第二十五話 襲撃から始まるプロローグ
私立天導学園。
それは周囲を山々に囲まれた北方の盆地に設立された、中高大一貫のシステムを持ち、中、高校生だけで総生徒数5000人を優に超えるマンモス校の名前だ。
校舎数は10を越え、グラウンドはサッカー場、陸上競技場など専用のものを含め5つを備えており、大規模な図書館を大学のものと含めて3つ備えていた。
そんな学園の入学式が行われる4月を目前にした時期に、この学園の高等部第二校舎で事件が起った。
校舎内に侵入した装甲獣によって、校舎壁面と屋上が著しく破損することになった事件は、一時その周囲を賑わせた。
学園関係者や、生徒保護者達により安全管理に関する質疑応答が行われたが、不思議なほど対応が早かったこともあり、僅か一週間ほどでその動揺は沈静化していった。
学校運営に影響は少なかったものの、その事件によって破損した箇所は、現在ブルーシートで覆われ修復工事待ちとなっている。
結果として、天導学園高等部、第二校舎の一部教室と屋上が立ち入り禁止となってしまっていた。
天導学園には高等部だけで5棟の校舎棟が存在している。第二校舎には理科室などの特別教室が集中していたが、幸いにして代替不可な教室が使用不能となることは無かった。
代わりに、その教室を活動拠点にしていた部活動、一部の文化部が演習室や大型講義室を用いての活動を余儀なくされている。
だが、概ね、新年度入学式に向けての準備は滞りなく進んでいるように思えた。
しかしトラブルとは、常に予期せぬものである。
入学式を一週間前に迎えたその日、黒塗りの三台の車が、陸橋上の道路を学園の存在する盆地に向かって走行していた。先頭車両には、いかもにといった風体のボディーガードたちが乗車している。そして真ん中を走る二代目の車両には、その護衛対象と思われる老齢の男性が乗車していた。
老人の名前は大西 龍三郎。齢80を越えるその老人の目は、未だ眼光鋭く、そしてその目は前方を走る車、その向こうを捉え続けていた。
三代目の車両には、その秘書と思わしき妙齢の女性が乗車していた。
何故か、同乗はしていなかった。それと関係があるのだろうか、後部座席に座る二人の両脇には、それを固めるようにそれぞれ二人の人間が座っていた。
老人の両隣に座るのは、屈強な、歴戦を思わせる風貌の男性二人。二人は黒いスーツ、黒いサングラスと、全身を一色に染めた服装をしている。
対して女性の隣に座っていたのは
「なあー、静流ー」
「なんです、篤子ちゃん?」
「後、どんくらいで、着くんやったっけ?」
「後、2時間もしないと思いますよ」
「2時間かー、いい加減ケツが割れてしまいそうや」
そんな会話を行う、恐らくまだ高校生程度の少女が二人だった。
二人とも、他の男性同様黒い服装に身を固めてはいるが、それはどう見ても不釣合いに思われた。
篤子と呼ばれた、どこか違和感の残る関西弁を話す少女の背丈は低い。小学生と間違われても不思議ではないその少女は、明るい茶色の髪をショートカットにしていた。ただ、その前髪だけが非常に長く伸びているようで、それをカチューシャで後ろに纏めていた。纏め切れない前髪の先端が、くるんと前を向いている。さらけ出されたおでこが、まぶしい光を放っていた。その身を包む黒いスーツは、明らかにサイズが合っていない。
静流と呼ばれた反対側に座る少女は、打って変わって非常に長身だった。180センチを優に超えるその身体をやや窮屈そうに縮こまらせている。大きいのは身長だけではない。
彼女はその幼さの残る顔には不釣合いなほど大きな双丘を携えていた。
車が揺れるたびに、彼女の緩い二つ編みにしてあるこげ茶色のロングヘアーが、その双丘と共に僅かに揺れた。彼女のスーツもまた、胸の辺りでサイズが合っていなかった。
「研修って言うてもなあ。こんなにめんどいとは思わんかったわ」
「篤子ちゃん、駄目ですよ、そんなこと言っちゃ」
「静流はええ子すぎや。そのでかい身体とおっぱいのように態度ももうちょい大きくせな」
「おっぱいは関係ないと思いますけど……」
その会話を聞きながら、間に挟まれた女性は心中で嘆息した。
彼女達二人は、前方を走る車に乗る老人の護衛、そのついでとして参加していた。
確かに老人はその権力を失ってはいるが、このような女学生二人を付けるとは、彼を侮辱しているようにも女性は思えた。
老人はかつての立場から、護衛の必要があった。だがそれは、大規模なものではなくあくまでも形式的なものだ。
天導学園の入学式に出席するために、わざわざ遠く離れた東北の地までやってきた老人は、今でもある程度の地位に存在している。
だが、その遠く離れた場所まで向かわなければならないという点に、往時の権力は存在していないことが表れていた。
本来ならば、わざわざ彼を狙う輩もいない。そのはずだった。
だが、前述の様にトラブルとは、予期せぬものである。
突如、秘書の携帯が警報を鳴らし始める。その警報は、ある特別な存在が表れたことを示すものだった。
隣に座っていた少女達の表情が変わる。
背の低い一人は、闘争に昂ぶる戦士の顔へ、もう一人はそれに怯える顔だった。
だが、その二つの顔は急ブレーキによる衝撃ですぐに慌てた表情へと変わる。
その衝撃から守るため、すぐさま背の高い少女は自分の隣の女性をその手で押さえた。
前方の車両が、そのコントロールを失い、車体が横向きに流れる。だが、後続の二車両はある程度車間距離を置いていたため、それぞれ追突を免れた。
戦闘車両、その両方のフロントタイヤに釘のようなものが複数本突き刺さっていた。だがそれは、次瞬には赤い光となって消えていく。
タイヤから、空気がもれ出る音が聞こえてくる。直ぐに車両は走行不能となる。
車内の男性達がすぐさま車外へと飛び出そうとする。
しかし、続いて先頭車両に襲い掛かる二つの影が、その車両を攻撃した。
破砕音、車両は完全に沈黙している。乗車していた男性達は怪我こそ負っているが、無事なようだった。続いて老人の乗る車両が急停止する。
同乗していた男性達が、車の背後へと老人と共に身を低くしてやってくる。
前方では、ボディーガードたちが拳銃で応戦しているようだった。
三台目の車は、それから少し離れた所で停車した。
男性のうち一人が老人を連れてその車両へ向かって走ってくる。
それを確認したのか、先頭車両を攻撃した二つの影のうち一つが老人へと飛び掛る。
それは、彼の頭上を越えて、三台目の車のボンネットへ着地した。
車内の女性が悲鳴を上げる。
隣に座っていた少女二人は自分達に架かっていたシートベルトに手を伸ばすと、それを外そうと試みた。そうしている間に、ボンネットに降りた影は老人へと向き直っている。
「あなたが大西龍三郎ね」
それは女性の声だった。全身を鳶色の装甲に包んだその女性は、車から降りると老人の下へ歩を進める。女性の装甲は、表面にざらつきが認められた。そしてブロック化するように分かれた装甲が、ベルト状となって体中に巻きついているようだった。
それが、それぞれ回転を行いだす。不吉な駆動音が鳴り響いた。
背の低い少女、篤子はシートベルトを外すと弾かれるように車外へと飛び出した。
そしてそのままの勢いで襲撃者の女性に向かっていく。
「ふざけんな!!!」
そう叫んだ篤子の前にもう一つの影が立ちはだかる。静流は秘書の女性と共に、彼女を庇いながら車から降りた。
目の前には錆びついたような装甲を伴った人物が新たに立ちふさがっている。
その右手は肘から先が巨大なチェーンソーとなっていた。
虫を思わせる足が、身体側面からいくつも生えている。段々の甲殻を持つその姿はまるで巨大な百足のようだった。
「どいてろ小娘」
「お前がどけや」
そう言い放った篤子の身体が青いフレーム上の光に覆われていく。その後ろで、静流の身体もまた同様の光を放っている。
それを見た百足の男は、自分の右手を目の前の少女に振り下ろした。
この日、新たな事件が起った。
それは一つの試練を乗り越え絆を深めた少女達にとっての新たな試練の幕開けでもあった。
少女達は出会い、その関係を深めていく。
これから待ち受ける困難に立ち向かうための強さを、得るために。
新章突入。がんばるぞい
2/17 静流の台詞修正




