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霧の湖

「二週間後に予定されている卒業試験は、セバン湖での実技になります」


イェーナ州にあるケムニッツ市には高等教育に加え魔法使いを養成する魔法大学校が設置されている。

16歳から4年間は高い教養を身につけるための義務教育。

義務教育修了者もしくは修了資格を持つ既卒者に対して最低2年間の高等教育及び魔法教育を受けられる権利が付与される。

希望すれば2年を越えて教育の受講を継続することも可能。

大陸内でも屈指の高等教育を学んで卒業後はギルドに所属するか教育者を目指す者が多い。

今回卒業試験が行われるセバン湖はケムニッツ市から南に位置した山に囲まれた湖、霧が濃いことから霧の湖と呼ばれている。


「本日はここまで。この後補習があるので対象者はそのまま残ってください」


指導教員の号令とともに一日の課程が終了した教室はそれぞれの目的を持って教室を出て行く者や机で静かに勉強している者、友人たちと雑談に花を咲かせている者……思い思いに過ごしていた。


「はぁ~どんな試験なんだろ」

「セリーヌは本番に弱いもんね」


セリーヌと呼ばれたセミロングできれいな銀髪の女性はため息をつきながら外に目をやった。


「そうなんだよね。わかってはいるんだけど……」

「しっかり準備しておきなさいよ~それにこれから補習でしょ?私は家の手伝いがあるから帰るね」

「またね~アイナ」


友人と思われるアイナと呼ばれた背の高い女性が席を立ちセリーヌに向かって手を振りながら教室を出て行った。


「いざテストとなると緊張しちゃうんだよね……」


そんな独り言をつぶやきながら補習の対象者であるセリーヌは教本などを準備する。

補習を受けるという事はテストではあまりよくない結果だったのだろう。


「よーし席につけ!補習を始めるぞ!」


先ほどとは違う指導教官が教室に入り教壇から立ち生徒たちに号令をかけた。

この学校では1年を4半期に分けてテストが実施され、成績は全て学内に貼りだされる。

成績が振るわない下位の者については補習という形でテストの範囲について再教育されることになる。

補習は最優先事項として半ば強制的におおよそ一週間~二週間に渡って続く。

本来は既に下校していたり魔法関連カリキュラムの受講や自主練習を行うはずの時間を補習に費やしなければならない。

一日の補習内容を終えるころにはあたりは既に日が落ち暗くなっていることが多い。


「よし今回の補習はこれで終了。しっかり覚えてもう二度と来るなよ~気を付けて帰れ!」


約一週間に及んだ補習期間が終了しまばらではあるが補習を受けていた生徒たちは各々開放感を味わいつつ教室を後にする。

セリーヌも教本や筆記用具を鞄にしまい席を立った時、指導教官に呼び止められた。


「セリーヌ、ちょっといいか?」

「はい。なんでしょう」


セリーヌは鞄を持って指導教官の方を振り返った。


「お前、卒業を前にしてこんな補習を受けている場合じゃないだろう、相変わらず本番に弱いのか?」

「そうなんです……緊張しちゃって」

「まあお前の実力はわかってるけどな……テストに関しては結果が全てだから補習は受けてもらうが」

「はい、わかっています」

「卒業試験の準備もしっかりな」


本番では緊張して力を出せないセリーヌだったが本来の実力はあるようだ。

指導教官も卒業試験の本番を迎えるにあたって少々心配しているようで、セリーヌは指導教官にお礼を言って教室を出た。


「はあ、実技試験はなおさら緊張しちゃうよ」


テストには高等教育と魔法関連に関する筆記試験と実際に習得した魔法を使用する実技試験の二通りある。

通常は筆記と実技の両方が行われるがカリキュラムの構成によって変わることもある。

卒業試験は筆記試験の次の日に実技試験が行われる。

実技に関しては通常のテスト時の実技よりもより実戦に近い形で行われるため学外に出る。

ただし試験の内容は当日聞かされるので実質ぶっつけ本番に近くなるが、これも実戦を考慮したためである。

セリーヌはその実技試験でまた緊張してしまうのではないかと不安を抱きながら帰路についていた。


「あ、アイナのお店に寄って行かなきゃ」


家に帰る途中にある店に立ち寄ると教室で話をしていた友人のアイナが店番をしていた。


「アイナ!やっと補習終わったよ~」

「あ、セリーヌ!おつかれ~お茶でも飲んでく?サービスしとくよ?」

「ありがと。頂こうかな~ちょっと買いたいものもあるし」

「はいよ~」


この店は主に魔法使いや魔法使いを目指す者が使用する装備品や魔力が秘められた道具を売っている。

お茶や軽食のサービスもありちょっとしたカフェとしても使えるスペースもあるため学生に人気の店のようだ。

店の主人はアイナの親であるが、ゆくゆくはアイナが卒業後にこの店を継ぐつもりのようだった。


「お待たせしました~いつもの紅茶よ」


アイナが特製の紅茶を淹れて持ってきた。


「ありがとう!はぁ~癒される~」


セリーヌは出された紅茶に早速口をつける。


「今回の補習は一週間くらいで済んだね」

「卒業試験を考慮したのかな」


いつもは大抵一週間以上、長くて二週間くらいは続く補習が今回は短かった。


「それで補習終わった後にね、指導教官に卒業試験の事心配されちゃった」

「そりゃあ心配にもなるわよ!セリーヌの本番の弱さは筋金入りだから。実力はあるくせに!」

「ん~どうすれば緊張しなくなるかな」


緊張してしまう原因がわからない今、効果的な対策もなかなか思い浮かばない。

そんな時、アイナが妙案を提案してきた。


「卒業試験前に現地で練習してみたら?試験の場所は発表されたよね」

「なるほど!いつもテスト前の練習は教室や家の中だったからなあ」

「いつもよりはマシになるんじゃないかしら。我ながら良いこと思い付いたわ~あたしも一緒に練習しちゃおうかな」


アイナは自分が提案した案を自画自賛しながらセリーヌの反応をうかがっていた。


「ホントに!?一緒に練習しようよ!!」


その言葉待ってました!とばかりにセリーヌがはしゃぐ。


「それじゃ次の休みの日ってことで~」

「うん!そうしよう!」


明後日は学校が休みなのでその日に練習することになった。

練習と言っても卒業試験の具体的な内容はまだ知らされていないため現地で魔法を放つとか歩き回るとかそれくらいしか出来ない。

しかしそれだけだったとしても本番に備えて何かの助けになるならばとアイナは練習に同行することにしたのだ。


「ありがとうアイナ。そろそろ帰るね……あ、忘れるところだった!けむり玉のストックが無いんだった!」

「お~そかそか。毎度あり!」

「それじゃまた明日!朝迎えに行くね」

「はいよ~また明日!ありがとうございました~」


店番もすっかり板についてきたアイナが商売人よろしく元気な声をかける。

あたりも暗くなってきたのでセリーヌは家路を急いだ。


「ただいま~」

「おかえりセリーヌ、ご飯出来てるわよ」

「今行く~」


いつもの日常会話が繰り広げられる家庭の温かさにホッとしながら、鞄を自分の部屋に放り込んで食事の準備が出来ている食卓へ急いだ。


「あんたそろそろ卒業試験なんでしょ?大丈夫なの?」


娘が無事に卒業できるのかを心配するのは親として当たり前のことであるが、本番に弱いという事は親も把握しているようだ。


「うん、明日練習しに行くんだ~アイナと」


セリーヌはご飯をほおばりながら楽しそうに答える。


「アイナちゃんも?練習に付き合ってくるんだね。感謝しなきゃ」

「そうだね。アイナは練習なんか必要ないだろうけどなんか楽しみにしているみたい。ありがたいよ」

「足引っ張るんじゃないよ!」

「うん、わかった。ごちそうさま!」

「お風呂も沸いているからね」

「はーい」


セリーヌは食事を終えると食器を台所に片付け一旦自分の部屋に戻った。


「お風呂入ったら明日の準備しなきゃ」


一息ついたのちお風呂へ向かう。

最初に髪の毛を洗いその後体を洗う。

そして温かいお湯が張られた浴槽に肩まで浸かり一日の疲れを癒す。

セリーヌの場合は20分程度浴槽に浸かることが多い。


「攻撃魔法と補助魔法を連続で発動させるのと、補助魔法を使いながら離脱する……」


セリーヌは明日の練習内容について脳内でシミュレーションしていた。

頭の中ではスムーズに動きを描くことができる。

描いた動作を実際にこなす事は実力からして容易に出来るはずなのだが、本番でうまく出来るだろうかと若干不安がよぎる。

セリーヌはお風呂を出て着慣れているパジャマに着替えた後、自室へ戻った。


「索敵棒、それと薬草と……」

「おそらく仮想敵も出てくるだろうから炎の種とけむり玉をいくつかと……5~6個くらいあればいいかな」


明日の練習に持って行く魔力を帯びた道具を選定し腰に取り付けるウエストバッグのような荷袋へ適当に詰める。

魔法用の道具は、すぐに取り出して使える状態にしておく必要があるので腰のあたりに提げた袋に入れることが多い。

セリーヌはまだ学生で魔力を帯びた武器は使用できないため基本的には道具に頼ることになる。

仮想敵とは戦闘訓練などで使用する訓練用魔物で学校側が必要に応じて用意する。

明日の練習では出てこないがいざという時にすぐに使用できるように練習しておく必要がある。


「よし、これで準備オーケー。明日に備えて寝ようかな」


セリーヌは部屋の明かりを消して布団に入った。


練習日の朝を迎えた。

日差しがまぶしく心地よい風が吹く気持ち良い朝だった。


「おはよう。今日はギルドの会合があって夜まで家にいないからね」

「はーい」


セリーヌの母親はギルドに所属する腕利きのベテラン魔法使いだ。

定期的に行われるギルド内の会合に参加するらしい。


「じゃあ行ってきます!」


セリーヌは身支度を整え朝ごはんもそこそこにアイナを迎えに行くため家を出た。

家からアイナのお店までは歩いて10分程度で到着する。

割と近所なのでセリーヌとアイナの母親同士も仲が良い。

魔法使いなのでお店で魔法の道具を買うのはもちろんだが、ヒマな時は母親同士でお茶を飲みながら井戸端会議をすることも多い。

間もなくアイナのお店に到着した。


「おはようございます!」

「あら~セリーヌちゃんいらっしゃい。今日は魔法の練習するんだって?それなのにアイナったらさっきまで寝てたのよまったく……ごめんね~その辺に座ってちょっとまっててね」

「はい!待ってます」


ちょっと能天気そうな雰囲気のアイナの母親に促されて、昨日お茶を飲んだ席に座って待っていた。


「セリーヌごめーん!寝坊しちゃった!」

「おはようアイナ!いいよいいよ~それじゃ行こうか!」


今日の練習場所はセバン湖と呼ばれる山あいにある湖だ。

濃い霧が発生することが多いので”霧の湖”と呼ばれている。

魔法大学校の卒業試験はこのセバン湖で行われるので、同じ場所で練習しようという事になったのだ。

ここケムニッツ市から歩いて1時間以上かかる。

交通手段は徒歩と馬(馬車)が主流のケムニッツ市では1時間くらいだったら歩いてしまうのが日常だ。


「今日は天気がいいけど霧は出てるかなあ」

「そうだねえ、景色としては霧が出ている方が幻想的だけど練習するには晴れてて欲しいよね。卒業試験の時も」


こんな会話をしつつ1時間ほど歩くと周囲が山に囲まれた峠道になってきた。

山あいには小型~中型の動物に襲われちょっとした戦闘状態になることもあるが、魔物の類は出てこない。

そして段々と霧が濃くなってきたのを感じた。


「あ~やっぱり霧が出てたか」

「しょうがないよね、霧の湖だし」


二人は湖の湖岸に到着した。


「よし、このあたりで練習しよう」


セリーヌは練習場所をここに決めた。

アイナはあたりを見回し湖に良さそうなターゲットがあるのを発見した。


「そうね。湖のあの枯れ木なんかいいんじゃない?」

「よし、枯れ木を仮想敵にするね」


そう言ってセリーヌは早速炎の種を腰の袋から取り出す。


「炎よ!」

「炎よ!」


セリーヌが手持ちのウッドスタッフに炎の種をセットし詠唱すると即座に種が炎に包まれ前方へと放たれた。

間髪入れずに2発目をセットし詠唱すると連続で2発の炎が直線上の湖に浮かぶ枯れ木に対して弧を描くような弾道で直撃し燃え尽きた。


「さっすが~セリーヌは詠唱から発動が早いね~」


詠唱から発動までの時間は装備によって短くしたり訓練で短くすることもある程度は可能だが、大部分は素質によるところが大きい。


「うまくいったよ~良かった」

「それじゃわたしは……けむり玉で敵の目をくらましたところで別の場所から光の矢を放つ!」


そう言いながらアイナは湖に浮かぶ仮想敵の枯れ木に対する攻撃方法をシミュレートした。


「閃光よ放て!」


しばらくするとアイナのマジックワンドに置いたけむり玉が光り輝く煙のような状態になり辺りをつつみこむ。

アイナは続けて素早く場所を移動し光の小枝をマジックワンドにセットした。


「光の矢!」


アイナがそう言うと、一見ただの枝のように思えたものが徐々に光り輝き前方へ射出された。

放たれた光の矢は見事枯れ木に命中し奥深く刺さった。


「やった!」

「アイナ得意の移動攻撃、調子よさそうだね!」

「もうちょっと詠唱から発動の時間が短くなればなあ」


そう言いながらアイナはマジックワンドをぶんぶん振り回した。


「練習して何とかならないのかな」

「なんか素質によるところが大きいらしいよ」

「ふーん、そうなのかなあ」


セリーヌはアイナの真似をしてウッドスタッフを振り回す。

その時、後方の茂みがガサガサッとなったのをアイナが気付いた。


「セリーヌ!後ろ何か居る!?」


セリーヌとアイナはやや警戒し後方の茂みの方へ注意を向ける。

すると、茂みから三体の魔物が姿を見せた。


「え!?こんな所に魔物!?」


アイナが驚いて声を上げる


「こ、これってゴブリン!?」


セリーヌは教本でしか見たことが無い知識からそう判断した。

ゴブリンと推定される三体の魔物はジリジリと二人に接近し今にも襲いかかってきそうな雰囲気だった。


「ちょ、ちょっとどうしよう……」


アイナは既に及び腰になっていたが、セリーヌは真剣なまなざしでこう言った。


「戦おう、実戦練習になっちゃったけど」

「ええっ!?」


まさかの提案を受けたアイナは驚いたが、セリーヌの真剣なまなざしに心を打たれたのか気持ちを切り替えた。


「……わかった。じゃあ今は湖を背にしていて不利だから場所を移動しよう。私がけむり玉で注意を引く」


弱気になっていたアイナだったが気持ちを切り替えて定評のある判断力を駆使して戦略を練った。

けむり玉を用意しマジックワンドにセットする。

その時一体のゴブリンがこん棒を振りかざし迫ってきた。


「閃光!!」


詠唱ししばらくすると先ほどのように光り輝く煙が辺りを包んだ。


「今よ!こっちへ!」

「移動したら私が攻撃を仕掛ける!」


セリーヌは煙に包まれた隙に移動しながら炎の種を準備しセットする。

目くらましが功を奏しこちらに背を向けているゴブリンの姿が確認出来た。


「炎よ!!」


詠唱とほぼ同時に放たれた小型の炎がゴブリンの背中に命中しゴブリンは叫び声を上げながら苦しんでいた。


「光の矢!」


その後アイナが準備していた光り輝く矢を放った。

セリーヌの放った炎で苦しんでいるゴブリンの頭部に突き刺さりそのまま前方に倒れ絶命した。

それを見た二体のゴブリンが同時にこちらへ突進してきた。


「セリーヌ、逃げるよ!」


アイナはセリーヌの手を引き更に反対側へ移動し二体のゴブリンの突進をかわした。

なんとかかわしたものの結果的にまた湖を背にする格好となってしまった。


「残り3個か……」


手持ちの炎の種が3個しかないことを確認したセリーヌはアイナに耳打ちをする。


「アイナ、わたしが炎を2発打ったら、けむり玉を使ってすぐ茂みの方向へ逃げて」

「わかった、セリーヌは?」

「わたしは茂みの反対側に移動してけむりが晴れたら一体に向けて炎を使う、残りの一体のゴブリンはたぶんこっちに向かってくるからその隙にアイナは後ろから光の矢を撃って」

「うん、わかった、それでいこう」


ゴブリンが再び茂みの方からにじり寄ってくる。

セリーヌは作戦通り炎を放った。


「炎よ!!」


間髪入れずセリーヌが2発目を放つ


「炎よ!!」


それぞれ二体のゴブリンに命中し苦しんでいるが今にもこちらに突進してきそうだ。


「閃光!!」


アイナのけむり玉が辺りを覆う。

その隙にアイナは茂みの方角へ移動し光の矢を準備して煙が晴れるのを待った。

セリーヌも残り最後の炎の種をウッドスタッフにセットし気を伺う。

煙が晴れた時、二体のゴブリンはセリーヌに向かって突進して来ていた。


「炎よ!!」


セリーヌの手持ち最後の炎が放たれ突進してきた一体のゴブリンに直撃すると、その炎の勢いに体制は崩れそのまま前方に突っ伏した。

残り一体は炎に焼き尽くされるゴブリンには目もくれずにセリーヌに迫る。

作戦通りの展開となりあとはアイナが光の矢を後ろから直撃させれば最後のゴブリンを仕留められる。


「光の矢!!」


そんな風に思っていた二人だったがアイナが放った光の矢は無情にもゴブリンの肩口をかすめそのまま湖の方角へ飛んで行った。

アイナは外したのだった。

アイナは自分の発動の遅さに焦り手元が微妙に狂ってしまったのだ。


「セリーヌ!!!!!」


思わず親友の名前を泣き叫びながら2発目を準備するがもう間に合わないことは明らかだった。

先ほど放った炎に焼かれつつ、ゴブリンがこん棒を振りかざしセリーヌに迫る。

もう逃げることも出来ないと判断したセリーヌはウッドスタッフを構え防御の体制をとった。


「ファイアアロー!」


しかしその時山道の方から魔法の詠唱とともに一本の矢が飛んできた。

しかも炎に包まれた矢がゴブリンの側面から頭部に直撃しそのままセリーヌの横に突進してきた勢いのまま倒れそのまま絶命した。


「え!?お母さん!!!」


セリーヌは今日一番驚いた顔で救世主を迎えた。


「まったく……こっそり練習の様子を見に来てみたらこんな状況になってたなんて……」

「こっそり!?やめてよそういうの~でもありがと」


セリーヌは母親に笑顔で感謝を述べた。


一連のそれを呆然と観ていたアイナは涙でぐしゃぐしゃになった顔でセリーヌに抱きついた。


「セリーヌ!!!!ああよかった……ごめん、ごめんねぇぇぇ、ごめんねぇぇぇえええ」

「アイナ、大丈夫。もう泣かないで……」

「わたし、わたし……矢を外しちゃって……」

「こうやってわたしたち二人とも生きてるんだから、もう気にすることないよ」


そんな姿を見ていたセリーヌの母親が二人を肩から抱きしめた。


「アイナちゃんもういいのよ。今日の事を次に生かしてこれからもセリーヌの事よろしくね」

「ごめんなさい、おばさま……精進します。ありがとうございます」

「セリーヌも。あの場面他に何かできなかったの?」

「うん、今思えばそれは……でもあの時はもう防御することしか思い浮かばなかった」

「もうちょっと判断力を鍛えないとね」


娘がこんな状況になっていたとしても魔法使いとしてその時どう動くべきなのかを考えさせる。


「しかし、この辺りにゴブリンが出没するなんて変ね。後処理はギルドに任せるとして一旦戻りましょう。報告はしておくわ」


セリーヌの母親は何か気になるような表情を浮かべながら二人と一緒に街へ戻っていった。



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