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装殻甲戦アニマトゥーラ  作者: どといち
第一章 月下にて鬼と犬は猛る
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第十二話 凛音の誓い

 葵が検査を受けている頃、わたしは善治と共に共有スペースのベンチに並んで座って待っていた。

 人はまばらだ、しかしその全てが、今回の件の関係者だった。

 

 周囲の安全を確認すると、わたしは今までの活動報告を善治に行った。

 

 報告を終えて、わたしは善治に尋ねる。


「なんでこんなことになってる」


 わたしの役目は葵を守ることだ。

 でもそれは、赤犬の蛮行からであって、その力を狙う輩の襲撃からではないはずだ。

 襲われた以上、必ず守るのは、決まりきったことだが。


「本当に、すまない。どこからか情報が漏れた」

 善治は、10歳以上も歳の離れた私に向かって、躊躇い無く頭を下げる。


「どこまで漏れたんだ」

「最上君の素性と、赤犬の、極僅かな情報だけだ」


 極僅かと言っても、奴の情報は、恐らく装甲に関わる人物全てにとって魅力的に映るに違いない。

 この分野の研究では、毎年のようにノーベル賞が授与されている。


「漏れたのが不特定多数の勢力ではないことは断言できる。今のところ敵は一人だ」

「今のところ……な」


 わたしは深くため息を吐いた。

 情報の価値を考えれば、わざわざ競争相手を増やす理由も無い。

 だがそれも、時間が経てば話が変わる。


 善治を責めても、こいつだけの責任ではないし、何の解決にもならない。

 わたしは、再び深く息を吐くと善治に質問をする。

 

「それで、敵の正体に見当はついたのか?」

「ああ、わずかに観測できた変身時の波形と、今回の手口から一人浮かび上がった」


 善治は鞄の中からクリアファイルを取り出すと、その中身を手渡してくる。


「アニマ主義のテロリストで、通称は『魔王蝿(まおうばえ)』だ」


 魔王とは、随分大層な名前だ。


「男なのか?」

 私は手渡された資料に目を通す。

 殆どが『UNKNOWN』となっている。

 見るだけ無駄かも。


 資料をめくっていくと最後のページには、かなり不明瞭ながらも魔王蝿と思わしき姿の

 写真が載っていた。


 一言で表現するならば、人型のでかい蝿だ。


 私が言うのもなんだが、かなり不気味な姿をしていた。

 教科書などに載っている、蝿を顕微鏡で拡大した写真を思い出させる。


「見た目以外の装甲の情報は?」

「一切無い」


 状況は圧倒的に不利だ。敵の武器が分からない以上、出くわした際の危険度は増す。

 対してこちらの攻撃手段は先日の騒動で把握されてしまっているだろう。

 わたしの場合、相手に遠距離に徹された場合、少し厄介だ。

 だが、どんな状況だろうと、勝って見せる。勝たなくてはならない。

 その点では、どちらでも同じことだった。

 

「そいつは分かっている限り、単独で動く。どこかの組織に属しているという話も無い。

 だが、かなりやっかいな奴で、関わった事件こそ多いが姿を見せたことは少ない」

 善治の説明が続く。


「手口はこうだ。まず、ターゲット周辺の情報を集める。ある程度の情報収集を終えたら

 今度は目標周辺に装甲獣をばら撒いて様子を見る。その際混乱を助長させて逃げるため

 か、ジャミングを好んで併用する」


 なるほど、確かに装甲獣からのくだりは、今回の件そのままだ。


 私が最初に向かった先では、装甲獣の探知、警報の作動が正常に行われていた。そいつが葵のいる方向に逃げた際も、きちんと作動した。にも関わらず、葵が襲われた時には一切探知が行われなかった。

 葵の話では、携帯の電波も妨害されていたようだ。


「何故わざわざ装甲獣を使うんだ? こいつは何が狙いだ」


「こいつが狙うのは、今回の件のように新たに発見されたアニマトゥーラの情報だ」

「今回の件……赤犬の情報か」


 赤犬。

 葵から、周囲の人間を遠ざけた原因。


「アニマトゥーラの力を確認するには、実際にその力が振るわれている所を確認するのが

 最も情報が集まる」


 だから、装甲獣をけしかけるのか。自分が戦わなくても良いように。

 最高に迷惑なやつだ。

 それに最低のやつでもある。


 アニマトゥーラが発現する際の条件は、人も動物も変わらない。



 死の間際。

 それを拒絶する意思が装甲の力を引き出す。



 万人が目覚めるわけでは無いし、たとえ素質があったとしても即死では発現しない。


 葵に説明したように、装甲獣は変身した時点でもう長くは保たない。

 今回の事件のように突然現れて暴れた、ということはつまり、放つ直前で犬を瀕死状態に追い込んでいるという事に他ならない。それも今回だけでも2匹。


 わたしは猫派だが、それとは関係なく胸糞の悪い事実だった。


「赤犬の力、やっぱり特別なのか」

 厭な気分を振る払うためにも、会話を続ける。


「以前説明したと思うが、世界的に見て初の部分が多い。解明が進めばアニマトゥーラの

 理解はいっそう深まるだろう」


「脅威もな」

 善治は、続けてそう呟くと、わずかに目を細めた。


 やつの装甲は、今まで世界中で確認されたどの装甲とも違う特性を持っていた。


 その力の秘密の一端を、わたし達は既に解明していた。

 だからこそ、公にするわけにはいかない。


 特別な力を持つ方法がわかれば、それと同じ力を手に入れようとする人間が出てくるだろう。それは、アニマトゥーラの発現方法が判明してからの歴史を見ても明らかだ。


 既に発現したアニマトゥーラに変化を与えられる方法が見つかっていない以上、実験のため死に追いやられるのはまだ力に目覚めていない人間だ。

 そして恐らく、力に目覚めた後にそれをコントロールしやすい子供が多く使われるだろう。


 傷つくであろう誰かのために。


 そして何よりも葵のために。


 絶対に赤犬の秘密は渡すわけにはいかない。



「最上君の様子はどうだった」

 善治が話題を変える。いや、変わっていないのかもしれない。


「ショックだったのは間違いないと思う。わたしもちょっとやり過ぎたし」

 彼女が襲われているのを見て、自制が効かなくなっていたのは間違いない。

 あの程度の装甲獣だ。冷静だったなら、もっと上手いやり方、綺麗なやり方で処理出来ていただろう。


「葵が襲われたのは、赤犬を引きずり出すためか」

 赤犬の行動原理は極めて単純だ。


 葵を傷付けたものを、傷付ける。


 むしろ、あの状況で奴が出て来ないことのほうが異常とも言えた。


「確かなことは何も言えないが、赤犬は、前田君が向かって来ていることを察知していた

 のかもしれない」

「もしくは、状況を怪しんで、限界まで待っていたのかもな」

 

 しばらく会話が続き、いつの間にか検査が終わる時間が近づいていた。


 わたしは葵を迎えるために席を立つ。


 絶対に、守ってみせる。

 そう心に誓いながら。

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