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一、深夜の呼び出し

「た、助けてくれ!」


 スマホから悲痛な声が流れて来た。


「今、何時だと思ってる?!」


 俺は気持ちよく眠っている所を起され、不機嫌な声を出した。


「すまん、す、すぐ来てくれ、頼む」


 時計は二時。夜中に来てくれだと! 強盗にでもあったか? いや、きっといつものおふざけに違いない。親友の高木はふざけるのが好きなお調子者だ。

 が、声の調子がおかしい。あいつは演技派ではない。芝居でこんな声が出せるわけがない。俺は眠い目をこすりながら、「どうした?」と訊いた。


「出た! 出たんだ!」


「月か? 月が出たのか?」


 半分寝ながら冗談を言った。


「違う! 月じゃないよ! 真剣に訊いてくれ!」


 高木が泣きそうな声を出す。


「出たんだ。幽霊だ。幽霊が出たんだ!」


 俺は工学部の学生だ。科学を信奉する者だ。非科学的な事象を容認するわけにはいかない。


「幽霊、そんなもん」


 いるわけがないと言おうとしたら、高木が遮った。


「いるんだよ。今、目の前に! 頼む、すぐ来てくれ!」


 この世に幽霊などいるわけがない。そんな非科学的な物、高木の見間違いだろう。

 だがしかし、科学にも限界がある。大自然の森羅万象を総て人間の浅知恵で解き明かすなど、絶対無理なのだ。だからこそ、我々はその謎を解き明かすべく日夜努力をしているのだ。

 幽霊。

 もし、本物なら、何故そんな現象が起きるのか解き明してみたい。


「おい、今どこだ?」

「アパートだ」

「アパートって、お前、夏休みで帰省したんじゃなかったのか?」

「帰省用の金を使ってしまったんだよ。今、その話はいいだろう。とにかく、すぐに来てくれよ!」

「わかった。すぐ行くからな。じっとしてるんだぞ」


 俺は、寝巻き代わりのジャージの上から白衣を引っ掛けた。自転車の鍵とスマホをポケットに突っ込む。

 幽霊か?

 どっち系の幽霊だろう?

 西洋の幽霊なら、十字架と聖水。和風なら、お札だ。キョンシーもお札だったな。

 俺はとりあえず、暗闇でもバッチリ映るビデオカメラと、町内会で配っていた近所の社のお札。あと、誰かから貰ったお守り。結界を張るためのお神酒がわりの消毒用アルコールをリュックに入れた。

 自転車を飛ばして高木のアパートへ行く。昼間の熱気が幾分和らいだようだ。風が涼しい。

 高木が住んでいるアパートは超古い二階建て木造アパートだ。築五十年は建っているに違いない。見掛けだけなら幽霊がでてもおかしくない建物だ。

 皆寝静まっているのだろう。辺りはしんとしている。俺は音を立てないように注意して階段を登った。注意していてもギシギシと音がする。鉄錆が浮いた階段は今にも踏み抜けそうだ。

 二階の奥が高木の部屋だった。廊下には人気ひとけがない。住んでいるのは高木だけなのだろうか?

 高木の部屋の向う側にもう一つ階段が見える。隣は大家だと高木が言っていた。大家の家に通じる階段なのだろう。

 俺は高木の部屋のドアをそっと叩いた。

 しかし、返事はない。


「高木、俺だ」


 小声で告げる。大きな声を出すのはためらわれた。しかし、返事はない。

 ドアノブに手をかける。すっと開いた。鍵がかかってない。


「高木?」


 俺は暗闇をすかして見た。玄関横、キッチンの窓から廊下の明かりが差し込んでいる。板敷きに高木の足が見えた。高木は腰が抜けたのか、青い顔をしてキッチンに座り込んでいる。


「おい、高木」


 しかし、返事はない。大きく目を見開いて固まっている。俺は高木の視線の方を見た。

 キッチンの向うは四畳半の和室になっている。半分開いたガラス障子の向う、雑誌や下着が散乱する中、床に敷かれた布団の上にそれが見えた。

 女の足だ。

 白く薄く透けた、明らかに女とわかる華奢な足が太ももの真ん中辺りですっぱりと切れた状態で、布団の上に横たわっていた。


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