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本棚の森番  作者: 旭 河埜
森番の奴隷
2/17

二、ユカリ

意味がわからない言葉が出てきます。異国の言葉だと思い、スルーしてください。

 足首より少し上のところにチクチクと軽い痛みを感じて、我に返った。みると、俺の膝くらいの大きさだろうか。葉っぱで作った服を着た小人が二人、竹串を長くしたような槍で俺のことを突いていた。地味に痛いから少し足を動かすと、びくっと動きを止める。しばらくするとまた突き始める。足を動かすとびくっと止まる。面白くて遊んでいたら、いつの間にか同じような奴らに取り囲まれてしまっていた。俺の腰ぐらいまである奴が木の蔓で俺を縛って、ひときわ大きな大樹に俺は担いで連れ込まれた。

 木の中は歴史の教科書で見た平安時代の皇室みたいだった。うろおぼえだが。両脇に家臣らしき小人達が並んで座っている。奥のほうは一段高くなっていて、御簾がつるされていた。俺は一番手前に正座させられた。俺のことを、俺の腰までの兵士が挟んでいる。

「ルラ カイダ マロ ユカリ!」

御簾の一番近くにいた小人が何か叫んだ。それと同時に御簾が上がり、淡い緑色の髪をした美少女が現れた。家臣達より豪華な服を着ているから、一目で位の高い人物だとわかる。家臣達が頭を下げるのを見ていると、兵士が何か囁いて俺の頭を無理矢理下げさせた。

「アガ カイダ」

静かな声で少女が言った。家臣達が頭を上げたのを見ると、今の言葉は「おもてを上げよ」とかいう意味だったのだろう。

「ガ リランテ?」

「ア! レ ドルガ ゲンダーロ ヘンシュ グラティエ」

少女と兵士の意味のわからないやりとりを、ぼーっと聞いていた。

「ジュア ライラ?」

少女がそう問いかけた。周りが俺を見ている。あ、俺が聞かれたの。何を言えばいいのか、こいつらの言葉の方がいいのか。いや、でもこいつらの言葉わからないし・・・。一か八か俺の言葉でいつものように言うことにした。

「すまん、何言ってるのかサッパリわからない。」

家臣達はきょとん、と俺の顔を見ている。少女だけが溜息をついて、また口を開いた。

「そなたの名前は?」

なんだ、言葉通じるじゃんか。家臣達は驚いた様子で少女の顔を見ているから、話せるのはこの少女だけなのか。

「・・・勝。」

「マサルというのか。妾はユカリ。この森の長じゃ。」

なるほど。つまり一番偉いと。この森の、ということは他にも森があるわけか。まあ本棚の森なら一つじゃないだろうな。

「警備兵が見知らぬ者を捕まえたというから来てみれば・・・人の子とはな。いかようにしてここへ来た。」

「え?あ、えーと・・・。」

俺は今まで起こったことを全て話した。

「なるほどの。まあ、図書館は森とつながる場所の一つだからな。たまたま迷い込んでしまったということじゃろ。・・・よし!妾が帰り方を探してやろう。見つかるまでここで暮らせ。家臣達には妾の方から伝えておく。」

そう言って、少女、ユカリは警備兵に何か指示を出した。俺の縄が解かれた。

「マロ ユカリ レ ドルガ スロ イエト?」 

家臣の一人が不思議そうにユカリの方を見た。

「レ ドルガ マサル ギ ワス グレス チカ」

「ワス チカ キ!?」

「イラ ココグア?」

「クデュン! ニニ ワス チカ キ ワス ガウル キ グシウ」

「マサル クデュン ガウル グレス グレス ホトゥ」

「キ ホトゥ ・・・ア! ウオ シン キ」

ユカリと家臣の間で、また俺にわからない会話が繰り広げられた。しょっちゅう俺の名前が出てくるから、何を言われているのかとても気になる。後ででもユカリに聞いてみようと思った。

 話が終わり、ユカリは御簾の後ろに隠れてしまった。

「フィグッレ」

御簾の近くの家臣の一言で、木の中にいる者は俺を除いてみんな出て行った。御簾の隙間からユカリが手招きしているのが見えた。

「中に入れ」

言われたとおり御簾の奥に潜り込む。

「さっきなんて話してたんだ?」

「虜囚、マサルを奴隷として妾のそばに置く。と、最初に言った。」

「奴隷!?」

「表向きは、じゃ。でも家臣達は信じているだろうから、それなりに働かされるんじゃろな。」

「げぇ~」

「そう言うな。きつい仕事はほぼ無いわ。周辺の警備、食物の採集、あと遺跡の発掘。」

「遺跡?遺跡なんてあるのか?」

「うむ。森から二時間ほど北に行ったところに高い山があってな。その頂上付近で兄上の代に遺跡が見つかった。その発掘を妾が引き継いでやっておる。」

「兄貴がいるのか。」

「ああ。名をアオイといってな、妾の双子の兄上じゃ。病弱だった故、長になって一、二年で死んでしまったがな。」

「ふぅん。」

足下が揺れた。慌てる俺に、ユカリは静かにするように言った。

「部屋に運ばれておるのじゃ。妾の自室は上にあるからな。」

理解した。従者かエレベーターみたいなものかで運ばれているんだろう。

 振動が収まって、部屋が地に着いた感覚がすると、ユカリが御簾を上げた。彼女の部屋は想像していたのより質素だった。箪笥とベッド、それから生活に必要なものが細々と手前の部屋には置いてあり、十一畳くらいの部屋は結構ぎゅうぎゅうになっている。奥に重そうな扉が見えたのでユカリに聞くと、

「その奥は書物庫になっておる。代々の長が次代のためにと書き残してくれたものじゃ。おまえの帰還法はあの中から探す。」

だいぶ詳しく教えてくれた。

「少々時間がかかるかもしれんが、それまでがんばって働いてくれ。」

俺が露骨に嫌な顔をすると、ユカリはころころと笑った。

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