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学校バリケード  作者: おくら
1/1

Day1 生徒会の問題児①

私がこの手記を書こうと思ったのは他でもない。この1年の間に起きた最悪の出来事を記録・保存し、次の世代へと引き継ぐためである。幸い、私には日記をつけるという事を日課にしていたため、一連の出来事を細かいところまで正確に思い出すことが出来る。今思い返せば、これ以上ない、長い、辛い1年間であったように思う。


そう、全てが始まったあの日―――



蝉が鳴き始める季節、朝一番に学生寮を出た私は、真っ先に2年7組の教室へ向かった。時刻は午前7時5分。いつもより早く来たのは、朝っぱらから呼び出しを食らったからだ。念のために言っておくけど、先生に叱られるわけではない。

「優希!遅いっ!!5分遅刻だぞ」

教室に入るなり私を怒鳴りつけたのは大川勇人。ウチのクラスでは一番の天才、人望も厚く、真面目で人気者で・・・とにかくザ・優等生君なんだけど、なんだけどね・・・・なんだけどね・・・・・・うん、まぁそれはあとで言うとして

「いったい何の用?朝っぱらから呼び出しといて」

私は勇人に抗議をした。軽い気持ちで言ったつもりだったんだけど、彼の答えは真面目だった。

「今度の人員整理で、大月警察署の警察官が1割減るらしい」

「・・・・」

「ホント・・・なの?」

「ああ、市役所に努める親父の情報だ」



何で私達高校生ごときが、警察署の、それも人員整理なんて話をしているのかって?まぁそれにはふかーい訳が・・・。


時は21××年。日本の社会が衰退し、政府の力は衰え、「日本」という国が国際社会で孤立しつつある時代。そんな中、大幅な国家公務員数削減が行わた。それらが地方にも波及、各地で警察官が不足するという事態に陥った。当然のごとく、そこら中の治安は悪化。事件の発生数は増加するが検挙数は減少するという異常な現象が日常となった。このような社会情勢を背景として各地でとある条例が成立し始めた。

それは


児童及び生徒の自己防衛に関する条例


ここでこの法律の無能さについて長々と語ってもいいんだけど・・・まぁ割愛するとして、

一言で言うと

小中高校生の武器使用を認める条例

ってこと。ついでに言うと、子供同士の武器使用は良いけど、大人に向けるのはダメ。

自己防衛とはよく言ったものね。中身は面白いくらいの低俗で無能な条例。おかげで私たちの青春は丸つぶれ。常に殺される危険に晒されることになったわけ。

そこで大部分の学校では生徒による防衛隊が組織され、授業もおろそかにして自己防衛という名の軍事訓練が日々行われ、時々学校間紛争さえ起こる始末。だけどウチの「聖翔学園」は例外。小学校から高校までエスカレーター方式で進級できる聖翔学園は極端に生徒数が多いため、警察が優先的に見回りをしてくれてるから安心。まぁ聖翔の学長の財力がバックにあるとかいう黒い噂も絶えないけどね。



―――だったはずなんだけどね

「・・・そろそろヤバいかもな」

勇人は教卓の前に立ってそう呟いた。

ヤバい=警察にだけ頼ってるわけにはいかない

「うちの生徒会は何やってんだか」

「仕方ないじゃん。今の生徒会は完ぺきに保守派の集まりよ。まさか聖翔にも防衛隊を作ろうだなんて言うはずないわ」

「だけどここまで来たら動かざるを得ないんじゃないか?」

ここ1年、聖翔学園の生徒の間にも『防衛隊を作るべきだ』という革新派と『作るべきではない』と主張する保守派の論争が続いている。そして防衛隊を作る権限は今、生徒会に委ねられているのだ。

もちろん、法律で。加えるとほとんどの学校防衛隊は使われる武器や訓練等の費用は寄付団体でまかなわれている。

「さぁね、今週中には人員整理の件は生徒会に伝わるだろうから、様子を見るしかないんじゃない?」

「お前はいっつも能天気だよな」

「お言葉が悪うございますね。これでもちゃんと考えてるんだからね」

「ほう。ではどうしようと?」

教卓の前で教師を気取った勇人が私を見下ろしてくる。ほんとにこいつは周りっくどい。最初からそうと言えばいいのに。

「勇人も思ってるんでしょう」

私は彼の目を見上げてこう言った

「やっぱ生徒会長に直談判しかないっしょ」




「じゃあ今日は、夏休みの宿題配るぞー」

なかなか美人で男子からの人気が高い先生だが、授業も終盤に差し掛かったこの時ばかりはクラスからブーイングが起こった。

「静かにっ!あんた達だって分かってるんでしょうが!毎年のことじゃない」

確かに、聖翔学園の夏休みの宿題は鬼・・・を通り越して地獄のゲテモノと閻魔様を集めてきた様な、要するに殺人的に多い。地獄のゲテモノがどんなのかは知らないけどね。

まぁそんなに多いからなのかどうかは知らないけど、夏休み2週間前のこの時期から宿題が配られるのが恒例となっている。



ブ―――――


授業終了を示すブザーだ。この学校はなぜかチャイムではない。何か鐘に恨みでもあるのだろうか。

ともかく6限目終了を示すこのサウンドは、生徒たちにとって解放の象徴である。

―――もっとも今日の彼らには異常な宿題という足かせが付いているけれども

「ん?あなた達は確か・・・」

そう言って彼女は、万国共通のこめかみを抑える仕草をした。

「ああ、そう。7組の大川君と・・・えーっと・・・」

どうやら思い出せたのは相方の名前だけの様だった。

仕方なく自分から名乗る

「栗田ですっ」

「ああ、そうだ、栗田さん。確か二人とも学級委員だよね。学年会議のときに見た顔だなーと思ってたのよ。」

彼女は長年の疑問が氷解したような表情を見せた。あ、ちなみに学年会議っていうのは、中等・高等部の全クラスの学級委員が集まって行われる一大生徒会議のこと。

「あたしは、ご存じだろうけど生徒会長の上西茜。よろしくね」

そう言って生徒会長の上西茜は首を傾けてニコッと笑った。十中八九、この笑顔を見た男子は心を奪われるだろう。もっとも、今私の隣にいる勇人には効果ゼロだけど。

生徒会長もやっているんだし、もっと真面目で固い人だと思ってたけど、ただの思い込みだったようね。笑顔が眩しいぜっ。

「それで、二人とも何の用?」

そうだった。肝心な目的を失うところだった。

「ええ、実は真面目な話があって」

そう前置きして、私は今朝、勇人から聞いた話をかいつまんで説明した。ところどころ抜けているところは勇人が補足をする形だ。

話を聞き終わって早々、茜は顔をしかめてこう言った。

「あたしもそう思うわ」

この返答は私たちにとっても意外なものだった。てっきり保守派生徒会のけん引役だと思っていた彼女が私たちに同意してきたのだ。

「というと?」

勇人が話を促す。

「実をいうとね、今生徒会でも揉めてるわけ」

それは知らなかった!生徒会なんて保守派の一枚岩だと思い込んでいたけど。

「生徒会は全部で12の役職があって、生徒会長、生徒会副会長が2人と、会計、企画、生徒活動、それに初等・中等・高等部の代表と副代表と会計補佐で全部で15人。そのうち兼ねている人が3人いるから実質デイト階にいるのは12人。そのうち初等部の3人を除いたとして、革新派と言われているのがあたしを含め4人、保守派も4人、中立派が1人。人数的には五分五分ってわけ。」

「それじゃあ何で生徒会は保守って・・・」

察しの悪い私の代わりに勇人が言った

「それなら保守の方が強いな、普通」

「え?勇人、どういうこと?」

「だってそうだろ。上西さんが防衛隊を作るって提案をしても、多数決で半数以上を取らなければならない。それには初等部の連中を除いた9人のうち5人の賛成が必要。でも実際は革新派が4人。これじゃ永久に無理だ。」

勇人はまるで教科書を音読するかのようにすらすらと言った。

「大川君の言うとおり。追加するとリーダー格の副会長2人と会計が保守派にまわってるから余計状況は不利ね」

確かに直近の副会長2人に反旗を翻されているのはつらい。

「ちなみに中立派の説得は試みなかったのか?」

「それなんだけどねー、大川君は生徒活動委員に就いているのが誰だか知ってる?」

「確か・・・五木って子じゃなかったか?9組の」

私も勇人も生徒会委員の名前くらいは覚えている。

「そう、五木麗(うらら)。2年9組でテストは常にトップクラス、運動神経も抜群なんだけど・・・」

なんだけど?

「口は悪いわ態度は悪いわ、何でもやり放題の困ったやつで」

ああ、そういう系ね。私と勇人は一様に納得した顔になった

説得も何も、生徒会活動には参加していないわけだ。

「でもじゃあ何で生徒会に立候補したんだ?」

「それなのよねぇ。あたしも何度か聞いたんだけどはぐらかされるだけで」

何か裏がありそうね、と思ったのは私の勘である。

「じゃあ、初等部の子たちは?さっきは勘定から外してたみたいだけど」

「ああ、それは、初等部の子は決定権が無いのよ。参考意見として話を聞くことはあるけど、生徒会の多数決では中等部と高等部の委員しか参加しないわけ。」

「これこそ八方ふさがりだな」

八方ふさがりか・・・・。そうだ、いいこと思いついちゃった

「ね、二人とも、これから時間ある?」

「時間ならあるわよ。今日はバスケ部はオフだし」

「あーオレも暇だぞ」

二人とも時間はあるようだ。

もっとも

「あ、物理の欠点課題やってね」

と呟いたのは勇人だ。彼は本気になれば校内模試1位を取るような天才なのだが、普段の定期考査じゃ平均以下の成績しか出さない。五木麗とは違う意味で困ったやつだ。

でもそんな呟きは聞かなかったことにして、提案。

「今から、五木さんのところに行ってみない?五木さんに革新派に入ってもらえれば過半数取れるじゃん!」

「・・・」

「マジかよお前!オレはそんな不良とまともに話す気にはなれねぇぞ」

「まぁまぁ、大川君。せっかく栗田さんがこう言ってくれてることだし、行ってみましょうよ」

2対1。しかも女子二人に言い寄られて勇人も断りきれなかったようだ。

「わ、分かったよ。そこまで言うなら。だけど上西さん、これで五木ってやつに嫌われても責任取れないからな」

「もう嫌われてるかもしれませんし、そんな心配ばかりしていたら生徒会長は務まらないわね」

さらっと吐かれた毒に勇人は返す言葉もなかった。


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