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本棚の森番  作者: 旭 河埜
森番の奴隷
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五、発掘班

ここに来て四日目。今日はユカリに起こされる前に起きれた。今日の仕事は遺跡の発掘だ。一番大変だとユカリには聞いていたから、どんな風に仕事を進めるのかとても楽しみで、それで早く起きれたのかもしれない。

 身だしなみを整えてユカリを待つ。

「おおマサル、今日は早いのだな。」

しばらくしてやってきたユカリは、いつもの豪華な服よりもいくらか質素な服を着ていた。

「・・・いつもの眠気覚ましが出来ないとは・・。」

「何か言ったか?」

「い、いや、何でもない。さて、前にも言ったと思うが遺跡は遠い。早めに出るぞ。班長の紹介はむこうでやろう。」

コイツ完全に俺を遊び道具にしてやがった。とんでもないお姫様だ。溜息をついてユカリについて行った。二人でユカリの部屋のエレベーターに乗って、下に降りる。

 大樹を出てすぐ右の立派に整備された道を俺たちは進んだ。採掘道具も持たず、徒歩で二時間ほど歩き続ける。

「発掘作業って、具体的にはどんなことをするんだ?」

「遺跡の周りを向こうにおいてあるツルハシで掘る。ひたすらその作業じゃ。森の仕事の中で一番単純で一番つまらない作業だと思うぞ。」

「それを今日俺にやらせるのか。」

「一応奴隷という扱いじゃから、働かされるに決まっておろう。そう嫌な顔するでない。お前は一日だけだから良いけどな、こんなにつまらない仕事を毎日させられてる発掘班の身にもなってみろ。」

「分かったよ。やってみれば結構楽しいかもしれないしな。良いよ、やってやる!」

少しやけになっている俺。その後もしばらく、くだらない話をだらだら喋りながら歩いた。

 遺跡が見えてきた。カーンカーンというツルハシの音が、離れていてもよく響いて聞こえる。頂上でユカリが班長を呼んだ。

「マサル、彼は発掘班班長、ハシューじゃ。」

ハシューの背はフウジンより低くコウリより高い。採集班や警備班の小人達が着ているような葉っぱの服ではなく、何かの植物の繊維を編んで作ったような作業着を着ている。

「ハシュー イド リランテ ワス マサル ニニ クオ ディリグハン イエト?」

「ア!」

ハシューが俺用に用意していたらしいツルハシを、抱えて持ってきた。ご丁寧にヘルメットと軍手も入っている。

「サンキュ。」

やっぱり通じなくて、ハシューは首をかしげた。首を横に振り、ヘルメットと軍手を身につけてツルハシを握り、遺跡の方へ走った。

 カーーン、カカーーン。ツルハシの音が何重にも重なって山にこだまする。微かにシャッシャッという音が聞こえた。周りを見ると、俺たちが掘った遺跡を刷毛できれいにしている小人がいた。地面に埋まっている間についた汚れや砂を、落としているんだろう。あの仕事も大変そうだ。ユカリはこの仕事がつまらないと言ったが、そんなことはなかった。集中してやっていると、なかなか頭を使う。遺跡をなるべく傷つけないように、とか、どの角度で掘ると効率良く掘れるか、とか。

 昼時になって、休憩の時間があった。この森の小人達は一日二食しか食べない。従ってここで昼飯はでないわけで、俺は空腹のまま午後の仕事をすることになった。ちなみに休憩時間は何をしたかというと、腰を伸ばしたり、働き詰めた腕を冷やして休めたりした。何となく、体が半日で老け込んだ気がする。

 午後からは刷毛で遺跡の汚れを払う仕事をした。掘りの仕事と同じように単純だが、こっちはあまり疲れなかった。

 夕方。ヘルメットなどの道具を置いて、景色を眺めた。高い山の上から見る夕日は、家の近くで見るよりずっと大きくて、感動とともに少しだけ恐怖を感じた。雄大で、未知の力を持っていて、俺たちにはどうにも出来ない予測不可能な事をやっておきながら、人間というちっぽけな生き物にその大きな秩序を崩され始めている自然。都会では特に何も感じていなかったが、実際に自然の中に立ってみると、この中で自分に何が出来るのか不安になってくる。足下は切り立った崖になっていて、底が見えないほど深い。このまま地獄まで続いているのではないかと思うが、そもそもこの〈本棚の森〉に地獄という概念があるのかどうかも、そういえば知らなかった。崖に一つの小石を落としてみた。落としてから、頭の中で時間を数える。一、二、三、四・・・。六十八数えたところで、微かにパシャン、と音がした。もし足を踏み外して落ちたら。想像して身震いする。

「どうした、マサル?」

ユカリが俺に気づいて聞いてきた。

「いや、何て言うか、俺都会の出身だから自然とかあんまりなじみなくて。すごいよな、自然って。ここに居るだけで押しつぶされそうになる。」

「なじみのない者から見たらそうなのかもな。妾は生まれてこのかた、森を出たことがないものじゃから、よく分からぬ。」

「そうだユカリ、夜になるまでここで待ってさ、星とか見たら空一面が埋め尽くされてきれいだと思わないか?」

夜も明るい俺達の街で、星は滅多に見られない。ずっとここにいられる気がした。

「そうじゃな、妾も夜まで居ることはないから見ても良いかもな・・・。最後の思い出に、な。」

「どうした?」

「何でもない。少し遅くなると、家臣達には伝えてもらおう。」

ハシューを呼び、伝言を頼んで向き直ったユカリは、今までに見たことがないほど、歪んだ、辛そうな顔をしていた。そしてユカリは俺に告げた。

「マサル、帰り方が分かったぞ。」

と。

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