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本棚の森番  作者: 旭 河埜
森番の外交
17/17

九、脱獄

 抵抗も虚しく、俺達はまた牢屋に放り込まれた。ユカリと康平が先に入れられ、俺は二人の前に投げ込まれる。

「うわっ!」

「勝っちゃん、大丈夫!?」

「いってえ・・・。なんで毎回投げられないといけないんだよ!」

「扱いの差がありすぎじゃな。」

「一応僕らと同じ身分なのにね。」

あいつら絶対いつか殴ってやる!ぶつけた顎をさすりながら立って、牢屋の中を見回した。壁も天井も牢屋の格子も木の根っこでできている。床は土。なんか、

「めっちゃ簡単に脱獄できそうじゃね?」

「確かにね。床を掘っていけばすぐ出れそう。」

「ここの格子も引っ張ったらちぎれそうだし、そもそもなんで手え縛っておかないんだ?」

「三人一緒にまとめたら脱獄計画を立てられると考えなかったのかなあ?」

意外とアホだったりして。

「確かに脱獄は簡単そうじゃが、絶対に木を傷つけてはならんぞ?」

「そうなのか?」

「うむ、妾たちは自分の木と強く繋がっておる。傷つければあっという間にウォルターに伝わって、酷い目に遭うかもしれん。」

「マジか・・・。じゃあやっぱ土掘ったり?」

木を傷つけちゃいけないなら、ここから出るには土掘るしかないよな。汚れるし、道具もないけど。

「でも、土の中にもまだ根っこ広がってるんじゃない?」

「あ!」

「根はもっと敏感じゃ。」

「じゃあどうやって出りゃいいんだよ・・・。」

「なんとかしてフウジンたちに現状を伝えられればいいのじゃが。」

フウジンは優秀だから、俺達の現状を知ればすぐに助けに来てくれるはずだ。ただ問題は、どうやって伝えるか。康平も同じ事を考えたみたいだ。

「他にできることを考えるしかないと思う。」

「俺達って、ここに何日いる予定だっけ?」

「日帰りのつもりじゃった。だから、明日になれば不思議に思って誰か来るやもしれん。」

「なるほどな。それに期待もできる、か。」

何日か待っても誰も来ないようなら、自分たちでどうにかするしかない。というか、俺と康平、結構長いこと〈本棚の森〉にいるけど、向こうは大丈夫なのか?あと何日も待ったら、いい加減ヤバいんじゃ・・・。

「時間ならいくらでもあるから大丈夫!今回みたいな入り方なら、時間は関係ないから!」

俺の考えを読むように康平が言い放つ。

「あ、そう。ならよかった。」

「それより、脱獄の仕方考えようよ。」

「そうだな。」

「ここは地下のはずじゃ。周りは土ばかり。柔らかいから掘るのは容易いが、問題はさっきも言ったとおり、木を傷つける危険がある。かといって正面突破はリスクが大きい。監視も居るしの。」

「監視の目をなんとか逸らせればいいかな?」

「ちょっとした混乱を起こしてみたり?」

「それは名案じゃ!」

「どうやって起こすかが問題だよ。」

「「確かに。」」

どうしようか。荷物は全部向こうに置いてきた。使えそうな物もここにはないし、ポケットを探ってみても、自由研究で作ったゴム鉄砲が入ってるだけだし。

「康平、なんか持ってないか?」

「うーん、ビー玉が三つ。てか、勝っちゃんのそのゴム鉄砲、どうやって入ってたの・・・。」

「このポケット、結構中広いんだ。ユカリは?」

「何も・・・あ、おはじきが入っておった。」

「使えそうなの、無いね。」

「せめてパチンコだったらな・・・。」

見張りに石とかを当てて、攻撃することもできたかも。

「明日まで待つしか無いか。」

「うん。きっと来てくれるよ。」

「そうじゃそうじゃ。今日はゆっくりしようではないか。」

「ゆっくりしてていいのかな・・・?」

「敵陣だぞ?」

それしかやることもないし、ま、いっか!


 地下だから朝なのか夜なのかも分からない。いつの間にか寝てたらしい。気がつくと、謎の黒髪が牢屋の中に立っていた。

「わっ!誰だお前!」

「静かに。見張りに気づかれてしまう。」

そいつは古典の〈本棚の森〉の言葉で言った。聞いたことのある声だ。

「フウジンか?」

「ああ。」

暗いのと髪の色が違うので分からなかったけど、よくよく見ると確かにフウジンだ。

「その髪、どうした?」

「ここに来る前に、染めた。ユカリ様とコウヘイ殿を起こしてくれ。」

「ん、分かった。」

頷いて、二人を揺り起こす。

「うーん、おはよう勝っちゃん。」

「はいおはよう。助けが来たぞ。ここから出られる。」

「なんじゃと!」

静かにするように言い、俺はフウジンを指した。二人の様子を見て、フウジンが安心した表情を見せる。

「おお、フウジン。来てくれたのか。」

「はい、ご無事で何よりですユカリ様。予定の時刻を過ぎても戻られなかったので、心配しました。」

「すまんの。しかし、どうやってここに?」

「髪を染めて潜入しました。見張りから鍵を奪ったので、ここからはすぐに出られます。外に車を待たせてあるので、それに乗って脱出しましょう。」

「さすがフウジンじゃな。ありがとう。」

「恐縮です。」

「マサル、コウヘイ殿。フウジンについて行くぞ。早くこの陰気な森から出よう。」

顔を見合わせて頷き、俺達四人は牢屋を出た。慎重に進み、緑に飾られた車に乗り込む。そしてそのまま俺達は森に帰ったのだった。夜だから森境の見張りも眠っていて、結局誰にも気づかれなかった。・・・それでいいのかお前ら!

第二部、完結になります。

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