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本棚の森番  作者: 旭 河埜
森番の外交
13/17

五、戻った記憶

 あの日、ユカリとアオイの親から許可をもらい、護衛も付けずに、森の境界線上にある広い広い草原に出かけた。ユカリはアオイを置いてすたすた行ってしまうし、アオイは長距離を歩くのに慣れていないから定期的に休憩を取らなければならないしで、お守り役の俺はてんてこまい。目的地の草原に着く頃にはどっぷり疲れていたけど、ユカリは疲れを知らずに草原の中程まで走って行ってしまった。「また連れ戻さないといけないか。」と溜息を吐くと、隣でアオイが笑って、

「ここから見てれば良いじゃない、せっかく楽しそうなんだから。途中で止めさせたら可哀想じゃん。」

と言った。「駄々こねて、意地でも動かなくなるよ。」というアオイの言葉に、俺も笑って、二人で木の下に腰掛けた。確か、「双子とは思えない言い方だな。」とか話していたはずだ。

 その後、その後は・・・。


 不意に思い出した記憶。夢の中の三人目、コウの記憶。真っ先に思い出したのは、夢と同じ場面だった。それから記憶はどんどん過去にさかのぼり、コウとユカリ達の関係が、俺の中で明らかになった。一番新しい記憶はあの夢と同じ場面で、そこからの記憶はない。

「あの後、急に草原近くの森から虎狐こっこ、虎と狐が混ざったような奴なんだけど、そいつが出てきて群れでユカリに襲いかかろうと構えているのが見えたんだ。それで君は、コウはユカリを助けるために飛び出していって・・・」

俺があの夢の後、どうなったのか康平に聞くと、思い出すのも辛そうに教えてくれた。途中で詰まった康平の言葉を引き継ぐように、ユカリも口を開いた。

「コウは妾に被さって虎狐の攻撃から妾を守ってくれた。おかげで妾の被害はかすり傷だけで済んだのだが、コウは・・・。コウは虎狐に噛み殺されてしまった。」

コウが噛み殺された後、アオイが身体に鞭打って連れてきた警備隊によって虎狐は討伐されたそうだ。

「コウはユカリを命を懸けて守ってくれた。僕の大事な妹だ。守ってくれたのにお礼も言えなかったこと、ずっと気に掛けてたんだよ。もう二、三百年も前のことだけど、僕の妹を守ってくれてありがとう、勝っちゃん。」

康平とユカリに二人そろって頭を下げられてちょっと照れた。

 ユカリの部屋を出ると、採集から帰ってきたらしいコウリが外で待っていた。

「ユカリ様、お話は終わりましたか?」

耳を疑った。前に会った時、コウリとはユカリを間に入れないと話せなかったはずだ。ユカリとコウリの会話をもっとよく聞いてみた。

「コウリ、戻っていたのか。今日は何が採れた?今日は客もいるから少し豪華にするように料理人に言っておいてくれると助かるのじゃが。」

「あら、マサルではないですか。初めて見る方もいらっしゃいますね。分かりました。伝えておきます。採れた食材ですが、今日は季節的にタルメンが採れると思ったのに、なぜかギウォトが採れましたね。」

「それは不思議じゃな。今まではそんなことなかったのに。今度調べることとしよう。まずは食事の準備じゃ。頼むぞ。」

やっぱりだ。間違いない。今朝まで意味の分からなかった森の言葉が分かるようになっている。

「マサル、今日は・・・」

「分かってる。ギウォトが採れたんだろ?季節外れの。」

「なぜ分かったのじゃ!?」

「多分記憶が戻ったせいじゃないかな。僕も言葉分かるし。」

前と同じように説明してくれようとしたユカリに言葉が分かった事を告げると、ユカリは目を見開き、康平はすぐに分析を始めた。

「・・・そういえば、おかしかったんだ。何で気づかなかったんだろう。」

「何がだ、康平。」

「コウは虎狐に襲われて死んだって言ったでしょ?でも虎狐は本来とても臆病で、開けたところ、例えば草原とかには出てこないし、僕らの姿を遠目からでも見つけたらすぐに逃げるんだ。」

「人間を見つけてわざわざ襲いかかるようなことは、あり得ないって訳か。」

「うん。」

俺が続けると康平がまじめな顔で頷いた。

「ユカリ様!」

初めて見る小人が俺達の前に走ってきて、跪いた。

「どうしたのじゃハク?」

「はっ!警備中に虎狐が現れました。」

「それで?それならそこまで珍しくはなかろう。」

「それが・・・あり得ないことに虎狐を追い返そうとしたら反撃されまして。キンが重傷、他に警備班二名と発掘班一名が軽傷を負いました。」

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