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3.お弁当を食べる。



 尾久川君と連絡先を交換した。

 それで夜に、向こうからラインで連絡が来た。これからよろしく、とかそんな感じの他愛のないやつだ。

 わたしはそれになんとなく受け答えして、それから〝やっぱり付き合うのを止めたい〟という旨をどうにか穏便に、傷付けずに、感じ悪くなく伝えられるか、文章を考えた。


 どんな風に説明すればいいだろう。

 思いつかないし、もうストレートにそのままでいいか。


『ごめん、やっぱり付き合うの止めたい』


 いや、いくらなんでもそんな言い方じゃ唐突過ぎるし、なんでだと電話がかかって来そうだ。かといってわたしのこの、断れない性格の説明から入ると、言い訳だらけのかなりの長文になってしまい巻物のようになった文章を全部消した。


 何度かそれっぽいお断りの文句を書いてみたけれど、どれもしっくり来なくて結局その夜は諦めてしまった。

 ひとを傷付けずに断るなんて、難しいのかもしれない。


 その後二、三日、言い出せないままわたしは尾久川君と下校を共にした。


 わたしは何か聞かれてもまともに答えられなかったけれど、彼は気にした様子もなく、ニコニコと話しかけてくれた。

 力ない愛想笑いを浮かべて「うん」とか「あぁ、うん」とか、聞きようによってはすげない返事だけれど、これに関しては好きじゃないから冷たくするとか、あるいは振られようとか、そういう目論見ではない。単に、緊張してうまく会話出来なかっただけだ。


 自分の情けなさを思い知らされて、こんな思いをしているのも尾久川君が付き合おうとか言って来たせいだと、お門違いの怒りがわく。気の合う友達とだけしゃべっていた頃には気にしてなくて見えなかった自分の弱さや、醜さが露呈して、わたしの目の前に立ちはだかっている。


 尾久川君は明るい。

 そして強引だ。


 お昼に急に教室に来た彼は笑ってわたしの腕を取って、扉の方に向かう。


「あ、お弁当持って持って」


 言われて机に置いてたまだ開けてないランチバッグを掴んだ。

 そのまま彼に連れられて、気が付いたときは中庭で一緒にお弁当を食べていた。


「すずは料理とか、つくる?」

「うん……お母さんの手伝いくらいだけど……」

「弁当とか、つくらないの?」

「……作らない……かなぁ」

「あ、なんかさ、野球部の試合、先生とおにぎり一緒に作ったって聞いて」

「あぁ、うん……」


 朝早くから呼ばれて、とても大変だった。冬だったので寒いし、手も冷たかった。


「いいな」

「へっ」

「俺も食べたい」

「おにぎり?」

「うん、好きな子の料理とか、ちょっと憧れる」

「へぇ」


 そうなんだ。そういうものなのか。


「作ってよ」

「え? あ、」

「お弁当! 明日! それで一緒に食べよう」


 勢い良く頼まれて、にっこりと笑われて、よく分からないうちにお弁当を作ることになってしまった。



 朝早く起きて台所を動き回る。慎重な性格なので、日が昇る前、かなり早めに起きて準備していたら物音でお母さんが起きてしまった。


「あ、ゴメン。起こしちゃった?」

「あら、お弁当作るの?」


 お母さんは眠たげな顔で手伝おうか? と聞いてくれたけれど、遠慮した。わたしが作らなくても、尾久川君にはわからないだろうけれど、わたしの作った料理を食べたいと言ってるのだから、お母さんが作ると趣旨から外れる。


 ごはんを炊いて、玉子焼きとか、唐揚げとか、ミニトマトとか、我が家の予備のお弁当箱に並べてみる。


 普段手伝いをしていたからか、どうにか作れた。だけど出来上がりをみて、やっぱり手伝ってもらえば良かったと思った。

 わたしの作ったお弁当は、味はそんなにおかしくないと思うけれど、玉子焼きの色合いだとか、唐揚げの見た感じだとか、色々と残念な代物だった。

 お母さんは普段短い時間でパパっと、これよりも余程素敵なものをしあげる。


「あー……お母さんのと、全然ちがう」


 残念な声をあげるわたしにお母さんは肩を叩いて言う。


「そりゃ毎日やってるんだから。鈴子のも、初めてにしては上出来じゃない? 男の子にあげるの?」

「ち、がう。友達と交換するの!」


 とっさに嘘をついたけれど、お母さんは笑っていた。




「うっわー! 超嬉しい!」


 尾久川君はわたしの残念なお弁当を喜んではくれた。


「食べていい?」

「う、うん……」


 食べて貰う為に作ったのだから、そうして欲しい。

 けれどもつい、箸を持つ彼をじっと見つめてしまう。


「美味いよ!」

「ほんとに?」

「うん! すごく美味しい!」


 尾久川君はそれを結構な早さでペロリとたいらげてしまった。


「ごちそうさま。本当にありがとう!」


 にこにこ笑って言われて、ほっとひと息ついた。


「すず、自分のお弁当食べないと」


 言われて気が付いたけど、わたしは尾久川君の食べるのを全力で見ていたので自分のお昼に全く手をつけてなかった。


 自分のも、彼のと同じものだったけれど、食べてみてやっぱり少し微妙だな、と思う。味見したときはこんなものかなと思ったけれど、今食べると玉子焼きのお砂糖の量だとか、ほんの些細なことだけれど、バッチリのものではない。なんだかガッカリしてしまった。


 食べ終わって教室に戻ろうとしているときに尾久川君が言う。


「今日一緒に帰ろう」

「え、今日は……」

「終わったら迎えに行くね!」


 チャイムが鳴って、そのまま教室に戻ったけれど、今日は先生に頼まれたことがあった。また、断れないまま放課後を迎える。


「あれー、すず、美化委員だっけ?」


 校舎に貼って回る張り紙を片手に持ったわたしを見て尾久川君が言う。


「ちがうんだけど……委員会の子が具合悪くて早退するっていうところに居合わせて……なんとなく頼まれちゃったの」

「すずって本当お人好しだよね」

「だから今日は先にかえっ……」

「かして」


 尾久川君はわたしから張り紙の束を受け取ってそのうちの一枚を壁の掲示板に押し付けた。


「ほら、ちゃっちゃとやっちゃおう」


 言われて、慌てて手の中の画鋲のケースからひとつ取り出してそこに縫い止める。


 校舎をぐるっと回って、全部で6ヶ所の掲示板に貼り付けて、職員室に行った。


 先生に報告して、職員室を出ると尾久川君がそこに待っていた。


「じゃあ帰ろ」


 なんだかどんどんと向こうのペースだったけれど、ひとりでやるよりは早く終えられたし、なんとなく苦痛でもなかったので「ありがとう」とお礼を言うと尾久川君がきょとんとした後、嬉しそうに笑った。


 そのまま、校門を出たところでまた手を繋がれる。

 どんどん断りにくくなっていってるのを感じて、変な汗が出た。 




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