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装殻甲戦アニマトゥーラ  作者: どといち
第一章 月下にて鬼と犬は猛る
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第二話 最上葵と取巻く世界

 最上葵の半生は孤独と共にあった。


 両親を早くに、自身を含む交通事故で亡くしてから、一人残った彼女は田舎に住んでいた母方の祖父母に引き取られていた。

 周りに同学年の子供が少なく、彼女の内気な性格がさらに友人関係の構築を遅らせた。

 そして何より、彼女に纏わりつくある影に周囲の人々は恐れをなしていた。


 祖母は寡黙な人だった。

 決して厳しい人ではなかったが、孫である彼女に対して特別優しいというわけでもなかった。


 祖父は祖母に輪をかけて寡黙な人だった。

 10年近く一緒に住んでいたが、彼女には言葉を交わした記憶が数えるほどしかなかった。

 決して嫌われていたわけではない。孫である彼女に対してどの様に接していいかわからないようだった。

 そしてそれは最上葵も同様だった。


 家事は分担、交代で行っていた。


 祖父母が共に60歳を超えてからは、日常の様々な事象に対する身体的負担が大きくなった。


 彼女はそんな2人の負担を減らすために、普段の生活で家事に従事する時間を増やしていった。


 結果、思春期の少女が本来過ごすべきだった時間はさらに少なくなっていった。

 

 彼女が中学2年生になるころには、祖父に少なからず介護の手が必要となっていた。

 彼女の祖父はそんな自分を恥じた。


 自分に出来ないことが増えたことではなく、孫の時間をさらに奪ったことを恥じた。


 だが、それを上手く表現することが出来ず、彼女との間の壁はさらに厚くなった。


 祖母はそんな夫の気持ちを汲んでいた。

 しかし、事故で失った自分の娘、その事故で一人生き残った自分の孫、そんな現実に上手く折り合いがつけられないままであった。


 最上葵は、決して周囲に疎んじられていたわけではない。

 だが、親愛を分かり易い形で与えられることが少なかった。


 結果彼女は孤独だった。


 彼女に遠く離れた学園への受験の話が持ちかけられたのは、彼女が中学三年生になってすぐのことだった。


 家を離れての寮生活。

 厄介払いではない。今の環境からの脱却を祖父と祖母が望んでいるのだと、彼女は察した。

 そしてなにより、彼女を悩ませ続ける問題を解決するための行動であることを理解していた。


 皆怯えていた。

 

 おとなしく、人に対して怒りも、不満を発することもしない彼女の周りに纏わりつく一つの影に怯えていた。

 

 彼女自身も怯えていた。

 自分の与り知らぬ所で傷ついていく人々に、何かを成し得る術を持たない自分を歯がゆく思った。



 彼女が生まれるよりもずっと昔に、ヨーロッパ、イタリア北部である事件が起こった。


 今日(こんにち)初回発動(ファーストブート)事件と呼ばれるそれは、それまでの世界事情を一変させた。

 ある特別な力に目覚めた、たった一人の男性が、当時のイタリア警察、果ては軍を相手取り暴れまわったのだ。


 最後には、多数の民間人を巻き添えにした軍の攻撃によって男性の死亡が確認され、その事件は一応の終息を見た。


 彼に目覚めた力、それは精神の力を物質化し、装甲、つまりは鎧として身に纏う力。


 その力は今やこう呼ばれている。


 変身装甲。


 あるいは、ラテン語の「精神」と「鎧」を合わせた造語で


 アニマトゥーラ。

 

 個人が持つには強大すぎるその力は、たやすくその人生を歪ませる。



 最上葵に纏わりつく影は、そんな強大な力を秘めた怪物だった。


 

 最初の事件以来、同じ力を持つ人間は次々と現れた。

 暴れる者、それを抑える者、力を隠す者。

 力は持たずとも、それを正しく管理しようとする者。現状を打破するために利用しようとする者。

 そして、動物にも同じ力を持つ存在が現れていた。

 変身した動物は、人間のそれとは違い、本能のままに暴れ、死ぬまでその鎧が剥がれ落ちることは無かった。それは装甲獣、またはアニマビーストと呼ばれた。

 混乱が世界中に広がっていった。


 どうしようもなく当たり前に、戦争と、戦争と、戦争が起きて、その中で装甲の力は解明されていった。

 次第に、装甲を持つものは、人間だろうか、それとも違うのだろうか。そんな考えが人々の中に生まれていった。

 2つの考えは緩やかに別れ、後者の考え方は、それが肯定的であれ否定的であれ「アニマ主義(イズム)」と呼ばれるようになった。


 そんな時代が過ぎて、今や装甲の力は正しく管理されている。

 それでも悪用するものは後を絶たない。

 あるいはその力に踊らされ、若者たちは自覚無き暴力を振りまいていた。


 最上葵を傷付ける物を、傷付ける。

 行動原理はわかっていても、その心までは見通せない。

 力を持つ影は、彼女の孤独を深め、苦悩を増やした。

 

 離れた土地での新生活は、つまり今の土地を離れることで、その影から逃れようとしたのだった。


 

 最上葵は、新天地に降り立つ。


 私立天導学園。


 それは周囲を山々に囲まれた北方の盆地に設立された、中高大一貫のシステムを持ち、中、高校生だけで総生徒数5000人を優に超えるマンモス校の名前だ。

 校舎数は10を越え、グラウンドはサッカー場、陸上競技場など専用のものを含め5つを備えており、大規模な図書館を大学のものと含めて3つ備えていた。


 遠方から入学する生徒も多いため、学園が直轄で運営する学生寮を複数運営している。


 その第三学園女子寮の前に彼女は立っていた。


 彼女はこれから自分が住む部屋、五階建ての建物の最上階、向かって一番右端の504号室のあるであろう位置を確認する。

 高校生の1人暮らしと、彼女の現状を危惧した、恐らくは祖父母の計らいにより、寮は2人部屋の物が選択されていた。

 事前の説明によれば、すでにルームメイトとなる人物は2週間前に入居を済ませているという。


 マンション型の寮入り口ロビーで、入居のための簡単な手続きを行い、彼女は一緒に荷物を運んでくれている運転手と共に部屋へ向かった。

 荷物と共に新生活の不安と、未だ抱える孤独をも運んでいる彼女の足取りはやや重い。


 だが、その不安と孤独は


「やーやー! すんげーかわいい子が来たなー!! これから色々とよろしくな!!!」


 勢いよく開け放たれたドア。いきなり飛び出したそんな台詞。


 そして激しい握手のスキンシップにより粉砕されたのだった。


 同居人の名前は


 前田(まえだ) 凛音(りんね)


 葵よりも背が一回り高く、凛々しい顔立ちをした少女は、強く握った手を上下に振っている。

 そのたびに高い位置で一つにまとめたその長い黒髪を一緒に揺らしていた。


 暖かい掌の感触。屈託の無い笑顔。心底嬉しそうなそんな彼女の様子に葵もまた何時振りかになるやわらかな微笑を返したのだった。



 2人の少女が出会い、そして物語は動き出した。

相棒が出てきました。2人とも黒髪だけど、黒さの度合いは葵>凛音。

光が当たったときに白色かやや茶色になるかの違いです。

マニアックすぎますかね。でも大事なこと。大事なことなんです。

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