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97話 守りは完璧に

こんにちこんばんは。

ゴールデンウィークですが、のんびりする気なので更新頻度は変わりそうにない仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 とりあえず、久しぶりですがこれを使いましょうか。そう考えて作り出すのは黒紫の糸だ。MPを吸収するという特性なら傷つけずにプレイヤーを妨害でき、上手く使えば旧神達にも効力があるだろう。



「〈闇の糸〉〈魔力結界(糸)〉」



 上空から俯瞰するように狐を真ん中にして分布する三体を囲うように大きな円を設置し、小さな円を3つ描く。そこから更に小さな円から真ん中へとそれぞれ蜘蛛の巣状に分岐させた。立体的な出来栄えに満足し、様子を見る。

 早速無警戒に触れたおバカさんが居たらしく、人影が疎らに遠ざかっている。上手く行きつつある作戦に機嫌よく眺めていると、バサバサっという音が聞こえた。



「攻撃はしかけないのか?」



 そちらを見ると、いつもより少しばかり大きい鷲がそこに居た。どうやら様子見に来てくれたらしい。

 ただ俯瞰するだけの私を不思議に思ったのかアイテールさんがなんでもないように話しかけてきた。

 そちらへと視線を向けずにただ頷く。



「はいです。」


「何故だ?」



 不思議そうに首を傾げるアイテールさんにおや?と思って観察すると、瞳の中に燃えるような赤が潜んでいることに気づく。どうやら、この鷲は言い表せぬ感情を静かに抱え込んでいたらしい。てっきりいつもの朗らかさで彼らの狼藉を許すのかと思えば、とんでもなく怒っていたようだ。

 ふむと一考し、アイテールさんの問いに答える。



「今攻撃を仕掛けても意味がないからですよ。」


「意味がないとは?」


「うーん。では、アイテールさんに問いましょう。

 アイテールさんならこの状況で攻撃された場合、どうしますか?目の前には美味しそうな果実があり、もう少しで取れそうなのに邪魔をされた。その邪魔をした相手に対して貴方は何を思いますか?」



 ジッと見つめてアイテールさんの答えを待つ。アイテールさんは普段は少々情けないところがあるが、それは馬鹿だからというわけではない。大きな器を持ち、多少の無礼も許せるからこそそういった状況で下手に出てしまうだけなのだ。

 だからこそ、この答えにもすぐ行き着くはずです。


 実際、アイテールさんからの返答はそう待つまでもなく返ってきた。



「なるほど。報復をと考えるのだな。しかし、それは今の状況でも同じだと思うが。」


「全然違いますよ。何せ、この糸の主が誰かなんて彼らには分かりもしませんから。」



 そこでようやく合点がいったとばかりに頷いたアイテールさんは、今度は空からニュクスさんたちを狙う人々に目を向けた。

 それはごく一部ではあったが、やはり不愉快なものは不愉快だ。早めに摘み取っておきましょうか。


 彼らに向けて手を翳す。未だに全てのステータスが半減しているが、MP自体は次々と補充されているため、豊富にある。

 これで何をするのかと問われればそれは一つしかないだろう。妨害だ。



「暗き闇で紡がれし糸。闇の中で時間は止まる。今ひとたびの眠りをもたらせ。何人もこの糸をこえることは能わず。邪魔をするものはない。〈魔力結界(暗黒の糸)〉」



 手からは魔法陣のようなものが現れ、丸い円の中に文字が紡がれていく。これは神代魔術と呼ばれるものらしい。

 教えてくれたのはガイアさんだ。一度、以前のイベントで詠唱をしていた理由が気になって尋ねたのだが、その時に理由と共にやり方まで手取り足取り教えてくれた。

 因みに、魔法陣のようなものが現れるのは力量不足の証拠だ。慣れれば慣れるほどに陣の出現時間が短くなり、最後には一瞬光るだけになるらしい。

 つまり、ガイアさんは凄いということですね。何しろ、これでも発動時間が短くなった方なので。というか、出来るだけ詠唱とか唱えたくなかったのであまり使いたくないんですよね。思いつきませんし。


 威力は凄いのになと使い勝手の悪いところに焦点を当てて考えていると、魔術は正しく発動したらしい。ニュクスさん、へメラさん、ポントスさんの3人の頭上を蓋をするように黒紫色の陣がそれぞれ3つ現れる。

 流石にへメラさんとニュクスさんは闇への耐性が高いのか眠りにつかなかったが、ポントスさんはその場で丸くなって眠り始めた。とはいえ、他の2人も既に攻撃できる状態にはない。外からの攻撃も通さないのは確認済みであるため、とりあえず作戦は成功だろう。



「これで良しですね。」


「うむ!完璧とも言えよう!やはり我らが父の寵愛を受けるだけはあるな!」


「ふっふっふ。当然じゃないですか!私は神様の信者ですからね!」



 むふーと機嫌よく胸を張ると、なんとも微妙な表情をしたアイテールさんが私を眺めていた。

 何か文句でもあるのかと目線を鋭くさせて見つめると、話を変えるように慌ててそれはそうととアイテールさんが話し出した。それは要約すると、神様の加勢には行かないのか?という疑問。

 やり遂げた達成感に浸らせてくれもしないのかという不満が込み上げ、そもそもさっきの反応は何だったのかと問いかけたくなる。しかし、答えは既に決まっているのだからさっさと答えることにした。

 勿論、それはノーという回答を。



「何故だ?」


「何故って……あの光景を見て、要ると思います?」



 そう言って指さしたのはもはや滅茶苦茶だと言いたくなる惨状だ。



『許サナイッ!許サナイワッ!!

 人間ゴトキガ歯向カウナド!!』


「何を言っても今更だな。〈琉璃槍術:流れ突き〉!」


「うーん。そうね。何かあったとしても、この場で私達が出来ることは限られているもの。白。お願いね。〈家族強化:赤〉!」


「ワォオオオンッ!」


『グゥゥッ……!』



 周囲の森だった場所が何も無いむき出しの地面へと変わっていると言えば、その凄まじさも分かるというものだろう。

 その中心にいるアルファさんも到底無事では済まされない。次々と放たれる攻撃の数々に流石のアルファさんも防戦一方といった様子でなかなか攻撃に転じれていないのだから。しかし、それは同時にそれだけの攻撃を受けながらもアルファさんが生きているという事実も示しており、こちら側も決定打に欠けているという証でもあった。

 沢山のファミリアがおり、そのマスター達が本気で攻撃しているにも関わらず、その攻撃は効いているのかすら分からない。あまりにもの手応えの無さに余裕だったマスター達の表情は険しくなりつつあるのが見て取れた。



「うむ?やはり、加勢した方が良いと思うが。」


「ちっちっち、です。」



 わざとらしく指を横に振り、アイテールさんの考えが間違いであることを主張すると、アイテールさんはなんとも言えない表情で私を見た。まるでこの子、何が言いたいんだろう?と言いたげなその表情にムカッとしながらもやれやれとため息をつく。

 そして、目下の惨状を見ながら考えを述べた。



「……私は、この状況のまま時間が過ぎた方が良いと思うんですよ。」



 ポツリと呟くような声は思いの外小さくなった。しかし、アイテールさんはそれを聞き逃さなかったらしい。不思議そうに何度か目を瞬いたアイテールさんはやがて口を開いた。



「ふむ。何故だ?」


「……私は、彼女を倒すことに意義を感じていないからです。彼女が暴れている理由は彼女自身にありません。

 彼女はただ、他の誰かの意図によって踊らされているだけのお人形さんでしかないじゃないですか。お人形さんは何も悪くありません。悪いのは操り手でしかないんですよ。」



 そこで一つ間を置き、アイテールさんを見据えた。私の言葉は私の憶測が入っているだけに理解し難く一笑に付されるかとも思えたが、アイテールさんは私の想定とは違い、真剣な表情で思案しているようだ。

 そして、アイテールさんは目をくりくりと動かし、やがて頷いた。



「ふむ。人形。それは言い得て妙というものだな。

 ヌシには我らが母が人形に見えるのか?」



 やや目を鋭くしたアイテールさんに視線を逸らしつつ肯定した。そう見えるというよりも、感じたと言った方が正しく思えたが、ここは否定する方が話が拗れるだろう。



「そう……ですね。無礼であることは自覚していますが、そう見えていることを否定する気はありません。

 何せ、この状況自体が私からすると仕組まれているようで気に食わないんですから。」


「ああ。機嫌が悪そうだと思えば、そのような事か。」


「そのような事とはなんですか!全く。これだからガイアさん達にからかわれるんですよ!」


「今、姉殿の話は関係ないはずだが!?」



 ギョッとするアイテールさんにそっぽを向く。不用意に発言するからいちいち慌てなくてはいけないのだ。少しは懲りて反省するがいいのですよ!

 頬をふくらませる私にどうにか言葉を撤回してもらおうとアイテールさんが必死になる中、アルファさんを倒せずにイベントは終了した。


 と、これでイベントの騒動が終わるわけがなく。



「何時になったら空は帰ってきてくれるんでしょうねぇ。」



 はぁ……とため息をつく私の姿が神様のお店にあった。

次回、空の行方


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 休みだからこそ、ストックの作成と更新を頑張って下さい。
[良い点] 妨害成功♪暗躍することが楽しくなって益々イタズラ好きになりましたね。  ……か~ごのな~かのと~り~は い~つい~つで~や~る  アイテールさん、滑ってください! [気になる点] 今度は…
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