第三十三話 初登校
次の日の朝、葵達の部屋で目覚めた篤子と静流は、そのまま一緒の部屋で朝の身支度と、朝食を済ませた。
着替えのみ、自分達の部屋に制服を置いて来ていた為、一旦そちらへ戻ってからの登校となった。
葵は、彼女達の勧めもあり、入学式のようなきっちりとした服装ではなく、凛音と共に試行錯誤した服装へと変化していた。凛音は、パーカーの下に来ていたブレザーを脱いでいる。
入学式のときに着ていたのは、彼女なりに気を配っていたということらしかった。
入学式翌日の予定は、クラス分けの確認と、その後各クラスでのホームルームやオリエンテーションとなっている。午後の早い時間にはそれらも終わり、各自解散との流れだった。
葵たちは部屋前の廊下で合流すると一緒にエレベーターに乗り込む。第三女子寮は部屋の間取りからも分かるように、一人用の部屋としてはやや広い。学生寮であるため家賃は通常のそれと比べて決して高くは無いが、ルームシェアをする訳でも無い限り、わざわざ高い部屋を借りる理由も殆ど無い。
そのため、寮自体の入居率はそれほど高くない。登校の時間だったが、エレベーターが一階に着くまでの間、その動きは止まることは無かった。
四人は、ホールで掃除を行っていた老齢の寮母さんに挨拶を行い、学園へと向かった。
時間は朝の七時三十分を回ったところだった。寮から学園までは歩いて二十分も掛からない距離だ。
八時二十分までに教室にいれば良いとの話だったので、クラス分けを確認する時間を考慮に入れても充分間に合う時間だった。
彼女達は、焦ることなく、ゆったりと通学路を進んでいく。道路の脇に植えられた桜並木が、その花びらを、陽光の中ちらちらと舞わせていた。
学園へと到着した四人は正門を抜け、クラス分けが張り出されている大掲示板を確認する。
一学年がおよそ千人に及ぶ高等部では、そのクラス数も膨大だ。二十五にも及ぶクラスは、数字ではなく、それぞれアルファベットが使用された連名を付けられていた。
葵は一年K組に振り分けられていた。
そして、凛音、篤子、静流も同様にK組となっている。
「いやー、一緒のクラスで良かった良かったー」
「これ絶対に偶然じゃないよね?」
「まあ、うちらが一緒のクラスじゃなかったら、意味無いやん?」
「お昼ごはんはどうしますか? 屋上で食べましょうよ」
そんな会話をしつつ、四人は示されたクラスへと向かう。第一校舎は高等部の校舎の中では最も巨大で、高さは四階建てで構成されていた。そして二階から伸びている渡り廊下で、その巨大な校舎は二つに区切られている。五階建ての第二校舎とその高さはほぼ同程度となっており、その分一階あたりの天井が高くなっているようだった。
一階には保健室や職員室などが配置されており、各学年の教室は二階からとなっていた。一年生は二階、三年生は四階といった具合である。
第一校舎は廊下を挟んで左右にそれぞれ教室が配置された構造をしていた。葵達は表示されている教室名を口に出しながら一年K組みを探し出すと、早速その教室へと入る。
教室内で、既に入室していた生徒達の目が葵達の方を一斉に捉える。その様子に葵はややたじろぐが、後ろに控える友人達のことを思い出し、そそくさとその足を速めた。
クラスメート達は、それぞれ視線を外すと葵達が入室する前の行動を再開した。
「席順ってどうなってるんやろ?」
「黒板に書かれてるみたいですね」
黒板は二つのそれを、上下に入れ替えられるタイプが設置されていた。四人は黒板の前に移動した。
そこに書かれた席順を四人は確認する。どうやら出席番号同様、単純な五十音順に配置されているようだ。
葵は自分の名前を探すと、それを発見した。彼女の苗字である最上は、出席番号順で言うと後ろの方だった。
彼女の席は黒板を前に見て、教室内右側中ほどに配置されている。そして、凛音の席はその前の席となっていた。
「凛音ちゃんの後ろだ」
「葵の前だな」
それを確認した二人は顔を見合わせながらうれしそうな笑みを浮かべる。
「なんや? 不正か?」
「違う! 五十音順だからこれでいいんだよ!」
そんな会話をしていると、不意に四人の後ろから別の女生徒が話しかけてくる。
「前田さん? 髪型を変えたのね。また同じクラスみたいだから、今年度もよろしくね」
彼女は眼鏡をかけ、制服を定められた校則どおりにきっちりと着こなしている。髪型も、セミロングの髪が前髪を含めてきっちりと切り揃えられていた。それらの様子から、彼女がかなり規則正しい人物である印象を葵は受けた。
「い、委員長か……。ああ……よろしくな」
凛音は頬を掻きながら少しだけ気まずそうに答える。その様子をみて委員長と呼ばれた少女は特に表情を変えることなく、クラス中央の自分の席へと戻っていった。
「元カノか?」
「だから、違う! ここは中高大一貫だから、わたしみたいに中学からの奴も多いんだよ!」
「凛音ちゃん、お友達いたの?」
「あお……! 知ってて聞いてないか?」
凛音の話では、中学のとき一緒のクラスだっただけとのことだった。委員長との呼び方からも分かるように、彼女は三年間、そのクラスの学級委員長を務めていた。当時素行がやや悪かった凛音は、彼女とは折り合いが悪く、自分から避けていたとの事だった。
「自分は本当にコミュ障やな」
その言葉に反論しようとして、凛音は言葉を詰まらせる。その後、何時までも黒板の前では邪魔になるとしてそこから離れた。
そして一旦、出席番号順に振り分けられた教室後ろのロッカーに荷物を置いてから、葵の席の周りに集まって雑談を行った。
話の途中、葵が教室内を見回すと、男女合同のクラス内ではすでにいくつかのグループが出来上がっているようだった。凛音の言うとおり、中学からの知り合い同士で形成されている物が多いようだった。
もし、凛音達がいなければ、今頃自分は席で一人ぽつんと座っているだけだったろうな、と葵は心の中で苦笑した。
その後、ホームルームが始まると、やや背の高い男性教師が担任として挨拶を行った。その後、クラスメイトそれぞれの自己紹介がつつがなく終了する。
自己紹介の後は、背の高さを理由とした席替えで、篤子が不満を口にして騒ぐ事態が起こったりもしたが、概ね問題なくホームルームは終了した。
それからお昼までの間、他のクラスとあまり被らないように順番が定められたであろうコースで、各教室や設備などのオリエンテーションが行われた。
天導学園は広大で、短時間で全ての施設を回るのは困難を極める。そのため、午後からもオリエンテーションの予定となっていた。本格的に授業が始まるのは明日からとの事だった。
お昼休みの間、四人は第一校舎の屋上で昼食を摂るため、そこへと足を運んだ。葵と凛音にとってはやや見覚えのある光景が広がる。屋上は落下防止用のフェンスが設置され、いくつかのベンチが置かれている。
だが、第二校舎とは違い、そこは屋上庭園となっていた。芝生が地面に敷かれ、ところどころに小さな木が植えられている。
その光景に葵は感嘆の声を上げる。屋上には、かなりの人数の生徒が既にいるようだった。屋上スペースのため、学年の違いを表す胸元のリボンやネクタイの色が異なる生徒が見受けられる。
渡り廊下で区切られている構造のため、向こう側にも、同じ広さの屋上が見えた。そこにもやはり、かなりの数の生徒が存在している。
四人は開いている場所を探すとそこに腰を下ろした。
「いやー、金かかっとるな。流石私立」
「購買も充実していましたね。食べ物には困りません」
お弁当を準備する余裕が無かったため、四人とも購買で購入したパンなどをそれぞれ用意していた。
食前の挨拶を行い、四人は昼食を開始する。
静流は心の底から美味しそうに食事を行っている。他の三人は彼女の用意したパンの量に呆れたような視線を送っていた。
「前から聞きたかったんやけど、太らへんの?」
「はい、寧ろ食べないとどんどん痩せていってしまうのです」
「それ、他の人に迂闊に言うなよ。恨まれるぞ」
四人は食事中の会話を楽しみながらそれを続ける。そして話題は次第に屋上から見える第二校舎についてへと移っていった。食事を終えた四人は第二校舎が見えるフェンス近くへと移動する。
「あの辺りで、わたしは脇腹をぶち抜かれたな。きつかったー」
「そんなことをした人は、私がちゃんと一階のあそこに蹴りこんだからね」
破壊の後を示すブルーシートを指し示しながら葵と凛音は軽い口調で言い放った。それを聞いて残る二人は顔を引きつらせている。その後の会話で、凛音はともかく、葵は当時の戦闘の際、明らかに自分で自分の制御が利いていない状態だったとの話になる。
今はチョーカーによって変身自体が出来ない状態だが、いずれはきちんと制御が利くように訓練しなければ葵自身の身が危ないとのことだった。
「皆はどうやって訓練したの?」
葵が質問を行う。
「わたしは修行だとか言われて、格闘の師匠にボコボコにされた。むしろ今はその人がトラウマだなー」
「私は、まだ上手く行ってませんが、路上で誰も見てない芸を延々とやったりしましたね。死にたくなりました」
「うちは、色々やな。今も髪型とかで克服しようとはしとるけど、静流と同じで正直まだまだやな」
その後、三人はそれぞれ自分が行っている訓練についての会話で盛り上がった。凛音は他にも牛乳を飲んだりしているなど語って、他の二人を困惑させている。
そして葵はそれを聞きながら、自分ならばどんな訓練をするべきなのだろうかと、思いをめぐらせていた。
その結果、いくつかのアイデアに思い当たる。それについて三人に話した結果、やや心配されてしまったが、葵の考えは概ね賛同を得られた。
「シャンプーやら、まだまだ買わばあかん物もあるしな」
「夕飯は何にしましょう?」
「食ったばっかでよくその話が出来るな……」
放課後、四人は前日と同じくショッピングセンターへ向かうことにする。
しばらく後、お昼休みが間も無く終了することを告げる予鈴が鳴り響いた。
四人は後片付けを済ませると、屋上から自分達の教室へと戻って行ったのだった。




