第三話 2LDKと初めての友達
私、最上葵は、同居人となる少女に今まで味わったことの無い歓迎を受けていた。
困惑もあったが、素直に嬉しいと感じる。
思い返せば、こんな風に手を握ってもらったことが今まであっただろうか。
すごくすべすべで、やわらかくて、私の手よりも体温が高いためかほんのり温かい。
その温もりもやがて、長時間の握手の中で薄れていった。
それでも彼女は私の手を放そうとしない。
それどころか、今度は残った左手を私の右手にかぶせてきた。
また温かさを感じる。
その状態で今度は手を左右に振られる。
思わず私の体も左右に揺れてしまう。
「おっと、ごめんごめん」
そういって彼女はゆっくりと手を離す。
正直言って名残惜しさを感じてしまった。
「早速お部屋へご案内しましょう」
彼女は私の後ろをちらっと見ながら話した。
振り向くと、運転手さんが所在無さげにたたずんでいる。
手には、一抱えもある荷物を抱えたままだ。
「す、すみません!」
向き直ると、彼女は部屋のドアを開いた状態にして待っていた。
どうぞと言わんばかりに手は玄関を指し示している。
「あ、ありがとう」
私は先に玄関に上がると、衣類などが入ったキャリングケースをそこに置いて、後から入ってきた運転手さんから荷物を受け取る。
お、重い……。
荷物をどこに置こうか迷っていると
「脇のほうの通路に一先ず置いといて良いよ。そっちはお風呂とトイレだから」
彼女が助け舟を出してくれた。
一先ず荷物を置き、運転手さんにお礼を告げると、彼は軽く頭を下げて、お疲れ様でしたと告げるとそのまま去って行った。
「ほいほい、取りあえず正面の部屋に入っちゃって」
彼女も続けて部屋に上がってくる。ドアが閉まると、外気が遮断され、体感温度がわずかに上がった。
彼女は玄関に置いていたキャリングケースも一緒に運んでくれていた。
お礼を言った所で彼女に促され、私は正面のドアを開けた。
そこはリビングとなっていた。入ってすぐの右側に冷蔵庫と、対面式のキッチンが見える。
奥はベランダになっていて、大きな窓から光が差し込んでいた。
リビングは十分な広さがあり、事前に確認した間取りだと13畳以上はあった。
既にカーペット、ダイニングテーブルと椅子が4脚、そしてテレビが設置されていた。
入り口から見てリビング右側にはドアが二つ並んでいる。
「どっこいせー」
彼女が私の荷物をリビング内に2つとも運び入れてくれていた。
「我らが城、三寮の504号室にようこそ。トゥーエルディーケー!」
2LDKと言ったのだろう。要するにこの部屋はそういう間取りだった。三寮というのは、天導学園第三女子寮の略だろう。
「自己紹介まだだったよね。わたしの名前は前田凛音。凛音って文字は、凛々しいに音
楽の音って書くよ。今年から花の女子高生の乙女でございます」
やや芝居ががった口調で彼女はそういった。
「わ、私は最上葵って言います。葵は、徳川さんの双葉葵と同じ文字です。これからよろ
しくお願いします。前田さん」
自己紹介を返すと、前田さんは頭を振っていた。何か変なことを言ってしまったのだろうか。
「わたし達、同い年でこれから一緒に住むんだから、苗字はあかんよ苗字は」
私が困っていると前田さんはそんなことを言ってきた。
「凛音でいいよ。わたしも葵って呼ぶからさ」
彼女は初めに会った時と同じ、屈託の無い笑みをこちらに向けてくる。
なんだか恥ずかしくなって、私は思わず顔を逸らしてしまう。
段々と顔が熱くなってくる。
「ご、ごめん。嫌かな?」
私はすぐに訂正する。
「そんなことないよ。改めてこれからよろしくお願いします。凛音ちゃん」
私も笑顔でそう返す。まだ顔はほんの少し熱いけど。でもそれは恥ずかしさよりも嬉しさが勝っているように感じた。
「呼び捨てで良いのに……。わたしは葵って呼ぶからね! そっちも何時か呼び捨てに進
化させてね!」
凛音ちゃんはそんなことを言って、また笑いかけてくる。
こうして私達は友達になった。
最初は不安ばかりだったけど、引越しをして良かった。
私は心からそう思った。
後の懸念は一つだけ。でもそれが最大の懸念だった。
もし、凛音ちゃんに危害が及ぶようなことがあれば、私は一生後悔するだろう。
でもそれよりもこの時は、初めての友達が出来た喜びで何もかも一杯だった。
私はただ、私を追う怪物に、決して近づいてこないよう祈るしかなかった。
ゆーりゆーり。部屋でのいちゃこらはもうちょい続くよ。




