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第五話 開戦前

2020年皇歴1275年8月18日

ラーバス海峡 通称アルメニス回廊


ラーバス皇国が存在するラグアナシア大陸とラーガスタ大陸の間には幅凡そ250km程あるラーバス海峡が存在する。

ここはかつて行われたアルヴェニア解放作戦の際、ラーバス皇国本国軍の兵站を担い勝利に導いたことから、時の皇帝アルメニス12世にちなんでアルメニス回廊と呼ばれている。

だがその聖域とも言うべきアルメニス回廊の深度150mには鋼鉄の鯨が潜んでいた。

その名を『伊-518攻撃型原子力潜水艦』。

伊-500型攻撃型原子力潜水艦の最新鋭艦だ。


伊-518は二週間前にこの海峡に潜入している。目的はこの海峡を行き来する船舶の調査だ。その伊ー518の発令所では艦長の山口中佐がこの海峡を行き来した船舶の情報を頭で整理していた。


(二週間前に潜入してから船の数が増えている…)


二週間前に潜入した時は僅か2~3隻程度だったものがついさっき10分前に通っていったのはのべ60隻近い船団が航行していったのだ。明らかにただの船団ではない。


「艦長、曳航ソナーが探知。本艦前方に推進器音複数を確認しました」


「また定時哨戒(巡回)か…」


聴音手が艦の前方から哨戒部隊が来たことを告げる。だが伊-500型の静粛性の高さは他の攻撃型原子力潜水艦と比べ非常に高く探知することが非常に難しい。


(だが妙だ…定時哨戒は一時間に一回…三十分前に来ている…増やしたのか?)


山口は三十分前に定時哨戒が来ていたことを思いだし怪訝に思う。


「これは…?四軸推進?」


「何?数は?」


「一つ…一つ確認」


(哨戒じゃない…増援…?大陸へ?)


山口は一つだけ確認された四軸推進艦について考えていたが哨戒部隊にしては不釣り合いだ。

哨戒なら駆逐艦数隻程度で済む。だが四軸推進となると大型艦が多い。増援と考えるか否かである。


「進路は?」


「…アルヴェニア方面……かと」


(当たりだ(ビンゴ)。やはりアルヴェニアの植民地艦隊への増援だな)


「距離は?」


「凡そ2万5千」


「通信長。敵艦隊通過後、統合参謀本部に打電」


「はッ!」


山口は聴音手からの報告でアルヴェニア方面へと向かう増援と判断した。

丁度その頃、上空500kmの場所に位置する画像偵察衛星がこの艦隊を捕捉し、その姿を写真に収めていた。


2020年皇紀2780年8月18日

大日本帝国 帝都東京都

国防省統合参謀本部統合作戦指揮所


「本部長」


「何だ?」


国防省地下一階に存在する統合作戦指揮所の大型モニターに表示されている友軍の展開状況を見ていた長谷川に副官が声をかける。


「『海峡』を監視している伊-518より通信です。例の大型艦の情報です」


「そうか…やはりラーガスタ大陸か?」


「はい。間違いありません」


大型モニターを見ながらそう答える長谷川。大型モニターにはデータリンクにより友軍や満州共和国軍の展開状況が表示されていた。


「レールガン搭載艦を出し惜しみしたのが痛いな」


「ええ。摩耶は第二空母戦闘群(加賀空母戦闘群)の護衛。鳥海は原因不明の爆発事故の調査中。長門と陸奥は本土防衛部隊…最悪ですね」


レールガンこと18式152mm電磁投射砲は2018年に採用された新型砲システムで搭載されているのは改妙高型ミサイル巡洋艦の摩耶と鳥海。そして長門型ミサイル巡洋艦の長門、陸奥だけでそれ以外はイタリア製、アメリカ製、国産の57mm~127mmまでの速射砲であった。本来なら改妙高型の高雄、愛宕にも搭載予定であったのだが予算の都合上によりそれは実現されなかった。


「確かに。全く…衆民党の馬鹿共が。旭日維新の連中の言う通りになったな」


「全くです」


「だが…」


副官が長谷川の言ったことに相槌を打つ。だが長谷川の視線は大型モニターのある一点を見ていた。

そこにはこう表示されていた。




『IJN SSGN-I-42』




と。


「死神の攻撃…耐えられるかな?ラーバス海軍?」


長谷川は不適に微笑みながらそう言った。


長谷川が不適に微笑んだその二日後。


ラーガスタ大陸で遂に日満連合軍とラーバス皇国本国軍との戦いの幕が切って落とされることになる。



2020年皇歴1275年8月18日

ラーガスタ大陸西方100km 南ラーガスタ海

大日本帝国海軍第2空母戦闘群旗艦加賀


改赤城型原子力航空母艦の加賀は改妙高型ミサイル巡洋艦摩耶、秋月型防空駆逐艦照月、白露型汎用駆逐艦夕立と共に第1航空戦隊第2空母戦闘群を構成している。

その加賀には空母情報センター、通称シヴィック(CVIC)と呼ばれる部署で第2空母戦闘群司令兼ラーガスタ大陸派遣艦隊司令の笹井少将はCVICのボスである浜田中佐から報告を受けていた。


「間違いないのか?」


「はい。間違いありません。例の大型艦は『シャルンホルスト級巡洋戦艦』に酷似しています」


「巡洋戦艦…これまた厄介というか何というか…山崎大佐。この巡洋戦艦、撃沈できるか?」


笹井は苦笑いしつつ第2空母航空団司令の山崎大佐に巡洋戦艦の撃沈は可能かと聞く。だが山崎は真顔で撃沈は難しいがそれなりの損害を与えることが可能だと答えた。


「もし撃沈したいのであれば飽和攻撃を弾薬が尽きるまで繰り返すか、運よく対艦誘導弾が弾薬庫に直撃するよう祈ればいけると思いますが?」


ちなみに搭載している対艦誘導弾は最新の08式超音速空対艦誘導弾だ。大和中央重工や国防省技術研究所などが本気を出し(英国面をこじらせて)て作った最新型で最終到達速度がマッハ5(音速の5倍)という驚愕の早さであることから米軍からは『超音速の槍スーパーソニックランサー』という愛称がある。


「それは駄目だ。今後の作戦行動に影響が出る」


真顔で山崎大佐の提案にNGを出す笹井。いくらでかいといっても弾薬には限りがある。

現在加賀が搭載している第2空母航空団はF-14EJスーパートムキャットゼロBlock40を16機、F/A-18EJスーパーホーネットBlock5+を16機、F-2E/FヴァイパーゼロBlock10+を28機、E-2C改及びEA-18GJグワウラーBlock5+を8機、SH-60Lスーパーシーホークを8機運用している航空団で、F-14系統を運用している数少ない航空団のうちの一つだ。


「こりゃ各戦隊司令を集めて会議だな…」


「それしかありませんね…」


日本海軍ラーガスタ大陸派遣艦隊は

第一艦隊よりミサイル巡洋艦高雄、愛宕、汎用駆逐艦白露、村雨、春雨、綾波を主力とする第二戦隊

第二艦隊よりミサイル巡洋艦妙高、足柄、汎用駆逐艦陽炎、不知火、五月雨、涼風を主力とする第四戦隊

第四艦隊からはミサイル駆逐艦天津風、時津風、汎用駆逐艦雪風、時雨、山風、海風を主力とする第五戦隊が、航空艦隊からは加賀を旗艦とする第2空母戦闘群と瑞鶴を旗艦とする第4空母戦闘群から成っている。


1300(ヒトサンマルマル)。会議室に各戦隊司令を集めてくれ。こいつを沈めるか否か……決めるぞ」


「はい」


笹井は嘗て戦闘機乗り時代トムキャット・ライダーであった頃の目でそう言った。


(うまくやれるか…俺にはわかりません。ですが…見ていてください、『隊長(長谷川本部長)』)


「さて…俺達連合艦隊を…舐めるなよ?三流海軍」


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