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98話 人探しは各々で

こんにちこんばんは。

話がだんだん(予期せぬ方向に)進んできた気がする仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 イベントから数日が経ち、5月も既に終盤に差し掛かっていた。驚く程に静かな店内。以前までは欠かさなかった賑やかさは鳴りを潜め、静寂が辺りを支配している。

 というのも、ここには今、私と神様しかいないからだ。カウンターの前にスツールを置いて座り、グダっと体勢を崩して私はため息をついた。



「すっかり静かになってしまいましたね。」


「そうだね。でも、ほら、ガイア達はそのうち戻ってくるんじゃないかな。」



 呟くような小さな声だったが、目の前で針を動かしていた神様には聞こえたらしい。適当にそうかもしれませんねと返事をし、またため息をつくと横から肩をちょんちょんと叩かれた。

 なんだろうかとそちらを向くと、イカともタコとも言いきれない姿の軟体動物が居た。どうやら心配してくれたらしい。



「シャァ……。」



 おっと。カンタも居たのを忘れていましたね。



「シャァッ!?」



 その軟体生物ことカンタを見て少し目を見張ると、何かを察したらしいカンタが酷いと言いたげにこちらを見た。

 ……まあ、カンタも居ますし、3人ですね。


 何はともあれ、忘れていた事実から目を逸らし、神様の言葉から今は姿の見えない鹿の角を持つ少女と鷲を思い浮かべた。


 あれはイベントが終わってすぐのこと。



「妹達が帰ってこない。」


「うむ。全く困ったものだな!あの歳で迷子とは!」



 いつも通りにガハハと笑おうとして場の静かさに空元気に終わったアイテールさんは肩を落とし、嘴を閉ざした。空気の読めない鷲であっても流石にこの空気には負けたらしい。もっとも、ガイアさんからの圧もあっただろうが。

 ガイアさんからのジトっとした視線に目線をさまよわせ、結局縋るように神様を見たアイテールさんに神様は苦笑した。



「まあまあ。アイテールも場を和ませようとしてくれたんだよね?」


「う、うむ!そうだz」


「要らない。」


「そ、そうか……。」



 バッサリと切り捨てられたアイテールさんは落ち込み、力尽きたと言わんばかりに机の上にべシャリと倒れた。

 実際、慣れない気遣いをしようとしたために余計に疲れてしまったのだろうが、それ以上に一気に増えた仲間が消えたことで気落ちしているのかもしれない。

 何せ、空だけでなくニュクスさん、へメラさん、ポントスさんまでもがあのイベント後、姿を消してしまったのだ。気持ちは分からなくもない。



「それなら、実のある話をしましょう。」


「実のある話ぃ?……とは、なんだ?」



 しかし、このまま不毛なやり取りばかりしていても進展はないだろうと話を切り出した……のだが、残念な鷲には意味が通じなかったらしい。

 仕方がないと呆れた目を向けつつアイテールさんに具体的な例をあげてみる。



「例えば、ニュクスさん達が行きそうな場所を巡ってみたりとか、逆にここだけは避けそうという場所を話したりとか。ですかね。」


「おお!なるほど。そういう事だったか!」



 合点がいったとばかりに器用に翼をポンっと打ち付けて頷くアイテールさんに、相変わらずなんとも人間臭い仕草だなとぼんやりと考える。ただし、べシャリと潰れたままのその姿に威厳はない。立てばいいと思うのだが、面倒だったのだろうか。

 うーん。もう少し鷲は鷲らしくカッコよく振る舞っても良いと思うんですけどね?

 雄々しさとは無縁な鷲の姿にやはり残念だと思っていると、そこへガイアさんが口を開いた。



「……分かった。馬鹿鷲。行く。」


「む!?何処n……って、ぉわぁあああああっ!?」



 そして、そのままアイテールさんの足を掴んで引きずり、何処かへと去っていってしまった。

 どうやら私の言葉から何か思いついた場所でもあったらしい。善は急げとは言うが、せめて言葉の一つや二つ、掛けてから行ってくれてもいいとは思うのだが。



「……何処に行ったんだろうね?」


「さぁ?何処でしょう。」



 残された私と神様は互いに顔を見合わせて首を傾げたが、答えが出ることはなかった。


 そうして今に至る。あれから数日が経った今もガイアさん達は戻ってきていないのだ。不安にもなるというものだ。



「本当に迷子になってしまったんでしょうか。あの2人なら連絡くらいは寄越してくれそうなものなのに。……神様?」



 いつもなら何かしらの返事をする神様が返事をしないことを訝しみ、目線をやると何やら神様は深く考え込んでいるようだった。

 そこでふと頭に邪な考えが過ぎる。

 神様の反応が薄い……という事は、イタズラするチャンス!ここはしっかり私のアイデンティティを確立させるべく行動に移すとしましょう!


 内心でニヤリと仄暗い笑みを浮かべ、フワッとスツールから音もなく降りて神様の後ろに移動する。神様はまだ私の行動には気づいていないようだ。

 そして、真後ろにまで近づきタイミングを見計らってダイブする。勿論、神様の首元を狙って。

 その瞬間、何かに気づいたのか後ろを振り向こうとする神様だが、もう遅い。ガバりと腕を神様の首に回して肩口に顎を乗せて神様を見た。



「ちょっ!?」


「ふふふ〜。神様?何を考えてたんですか?」


「うぇっ。あー……いや、何でもないよ。プティには関係の無いことだからね。」



 慌てる神様にしてやったりとニヤリと笑ったが、神様は出そうになった言葉を飲み込み、平静を装ったようだ。

 その様子に表面上はそうですかと大人しく笑みを作って笑ったが、内心では大荒れだ。

 へー?それってつまり、神様は2人の居場所を知っていて話す気がないってことでファイナルアンサーですかね?

 そして、神様は私を巻き込む気がないってことでよろしい?よろしいんですね?そしてそして?私が好き勝手に動いても神様が文句を言う権利なんてなくなりますがそれでもよろしいってことですよね?


 ねー?と1人結論を出して今後の行動を決める。

 いいでしょう。神様がその気なら私もやってやりましょう、と。

 一先ず、神様が居なくなってから行動を開始するべきだろう。行き先についてはダンジョンを考えている。以前ガイアさんが居た場所から順番に巡っていけば何かが分かるかもしれない。何せ、思い当たる場所は結局そこしかないのだから。



「なんだか今日は大人しいね?」


「そうですか?いつも通りだと思いますが。」



 おっと。どうやら少しぼんやりしてしまっていたらしい。問いかけてきた神様に首を傾げてニコリと笑う。

 うーん?でも、いつもは抱きついたりなんてしませんよ?つまり、神様は既にこの程度のやり取りで満足できなくなっていらっしゃる……!?



「……なんだろう。凄く不本意なことを考えられてる気がする。」


「え?……アハハハ。そんなわけないじゃないですか!」



 ヤダナーと口にするものの、どうやら納得していないらしい。神様は不審そうな顔で私を見ていたが、やがて神様は目をさまよわせた後、絞り出すように話しかけてきた。



「それはそうと、そろそろ降りてくれない?」


「嫌です!」


「だよね!?知ってた!」



 様子から察するにそろそろこの体勢が気まずくなったのだろう。勿論、拒否するが。

 知ってたなら聞かなければ良いと思うんですが。まあ、神様との会話が増えるのでウェルカムですけどね。



「シャァ……。」



 そのやり取りを少し離れたところで寂しそうにカンタは見ていたのだった。……別に忘れていた訳ではありませんよ?ええ。忘れていないったらないのです。



 □■□■□■□■



 暗く薄暗い場所。その一角に灯された灯りは1人の影を映し出していた。その影は人の形をしているが、心臓は動いていない。正しく人形族である影の主はジメジメとした岩肌に設置された机に向かって何やら書き込んでいた。

 ふと顔を上げ、入口の方に顔を向ける。それはコツコツと鳴り響く靴の音であり、来客を知らせていた。



「やぁ。元気かい?海ちゃん。」


「うるさい。ボクは空だって何度言ったら分かるの。エロス。」



 現れた男の姿を目に止めるとすぐさま書類へと視線を戻し、柔和な笑顔を浮かべる相手へと棘のある言葉を投げかける。

 相手が怒っても仕方ないような振る舞いだが、エロスと呼ばれた青年は苛立ちを露にすることなく苦笑する。その仕草からもこの扱いはいつもの事であるのが読み取れた。

 やがて青年は芝居がかった仕草で大袈裟に首を振ると、悪びれることなく人形に話しかけた。



「そう嫌わないでおくれ。僕はね。君の恋を応援したいだけなんだから。」


「何度も言ってるけど、別にこれは恋じゃないよ。人への愛を何でも恋だと表すのはキミの悪いところだね。」



 顔を上げた人形から憎い敵を見るような鋭い視線を向けられた青年は。しかし、全く気にした様子もなく人形に暖かい視線を送るだけだ。それはまるで未熟な幼い子供に向けるようなものであり、気に食わない人形は舌打ちした。

 これだからコイツが嫌いなのだと内心で毒づきながらも今は別のことに集中することにする。そう時間があるわけでもないのだ。出来ることは今のうちにしてしまいたい。



「それで、上手く行きそうなのかな?君の作戦。」


「……五分五分ってところ。向こうには厄介な神様もいるしね。」



「神様、ねぇ。」と呟く青年は何を考えているのか分からない。そもそも、この青年が何を思って人形に協力しているのか、人形ですら分かっていなかった。

 この青年と出会ったのはもう随分と前の話になる。あれは肉体すら持ち合わせなかった頃の話なのだから。



「まあ、いいや。せっかく僕が手伝ってあげてるんだから、成功させてね〜?」



 やがてヘラりと笑顔を作った青年は先程までと変わらぬ様子で人形に話しかけ、去っていった。

 人形……いや、空はそれを見て呟く。



「姉さん、今何してるかな……。ボクの事なんて忘れてくれたらいいのに。」



 海のためならなんだって出来る。そう言って憚らない自身の分身を思い浮かべ、首を振った。

 今出来ることをする。それが空にとっては最重要なのだから。

次回、旅へ


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイテールさんのカラ元気、不発に終わる♪カンタ君も可哀想に。もう少しかまってあげましょう。 相変わらずの秘密主義な神様です。いい加減、観念したら~♪(どうせ、無駄な抵抗なんだからさ) […
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