ギルド!
村を出てから少しすると俺は完全に頭が冷え、冷静になる。
勢いであんなこと言っちまった。本当に、これで良かったのか?
俺はアリスの顔を見る。アリスの顔には後悔の色はないようだった。それどころか嬉しそうな顔をしていた。
「アリス。本当にこれで良かったのか?勢いで連れて来ちゃったけど…。」
「大丈夫。寧ろ嬉しい。お兄ちゃんと話しした時から僕も旅してみたいなって思ってたから。それに…。」
「それに?」
「村に僕の居場所なかったし、居てもまた辛い思いするだけだから。」
「そうか。」
クロは嫌々連れて来てしまったわけじゃなく、少し安心した。
「そうだ聞きたいことがあったんだ。この辺に川とかない。」
「川?川ならもう少し行ったところにあるよ。」
アリスの言う通り、少し進むと川があった。
「おー!」
それは底が見えるほど澄んだ綺麗な川だった。
「アリス朝飯食べた?」
「まだ。」
「じゃーここで飯にするか。アリスは乾いた木を拾って来て。」
「うん。」
アリスは薪を拾いに行く。
「さて、俺は食材だな。」
俺は川を覗き込む。
「うん。魚、いるな。」
クロは魚がいる事を確認し、川に手を入れる。そして川に能力で電気を流す。電気は水面を走り広がって行く。すると、ものの数秒で沢山の魚が浮かんできた。
「よし、大量だぜ。」
俺が浮かんできた魚を回収し終わった頃にアリスも木を持って帰ってきた。そしてアリスの持って来た木に能力で火を付け、取った魚を焼く。
一回こういうのやって見たかったんだよな。
そして焼き上がった魚を二人一緒にかぶりついた。
「うめー!…でもちょっと塩気が欲しいな。」
二人は焼き魚を食べた後、少し休憩して一番近い街へ向かった。
「確か一番近い街ってピーナッツだったよな。」
本当に美味そうな名前だな。
「うん。あっちに真っ直ぐ進めば着くはずだよ。」
アリスが指をさしながら言う。
「そうか、じゃー行こうか。」
「うん。」
二人歩き出した。
数時間後、日も暮れ始めているのにまだ山の中を歩いていた。
「ぜーぜーぜー…。」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。」
どう見ても大丈夫ではなかった。歩くスピードは最初より明らかに遅く、俺は木の棒を杖がわりにしヨボヨボのおじいちゃんの様に歩いていた。
おい!俺が足引っ張ってどうするんだ。てか、アリスは何で平気なんだ。やっぱり山に慣れてるのか。くそー情けねー。
「お兄ちゃん、今日はここで休もう。夜の山を動き回るのは危ないから。」
「ああ、そうだな。」
「僕、薪木拾ってくる。お兄ちゃんは休んでて。」
「ああ、悪いな。」
アリスは足早に薪木を拾いに行く。クロは木にもたれかかって座りアリスの帰りを待つ。
本来なら俺が拾いに行かなきゃいけないのに、本当に情けない。でも正直、もう動けねー。
山道を一日歩いた事で足はパンパンになっていた。薪木を拾いに行ったアリスはすぐに帰ってきた。薪木に火を着け明日に備えて早く休むことにした。だが、それを妨害するかの様に森の生き物がざわめき出す。
やべー、怖くて寝れねーよ。
暗闇に光る赤い目らしき二つの光、周りから聞こえる声全てがすぐ近くから聞こえている様な気がして、怖くて全く寝れなかった。それはアリスも同様だった。アリスは丸くなり、必死に周りを無視しようとしている様だった。そんなアリスを見て、クロはアリスの肩を抱き、手を握る。すると、安心したのかゆっくり眠っていった。
あー。俺にも誰かしてくれねーかな。
翌朝、アリスはぐっすり眠れたのか清々しい顔で目を覚ます。
「お兄ちゃん、おはよう。」
「ああ、おはよう。」
「お兄ちゃん大丈夫?」
アリスがクロの顔を見ながら言う。
「ああ、大丈夫だ。」
俺の目の下にはクマが出来ていた。昨晩一睡もしていないのだ。
怖すぎて一睡も出来なかった。もう二度森で野宿はしない。
二人は準備を整え街へ向かった。一時間ほど歩くと森を抜け、街が見える。
「やっと着いた。街に着いたらギルドに行って登録して依頼を受ける。とにかく金がいる。」
二人は昨日と朝から何も食べていなかった。だからすぐにでも依頼をこなし金が必要なのだ。
二人は街に入ると急いでギルドを探す。
「ギルドは…ギルドは…。」
看板ぽいのはあるけど読めん。
言葉は一緒だったが文字は全く違った。看板に書いてある文字が全く分からなかった。
「アリス文字読める?」
「うんうん。」
アリス顔を横に振る。
まーじかー。
二人はとりあえず、街を回ってみることにした。
「これだ!」
街の中心部くらいのところにギルドっぽい建物があった。その近くには冒険者らしき武装した人達が集まっていた。二人は恐る恐る中に入る。そこはアニメでよく見るギルドの集会所そのものだった。奥にカウンターがありお姉さんが立っている。
「あの人に言えば登録出来るはず。」
カウンターのお姉さんに声をかける。
「あの、ギルドに登録したいんですけど。」
「はい。ではここに必要事項をご記入ください。」
一枚の紙を渡される。
「はい。」
紙を持ち、空いている席に座る。
「うん、分からん。」
紙を広げ、ジッと見て言う。
だか、これは計算内だ。そもそも異世界のアニメで言葉一緒で文字が違うなんて定番。言葉は通じるんだから誰かに聞けばいいだけの話。
周りを見回し、誰に頼むか考える。だが、周りは身体の大きいイカツイ巨漢ばかりだった。その中に一人、ローブを着て深く帽子を被った人が奥の方に座っていた。その人は周りの冒険者たちに比べるとかなり小柄に見える。
よし、あの人にしよう。
その人の前の席に座る。
「すいません。頼みたいことがあるんですけどいいですか?」
ローブの人は少し顔を上げチラッとこっちを見て一言「いや」と言う。
「そこをなんとか。」
「いや」
くそっ!だがこっちも引けん!俺はあんな巨漢に話しかける度胸はない。
「じゃー勝負をしましょう。このコインを投げて表か裏か当てた方が勝ちで、それで俺が勝ったら頼みを聞いてください。あなたが勝った俺を好きにしていい。」
さあ受けろ!受ければ俺の勝ちだ!
クロは電気を操りコインを操作出来る。だからコインの表裏が自由自在に出来る。相手に勝算のないゲームを仕掛けようとしていた。
「いや!」
「…えっ?」
企みを一刀両断するかの様な一言。
「なっなんで!」
「私にメリットがない。」
「メリットならあるじゃないか。俺を好きに出来る。」
「お前なんかいらん。」
「うっ!…じゃー何をすれば勝負してくれる。」
「別に何もして欲しくない。今欲しい物も特にない。だから、お前の勝負に乗ることは私にとってデメリットしかない。だから勝負は受けない。」
そっそんな!
「頼む、勝負してくれ!」
「いや!」
「お願いします。」
「いやだ!他を当たってくれ。」
「他…。」
俺は周りを見回す。周りはやっぱりイカツイ巨漢の人ばかり、この人しか居ないと再確認する。
「お願いだから勝負してくれよ!」
「なっなんだ!」
服を掴み、泣き縋る様に頼む。
「あんたしか居ないんだよ!」
かっこいいラノベ主人公を演じているつもりが、気付けばヘタレ主人公にしか見えない行動を取っていた。
「お願いします。勝負して下さい。」
クロは激しく揺する。
「っちょまっ!…わかった!わかったから離して!」
「ほっ本当か?」
「ああ。お前の頼みの内容を聞いてからだがな。その内容が私にとって大したことじゃなかったら勝負してやる。」
「わかった。」
「で、頼みって言うのは?」
「えー、ううん。俺の代わりにこれを描いてもらえませんか。」
「…えっ?…それだけ?」
「はい。」
「……ハーーーハハハー!なにそれ!あんなに頭下げて頼むから何かと思えば。」
「なんだよ、悪いかよ。」
「で、なんでこれを私に書いて欲しいの?」
「文字が…そのー…読めないから…。」
「…ハーーハハハ!」
「そんなに笑うんじゃねー!」
「ついでにもう一つ、なんで私?」
「他の人、巨漢で怖いから。」
「…ハーーーハハハーーー!!」
「だからそんなに笑うなよ、悲しくなってくるだろ!」
「ていうか、カウンターのお姉さんに言えば普通に教えてくれるでしょ。」
「いや、なんかカウンターのお姉さんに聞くのはちょっとあれなんだよな。」
「ふーん、ちょっとあれなんだ。じゃーその紙貸して。」
俺はカウンターのお姉さんに渡された紙を渡す。
「ってこれ、ギルド加入の申請書?これ、名前しか書くとこ無いけど。」
「だから、文字読めねーって言ってるだろ!」
「そーだった。ハーーハハハ!」
こいつ、バカにしやがって!いい加減にしないと丸焦げにするぞ!
「で、名前は?」
「クロだ。」
「クロ?ハハッ、可愛い!」
「喧しい!」
ギルド加入申請書を無事にカウンターのお姉さんに渡す。受け取ると奥の方へ行き、何かをするとすぐに戻ってきてギルドカードを渡す。このギルドカードがあればどの街でも依頼を受けることが出来る。ギルドカードには自分の冒険者としてのランク記されている。ランクは1〜8で表される。下が1で上が8だ。それて、1〜4が下級冒険者と呼ばれ、5〜8が上級冒険者と呼ばれる。このランクによって受けられる依頼も決まる。依頼書には星の数で難易度が決められている。星は1〜13個まである。その中でも11〜13個星の依頼はランク7以上の冒険者5以上のパーティーで無いと受けることができない。俺はまだ加入したばかりだから冒険者ランクは1、受けられる依頼は星3の依頼までになる。もしパーティーにランク2以上の冒険者がいた場合、ランク1でももっと上の依頼も受ける事が出来る。
「よし、ギルド加入完了。何はともあれ助かった、ありがとう。」
「どういたしまして。って、いつのまにか敬語じゃ無くなってるね。」
「そりゃーあれだけバカにされたらな。」
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私はニーナ。見ての通り、エルフよ。よろしくね。」
フードを取りながら言う。緑色の綺麗な髪に透き通るような瞳、そして真っ白な肌をした女性だった。
「…エルフ。」
「そうエルフ。」
「…。」
うおーー!エルフ来たーー!あれ、本物の耳だよな。アニメや漫画で見るのと同じだ。生エルフ耳。感動。
「ここで会ったのも何かの縁。何か一緒に依頼でもしましょうか。」
「おっ!いいね。」
「あと、そろそろ君の後ろにいる女の子も紹介して欲しいな。」
「えっ?あー、この子はアリス。少し人見知りなんだ。」
アリスは俺の後ろにに隠れながら少し顔を出し頭を下げる。
「ふーん。よろしくアリス。じゃー依頼見に行こっか。」
三人は依頼を見に掲示板へ行く。