96話 情報共有は簡潔に
こんにちこんばんは。
書く気力の維持って大変だと実感する仁科紫です。
このまま週一更新になりそうな予感……。
それでは、良き暇つぶしを。
「なるほど。つまり、あの巨大な狐は魔物で他のライオンや豹、亀は動物だから倒したら減点になってしまう、という事だね。」
あの後、ふと頭をよぎったものがあり、それを説明すると納得したようにデュランさんが頷いてくれた。どうやら上手くごまかせたようだ。
一緒に聞いていたアキトさんもなんとも言えない表情で嫌そうに呟く。
「うへー。しかも、狐が操って守らせてんだろ?傷つけたら減点対象とか相変わらず鬼畜すぎね?ここの運営。」
「ですよねー。同感です。」
適当に頷き、この話がでっち上げではないように振る舞うが、少し不安になった。
これで良かったんですかね……?
結局、攻撃していい対象と悪い対象が居るというルールを使って誤魔化すことにしたのだ。
今回の場合、変貌した旧神達に赤い目がいなくて良かった。動物と魔物の見分け方の根拠については今までの相手も赤い目のものばかりだったこともあり、指摘するとそれ以上聞かれなかったのだから。
そして、事実としてアルファさんが敵側であることに間違いは無いのだ。なんとか誤魔化せていると信じたい。
……え?魔法を使うなら動物じゃないんじゃないかって?……使う動物さんもいるかもしれないじゃないですか!ね!?
それに、偶然としては出来すぎている気がするんですよねぇ。
赤い目の敵と変貌した旧神達。何処からどう見ても利用されたようなこの構図に少しばかり苛立つ。
今度、運営に長文の苦情メールでも送っておきましょう。別に嫌がらせという訳ではありませんが、少しくらいは許されると思うんですよ。主に迷惑を蒙っているのは私ですし?
「それでも、タゲをノーフェイスがとってるだけましだと思うよ。究極の盾を手に入れたようなものだし。」
「うわぁ。その言い方はねぇだろ。な?嬢ちゃん?」
クスクスと内心で笑いつつ静かに闘志を燃やしていると、唐突にアキトさんから話を振られた。どうやら味方になってくれると思ったらしい。
しかし、今回は否だ。
「はい?神様が絶対的な盾になりうるのは当然ですが?」
意味が分からないと少しばかり馬鹿にしたような態度でアキトさんを見る。
想定外だったのかアキトさんは言葉に詰まり、何故かデュランさんまで信じられないとばかりに目を見張っていた。
うーん。心外ですね。事実でしょうに。
事実を述べただけでこの反応はなんだと不貞腐れていると、続くアキトさんの言葉で納得する。
「え。なんで逆にキレ気味で返されてんの!?ノーフェイス大好きっ子だったよね!?」
「それはそうです。でも、神様が前に立って攻撃が飛んでくるわけないじゃないですか。
それを信じられない信者だとお思いで?」
「うっ……なんか、信者度がパワーアップしてる気がするの、オレだけ!?」
内心であー…と呟きながらも表面上は腰に手を当て、説教をするように話す。
正直、私が神様の味方をするか否かはその時の気分次第なところがあるんですよね。今回は神様に対する不信感が勝った結果とも言えます。
まあ、信者には変わりありせんし、神様を崇めさせていただく手前、信者らしく言葉だけは繕っておきますが。
だから信者度も何も無いのだが……と考え、それよりも今しなければならない事を優先させることにした。
「それより、あのお狐さんに一斉攻撃を仕掛けますよ。
動物には攻撃しないように伝達よろしくお願いします。」
「分かった。そこは任せて。」
「おうよ!魂で繋がっ」
「気持ち悪いのでやめてください。」
「酷くない!?」
何やらアキトさんが喚いているが知ったことではない。
その後、連絡をしに去っていく2人にこの場はこれで良しと、辺りを見回す。ふと目に入った狐の姿に一瞬思考が過った。
そういえば、あの狐さんは手足の鎖だけでなく首にも枷がついていたんですね。どこかガイアさん達がつけていたものと似通っている気もしますが……。
そこまで考えていやいやと首を振る。今考えることではないだろう。最近何度も目にしてもはや見慣れてきてすらいる姿の巨大な狐からは目を逸らし、神様に目を向ける。丁度両手から放たれた鎖を剣で受け止めたところだった。
いつの間に刀から変えていたのかと思ったが、そういえばあれは姿を変えることが出来たのだったと考え直す。
まだ暫く持ちそうな神様にホッと息をつき、後はと目をつけた先に眉を顰める。目線の先はニュクスさん達に攻撃しようとして障壁に阻まれているプレイヤー達だ。私が話している間にも当然、人々は自己判断で行動している。それらを全て止める手段なんてものは私には無いが、そこは適材適所というやつだ。全てガイアさんとアイテールさんが防いでくれていた。
こういう時、やはりガイアさんとアイテールさんは頼りになりますね。
大まかな状況把握を終え、人集りになっている場所へと向かう。そこには既に連絡が行き渡ったのか、主要なギルドの面々が顔を揃えていた。
「やァやァ!プティちゃんじゃないカッ!久しぶりだネェ!」
「あら。本当ね。こんにちは。エンプティさん。」
「お久しぶりです!妖華さん、メルフィーナさん!」
相変わらずニヤニヤとして読めない妖華さんと包容力のある優しい笑顔のメルフィーナさんにホッとする。他のメンツは面識がないものばかりで少しばかり気まずかったのだ。
勿論、破廉恥おねぇ……コホン。ゼウスのサブマスであるトアさんもいらっしゃいますが、あえてそこは見ません。ええ。見ませんとも。何せ、視線が痛いですからねぇ……。
試しにちらりと視線を向けてみると、案の定キッと鋭い目で睨みつけられた。それを見てやれやれとため息をつく。どうやら嫌われてしまったようだ。まあ、どうでもいいですね。
それはさておきと攻撃する際の注意事項など、メルフィーナさんに話し合いが行われたのかを尋ねることにする。流石にバラバラで行動するなんてことは無いだろう。
「メルフィーナさん。お話は終わりましたかね?」
「うーん。そもそもしていないものを終わったと言っていいのかしら?」
……うん?していない……?
目をぱちくりとさせ、メルフィーナさんを見る。メルフィーナさんはそんな私の様子を苦笑して見ていた。
「戸惑わせてごめんなさい。いつもの事なのよ。ゼウスは自分で勝手に動くでしょうし、他も適当に動くわ。
それに、話し合って上手くいった試しがないのよ。」
「何セ、クセが強いからネェ。
連携をとろウとするだけムダヨー?」
ケラケラと笑う妖華さんの言葉をメルフィーナさんは否定しない。妙にいい笑顔なのが気になったが、今は気にしなくていいだろう。多方、お前が言うなとかそんな理由なのだから。どう見てもクセが強いですからね。
さもありなんと頷き、早速巨大狐退治を行うことにした。
「では、早速攻撃開始としましょうか。よろしくお願いします。」
言うだけ言ってその場を離れようとする。しかし、ある意味当然ながらそうは問屋が卸さなかった。
「ンー?ドコへ行くのカナ?」
「勿論、ご迷惑をおかけしないように距離をとろうかと。」
ほら、私ってか弱いお人形さんですし?とおどけてみせるが、妖華さんは納得されてくれなかったようだ。事実として私はこの場にいる誰よりも弱い自信があるのだが、妖華さんの考えは違うらしい。
うーん。空もどうしてか居ませんしね?戦力は半減していますし……。
居心地の悪い視線に隠れていても分かるものなのだなと思考を逸らしつつもこの状況をどうしたものかと考える。
まあ、妖華さんの勘もハズレではないので困ったものなんですよねぇ。
実際、私はガイアさんとアイテールさんの役割を引き継ぐつもりだったのだ。2人の役割を全てとはいかずとも、どちらか片方だけでも神様の増援になればいい。
戦力的に見て私よりもガイアさん達の方が優れているのは間違いなく、なにより今も懲りずに攻撃し続ける彼らにはそろそろ苛立っているのだ。彼らにお灸を据えたい気持ちが強い。
「申し訳ないですが、今回のは私事情ってやつなのですよ。」
だから言う気はないと言外に告げると、妖華さんはそれ以上引き止めることなくフーンと愉快そうに笑って狐に向かって行った。
その態度に拍子抜けして間抜けにも口を開いて妖華さんの後ろ姿を眺める。なんでしょう。なんか、こう……妙に腹が立ちますね!?
なんとも言えない気持ちになりつつガイアさんの元へと向かったのだった。
・
・
・
「ええ。分かった。あなたに任せる。」
「ありがとうございます。」
ガイアさんの元へと向かうと、そこでは既に数名のプレイヤー達が伸びきっていた。一部ではアイテールさんに啄き回されており、見ている分には少し面白い。
まあ、言ってしまえばそれなりの惨状ですね。
事情を話した私は、そういう事ならとガイアさんから快く役割を譲って貰えた。
「これでバカ姉に思い知らせられる……。」
……不吉な言葉は聞かなかったことにしましょう。
その後、アイテールさんにも話したが、アイテールさんはここに残るとの事だった。表向きは私一人では心配と言っていたが、実際の心配事は別にあるようだ。
「あの姉が本気で戦うなど、恐ろしいにも程がある……。」
何やら情けない声が聞こえた上に、妙にカタカタと震えているように見えるが、気のせいだろう。
流石に旧神がこんなにも情けないなんて他の方に失礼ですし。
うんうんと頷き、ガイアさんが作り上げた障壁を越えてまで攻撃をしかけようとしているプレイヤー達に目を向ける。どうやら、ガイアさんの作った障壁では空からの攻撃を防ぐことが出来ないらしい。
故に、そこからニュクスさん達も攻撃できてしまうのだ。つまり、その分プレイヤー達からヘイトを買いやすい。
流石に閉じ込めたくないというガイヤさんなりの理由なのかもしれませんが、今回はそれが裏目に出てますね……。
そう考えつつ目の前の3つの障壁に向き直ったのだった。
次回、妨害タイム
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




