シンデレラ(テーマ・怒り)
城の窓から三日月が嘲笑っていた。ホールで演奏されている曲が空腹の体にのし掛かり、招待客の話し声が耳につく。
舞踏会があるっていうから、魔法使いのお婆さんを脅し……いや、お願いしてドレスを出してもらったのに、なにさ、これ。
ただ踊るだけ? 何が楽しくて回ってるの? 料理の一つもないなんて、最悪。
あぁ……シャンデリアが飴に見えてきた。あ、あの大理石の柱はマーブルチョコね。
あら、よく見れば豚が踊ってるわ。あれを丸焼きにしたら……いけない、よだれが。
ハンカチで口元を拭っていると、豚が腹を揺らしながらやってきた。
「お嬢さん、よければ一曲……」
そこで十二時を知らせる鐘が鳴る。
「ヤバッ!?」
「お嬢さん!」
後ろで豚が何か叫んでいるが、こっちはそれどころではない。無理やり魔法を使わせたせいか、十二時を過ぎたら魔法が解けるのだ。それにしても、このガラスの靴は走りにくい。
舌打ちをしていたら、ガラスの靴が片方が脱げた。一瞬、足を止めかけたが、走り続けた。
ご飯がない以上、城に用はない。
城から抜け出した時には、いつもの貧相な服に戻っていた。だが、なぜか靴はガラスのままだ。
それまで歩きにくい憎たらしいだけだったガラスの靴が、初めて輝いて見えた。
「ラッキー」
街灯は明るく私が行くべき道を指し示している。
私は導かれるまま、リサイクルショップへガラスの靴を持っていき、手にいれた金で赤い暖簾をくぐった。
深夜に食べるラーメンは最高だ!