。



「こーら。へメラ。ダメよ。知っているでしょう?」


「あ……。……そうだね。でも、どうしてクロノスは愛称で呼ばれてるの?」



 今度は心底不思議だと言いたげなへメラさんにクロノスさんはムスリとした顔で重々しく口を開いた。



「……聞き取れなかったようだ。」



 ポツリと呟かれたその声に私は首を傾げ、ニュクスさんは口元を手で覆い、へメラさんはニンマリと口角を上げた。そして、ケラケラと笑い始める。



「あはっ。あはははははっ……!」


「ふふふ……貴方、相変わらず……ふふふふふ……!」


「姉さん方……。」



 苛立っているのが分かる声に申し訳なくなる。元は私の聞き間違いから始まったことなのだ。罪悪感を抱いても仕方がないだろう。



「すみません。ロ……クロノスさん。」


「……いや、いい。」



 首を緩慢に横に振ったクロノスさんの指すものが分からなかったが、少しして名前のことだと行きあたる。……まあ、もしかしたら、別のことなのかもしれないが、そこは受け取りての自由だろう。



「では、ロノさんで?」


「好きにしろ。」



 ぶっきらぼうではあるものの、許しを得たため、今後もロノさんと呼ぶことにする。

 それにしても、こんな所で新しい旧神に出会うとは思いませんでしたね。先程の会話からしてニュクスさん達が解放したのでしょうが……一体、どうやって……?



「あらあら。クロノスったらいつからそんなに甘い子になったのかしら。」


「全くだよねー?私たち、こんな甘い子に育てた覚えはないのに。」


「……姉さん方に育てられた覚えもない。」



 疑問に思ったが、あまり質問し続けても彼女たちの機嫌を損ねるだけだろう。余計なことは言わずに話の流れを伺っていると、微笑ましい言い争いへと変わっていた。

 なんとも緩い空気に緊張が解け、頭の上で心配そうに覗き込んでくるカンタに口角を上げただけの笑みを浮かべる。

 何故ここに私が居るのかと聞かれないのは不気味だったが、ひと段落つくと先程の言葉で気になるところがあったこともあり、そわそわとしてしまう。

 どうしたものかと悩んだが、ちらりと2人に目を向けると何故かバチりと目が合った。年の離れた姉妹のような双子はまるで考えていた事を分かっているかのように顔を見合わせてクスリと笑い、口を開いた。



「クロノスは人見知りなのよねぇ?」


「そうそう!ニュクスの言う通り!クロノスは人見知りだから、初対面の人にはみーんな、どもって上手く話せないんだよ!」



 嘲笑うようにケラケラと笑う2人に慌ててロノさんを見ると、ロノさんは案の定と言うべきか額に青筋を立てていた。やはり怒らせてしまったらしい。



「……ほぅ?いくら姉さん方でも許せない事もあるんだが。」


「あら。私たちとやるの?」


「あはは!それも面白そうだね!」



 やる気十分とそれぞれ鞭と銃を取り出すニュクスさんとへメラさんにロノさんは口角を上げた。



「へぇ?それじゃあ、やり合おうか。姉さん方。」

次回、姉弟喧嘩勃発


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 仲良くスゴシテいてナニヨリデス……プティちゃんに代わって言いましょう。「私の緊張感を返せー!!」 クロノスだからロノ。…何も言うまい、本人がそれでいいのだから(^ω^) [気になる点] …
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