第七話 遭遇する脅威
凛音ちゃんと別れてから10分ほど経っただろうか。
ショッピングセンターからの帰り道の途中、緊急アラームが突如として携帯から鳴り響いた。
同時に周囲にいた人々の携帯からも同じアラームが鳴り響く。
このアラームは……!
周囲にざわめきが広がる。
「皆さん、落ち着いて誘導に従って避難してください」
しばらくして、そんな声が聞こえてきた。
警官の男性と、それとは違う紺色の服を着た男性が避難を呼びかけている。
あの制服は、確か『特別装甲対策班』という人達の物だ。
テレビなどで見た覚えがある。
誘導に従い避難をする人々の不安そうな声が、あちこちから聞こえてくる。
凛音ちゃん。
凛音ちゃんは、どこ?
先ほど別れた彼女は大丈夫だろうか。
辺りを見回すが、彼女は近くにはいないようだった。
携帯は、最寄の避難所を知らせるアラームを鳴らし続けていた。
電話を掛けてみる。
繋がらない。周りの人が一斉に使用しているのが見える。
回線混雑だろうか。
きっと大丈夫。凛音ちゃんも避難しているはず。
避難勧告が出た以上、この場に留まる事は出来ない。
私は友人が巻き込まれていない事を祈りながら、周囲の人々と共に避難場所へと向かった。
私達が最寄の公園に避難してから、20分ほどが過ぎたころ、周囲を警戒していた対策班の人や警察の人たちが私達に解決の連絡をしに来てくれた。
公園には30人はいただろうか。皆、安堵の表情を浮かべている。
もう家に帰っても大丈夫なのだそうだ。
私はすぐさま凛音ちゃんに連絡をとる。
『もしもし! 葵!? 良かった! 大丈夫だった!?』
回線混雑が解消されたのか、凛音ちゃんにようやく連絡が付いた。
良かった、彼女も無事だった。
『すぐ迎えに行くから。今どこにいる?』
私は避難場所の公園の場所を伝えた。すると、近くのコンビニエンスストアで落ち合うことになった。
話を聞く限り、凛音ちゃんが今いる場所からは少し遠い。
私達の寮を挟んで、互いに反対方向にいるようだった。
私は一度断ったのだが、押し切られてしまった。
私は電話を切り、避難途中に見えた最寄のコンビニエンスストアに向かう。
「いやー、今回も終わんの早かったな。避難とかいらないんじゃね。むしろ怪物の写真
とか撮りに行けばよかったわ」
一緒に避難していた男性達の声が聞こえてきた。
「お前ほんとバッカだな。それで逃げなくて死んだら自殺扱いなんだべ」
「知り合いがそれやろうとして対策班の人に捕まってたわ。めちゃくちゃ怒られて、普通
に罰金食らってた。20万だってよ」
装甲獣。私に付きまとっていた人と同じ力。
それは精神の鎧、アニマトゥーラを身に纏った動物の通称だ。
人間のそれとは違って、その鎧は死んでしまうまで、決して剥がれ落ちることは無い。
装甲獣などが出現すると、仕組みは良くわからないが、出現地点から半径2キロの範囲の人まで警報が届く仕組みになっている。私達は、それに合わせて避難勧告を受けた。
現れたのが、大分近くであった証拠だった。
装甲獣はその後、対策班の人の手により対処される。
対処。
相手が装甲獣の場合、それは殺されてしまうということだった。
この件に関しては、動物愛護団体から様々な意見が出ていたように記憶している。
私は、安堵と同時に、少しの憐憫を覚えていた。
「あなた、一人なの? お家はどこ?」
不意に、一緒に避難していたおばさんに声をかけられる。
おばさんの手にはリードが握られている。
だが、そのリードの先はどこにもつながっていなかった。
「ああ、これ? うちの子、飼ってる犬なんだけどね、はぐれちゃって」
申し訳ないけど、ちょっとほっとしている自分がいた。
色々あって、犬は苦手だ。
「こんな遅くに一人は心配だわ。方向が同じなら近くまで一緒に行きましょうか?」
気がつくと、辺りはすでに暗くなっていた。
買い物が楽しくて、おもわず時間を忘れてしまっていた。
思い返せば、避難した時点ですでに夕方になってしまっていた。
私は丁重にお断りをさせていただいて、待ち合わせ場所に向かった。
確かこっちのほうだったはず。
私はとにかく、早く凛音ちゃんに会いたかった。
初めての土地で、無理はするものじゃない。
どうせなら、さっきのおばさんにコンビニまでは案内してもらえば良かったと後悔した。
私は迷子になってしまっていた。
周囲には人影も見えない。
私は凛音ちゃんに連絡するために携帯電話を取り出す。
しかし
「あれっ? なんでだろ?」
通信状態を示すアイコンが『圏外』を表示していた。
電波が入っていない。
公園では大丈夫だったのに。
私は、携帯を持ち上げたり、逆に地面に近づけたりしながら、なんとか電波が入らないか確認する。駄目だった。
「おかしいな……」
これでは連絡も出来ない。
近くを歩いている人を探して道を聞こうと考えたその時だった。
「グルルル……」
突然後ろから、唸り声が聞こえてきた。
「ひんっ」
思わず悲鳴を上げてしまう。
もしかして、さっきのおばさんの飼い犬かな?
そんなことが頭をよぎった。
だけど違った。
後ろを振り向いた私が見たもの、それは
灰色の
硬質な
歪な
恐ろしい
牙を
爪が
全身が
まるで鎧の
結論として、それは犬であることに間違いは無かった。
でもこれは普通の犬じゃない。
気づいた瞬間。
私は、自分の歯が鳴る音を遠くで聞いた。
遅れて、足が震えだす。
どうして
どうして
どうして
装甲獣。
恐ろしい力を持った怪物。
それが、牙をむき出しにして、私を睨み付けていた。
やっと百合以外の要素がだせた。




