第四話 お部屋でいちゃいちゃ
はっじまっるよー!
取りあえず何時までも荷物をリビングにおいて置く訳にはいかない。
私が残り2つの部屋のドアへ目を向けると、凛音ちゃんはそれを察してこう言った。
「右側が、取りあえずわたしの部屋にしてあるよ。左の部屋はリビングと同じで、ベラン
ダに出られるようになってるんだよ」
凛音ちゃんに教えられ、私は左側のドアを開く。
そこはおよそ6畳間の洋室だった。
彼女の言うとおり、部屋の左側がリビングと同様の作りになっていた。既にその窓には遮光カーテンが取り付けてある。
入ってすぐ右側が収納になっており、そして部屋の左奥には机と椅子が、右奥には……。
そこで私は、はたと気付く。右側にはベッドがある。そして私が持ってきた一際大きな荷物、その中身とは……。
私が固まっていると凛音ちゃんが心配そうに顔を覗き込んできた。
「右側が良かった? わたしどっちでもよかよかだから換わるよ?」
不安そうな、申し訳なさそうな顔をした凛音ちゃん。私はすぐに誤解を解くために言った。
「違うの、私こっちで大丈夫。いや、こっちが良いよ。ありがとう」
私が気になっているのは
「もしかしなくても、そのでっかい荷物って布団だったりする?」
はい、その通りなんです。
凛音ちゃんは私の荷物の中身をずばり言い当てた。
事前に、この寮が家具付きであるとの説明は受けていた。でも、もしかしたらと思って実家から布団だけは持ってきていたのだ。
でもベッドが用意されているんじゃ、完全に言葉通りのお荷物だ。
私が肩を落としていると、凛音ちゃんが後ろからその肩をぽんぽんとやさしく叩いて来た。
「葵、そんな顔しなくても大丈夫。すぐ平気になるものを見せてあげるよ」
いい笑顔だった。
凛音ちゃんは、私の手を引いて自分の部屋である右側のドアの前まで連れて行った。
「それではオープンセサミ!」
扉を開けるとそこは私の部屋と同様の6畳間だった。
ただ、家具などの配置がやや異なっており、角部屋のためか窓は奥側の壁に開いていた。
収納は私の部屋の対となるように左奥に、そしてベッドと机は窓から離れて配置されていた。
凛音ちゃんは部屋に入るとまっすぐに収納へと向かっていった。
そして私を手招きすると、もう一度開けゴマと叫んでそこを開いた。
中には布団と思わしき大荷物が置いてあった。
私が呆気にとられて彼女のほうを振り返ると、彼女はちょっと恥ずかしそうに笑って
「わたしも、持ってきちゃってました」
そんなことを言った。
どちらからでもなく、一緒に大笑いしてしまった。
ひとしきり笑った後、凛音ちゃんは私に着替えを勧めてきた。
そういえばまだセーラー服のままだ。
凛音ちゃんは、そのままでも一向に構わんけどなんて言っていた。
私は自分の部屋に戻ると、キャリングケースを広げて部屋着を取り出し始める。
凛音ちゃんの服装を思い出す。
白色のフリースに黒いパンツルックだった。
学校指定のジャージが出てくる。当然却下した。
私は次に、せっかく高校生になるのだからと、遠出をして購入した花柄のワンピースタイプを取り出す。これだけだと少し肌寒い。
薄手でクリーム色のカーディガンを取り出して上から羽織る。これで大丈夫かな。
私は部屋に鏡が無いことに気づく。リビングには姿見があった気がするけど、どちらにせよ確認のためには部屋を出なければならない。
意を決して部屋を出ると、凛音ちゃんが腕を組んで待ち構えていた。
そしてゆっくりとその腕を解き、グーの状態の右手をこちらに向けてくる。
握られた右手の中で右手の親指が上方を向いた。
「グッド。ベリーキュート。……ちょっと抱きしめてもいい?」
申し訳ないけど遠慮した。
それから私達はしばらく他愛の無いことで談笑した。
前に見たテレビのこととか、好きな食べ物のこととか、そんな他愛の無い友達同士の会話を楽しんだ。
こんなに楽しくお喋り出来たのは初めてだった。
もっとも、凛音ちゃんが色々とお喋りしてくれて、私がそれを聞いている時間のほうが長かったけど。
それでも、今までこんなに楽しいことは無かった。
楽しい時間はその経過を忘れさせる。
いつの間にか夕方になっていたのに気づいたのは凛音ちゃんのお腹の虫がなってしまった時だった。
「女子力の下がる効果音だなー。ただでさえ低いのに……」
私はご飯について普段どうしているか尋ねる。
「中学のときは、寮で時間決められてたけど、ここだと適当に買ってくるか、外で食べた
りしてる」
「でも結構立派なキッチンがあるよ?コンロも3口だし」
私がそういうと、凛音ちゃんはぎゅっと目を閉じて
「料理のレパートリーは残念ながら一種類しかないのでごわす」
そんな残念なお知らせを伝えてきた。
「じゃあ今日はせっかくだし私が作ってあげるね。何が食べたい?」
「葵は本当に素晴らしいなー。わたしのお嫁に来てくれない?」
私は冷蔵庫に向かって歩く、そしてそのドアを開ける。中には
「牛乳、お茶、キャベツ半分、にんにくと生姜一欠け……」
つまりほとんど何も無かった。
「わたし唯一のレパートリー……それは」
「生姜焼き?」
「はいそうです。昨日久しぶりに作って食べました」
じゃあお米はあるのかなと思い、凛音ちゃんに確認を取る。
お米は大きなプラスチック容器に保管されて、キッチン下に収納されていた。
キッチン下には、ある程度の料理器具が備え付けてある。
フライパン、寸胴なべ、ざる、ボウル、その他もろもろ。
2日連続でお米よりかは……。
「凛音ちゃんはパスタって好き?」
「好き。あと葵のことも好き」
また、そんな冗談ばかり、出会って一日なのに。
でも私も不思議と凛音ちゃんにはシンパシーのようなものを感じていた。
全然性格は違うと思うけど、なぜだか心を許してしまう。
初対面でやさしくされたからかな?
自分でも容易い人間だと思う。
でも仕方が無い。だって、本当に嬉しくて、楽しい気分なのだから。
私は近所で買い物が出来る場所を聞いた。
「それなら大型ショッピングセンターが近くにあるよ。映画館とか入ってるやつ」
私が詳しい場所を聞こうとすると
「駄目だよ。初日から一人で出歩くなんて、当然わたしも一緒に行くからな」
お友達とお買い物。
やっぱり私は容易い人間だ。
大長編、お部屋いちゃいちゃ編も多分次でラスト。
そしたらパンチとかキックとかたくさん出てくるんじゃないかな?




