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装殻甲戦アニマトゥーラ  作者: どといち
第二章 穿たれた童心は境界で惑う
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第三十七話 通話とバスタオル

 天導学園第三女子寮の504号室、そのリビングにて凛音は耳をそばだてていた。

 現在同居人である葵は浴室にて入浴中だった。普段ならば、隙を見て浴室に突入を掛けようとする凛音であったが、それを行う気配を見せず、ただ、浴室の音がリビングまで聞こえてこないかを確認していた。


 決してそういうマニアックなプレイを行っているわけではない。凛音は音が聞こえないことを確認すると、自分の携帯から目的の人物へと電話を掛ける。


 数回のコールの後、発信された電話が繋がる。


『もしもし、前田君か。どうした?』


 電話の相手は山形善治だった。凛音は、葵も、篤子達もいないこのタイミングでどうしても聞きたいことがあったのだった。


「突然で悪いんだけど、あの爺さんの件ってどうなってるんだ?」


 凛音が確かめたかったのは、一週間ほど前に誘拐された大西龍三郎、その安否だった。善治からはこの事件について凛音たちが関わることは無いと言われていたが、これほど時間が経って未だ解決の一報が無いことに凛音は苛立ちを感じていた。


「今日、買い物の時にデコ娘とも話したんだけど、あいつらかなり気にしてるからさ」


 事件に直接関わった篤子と静流にとって、それが解決されていないという状況は、葵の手前おくびにも出していないが、かなり心に刺さっているようだった。それでも勝手に動いて状況をかき乱すという行為をとらないのは、三人ともそれが悪手であるとしっかり理解しているためだ。


『この前話した通りだ。君達が動く必要は無い。それに大西さんはまだ無事なはずだ』


 その答えに凛音は自分の感情が逆立つのを感じる。だが、自分が話をしている山形善治という人物が、不安を抱える篤子達の感情を汲み取っていないわけが無いと、すぐにその感情を抑える。そして現状について考えを巡らせた。


 そもそも、大西龍三郎がこちらに来る際の護衛にはアニマトゥーラを持った人間が一人としていなかったという話だった。

 それはつまり、彼が政府にとってそれほど重要でない人間であることの証であることにも思えた。しかし現実として、彼は誘拐され、何かしらの目的のために、おそらくは尋問を受けていることだろう。少なくとも身代金目的などではないはずだった。


 そして篤子達の話では、彼女らが急遽護衛に参加することになったのは、どうやら善治達の介入があったようだとのことだった。合流する際、他の護衛たちが迷惑そうにそう話しているのを彼女たちは耳にしていた。


 もしもの話だが、篤子達が合流せず襲撃されていた場合、目標である大西龍三郎以外の人間は成す術なく殺されていただろう。

 逆に考えると、襲撃が予想されていたからこそ、善治は篤子達を急遽合流させたのかもしれなかった。


 善治にとっては予測、あるいは察知できていた襲撃だったのかもしれない。もっとも、結果を見るに相手の人数までは把握できていなかったようだったのだが。


 一連の動きには、老人の誘拐を察知して、犠牲を出すのを覚悟でむしろそれを歓迎する考えと、それを阻止しようとする動きが感じられた。


 そこに思い至った凛音は電話の向こうの人物に向かって呟いた。


「つまり、わたし達は動くことが出来ない・・・・状況なんだな」

『…………』


 返答は沈黙だった。そしてそれが何よりの答えだった。凛音は思わず下唇を噛む。彼女には複雑な事情は分からないが、何かしらの思惑が働いていて、そのせいで友人達に悲しい思いをさせてしまうことに悔しさを感じていた。


『現状、私達は誘拐犯達を外に出さないように封鎖を続けるしかない。それには虎丸さんも参加している』

「……師匠が大人しくしているってことは、かなりやっかいなんだな」


 凛音は自分を捕らえ、叩き鍛えた人物の名前を出され、それが自分に釘を刺す意味があることを理解した。

 勝手に動くことは間違ってもあってはならない。凛音にはその意図は分からないが、善治の指示を信じて待つ他は無かった。


『確認できている誘拐犯、その二名を、追う事は出来ない。今はまだ待つんだ』


 人数の部分を強調するかのように善治は話す。その言い方に凛音は違和感を覚える。


「話は変わるけど、犯人って分かってるのか?」


 その質問に善治が答える。


『犯人グループは既に特定出来ている。二年ほど前に事件を起こした新興宗教団体、その一員だ』


 一年前に事件を起こした宗教団体、その名前に凛音は心当たりがあった。そして善治は続けて、凛音が思い至った名前と同じそれを告げる。


『典型的なアニマ主義の思想を掲げた団体で、名前を、てんせいのひかり、という』


 それは、アニマトゥーラを持つ存在こそが、苦難を越え、生まれ変わった神聖な存在であると考え、その力を崇拝していた宗教団体の名前だった。彼らはその考えの下、互いに殺しあうことで彼らの言うところの『てんせい』を行おうとする事件を起こしていた。政府側はそれを察知していたが、突入が間に合わず、死傷者が合わせて五十人を越える惨事となってしまっていた。


 その手の思想を持つ団体は、宗教に関わらずかなりの数が存在していた。そして、いくつかの団体は過激な思想の元、アニマトゥーラを手に入れようとして死傷者を出していた。やっかいなのは、それで実際に力を手に入れてしまう人間が常にいることだった。


「そんなやつらが、爺さんを誘拐して何をしようっていうんだ?」

『それは電話では話せない。前田君が知ってしまう必要も特にない』


 つまり善治はそれも知っているということだった。それを聞き出そうとしたところで、凛音の耳は脱衣所の扉が開く音を捉えた。慌てて通話を終了する旨を善治へと伝えると、凛音は電話を切る。

 数秒後、リビングのドアが開く。


「てっきりまた入ってくるかと思ったのに、凛音ちゃんどうしたの?」


 リビングに入室した葵は身体にバスタオルを一枚だけ巻いた姿で凛音に声を掛けてくる。その姿に目を釘付けにしながら凛音は生返事を返した。乾かしきれず、やや濡れた髪が首元に張り付いている。そしてそこには葵の装甲を抑えているチョーカーも存在していた。


「次お風呂どうぞ。入ってる間にお布団敷いておくね」


 そう言うと葵は着替えのために自分の部屋へと入っていった。その様子をドアが閉まるまで目で追った凛音は、ドアが閉まると同時に、その腰を上げた。


 今は、待つことが自分達の役目だ。そう自分に言い聞かせながら、凛音は脱衣所へと向かうのであった。



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