新たな決意
ライラとクラウスの二人は中央の坑道を奥を目指して歩みを進めていた。
キール鉱山跡地は整備された中央の坑道からいくつか枝分かれした細い坑道が延びているが、鉱山閉鎖とともに封鎖された部分が多い。
入り口からの太陽光が届く範囲は良いが、閉鎖の影響で照明設備はほとんど機能していないため奥に進むにつれて薄暗くなっていく。
クラウスが手持ちの照明で周囲を照らしつつあたりを見回す。
「今のところ特に何もありませんね」
「今のところは……な」
今のところ村に到着する際に鳴り響いてた轟音と土煙の痕跡が全く見当たらないのだ。
かなり奥まで来て周囲が少し明るくなり少し広い空間に出た。
「あ、行き止まりでしょうか」
クラウスが持参した手持ちの照明を使わなくとも充分明るいこの空間にはいくつかの壁掛け照明が備わっていた。
どのような仕組みで光っているのかはわからないがいかにも誰かがこの部屋を使用していたと言わんばかりだ。
「いやそんなことは無いだろう、仕掛けがきっとある」
ライラはそういうと周囲の壁をくまなく調べていった。
ある場所でライラは手を止め、軽く壁を押すとゆっくりと壁が奥へ移動しそのまま横にスライドしていった。
「ああ!隠し扉ですね!」
「まあこういう場所にはありがちだな。警戒しつつ突入するぞ」
今は物音一つしないが、奥に何が潜んでいるかわからないので警戒は怠らない。
奥からは淡い光のようなものが見える。
隠し扉をくぐりまっすぐに延びる坑道で歩みを進めていくとやがて先ほどよりももっと広い場所に出た。
そこには壁掛けの照明に赤く照らされた祭壇が置かれていた。
「さっきより広いですね……あの祭壇はなんだろう」
「儀式を行っていたんだろう。あの怪物を呼び出す儀式を」
「怪物!?」
ライラが予想外の言葉を発してクラウスが驚いた瞬間だった。
「ギャォオオオオオオオオオ!!!」
何かの鳴き声とともに左手の壁が大きく崩れ出す。
崩れた先には更に広い空間が広がっていた。
どこにこんな空間を作れる場所があるのかというくらい広く、ヘルネ村がすっぽり収まってしまうのではないかと思うくらいであった。
「くそっ!やはり呼び出されていたか!」
ライラがそう叫ぶと崩れた先の広間に駆け込み得物であるブロードソードを抜いた。
クラウスもロングソードを抜きそれに続く。
勢いよく広間に足を踏み入れた瞬間、クラウスは息を呑んだ。
「ギャォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
全身が黒く身長は三メートルほどあるだろうと思われる怪物が大型の両刃の斧を携え叫び声をあげながらこちらを凝視している。
「オーガだ……ブラック・オーガ。この鉱山跡地を根城にしていた怪物だ」
クラウスはオーガの圧倒的な威圧感と存在感にしばらく立ちすくんでいたが、すぐに正気を取り戻しライラに尋ねる。
「どうします、散開しますか?」
「そうだな、左右に別れよう。あの斧の一撃には気をつけろ」
そう言うと、ライラとクラウスはオーガを中心に左右に別れた。
二人とも剣は構えたまま立ち止まらずゆっくりと動きながら攻撃の機会をうかがっていた。
それを察したのか、オーガが片手で巨大な斧を振り回してきた。
ブゥン!!!
二人は咄嗟に後ろへ回避した。
オーガの動き自体は緩慢であったのでかわすことが出来たが、斧を振るった時の風切り音と風圧で体が押されるような衝撃を受ける。
「これならいける……!」
クラウスは最初の一撃でオーガの動きが緩慢であると判断した。
一気にオーガの後ろへ回り込み、ロングソードの一撃を与えようと駆け足で近づいた。
「おい!迂闊だぞクラウス!!」
ライラはわかっていた。
最初に斧を振るった一撃が相手を油断させる罠だったことを。
「食らええっ!!」
ロングソードを振りかぶったその時、オーガのもう片方の腕がクラウスめがけて裏拳のように迫った。
「やば…」
ドガッ!!!!!
そう感じた時には、既にクラウスの体がオーガ後方に吹っ飛ばされていた。
反射的に反対側の手に持っていたバックラーを構えたおかげで若干ではあるがダメージを軽減できたようだ。
「おい!クラウス大丈夫か!?くそっ!」
ライラは背中を見せたオーガに対して走りながらオーガの太ももへブロードソード水平に振り抜く。
うごぉぉおおおお!!
激痛に顔をゆがめるが倒れるまでには至らなかった。
むしろ闘争心を掻き立てられたかのように巨大な斧を水平に振ったり突いたりしながらライラに迫った。
「く、くそっ!」
吹っ飛ばされ倒れていたクラウスが立ち上がり、もう一度剣を構えなおす。
しかしクラウスはオーガの動きが最初と全然違う事に戸惑いを見せていた。
ライラに対して攻撃を仕掛けているオーガはその巨体らしからぬスピードで迫っていたのだ。
もちろんライラはそれに反応し避けつつ時折反撃を仕掛けている。
クラウスが立ち上がったのを見てライラが指示を出す。
「クラウス!まず動きを止めるんだ!」
クラウスはライラの指示に従いもう一度オーガの側面に展開し機会を伺う。
オーガがライラへの攻撃に集中している隙にロングソードをオーガの腰から下にたたき込む。
確実にダメージは与えているようだがライラへの攻撃の手は緩まない。
「なんとかこちらに気をそらせる方法は……」
クラウスが防戦一方に近い状態のライラが攻撃に転じるにはどうしたらよいか思案した。
「もう一回背中を狙うか」
危険ではあるがもう一度背中付近を狙えばこちらに気が向くのではとクラウスは考えた。
ゆっくりとオーガの後ろに向かって一気に走り込む。
今度は気付かれているそぶりは見せていない。
「はあああっ!!!」
ロングソードがきれいにオーガの背中にヒットした。
クラウスは反撃に備えすぐに後方にステップし身構える。
その瞬間、執拗な攻撃を見せていたオーガが数秒程度ではあったがひるんだ様子がうかがえた。
同時にライラと目が合った気がした。
「ふううっ!!!!」
ライラは一瞬ひるんだすきを見逃すことはなかった。
オーガの執拗な攻撃によりたくさんの細かい傷を負いながらもライラは大きくジャンプして背中を気にして半身の状態だったオーガの肩口へ向かってブロードソードを振り下ろそうとした。
ヒュッ!
「なにっ」
何が起きたのかを理解するのに数刻の時を要した。
「うあああっ!!」
気付いた時にはライラの右肩に矢が刺さっていた。
その拍子でバランスを崩したライラはオーガの腕に一撃をヒットさせたものの体勢を立て直せぬまま地面に転がるようにして着地した。
「ライラ教官!!」
クラウスは叫ぶ。
まずは気をそらさなくてはいけないと考えたクラウスはオーガに斬りかかる。
「こっちだ!!」
オーガの腰から下を狙って水平にロングソードを一閃した。
うまく斬りつけることが出来たが、焦って攻撃を仕掛けたため防御がおろそかな体勢となってしまった。
「クラウス!崩れた壁付近だ!!」
ライラはクラウスに指示を出す。矢が放たれた場所を推測したのだろう。
「グオオオオオオッ!!!」
叫びながらオーガは体勢不十分なクラウスに対して巨大な斧を振り下ろす。
ドゴォッ!!
「くっ!」
巨大な斧が床にたたきつけられた。
間一髪避けたクラウスはそのままこの広間に入ってきた時の崩れた壁付近に向かって走り出す。
そこにはクラウスを村の中でクラウスを襲ったうちの一人である弓矢使いダグラスがいた。
「見つかったか」
「待て!逃がさないぞ!!」
「ちっ、しかたがない。こいつらの相手をしてもらおう」
そう言ったダグラスがまたなにやら呪文のようなものを唱えコボルトを二体召喚してクラウスに対峙させその場から去って行った。
「しまった!コボルトか!!」
二体のコボルトがクラウスに襲い掛かる。
「邪魔だ!!」
クラウスは一体の攻撃をバックラーで受け流しつつ、もう一体に対してロングソードで斬りつけた。
もう一体のコボルトはそのままライラの方へ向かっていった。
「ライラ教官!コボルトがそっちへ!!」
「こしゃくな!!!!」
オーガはクラウスに向かって斧を振り下ろした状態なのでライラに対して無防備な姿をさらしていた。
ライラはそのまま立ち上がりもう一度オーガに対して勢いよくブロードソードを振るう。
「ギャオオオォォォォッ!!!!!」
ライラの強烈な垂直切りの一撃がオーガの右肩から腰に掛けてヒットしオーガは叫び声とともに背中側へ振り向く。
ライラは間髪入れずに背後から迫っていたコボルトを得意の水平斬りで仕留めた。
コボルトが倒れるのを確認したライラは体勢を立て直すため後方に下がる。
その間にダグラスは姿を消していたため、クラウスも一旦ライラのところへ合流した
「すみません。弓矢の男に逃げられました」
「はあはあ……くそっ!あいつの気配を感じられなかった」
ライラの呼吸が珍しく乱れている。
少なくともクラウスは今まで見たことがなかった状態だった。
矢が刺さった影響かと思ったが右肩に刺さっていたはずの矢が見当たらなかった。
「もう一度挟み撃ちで仕留めましょう」
オーガの動きは明らかに鈍っていたので仕留めるなら今しかないとクラウスは感じていた。
ライラは静かにうなずくと立ち上がり大きく迂回しながらオーガの側面へ移動した。
クラウスも反対側へ歩みを進める。
ちょうど良い頃合いにライラはクラウスに合図を送った。
「こっちだ!オーガ!!」
ライラの目配せを読み取ったクラウスは側面やや後方から走り込みロングソードで斬りつけに行った。
オーガは動きに反応し巨体をクラウスの方向へ向け斧を持つ腕とは逆の腕で払おうとした。
オーガからは最初のころのスピードをもはや感じられなかったためクラウスはサイドステップでかわし払おうと出してきた腕に斬りつけた。
「うごおおおおおぉぉぉっ!!!」
オーガの叫び声とともに左腕から鮮血が吹き出る。
完全に動きが止まったオーガに対しライラが背後からブロードソードで斬りかかった。
肩口から背中、腰の辺りまで一気に振り下ろした。
「クラウス、とどめだ!」
ライラの声を聞くとともにクラウスが真正面からロングソードを振り抜き斜めに切り裂いた。
「グアアアアアアアアアッ!!!」
断末魔の叫びを残してオーガはそのまま前方へ倒れこんだ。
「はあはあ……や、やったのか?」
クラウスは自身のとどめの一撃が本当に効いたのかまだ疑心暗鬼だった。
「見事だったぞ」
肩にポンと手をやりライラはクラウスに言葉を投げかけた。
「よかった…仕留められたみたいですね」
「ああ、なんとかな」
「しかし、なぜこのような場所にオーガが」
「例の二人組みが儀式で召還したのだろう、前みたいに」
「前みたいに?」
「ああ、あとで話すよ。ひとまずギルドに戻って報告だ」
「はい、あ、何か落ちています」
クラウスはふと後方に目をやった際に何か光るものを見つけた。
近づいてみるとどうやらガントレットのようだった。
銀色に輝いており表面に剣の模様が彫られている。
「頂いていきましょうか、ライラ教官どうぞ」
「そうだな…、ん?お前はいいのか?」
「ええ、今使っているガントレットの代わりにどうかと思って。ただ念のためギルドで鑑定してもらいましょうか、呪われたら嫌ですし」
「ははは!じゃあありがたくいただくとしようか」
「あ、それとこのあたり一応調べておきます」
「そうだな、たのむ」
ライラは調査をクラウスに一任した。
周囲を見渡すとだだっ広い空間に自身とクラウスの二人、そして先ほどとどめを刺したオーガが横たわっている。
オーガの後始末はギルドに一任するとして、ライラは今後のことを考えていた。
あの時一人で倒したはずのオーガがまた現れたことに対する疑念もぬぐえない。
呼び出したのが明らかに例の二人組み男だということはわかるが。
そんなことを考えているうちにクラウスの調査は一通り終わったようだ。
「他は特に異常は見当たりません」
報告を聞くとライラは軽くうなずきこの広間の入り口に向かって歩き出した。
「それじゃ戻ろうか」
「はい」
クラウスは返事をするとライラのあとを追うように歩き出した。
---
「今回の件はご苦労じゃったのう」
ライラがこの街マインツのギルド長であるウルガルと先の一件について話をしていた。
倒したオーガの後始末とキール鉱山跡地にあった祭壇などの後処理はギルドに任せる手筈となっていた。
「しかしあのオーガがまた現れるとは気がかりだな」
「そうあのオーガ……お前さんが倒したとか言っておったな」
「ああ、そのはずだったんだが……」
オーガは一度仕留めたはずだったが例の二人組の男によって再度召喚されたとライラは考えていた。
「……」
ライラは考え込んだ。
また何のために召喚されたのか。
あの二人組みの男は一体。
「オーガが再度召喚されたのにはその二人組みの男が関係しているはず。恐らく召喚の儀式を行っていたのだろう」
「なるほど……誰かが裏で糸を引いている可能性がありそうじゃな」
「あの時と同じ儀式を……」
「あの時の儀式って一体何のことです?」
クラウスがオーガとの戦闘で負った傷の治療を終えてやってきた。
男から矢を受けたライラは既に治療済みだ。
クラウスは話を途中から聞いていたようだった。
「ああ、そういえばあとで話すって約束してたっけ」
「はい、是非聞かせてください」
ライラがクラウスを座らせテーブルを囲んで2年前の事を話しだした。
「剣技教練所でクラウスたちを無事に送り出した後、教練所を辞めて密命を受けてコブレンツ州に行ってたんだ。そこにはギルドの総本山があるからな」
「なるほど……総本山から特使が来て個人的に接触を図ったのじゃな。我々を通さずに」
「そう、ウルガルには悪いことをしたと思っている。しかし極秘という事だったので結果的に突然姿を消したようになってしまったな……」
「まあその事はこの際何も言わん。実際何をしておったのじゃ」
ライラが姿を消した後の行動はウルガルでさえも知らないことだった。
「その後正式に総本山から依頼を受けて、各地で怪しげな召喚の儀式によって魔物が呼び出されているという噂を調査していたんだ」
「ふむ、確かにそのような噂は聞いたことがある。魔物を呼び出すということが実際に可能なのか?」
「可能らしい。方法はまだわかっていないが現に例の二人組の男はコボルトを召喚しヘルネ村に放っていたしな」
「同じような方法でオーガも呼び出されたと」
「おそらく。もしかしたらコボルトの時よりもっと高度な方法なのかもしれないが」
ウルガルは驚きを隠せなかった。
魔物を召喚するというのは古い書物に記載されていることはあったが、あくまで古の伝説であって現実には存在しないと思われていたからだ。
「噂のもとを一つ一つ調査していったが召喚や儀式といった痕跡を発見することはできなかった。ただ最後の調査地であるこのマクデブルク州で召喚の儀式が行われていたと重れる痕跡を発見したんだ」
「何か道具がみつかった?」
「祭壇が発見された。キール鉱山跡地で」
「今回も祭壇があったんじゃろ?」
「ああ、あの時と同じ祭壇だった」
今回の一件で目にしたキール鉱山跡地内部にあった祭壇が、ライラの調査時にもあったといことらしい。
「祭壇は調査後に破壊したはずだったんだけどね……」
「なんじゃと!?では今回は誰かが再度祭壇を設置したという事じゃな」
「ああ、恐らく例の二人組の男と関係者だろう。そして祭壇を破壊後にオーガと遭遇したんだ、ヘルネ村でね」
「わしがお前さんを発見した時は、オーガとの戦闘後だったんじゃな」
「そう、一人で戦ったからへとへとだったよ!」
ライラは苦笑いを浮かべながらおどけて見せた。
「オーガは確実に仕留めたと思っていたんだけどね……何かが足りなかったのかもしれない。だから今回再び現れたんだよ」
「お前さんが調査した時は何もなかったあの時の噂が各地で現実になっているかもしれんのう」
「その可能性はあるね」
ウルガルとライラは少々悩ましい表情を浮かべていたが、それまで黙って聞いていたクラウスが口を開いた。
「……ギルドの支部を通さない依頼があるんですね」
そのようなルートがあることをクラウスは初めて知ったらしい。
「総本山が独自に動く場合は有り得るじゃろう。実際ワシが若い時もあったしな」
「15年前の例の事件だね。英雄と言っても良い活躍だったらしい」
「ライラよ、それは持ち上げすぎじゃろう」
ウルガルが困った顔をしたのに対しライラはそんなことないよと言いたげな笑みを浮かべた。
「英雄かあ……一度でいいからそんな経験をしてみたいです。いやむしろ英雄を目指しています」
クラウスは胸に秘めた思いを思わず打ち明けた。
「へぇ~そんなこと思ってたんだ!」
ライラはちょっと驚きを隠せないといった感じでクラウスを見た。
「はい。実はずっと思ってまして」
「夢を持つという事は良い心がけじゃぞ」
「まずは、用心棒稼業をしっかり勤めてからだな!」
「ははは……そうですね……って用心棒じゃないですってば」
ウルガルとライラから笑いながら励ましとも言える言葉を掛けられクラウスは恐縮したが、二人の視線はとても優しげに感じた。
そんな視線を感じたからというわけではないが、クラウスはある決意を持ってこう言った。
「ウルガルさん、ライラ教官……俺、調査で各地を回りたいです。その噂が現実のものとなっているかもしれないんですよね」
「なんじゃと!?」
ウルガルは豆鉄砲を食らったような表情でクラウスを見つめた。
「英雄になるという夢に近づくような気がして」
「しかしなあ……確実に何かが起きているという保証もないじゃろうし」
「さらなる修行を兼ねて他の地域も見ておきたいんです」
クラウスとウルガルのやりとりを黙って聞いていたライラだったがこう切り出してきた。
「よし、二人で各地を回ろうか!」
ウルガルはおいおい何を言い出すんだとでも言いたげな表情を浮かべ二人を見つめる。
「いいんですか!?」
クラウスが嬉しさを隠せない表情でライラに詰め寄る。
「ああ、よろしく頼むよ!用心棒!」
「用心棒じゃないですけどよろしくお願いします!」
「おいおい二人で勝手に決めないでくれ、ギルドはどうするのじゃ」
「わたしら二人が居なくたって大丈夫でしょ、イキのいい若手も居るし」
「はぁ……お前さんたちにはかなわんのう。ギルドの所属はそのままにしておく。各地のギルドでもある程度融通が利くじゃろう」
「さすがウルガル~話がわかるね!」
ライラはウルガルに抱きつくようにして耳元でささやいた。
「クラウス、このいい年したおてんば娘のことをよろしく頼むぞ」
「いい年は余計よ!」
ウルガルはため息交じりにクラウスにこう言った。
しばらくこんなやりとりも出来なくなるかと思うと少しばかり寂しさも募る。
「はい、まかせてください!」
クラウスは元気よく返事を返した。
「まずはギルドの総本山で情報収取するのが良いじゃろ、さてワシもこれからの事を考えんと……」
「よし、出発の準備して明後日にはここを出るぞ!」
ライラは決断すると行動が早い。
ウルガルは困り顔ではあったが何か明るい未来を感じさせる二人を横目に席を立った。
ライラは旅立ちを記念した祝杯だ!とか言いながらいつもより多く酒を飲み、クラウスはそんなライラを見ながら英雄という夢を胸に抱き目を輝かせていた。
明後日、ライラとクラウスはギルド長のウルガルをはじめとしたギルドメンバーにしばしの別れを惜しみながら後の事を託した。
若手剣士の中からはそれは困るという声も多く挙がったが、ライラとクラウスは笑顔で一蹴しコブレンツ州ドレスデン市にあるギルド総本山へ向けて出発したのだった。
---EOF