蜘蛛!
扉を開き中へ入る。
「父上。全員揃いました。」
「そうか。」
部屋の奥には王様が座っていた。
あれが王様か、貫禄あるな。
王様の前へ行き、全員膝をつく。クロはおどおどしながら真似をする。
「よく来てくれた。私はこの国の王のザラスだ。話は聞いていると思うが、現在の状況も踏まえてもう一度説明しておく。今、この国ではバラスパイダーが異常発生している。そして普段大人しいはずのこの生物が獰猛になり国民を襲いまくっている。我が国の兵も予想以上に獰猛となったバラスパイダーにかなりの人数がやられてしまっている。まだ何人かの兵はいるが、この兵たちが出払ってしまうと国の守りが薄くなり、国民を守りきれなくなる。そこで冒険者の力を借りてこの状況を打破しようと考え、君たちに来てもらった。」
「任せてください。我々が原因を突き止め、解決してみせますよ!」
「うん、期待している。兵の調査でバラスパイダーがどこから湧いているのか分かっている。君達には明日、早朝からその場所へ向かってもらいたい。あんなは息子たちにさせる。息子達と君達、この十人で解決してもらいたい。それと報酬だが、二百金貨用意してある。これを五人で山分けしてもらう。つまり、一人四十金貨だ。」
「四十金貨?!まじかよ!」
「ここまでが今回の依頼の詳しい内容になる。何か質問はあるかね。」
「……。」
「無いようだな。では、明日に備えて休んでくれ。下がっていいぞ。」
「はい。失礼します。」
みんな立ち上がり、王室を出て行く。
「では、明日は早いので各自部屋で明日に備えて休んでくれ。ニーナ、ちゃんと案内するんだぞ。」
「はい。」
すぐニーナに部屋へ案内された。
「ここがあなた達の部屋よ。この部屋、好きに使ってくれていいからね。」
「ああ、ありがとう。」
「明日は部屋まで迎えに行くから。」
「了解。あと、風呂ってあったりする?」
「お風呂はその扉を開けてすぐよ。もし大浴場がいいなら案内するけど。」
「いや、これでいいよ。」
扉を開け、確認する。
「じゃあまた明日。」
「ああ。」
ニーナが出て行き、俺は部屋の中を見て回る。部屋には大きいベッドが一つに机にソファーそして壁際には見た事のない置物がいくつか置いてある。
部屋を一通り見た後、明日は早いという事だったから風呂に入ってすぐ布団に入った。ベッドは一つしかなかったがそのベッドは二人で寝るにもでか過ぎるくらいの大きさだった。
翌朝、まだ夜が明けきっていない五時頃だろうかノックの音とクロの名を呼ぶ声が聞こえた。ニーナが迎えに来たようだ。俺はグッと伸びをし、体を起こす。
「どうぞ。」
ニーナが慌てた様子で入ってきた。
「ごめん寝坊した。急いで準備して、もうみんな集まってる。」
「えっまじ!?」
俺とアリスは跳ね起き、慌てて準備する。
「アリスはここで待ってろ。」
「えっ?僕も行く。」
「いいか、今から危ないところへ行く。アリスをつれて行って、守る事が出来るならつれて行ってもいいが、悪いからアリスを絶対に守ると保証出来ない。だからお前はここで待つんだ。いいな?」
「…うん。」
アリスは少し残念そうに頷く。そしてクロとニーナは急いで集合場所へ向かう。
「ニーナ!何してるんだ。」
「すっすいません。兄さん。」
王子の一人がニーナを怒鳴りつける。
「まあまあ、これで全員ね。まずは自己紹介しましょうか。即席のパーティーだから息が合うとは思わないけど、得意な魔法とかは知っといた方が役割分担しやすいでしょ。」
「そうだな。」
「まずは言い出しっぺの私から。私は第一王女のエティア。得意な魔法は植物を操る自然魔法よ。殺傷は低いから前衛には向かないかな。で、こっちに居るのか私の連れてきた冒険者のウッドよ。」
エティアがクロより少し大きい小太りの男を指す。
「ウッドだ。冒険者ランクは四。得意な魔法は巨大化だ。」
「巨大化?!」
周りがざわつく。
何だ、巨大化ってそんなにすごいのか?
「見せてやるよ。」
そう言うと、ウッドは呪文を詠唱する。
ウッドの足元に魔法陣が出てきて光り出す。そして身体がズズズッと大きくなる。やがて魔法陣が消え、巨大化が止まる。
「すごい!」
自慢気に立つウッドを周りのみんなが驚いた様子で見る中、クロはポカンとしていた。
うん、大きくなったけど…。
クロの中では魔法は綺麗で派手なものだと思っている。だから、クロの中で巨大化と言う魔法は地味な魔法であまり好きではないのだ。そして、思ったよりも大きくならなかったことにも拍子抜けしていた。
「前衛は俺に任せろ。」
そういうウッドの言葉に全員納得しているようだった。そして次に第一王子、ラリッシュ。第二王子、ソルク。第二王女、ティラ、と言う順に口を開く。基本的に王子たちが自然魔法による身体強化魔法。王女たちが自然魔法よるサポート系の魔法を使うみたいだ。そして少しの風魔法が使えるらしい。次に第一王子が連れてきた冒険者ラードは冒険者ランク四、光魔法による鎖を操る魔法を使う。第二王子が連れてきたジンは冒険者ランク四、身体強化魔法を使うゴリゴリの剣士だ。第二王女が連れてきたセントは冒険者ランク三、炎と土属性の遠距離魔法を得意とする魔法使いだ。そしてついにクロの番がやってきた。
「俺はクロ。雷属性の魔法を使う。それで冒険者ランクはえっと…一です。」
「は?冒険者ランク一?」
「ニーナ、なんでこんな奴連れてきたんだ。」
第一王子に強い口調で言う。そして周りの冒険者たちはクロを見下すように見ていた。
「彼は冒険者ランクは低いですが、彼の使う魔法はかなりの物です。彼は絶対に役に立ちます。」
「そこまで言うなら構わんが、死んでも知らんぞ。」
「とりあえず、これで全員の自己紹介も終わりね。じゃーフォーメーション決めて、任務開始と行きましょう。」
フォーメーションは前衛に第一、第二王子、ウッドにラード、ジン。後衛に第一、第二王女、そして第三王女のニーナとセント。クロも後衛になった。
「足引っ張るなよ。」そう言い、冒険者たちはクロに身体をぶつける。
こいつら、今に見てろ。
国を出てすぐに複数のバラスパイダーがクロたちに襲いかかってくる。それをウッドたち前衛が剣を振り薙ぎ払っていく。後衛は魔法でバラスパイダーの動きを止めサポートする。即席のパーティーにしては中々息が合っていて順調に進んでいた。だが、進むにつれバラスパイダーの数はどんどん増えて前衛だけでは処理しきれなくなってくる。
「くそっ!きりがねー!」
後衛も遠距離魔法で攻撃に参加する。
「スパークショット!!」
クロも電撃を飛ばし攻撃する。バラスパイダーはクロの攻撃一発で焼ける。
バラスパイダー、大した事ないな。
「くっ!」
ウッドが一撃でバラスパイダーを倒すクロを見て、イラつく。ウッドは一人でどんどん進んで行く。
「ウッド!前に出過ぎた!孤立してるぞ!」
「うるせーよ!」
聞く耳を持たず、一人でどんどん進む。そして完全にパーティーから離れ見失う。パーティーはウッド探しながら慎重に進む。
「ウッド!」
呼びかけるが反応がない。と、次の瞬間「うわーー!」とウッドの悲鳴が聞こえた。
「ウッド!」
パーティーは急いで悲鳴のした方へ向かう。すると、突然前衛が足を止める。
なんだ?
奥の方から足音が聞こえ、影が近づいてくる。そしてパーティーの前に姿を現わす。それは普通のバラスパイダーとは比にならない大きさだった。十メートルはあろうバラスパイダーだった。その口には血が付いていた。
「引くぞ!走れ!」
パーティーは一斉に走った。そんな中ラードだけが立ち止まっていた。
「こんな奴、俺が!」
十メートル級バラスパイダーに攻撃していた。
「ラードよせ!」
ラードは得意光魔法を繰り出す。「光の鎖よ!拘束せろ!」その魔法は当たりはしたが全く効かず、簡単に拘束を破る。
「嘘だろ?!」
バラスパイダーは糸を吐き、逆にラードを拘束する。そしてラード頭に食らいついた。血しぶきをあげ、骨を噛み砕く音を立てる。その間にパーティーは逃げ、大きな木の陰に隠れた。
「なんだよあれ?」
セントが声を荒げて言う。
「あれはキングバラスパイダーだ!」
「キングバラスパイダー?」
「ああ。バラスパイダーの中にたまに以上に成長する個体がいる。それをキングバラスパイダーと言うんだ。」
「いや、あれはキングバラスパイダーじゃない。」
「は?」
「確か、ジンの言う通りバラスパイダーの以上成長した個体をキングバラスパイダーという。だが、キングバラスパイダーの全長は五から六メートルだ。あれは少なくとも十メートルはあった。あれはジャイアンキングバラスパイダーだ。」
「ジャイアンキングバラスパイダー?そんなの聞いたことないぞ!」
「ジャイアンキングバラスパイダーは滅多に現れない。ギルドの掲示板にもほとんど張り出されない危険種だ。まさか、あいつが現れるなんて。」
「危険種?そんなのどうしろっていうんだ。」
「……。」
「俺は降りる!こんな所で死にたくない!」
「おい!待て!」
逃げ出すセントを止めるが止まらなかった。
「で、どうするんだ一人逃げちまったけど?俺も流石に勝てるとは思わないんだが…」
「……方法はある。俺たちエルフの王族には昔から受け継がれている魔法が存在するそれを当てる事が出来れば奴を倒せるはずだ。」
「ほう。」
「だが、この魔法は俺たちエルフ全員必要な上に呪文詠唱に一分ほどかかる。」
「一分か…」
「セントが逃げてしまったから、ジンとクロお前の二人に時間稼ぎしてもらわなければならない。」
「二人であいつを一分か、他のバラスパイダーもいるし絶望的だな。…わかった。時間稼ぎ、引き受けよう。」
「え?」
「なんだ?」
「いや、俺も引き受けます。」
「それじゃ俺がデカ物を引き受ける。」
「クロは普通のバラスパイダーを頼む。」
「ああ、わかった。」
クロは動揺していた。あまりに大きすぎる蜘蛛の出現に加え、息もかなり上がっていたためあまり話を聞いていなかった。だが、自分が普通のバラスパイダーを近づけさせないようにするのだけはわかった。
「では、この作戦でいこう。」
パーティーは戦いやすい場所を見つけ、ジャイアンキングバラスパイダーを誘い込む事にした。
「では作戦を開始する。」
パーティーが一斉に動き出す。するとジンがクロの肩を叩く。
「自己紹介の時は悪かったな。これが終わったら一緒に酒でも飲もう。」
「ああ。」
ジンはそう言い去る。
おいおい、それは死亡フラグだろ。