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装殻甲戦アニマトゥーラ  作者: どといち
第一章 月下にて鬼と犬は猛る
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第二十四話 手と手の間にあるもの

 目が覚めた葵の眼に、柔らかな光が飛び込んでくる。


 それは、普段ならば特に気にも留めないほどの明るさだったろうが、今の葵には酷くまぶしく感じられた。


 葵は、見知らぬ部屋のベッドの上で眠っていたようだ。

 いつの間にか、自分の服装が入院患者が着る様な、片側が紐で閉じられた服に変わっている。

 起き上がろうとして、上手く身体が動かないことに気づく。どのくらいの間眠っていたのだろうか。目の辺りがむず痒い。

 右手で目を拭こうとして、葵は、がちゃりという音と共にそれが出来ないことに気づく。

 自分の右手を確認する。そこには点滴が刺さっていた。

 

 そして音の正体は、右手首にピッタリとくっ付いているいる手錠だった。


 その手錠は、ベッドの枠へとつながれていた。


 葵は左手の甲を自分の顔の上に置く。ようやく、自分の置かれている状況が分かってきた。

 葵は、病院のベッドの上で右手を拘束されていた。自分と妹がやってしまったことを思い出し、それを考えれば逃げ出さないようにするには当然のことの様に思えた。


 そしてはたと、自分を命がけで守ってくれた親友を思い出す。

 彼女はどうなっただろうか。葵はなんとか首だけを動かして周囲を見回す。


 病室は清潔に保たれている。右側の窓からは暖かい光が差し込んでいた。

 ベッドは葵の分も含めて二つ置いてある。


 果たして彼女はそこにいた。葵から見て左側のベッド、そこで凛音は静かな寝息を立てながら眠っていた。自分同様、入院着を着ているようだった。


 葵は心から安堵した。絆創膏を顔に貼っているが、凛音は元気なようだった。

 自分同様、点滴が右手に刺さっている。


「凛音ちゃん……」


 葵は隣で眠る少女に声を掛ける。小さな声だったが、少女は敏感に反応した。その眼が開く。


「葵!」


 眼が覚めた少女は寝ぼけたままの顔でこちらを向くと、隣の少女が起きていることに気づき、声を上げる。そのまま凛音は起き上がろうとして、その顔を苦痛に歪めた。


「痛てて……」


 左の脇腹に手を添えながら凛音は持ち上げかけたその身体をベッドに戻す。


「凛音ちゃん……良かった。無事だったんだね」

「葵……葵は大丈夫なのか?」


 凛音は心配そうに葵を見つめる。


「わたしが何とか降りて行った時は、それはもう酷い有様だったぞ……」

 葵は自分が倒れる前の状態を思い出す。ホラー映画顔負けのスプラッター状態だったように思える。


「多分……平気」


 凛音は葵が倒れてからこれまでの状況をかいつまんで説明してくれた。

 葵が美央を倒した後、僅かに回復を始めた体を引きずって校舎を降りていったこと。

 そこで倒れている葵と、半分に折れ曲がっている美央を見つけたこと。

 すぐに善治達がやってきて全員病院に担ぎ込まれたこと。

 美央はおそらく警察病院に連れて行かれたとのこと。


 そして自分達二人は、凛音の強い希望で同室での入院となったことを葵は知った。

 凛音の傷は、治りつつあったが、急激に体力を消耗したため、動くことは困難だと言うことだった。

 葵のあれは、脳へ負担を掛けすぎたためだろう、と説明された。


 最後に凛音は、手錠は全力で抗議したけど、外せなかったことを葵に詫びてきた。

 葵は、窓を破って逃げるようなことをしたんだから当然だよ、と笑って返す。


「あれからどのくらいたったの?」

 凛音は壁にかかっている時計を確認する。

「多分まだ、半日くらいだ」


 半日、あの夜からまだ一日もたっていない。

 葵は窓の外の様子から、まだお昼前だと推測していた。

 身体を持ち上げることが困難な葵には、壁の時計は良く見えない。


 時計を見ようとして四苦八苦していた葵は、それを諦めて脱力した。

 そして、ぽつりと呟く。


「赤犬……ううん、私達が傷付けてしまった人たちに、きちんと謝らないと」


 そう呟いた葵の言葉に凛音は申し訳なさそうな顔で話す。


「それは、出来ないかも……。葵が赤犬だって事は、秘密にしておかないといけない」

「…………そう、なんだ。きびしいね」

 謝ることも出来ないなんて。葵は続けてそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。


 その姿を見て、凛音はその目を強く閉じると、意を決して話し始めた。


「今回の件だけど、葵の護衛と監視役として、わたしや他の何人かが候補に挙がってた」

 凛音は静かな口調でその話を続ける。

「境遇や、同い年の子だって話を聞いて、わたしは直ぐにその話に飛びついた」

 葵は黙ってその話を聞いている。

「一緒に居て守ってあげれば、もしかしたら仲良くなって……」

 凛音は、一瞬そこで言葉をつまらせた、そして耐え切れなくなったように葵に背を向ける。そしてそのまま


「友達になってくれるんじゃないかなんて、考えてたんだ」

 吐き出すようにそう言葉にした。


「わたし、葵を守れなかった。逆に守ってもらっちゃった……」

 凛音の声はどんどんか弱くなっていった。

 

「葵の為なんて言って、本当は自分のために葵と一緒に居たかっただけだ」

 か細い声で凛音は言った。


「わたしは、結局葵を悲しませただけで、幸せにしてあげられなかった」


 少女の背中は、いつかの様に震えていた。それを見て、葵は次に出てくるであろう言葉を察した。


「葵、ごめ……」

「ありがとう凛音ちゃん」


 葵はその言葉をさえぎる様に言葉を発する。


「凛音ちゃんは私を、私達を止めてくれたよ」

「でも……」

「蝿の人には、やりすぎちゃったかもだけど」

 そういって葵は笑った。その笑みは、ほんの少し意地悪な、いたずらを含んだ笑みだった。


「確かに、私はまだまだ幸せなんかじゃないかも」

 葵はいたずらな笑みを浮かべながら話す。


「でも、凛音ちゃんが大好きな特撮ヒーローは、皆を最後には幸せにしてくれるんだよね」


 その言葉を聞いた凛音は、葵に背を向けたまま、こくりと頷いた。


「じゃあ、まだまだこれからだよ」

 そういって葵は笑った。今度は心からの笑みだった。


「私たち、一緒に過ごせる時間はまだまだこれから沢山あるよ」

 凛音が葵の方を向く、眼がほんの少し赤く染まっていた。


「そしてその最後の最後に、私を幸せにして下さい」

 その言葉に、凛音は驚いたように目を開く。


「私の、大切な、大切な親友ヒーローの凛音ちゃん」


 親友ヒーロー


 その言葉に凛音はたじろいだ。自分は果たして、その素晴らしい言葉に相応しい存在なのだろうか。

 凛音が答えに窮していると、葵はそんな彼女に向かってすこし考えるような仕草を見せた後、こう問いかけた。

 

「私たちの戦いは?」


 葵が笑いながら、左手を凛音に向けて伸ばす。

 尋ねるようなその言い方に、凛音は思わず吹き出してしまう。それが脇腹の傷に響いたため、軽く声を上げた。それを聞いて葵がごめんと呟く。

 凛音はそれを軽く制すると、問いかけへの返答を行った。


「これからだ……!」


 凛音も笑いながら、右手を葵に向けて伸ばした。


葵の左手。凛音の右手。二人の手が、ゆっくりと伸ばされる。ベッドの上から動くことの出来ない二人の間に存在するその距離は、伸ばされたそれらの手よりも遥かに長い。


 二人の手は、ベッドの間で止まった。その手を繋ぐことは出来ていなかった。


 だが、確かにその手は繋がっていた。伸ばされた手と手の間には、目には見えずとも存在する、確かなものがあった。


 葵は凛音の顔を見つめて微笑んだ。それは柔らかな、慈しみを湛えた笑みだった。

 凛音もまた、葵を見つめ、微笑み返した。強い意志が、その瞳に宿っている。

  

 二人の間を繋ぐもの、人はそれをなんと呼ぶのか。


 やがて、病室の音から複数の足音が聞こえてくる。葵と凛音はそれが自分達の病室へ向かう人々の足音だと気づいた。


 葵と凛音は互いに僅かな不安を覚えた。これから、自分達は一体どうなるのだろうか。離されていしまうのだろうか。

 だが、その不安は互いの微笑によって即座に打ち消された。


 決して離れたりはしない。たとえ距離が離れたとしても、二人は自分達の間にあるものは断ち切れたりはしないと信じた。

 

 そして、これから先の未来を信じようと、葵は思った。大切な家族、そして親友と共に歩む未来を信じようと思った。

 凛音もまた信じた。葵と彼女の妹が自分と共にある未来、そしてその世界が広がる未来を信じた。



 病室に差し込む温かな陽光が、二人の手と手の間をやさしく照らしていた。



 絆を、照らし続けていた。





※ちょい長め


ゼロから書き始めてなんとか一区切りのところまで到達することが出来ました。

ひとえに、今まで読んでくださった皆様方のおかげでございます。


初めての長編という事で、登場人物は当初の予定から削りに削ってかなり少なくなりました。

最初は、書く予定の次章からの登場人物とかが絡む予定でしたが、彼女らが削れた所為でギャグも大幅に削れてしまいました。やはりコメディリリーフは物語には必要ですね。


というわけで、次からはギャグが増えるんではないかなーと考えています。

更新は毎日は難しいかもですが、もしよろしければ、暇なときにでも私の拙文を読んでいただけるのでしたら幸いです。


ここまで読んでいただき、誠に有難う御座います。

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