95話 姉か母かはよく分からないもの
こんにちこんばんは。
唐突にお休みして申し訳ない仁科紫です。
広げすぎた話の内容の把握と収拾をつけるために今後も度々お休みするかと思いますが、ご了承頂けますと幸いです。
今日ようやくカンタを出し忘れていることに気づいたレベルで頭が回っていなかったと言えば、最近の私のポンコツ具合が大体分かって頂けると思います……。
それでは、良き暇つぶしを。
「どうして父のクセに我らを助けないのか!答えよ!」
「だから、それは君たちが自分で乗り越えないといけない問題だったんだよ!それが最初で最後の課題だ!
君たちは理解出来ていないようだけどね……!」
ドゴンバゴンッとひたすら恐ろしい音が鳴り響く森は、既に森と言うよりも荒地へと変化し始めていた。
こうなったきっかけは空にある。どうにも積極的に関わりたくなさそうな神様に空が呆れた結果、フードの人に神様を指さして『どうぞお好きに』と言ったのだ。
それを皮切りに小柄だったフードの人はネロと呼んだ獣を何処かへと消し、180センチほどある細身な高身長の人へと変貌した。もっとも、フードの下はずっと隠れたままで見る事が出来ないため、素顔は分からないのだが。
口調も幼げなものからはっきりと発音するようになり、どうやら神様を前にした怒りによって力が増したらしい。
両手からジャラジャラと太い鎖を神様に向けて叩きつけ、神様はそれをいつもの剣ではなく刀で受け止めた。それはつまり、神様にとって本気で対応しなければならない相手、という事だろう。
「姉さんが止めようとしないのって珍しいよね。」
「えっ。……あれは、自業自得では?」
ぼんやりと考え事をしていただけに咄嗟に反応出来なかったが、空の疑問によく考えるまでもなく言葉を返す。
正直、以前から時々思ってはいたのだ。神様は創造の父としてガイアさん達旧神に慕われている。それにも関わらず、神様は旧神達に対して対応が冷たいのではないか、と。
それこそ、自分の役目がどうのといつも言っていたが、はっきり言ってただの言い訳としか思えない。
まあ、運営側だからという神様の気持ちも分からないではないんですが……。
いやいやと首を振る。ここで神様の味方に回るのは違うだろう。事実として神様の対応は酷いものなのだ。ならば、ここはやはり気が済むまで戦ってもらうのが吉だ。
そこまで考えてふと疑問点が浮かぶ。
「そういえば、あの方とガイアさん達は知り合いなんですか?」
特に何も言わずに傍観する旧神達を不思議に思って尋ねてみたのだが、以外にもこれに対する答えは各々でバラバラだった。
「姉。」
「はは?」
「母……かしら?」
「多分、母!」
「うむ。一応、母という役割を果たしてくれたという事実はあるぞ!」
ガハハッ!と笑うアイテールさんの言葉が一番的をいていたらしい。うんうんと頷く3人だったが、1人だけなんとも言えない顔をしている人がいた。それはガイアさんだ。
「ガイアさん、どうして姉だと言うんですか?」
「……みな、我らが父から生まれたもの。そこに上下はあっても私自身が育てられた記憶はない。故に、姉。」
その端的な言葉からも姉としか思っていないのは伝わってきたが、もう少し詳細を聞くことにした。
それによると、ガイアさんが生み出されたのはアルファさんとそう変わらない時期らしい。実質、姉と妹のようなもので、互いに神として切磋琢磨しあった仲なのだとか。
更に言うと、互いに姉さん、ガイアと呼び合う仲であり、その後、母親としての適性を見出されたアルファさんが旧神達の母として振る舞うようになったとのことだった。なんともややこしい兄弟達である。
「つまり、姉のような母であり、母のような姉である。という事ですか?」
「ええ。」
「……それなら、どうしてこのような状況に?」
尋ねるが、ガイアさんはキョトンとしてなんの事だか分からないと言いたげだ。どうやら、いまいち私の言いたいことがわからなかったらしい。
「ほら、久しぶりの再会の割りには何も言葉を交わしていないなと思いまして。」
先程のことを思い浮かべ、言葉を足してみる。しかし、尚も首を傾げるガイアさんにどうしたものかと考える。
まあ、もしかしたら価値観があまりにも違いすぎるからかもしれませんが。
しばらく言葉を探していると、不思議そうなガイアさんに変わってポントスさんが口を開いた。
「……ぼくがはなす。
はは、おかしい。ぼくたちのこともきづかない。ゆいいつはちちのみ。はなすのむだ。
そして、ぼくたちもははときづかなかった。ははのまとうもの、ちがうから……。」
話し方も何もかもが違ったというポントスさんの言葉に納得する。確かにそこまで違うなら分からないだろう。
とはいえ、どうして神様だけは分かるんですかね?やはり、創造主だからでしょうか。
そこへクスクスと笑ったニュクスさんがやって来た。話の内容が気になったらしい。
まるで私の疑問を読んだかのように私を見て口を開いた。
「あの人はお父様を愛しているもの。」
「愛は人だけじゃなくて、神をも狂わせるってね!」
ケラケラと笑うへメラさんの言葉に少しばかりドキリとする。愛……それ自体が何かを私は知らないが、よく聞く話だと納得する。
そうして頷いていると、無邪気なへメラさんは一転、真顔になって呟いた。それは普段からは想像がつかない程に暗い目をしていた。
「……ホント、笑えないよ。全く。」
「へメラさん……?」
「ん?それよりも、折角なんだしここで狩りをしようよ!」
「いいわね。」
話の内容をすり替えられたとは思ったが、聞いてもこれ以上は教えてくれないだろう。潔く2人の言葉に同意し、本来の目的であった魔物狩りへと移った。
「ぼ、僕もそっち側が良いんだけど!?」
「ダメですー。神様は大人しくアルファさんと話し合ってくださいー。」
「うん。ボクもそうした方がいいと思うな。」
「私も。」
「ぼくも。」
「が、頑張るのだぞ!我らが父よ!」
「敵しかいないのはなんでぇええっ…!?」
後ろの方で何やら叫んでいる人が居るが、きっと気のせいだろう。そういう事にした。まあ、やっぱり、自業自得なんですよねぇ。
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あれからサクサクと魔物を倒しつつ神様とアルファさんとの戦いを眺めていると、アナウンスが聞こえた。
『イベント終了時刻まであと30分となりました。全エリアを統合。レイドモンスター設置まであと10秒です。
皆さん、頑張ってください。』
淡々とした声にハッとし、辺りを見る。空間がぐにゃりと歪むような奇妙な感覚の後、空気が変わったのが分かった。
ただただ気味の悪い森だったフィールドが明確な悪意を持つようなひりつく感覚を纏わせる。
そして、もっとも大きな変化がアルファさんに現れた。
「ぁ……ァアア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」
「アルファ……!?」
突然苦しみ出したアルファさんに神様が声をかけるが、アルファさんは気づいた様子もない。
変化はそれだけではなく、赤い目を更に色濃く輝かせ、白目が黒く染まっていく。まるで血のような赤い魔力を零しながら変化していくアルファさんは涙を流しているようであり、思わず息を呑む。更に巨大な体へと変化していくアルファさんはフードを破り、毛で覆われた体を露わにした。
「空、これはどういう……」
あまりの事態に片割れに向けて問いかけようとした。しかし、その片割れの姿がないことに気づく。
慌てて見渡すが、それどころでは無い。まるでアルファさんに共鳴するかのように旧神達にも変化が訪れていたのだ。
「こ、れは……はぁ。ふふふ。お母様のお呼び出しなら仕方がないわね。」
「当然だよ!ニュクスも居るもんね!」
少しばかり苦しそうに顔を歪めるニュクスさんは手足を黒い毛に覆われ、本性である黒豹の耳と尻尾が生え始めた。それと同時にへメラさんもニンマリと笑うと、黄金の毛を纏い始める。
この2人だけかと思いきや、そうでは無い。悲しげに眉を下げたポントスさんがアルファさんを見て呟いた。
「ははが……ないてる。いかなきゃ。」
「ま、待て!ポントスよ。止まるのだ!……ぅぐぅ……!」
その言葉を耳にしたアイテールさんが慌てたように制止の声をとばすが、ポントスさんの変化は止まらない。
それどころか、アイテールさんの体まで徐々に大きくなり始めた…気がする。正直、アイテールさんだけ元々鷲なので、あまり見た目が変わらないんですよね。
しかし、苦しげな様子からしてそうだろう。恐らく、抗おうとすればする程に苦しくなるのだ。だからこそ、早々にニュクスさんたちは抵抗をやめたのかもしれない。
ただ苦しむアイテールさんを見ていることしかできない中、そこへガイアさんが近づき、手をかざす。優しげな緑の光がアイテールさんを包んだ。
「……私は、抗える。アイテール。力を貸す。」
「姉殿、かたじけない……。」
「いい。他の子達はまだまだ鍛え方が足りない。後で鍛え直す。」
ふんすっとやる気満々なガイアさんにアイテールさんは目線をそらし、何処と無く可哀想なものを見る目で姿を変え終えた3人を見た。
その気持ちが分かるだけに私も見なかったことにし、ただ変わっただけではない空間に目を向ける。辺りは既にガヤガヤとした賑やかな雰囲気に包まれ始めていたのだ。
先程、全エリアと言っていましたからね。人がアレを目印にやって来ているんでしょう。
「もう来てたか。久しぶりだな。
根源を同じくせし我が友よ!」
「うるせーですよ。アキトさん。」
そのアレに目を向けていると、声がかけられた。聞き覚えのある声に後ろを振り向く。
少しばかり返しが雑なのは今更だ。私とてこの状況で余裕ぶってはいられないのである。
流石に普段一緒にいた人が急に敵側に回ったら動揺くらいしますよね?
不貞腐れる本心を隠し、淡々としらけた目で見ると、アキトさんはある意味予想通りに大袈裟な素振りで反論してきた。
「酷くね!?」
「はいはい。アキトになら幾らでも酷くしてくれていいからね。」
「ひどっ!?」
「あ。デュランさん。こんにちは。」
こんにちはと穏やかに笑って返事をするデュランさんにアキトさんが食ってかかっているが、当然それを気にするつもりはない。
それよりもと、現状について尋ねてきたデュランさんの言葉にどうしたものかと考える。
うーん。正直、アルファさんは大丈夫だとしてもニュクスさん達を傷つけたり、倒してしまったりした時が未知数すぎるんですよね。
どうにかアルファさんにだけ目を向けさせないと……。
次回、事態の収拾(出来たらいいな)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。
〜2022/04/18 18:24 のむ→のみに訂正する誤字報告を適用しました。〜
いつもご報告ありがとうございます。やっぱりポンコツすぎる……。




