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装殻甲戦アニマトゥーラ  作者: どといち
第一章 月下にて鬼と犬は猛る
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第八話 交差する影、その姿

 大きな悲鳴上がる。

 そしてそれが自分のものだと、私は遅れて気が付く。


 逃げなくては。


 しかし、震える足が上手く言うことを聞いてくれなかった。


「きゃあ!!」


 逃げようとして足がもつれる。私はそのまま道路に倒れこんでしまった。


 硬く冷たいアスファルトの感触が手に伝わってくる。

 

 その瞬間、倒れなければ私が居たであろう位置を怪物が通過する。

 


 怪物は私の身体を飛び越え、その向こうの街灯へと激突した。


 ――衝撃音。


 街灯は、根元からへし折れてしまっていた。



 崩れた街灯が道路脇ののブロック塀に倒れ、辺りにガラスが割れる音が響く。


 怪物は突撃の勢いのまま数メートル進むと、その場で立ち止まる。



 月は、雲に隠れてしまっている。そしてこの道の街灯は少ない。


 数少ないこの場の明かりが一つ無くなった事で、周囲の暗闇が力を増した。


 しかしその中でも、怪物がこちらに向き直るのがぼんやりと見て取れる。

 そして、次は外すまいと、こちらに狙いを定めているのも。

 


 あの怪物は私を殺す気だろう。

 とても逃げられる気がしない。



 凛音ちゃん……!

 


 思い浮かぶのは、ようやく出来た友人の名前だった。

 このままここで死んでしまったら、彼女は悲しんでくれるだろうか?

 

 死にたくない。


 悲しい思いはさせたくない。


 そう強く願った私の心とは裏腹に、目の前の怪物は私に牙を、爪を突き立てようと、飛び掛ってくる。



 それを目にした瞬間、世界が可笑しな程、ゆっくりと進んでいく。

 これが、死の間際に訪れるというスローモーションだろうか。

 そんな事を考えながら、私は迫り来る怪物を見つめていた。



 だが、怪物が私に近づく最中、緩やかな時の流れの中で尚素早く、黒い影が私と怪物の間に躍り出た。



 影と怪物が交差する。



 何か、固い金属同士が激しくぶつかり合ったような轟音が鳴り響く。

 そして同時に、目も眩むほどの鮮やかな青い火花が闇夜に撒き散らされた。



 火花を吹きながら、怪物が道を斜めに吹き飛ばされていく。


 

 そのままの勢いでコンクリートブロックの塀に叩き付けられた灰色の怪物は、その接触地点で、もう一度青色の火花を撒き散らした。

 コンクリートの粉砕音が聞こえる。

 

 破砕されたそれらと共に道路へと落ちた怪物は、一瞬よろめく様な動作を見せ、素早く黒い物体から距離を取った。


 続けて、怪物が低いうなり声を発する。


 怪物はすぐに飛び掛っては来ない。


 私の目の前の影を警戒しているかのようだった。




 私は黒い影の方へ目を向ける。

 

 闇夜の中で、その影は武道の構えのような姿勢を取っていた。

 一体何が起きたのか。

 

 おそらく影が、私に飛び掛った怪物を蹴ったか、殴ったのだ。

 

 影の動き、その2本の手足の動きから私はそう推測した。

  

 そして私はその時ようやく、私と怪物の間に飛び込んできた黒い影が人型であることに気づいた。


 いや。


 これは人、なのだろうか。

 暗闇の中、微かに浮かび上がるシルエット。


 それはまるで……。


 

 その時、図ったかのように、雲の切れ間から差し込んだ月光が黒い人型をゆっくりと照らし出し始めた。




 初めに私の目に飛び込んできたのは、前方に突き出された、巨大な1本の黒々とした『角』だった。

 眉間の位置から、前頭部付近までその縦幅を広げており、長さはおよそ30センチほどもある。

 太さはそれほどでもなく、一番太い根元の部分で3センチ程度のようだった。

 それが先端に行くにつれて細くなっていた。

 頭部全体が黒く、硬質な物質で覆われているようだった。

 素肌が見えるような部分は、一つも無い。


 

 黒い鬼。

 


 それが、はっきりと姿が見えた際の第一印象だった。


 黒髪が後頭部上方から、首あたりまで纏まって伸びている。

 ポニーテールだろうか。


 しかしその黒髪は、普通のそれではない。

 頭部同様の硬質さを感じる。


 目の位置には、赤黒い切れ長のガラス質が置かれていた。


 身体もまた、黒い装甲で覆われており、それはまるで中世の鎧を思わせた。

 肘などの間接部でさえも、蛇腹状に覆われている


 彼女の鎧のような身体の表面には、大きさの異なる無数の鱗のような物が見て取れた。

 だがそれらは、鱗などではないとすぐに気が付いた。


 それらは大小様々なハッチ状の板だった。それが彼女の全身に、よく見ればそれこそ頭から足の先まで、無数に存在していたのだ。


 ハッチ状と表現したのには理由がある。


 板は、まるで呼吸をするかのように、その片側が一定のリズムで開閉を行っていたのだ。


 それはまるで、動物の毛並みが逆立つ様子を想起させた。


 そしてよく観察すればやはり、その開閉のリズムは闖入者の呼吸と一致しているようだった。


 頬に存在する板はまるで牙のように組み合わされ、その隙間からは呼吸音が漏れている。


 息をしている。ということは少なくとも生き物なのだろう。

 しかし、紛れも無く異形の存在であり、そしてその硬質な外見は私を襲った怪物と同じ印象を抱かせた。



 この時に至って、混乱していた頭がようやく正しい答えを導き出した。



 私を襲ったのが、装甲獣。

 ならば、私をそれから助けたのであろうこの存在の正体は――



 今この世には、精神の力を物質へと変化させ、絶大な力を発揮する能力が存在する。



 ――変身装甲。アニマトゥーラ。



 異形の鎧を身に纏い、乾坤をも震わせる力。



 目の前にいるのは、そんな超常の力を振るう存在だった。




 私がその事実に呆気にとられていると


 胸の辺りにたおやかな膨らみが見て取れることから、恐らく


 『彼女』は


 前方の怪物に意識を向けながら、おもむろにこちらへ向けて声を発した。






「遅れて、ごめん」










 驚いた。

 今まで15年間生きてきて、思いつく限り一番驚かされた。

 

 この声の持ち主には覚えがある。

 覚えがあるどころか、つい1時間前まで一緒にいたのだ。

 それどころか、昨日は一緒にお風呂に入って、眠ってしまうまで、並べた布団の中でお互いのことを話し合ったりもした。

 そんな、昨日出会ったばかりの少女に、私はまた出会った。




「凛音ちゃん……?」




 前田 凛音


 今年の春から、私と同じく私立天導学園の高等部1年生となる少女。


 そして第三女子寮504号室に住んでいる私のルームメイト。


 そして私の初めてのお友達。



 彼女が、目の前にいた。

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