第二十八話 籠に入れますか? → はい
「毎回ここに来てる気がするなー」
「だって、便利だしね」
顔合わせを済ませ、四人は学園に近い大型ショッピングセンターへ来ていた。
葵と凛音はこちらに越してきてから、折に触れてこの場所へと買い物に来ているため、目的のものが売っている場所には見当がついている。
彼女達がここへ来たのは、静流の要望により決まったお昼ご飯の蕎麦を購入するためだが、良く考えれば食器がそもそも足りていないことに気づいたためだった。
それで、より近くにあるスーパーではなく、必要なものが全て買えるであろうこの場所へと足を運んでいた。
「ショッピングセンター頼りとは、なんとも田舎なお話やな」
「篤子ちゃん、そういうのは思ってても言っちゃ駄目ですよ」
「自分も思うとるんやん」
越してきたばかりの二人はそんな話をしながら、葵達の後ろに付いてきている。
四人の手にはそれぞれ中身が入学式で手渡された資料だけで、殆ど何も入っていない鞄などが握られていた。凛音は白黒ツートンカラーのリュックサックだが、他の三人は天導学園指定の黒い学生鞄だ。
「うちも鞄買わんとな。これダサいわ」
篤子が凛音のリュックを見ながら、自分の持っている鞄を掲げる。
「私は、これ好きですけどね。色は、もっと可愛いのがいいですけど」
静流も同様に自分の鞄を少し掲げる。そして、そのまま篤子の頭に鞄を載せようとして彼女に怒られていた。それを見て葵が笑いながら話す。
「鞄屋さんも入ってるはずだから、見に行く?」
「ほーん。ええやん。で、どこら辺に……」
「まずは蕎麦です」
有無を言わさぬ一言により、一行はまず食材を購入するためスーパーへと足を運んだ。
その道中、葵の目は賑わう人込みの中で気になる姿を捉える。
それは、今となっては珍しいとも思える金髪にそのセミロングの髪を染めた少女だった。
葵と同じくらいの年頃に思えるが、制服を着ていない。
彼女はデニム生地のスカートにTシャツというラフなスタイルだった。だが、すらりと伸びたその長い白い足と、引き締まったウエストにぴったりと合ったシャツが独特の色香を生み出していた。
その少女はショッピングセンター内のペットショップ前で、ガラス越しに飼育されている動物を眺めていた。
葵は、そしてずっと一緒にいる妹は特に、たとえ子犬であっても犬が苦手なためにペットショップ付近には近寄ったことが無い。
だが、二人とも猫は好きであるために、いつも気にはなって通りがかる度につい視線をそちらに向けてしまっていた。
葵の視線に気づいたわけでは無いだろうが、不意に金髪の少女が葵の方へ視線を動かす。
その瞬間、葵はその少女と目があったような気がした。思わず目を逸らしてしまう。
「葵? どうした、早く行こう?」
少しだけその場に立ち止まっていた葵に凛音が声を掛ける。それに応じた彼女は小走りで先を進んでいた三人に合流した。
スーパーに着いた一行は、食器を選ぶ組と、食材を買う組の二組にそれぞれ分かれることにした。葵は、一緒に行くこととなった静流と共にまずは蕎麦を販売しているスペースへ向かう。
「上杉さんはお蕎麦の好みとかありますか?」
「強いて言うなら量が多いものが好きです」
「あの、そうじゃなくてですね……」
会話を続けながら、葵は乾麺タイプの蕎麦を適当に選んで買い物籠に入れていく。
「お金は私が出すので、もっと買いましょう」
そして静流が追加で籠に蕎麦をさらに投入していった。
「上杉さん、薬味は……」
「最上さん、葱を……」
二人の台詞が被る。思わず葵は噴出してしまう。静流もやや恥ずかしそうにその頬をほんのりと赤く染めていた。
「上杉さん、良かったら名前で呼んでください」
葵は、静流に話しかける。
「私、お二人とはもっと仲良くなりたいです」
葵は彼女達が凛音同様の役割を持ってここにいることを知っている。だが、だからこそ仲良くなりたいと考えていた。側にいる理由など、葵には些細なことに感じられた。
一緒に居るなら、相手のことをもっと知って、仲良くなりたい。それが今の思いだった。
「あの……では、葵さん。私も名前で結構ですよ。改めてよろしくお願いします」
そんな葵の思いを汲んだのかは分からないが、静流も笑って言葉を返す。
「それはそうと、薬味は王道の葱ですよ。葵さん」
そう言って静流は野菜売り場を探しているのかきょろきょろと辺りを見回す。葵には見えないが、彼女の長身ならば、棚の上の売り場表示も直ぐに見つけられるようだった。
やがて、目的の場所を発見したのか、静流はふんふんと鼻息を上げながら歩き出す。
葵はそんな後姿を、笑いながら追いかけていった。
しばらく後、買い物を終えた二人は、食器を担当していた凛音と篤子が来るのを待っていた。
すると、そこへビニール袋を両手に持った二人が歩いて来る。
「聞いてえな静流~。このアホがな~」
「誰がアホだ! このデコが!」
そんな会話をしながら歩いてくる二人を見て葵は安心したように笑う。
「二人も仲良くなれたみたいで何よりだね」
「ええ、葵さん。篤子ちゃんも楽しそうです」
「なってない!」
「なっとらんわ!」
ぴったりと合った息で二人は反論を行う。それを聞いて、ほらやっぱりと葵は笑った。
「どんな食器を買ったの?」
葵の質問に篤子が待ってましたとばかりに答える。
「蕎麦っちゅうたらツユを入れるんは漆の器やろ? まあ見た目だけの安物やけど」
篤子は自分の袋から器を取り出す。外は黒色で内側が赤い器だが、漆器というわけではなく、そういうデザインというだけだ。
「それが、この黒鬼さんはガラスの器なんぞ選びおるんよ」
「別にガラスでいいじゃんかよ!」
「それは素麺とか食う時やろ!」
二人は顔を向き合わせてにらみ合っている。身長差のため凛音がかなり顔を下に向けていた。
「まあまあ、篤子ちゃん。食べられれば私は素手でも良いですから」
「あかんやろ! 原始人か!」
結局二人は両方とも購入して、その代金はそれぞれが支払ったようだった。
「で、自分らは何でそんなに食い物買うてるん?」
篤子の視線の先には、大量のビニール袋を抱える静流の姿があった。
「まずは、薬味ですが、葱が一人一本です」
「うん、まずそこからおかしいわな」
ビニール袋からは長葱が四本飛び出ていた。
「折角なので、山葵はチューブでなく本山葵です」
静流は摩り下ろす前の生山葵を取り出す。
「なにが折角なのかわからんけど、まあええやろ」
「そして蕎麦はとりあえず十二人前を……」
「えーと、十二、割る四は、一人三人前かー……。はい! 女子失格な量!」
篤子は身体の前で両手でバツ印を作る。
「ちゃんと女子らしく、お菓子なども購入しています」
「その量を食った後に菓子を食おうとしとる段階でだめやろ!」
喚いている篤子を尻目に、凛音は葵に近づくと、耳元で囁く。
「葵は、止めないで良かったのか?」
「四人分の量って良く分からないし、静流さんが食べたそうな目で見つめてくるから……」
「ちゃんと、いいえの選択肢を選ばないと……」
とりあえず四人はこのまま帰宅することにした。他に寄りたいお店などもあったが、思いのほか荷物が増えたため、それはまたの機会にという事だった。
帰宅途中、葵はもう一度ペットショップへ視線を向ける。
そこにはもう、金髪の少女はいなかった。
葵は、一度だけ目が合ったように思われた際、彼女が自分の顔ではなく、その首元に視線を落としているように思えた。
葵は自分の首に巻きついたチョーカーを一撫でする。
さらさらとした、肌触りの良い感触が指先に伝わってくる。
なぜ、あの少女の事が気にかかるのか。疑問に思いながらも、葵は新たな友人達と共に帰路へと就くのだった。




