モンスター遭遇イベント
2:モンスター遭遇イベント(強制)
穏やかな鳥の声で、清々しい朝を迎え–––––––ることはできなかった。
目覚ましは、聞いたこともない生き物の鳴き声だった。正直、これより悪い目覚ましは後にもないと思うくらいの。
「うぐぁあぃ、ぐげぁ」
鳴き声の主はまだ、フィルの前で鳴いている。喉を完全にからしてしまった人よりもひどい声だ。そんな変な生き物を、フィルは解説してみた。他でもない、自分にむかって。
「黒い、ナマコのような生き物だ……。だけど毛が生えてて、芋虫に見えなくもない。大きさはサッカーボールくらい、か。かなり……気持ち悪いというか……」
自分を見つめてくる黒いビー玉のような目は綺麗なのだけれどね。そう付け足した。
村はモンスターが入ってこないような対策をしていたから、実質これが初めて遭遇するモンスターな訳である。なかなか衝撃的な出会いをしてしまったなと、後になって思う。
「しかしやっぱりモンスターは倒さないといけないのかなぁ…?」
先程からしばらく見つめ合いが続いているが、一向に襲ってくる気配はない。もしかしたらモンスターというのは名だけで、性格は温厚で平和主義なのかもしれない。もとより戦闘力のかけらもないフィルにとっては好都合な話だ。
「君はきっと大丈夫だよね、そんなに可愛いんだもん」
だんだんと可愛く見えてくるそれは、やはり目の効果があるのだろうか。つぶらな瞳、と言うやつだ。
「うぐあぁいく、くけぁい」
それにしても先程から、口を閉じることをしない。ずっとひどい声で鳴き続けている。もしかしたら、こちらに何かを伝えようとしている––––––?
「えっと、何かな?」
恐る恐る、段ボールを盾にしてしゃがんでみる。もともと段ボールは盾なのだけど。
「……」
それまでずっと鳴き続けていたそれは急に黙った。可愛らしく首を傾げてみせる。
フィルの警戒心がほとんど解けたその時、
「だぁあっ!」
モンスターは大きく飛躍し、瞬きもしない間にフィルの顔面にぶつかった。
「な、やっぱりモンスターじゃないかぁ!」
誰もモンスターではないとは言ってないけど。
勢いで尻餅をついたフィルに、モンスターはまた飛んでくる。体勢を立て直す暇もない攻撃に、大ダメージを食らってしまったようだ。
「なんなんだよお前〜!」
ふらふらと立ち上がって、そいつに目を向ける。すると、その口にはまるで刃物のように鋭利な歯が並んでいた。
……これ、かなりやばいんじゃ。
チュートリアル突破前にこんな怖いモンスターいるなんて聞いてない。
おそらくこのまま動かないでいれば、体力がゼロになって終わりになってしまうだろう。流石にそれでは旅出たわけがわからなくなる。
「悪いけど、死ぬわけにはいかないんだ!」
盾を構えなおし、モンスターと向き合う。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
疲れを無理矢理隠して、立ち向かう。これはただの気持ちではない–––––
勇気。この世界を任せられた勇者の決意。