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第四話 展開開始

皇歴1275年8月6日

ラーガスタ大陸旧アルヴェニア王国現ラーバス皇国植民地アルヴェニア


嘗てラーガスタ大陸随一の王国であったアルヴェニア王国は10年前のラーバス皇国との戦争においてその圧倒的な戦力によって敗北した。だがアルヴェニア国内ではラーバス皇国との戦争が始まる5年ほど前から不景気で王家に対する不満が高まっていたところにラーバス皇国が宣戦を布告。当初は地の利や優秀な将兵もあり踏ん張ったが無能な将校や腐敗し贅沢の限りを尽くしていた貴族階級の者などが国内にひそかに入国させていたラーバス皇国の工作員により兵站や補給所に対する攻撃などで疲弊し敗北。その後は当時の国王が自身の愛娘をアルヴェニア王国海軍に託し国外へ脱出させたのだ。



ラーバス皇国植民地アルヴェニア


アルヴェニア植民地軍は7月におけるラーガスタ大陸解放作戦――と言う名の植民地化――で大陸東部に進出。しかしそこで思いもよらないことが起きた。満州共和国軍による反撃だ。満州側からは侵略行為とみなされたためだ。その結果6個師団もあった植民地陸軍は現在2個師団半にまで減少。頼みの空軍は壊滅。その結果植民地軍は唯一無傷であった海軍を除き現在治安維持部隊として扱われていた。

現在この地には本国軍や他の植民地より派遣された軍が展開していた。展開している部隊は本国軍や本国に近い植民地より派遣された陸上兵力6個歩兵師団と2個機甲旅団。航空戦力は5個航空団が展開。だが更に皇帝アルメニス12世が虎の子ともいうべき本国軍最精鋭の2個機甲師団と2個歩兵旅団を追加派遣。想定外の派遣があったため現地では多少混乱があったもののそれを除けばかなりの規模となっていた。

そのためラーバス皇国兵、将校、そしてラーバス皇国の民はもうすでに勝った気でいて、アルメニス12世をはじめとしたラーバス皇国中枢部の人間に至っては連日連夜で晩餐会状態となっていた。だが何よりラーバス皇国兵、将校が勝った気でいたのは兵力の規模もそうだが彼らには非常に頼もしい新型主力戦車…AKT-72戦車の存在だ。この戦車は強力な52口径125mm滑腔砲と非常に高い防御力を誇る新型装甲である複合装甲で身を包んでおり、名実ともにラーバス皇国最強の戦車であった。

またもう一つ彼らが期待しているものがあった。それは空軍の新型戦闘機LF-27であった。これは今まで主流であった単発戦闘機とは違い大型双発戦闘機で機体形状もこれまでは筒に翼とエンジンを載せたようなモノが多かったがこの機体だけは流線型であり運動性能が非常に良い機体であった。


一週間後…

皇歴1275年8月13日

ラーガスタ大陸東部付近


現在ラーバス皇国陸軍は大陸中央部に向けて進軍していた。先頭に第21歩兵旅団から抽出した第8大隊が先鋒を務めその後方に旅団本隊、それに続く形でラーバス皇国陸軍主力が布陣しゆっくりと前進していた。だがこの時点ですでに彼らはある意味負けていた。なぜなら自分たちの勢力圏でありながら『監視されている』のだから。


『SAシエラアルファ、S本部シエラHQ。敵大規模部隊を発見。送レ』


『こちらS本部シエラHQ。了解した。そのまま監視を継続せよ。終ワリ』


2020年皇紀2680年8月13日

大日本帝国関東地方…のどこか


場所は変わり大日本帝国の関東地方。一都六県からなり帝都である東京都もここに属している。そしてこの関東地方のある場所には統合参謀本部ですらほんの数人しか知らない施設が存在する。ここは日本が運用している12の衛星のうちの一つだけ偵察衛星がありその管制施設である。


「主任。大陸で動き有です」


「何があった?」


「規模は不明ですが敵大規模地上部隊が東進を開始。現在大陸中央部に向け進軍中」


「フム…『S』からの報告通りだな」


「如何いたします?」


「私から本部長と国防大臣に報告する。纏めといてくれ」


「了解しました」



2020年皇紀2680年8月13日

大日本帝国帝都東京都国防省統合参謀本部

地下一階 統合作戦指揮所


「それで、何か分かったことは?」


緊急会議が開かれることとなった統合参謀本部の地下一階に設置された統合作戦指揮所では山内総理大臣をはじめとした関係閣僚が集結していた。


「は、『S』及びDIHからの報告では大陸中央部に向け敵大規模地上部隊の展開を確認。また航空部隊も多数確認されています」


そう報告したのは今年の4月に統合参謀本部長に就任したばかりの長谷川だ。


「つまり連中は…交渉するつもりはない…と?」


「それはまだ…何とも…」


山内首相からの問に諏訪大臣は何とも言えない表情で言う。


「…恐らく今月中には開戦となる。諏訪大臣は継続して和平交渉を。鶴嵜大臣と長谷川本部長は部隊に対し即応待機命令を」


「ひとつ聞きたいが敵空軍の運用ドクトリンは?また敵海軍に動きはあるのか?」


「敵空軍の運用ドクトリンは現在情報収集中なので不明です。ですが――これは私の私見ではあるのですが――恐らく地上部隊への航空支援のため地上部隊の後方に布陣すると思われます。また敵海軍ですが現在動きはありません」


元海軍の戦闘機乗りで撃墜王であり元第一航空戦隊司令でもあった長谷川は衛星写真からある程度の敵空軍の展開状況などからドクトリンを推察していたが正しいとは思っていない。


「敵艦隊が本土近海に現れた場合の対処は?」


「恐らく通商破壊に出るでしょうからまず攻撃型原潜による攻撃。そして航空攻撃。最後に艦対艦及び地対艦誘導弾による攻撃でたたきます。最も敵がそこまで戦意があればの話になりますが…」


長谷川は本土近海に現れた敵艦隊迎撃の手段を話すがそれは漸減戦術であった。しかし長谷川は潜水艦と航空攻撃だけで終わると予想していたが、それは敵艦隊が散開しなければの話だ。現在の哨戒網は戦時体制に入っているためアリ一匹入るスキは無い筈である。



皇歴1275年8月13日

ラーガスタ大陸東部付近


ラーバス皇国本国軍第2師団第22旅団旅団長のテリヤ・ファン・ルース大佐は仮設旅団本部のテントの地図を見て状況を確認していた。


「旅団長」


「なんだ?」


「師団本部より通信です…本日12:30(ヒトフタサンマル)に師団本部に集合との事」


「そうか…わかった。下がって良いぞ」


「は、失礼します」


伝令からの報告に頷くと再びテリヤ大佐は再び地図に目を落とした。地図には現状の友軍部隊の展開状況が三角の駒で表されていた。


(ふむ、前線部隊は予定通り中央部に再進出。敵襲に備え陣地構築を始めた…か)


最前衛である第8大隊からの通信報告で知らされていた彼は自分が率いる旅団を含めた味方部隊の位置を予想して駒を置いていた。

ふと安物の腕時計――植民地ではそれさえ貴重品である――を見た大佐は時間を確認し副官を呼び出した。


「すまないが車を出してくれ」


「了解しました」


彼は本部テントを出て陣地を見回しながら陣地構築――と言っても簡単なもの――状況を見ながらため息をついた。なぜなら彼の所属する第2師団はトラックやジープが殆どを占めた、すなわち自動車化歩兵師団だ。他の師団や旅団は装甲車――それも無限軌道型――配備されているのにだ。また最新のL-72 180mm重野砲にL-81 240mm重野砲、BKB-16 100mm対戦車砲と言ったものが最優先で配備されているのに対し、第2師団には『旧型』の烙印が押された牽引式火砲であるL-11 88mm軽野砲やBKB-5 76mm対戦車砲が師団最大の火砲――前者に至っては元対空砲――であった。またやや劣るもののL-65 122mm榴弾砲、L-71 155mm榴弾砲と言った十分な威力を誇る牽引式野砲があるのだがそれさえ配備してもらえなかった。

だがそれは仕方がないことであった。なぜなら第2師団自体が懲罰部隊で人員は問題児だらけ。装備に至っては植民地軍でさえ運用していないポンコツ装備。幸い小銃や車両は正式採用モデルであったが。


第2師団本部に向かうジープの後部座席でテリヤ大佐はラーガスタ大陸の風景を見ながら思考の海に落ちていた。


(恐らく我々の部隊の動向だな…使い潰しか、後方支援か…前者だな。大方、我々を敵に突っ込ませてそのあとに本国軍主体の本隊を突撃。徹底的に使いつぶす…これしかないだろうな…それに我々は懲罰部隊…我々が壊滅したところで――)


「…さ、たい…、大佐」


運転手の声でテリヤ大佐は思考の海から現実へと意識が引き戻される。


「あ、あぁ、すまない。ありがとう。ここで待っててくれ」


「は」



同日

ラーバス皇国陸軍第2師団本部テント


第2師団は問題児が多くを占めているように師団長もまた(ある意味)問題児であった。第2師団長は元々ラーバス皇国軍参謀本部に勤務していたエリートであったが先の失敗――ラーガスタ大陸征服――の責任を取らされ本国軍第2師団長にされたのだ。


「第2旅団長、テリヤ・ファン・ルース。出頭しました」


「来たか」


師団長はテリヤ大佐をまるでゴミでも見るような目で迎えた。


「命令が下った。我が師団は第8大隊と共に前衛に出る。先陣は…貴様の隊だ」


やはりか――テリヤ大佐はやはり予想通りの命令に渋々と言った感じで了承する。


「は…ッ」


この新しい師団長はエリート意識が高く本国では上級貴族階級出身で、参謀本部へも政府の要職に就いている親のコネで入ったのだ。その為――本国軍であったのが唯一の救い――懲罰部隊である第2師団長は屈辱的であり、輝かしい戦果を挙げて再び参謀本部へと返り咲く…この構図がすでに出来上がっていた。そのためなら第2師団配下の部隊ですら切り捨てるような男だ。

何より一番気に入らないのは目の前のテリヤ・ファン・ルースと言う男の存在だ。この男は士官学校を出てもいないのに大佐と言う、自分が参謀本部時代より高い階級を持つことがあり得ないのだ。と言っても自分自身も師団長であるため少将――形は違うが――と言う階級を手に入れたので多少の優越感はあるが。


「では頼むぞ、テリヤ・ファン・ルース大佐」


「失礼します」


テリヤ大佐はそういうと師団本部を出て外で待機していたジープに乗り込む。するとバックミラーでテリヤ大佐の表情を見た運転手――元植民地軍所属――はそれとなく声をかけることにした。


「どうでした?」


「む?」


「いえ、お疲れのようでしたので…」


「ああ、気にしなくて良い」


「は、はぁ…」


(さて、となると現在構築中の陣地――と言っても塹壕だけなんだが…――は大方3割ほどが完成しているから放棄しても大丈夫だろう…問題は…)


テリヤ大佐は頭の中で今後の方針を考えていた。ただ彼の頭の中では今回の敵、野蛮な大日本帝国と満州共和国と言う国の事であった。なんとなくだがとんでもない国を敵に回してしまったのではないか?そう思っていた。


それが杞憂であると願って。


だがテリヤ大佐の杞憂は一週間後に外れ、ラーバス皇国は滅亡のカウントダウンが秒読み態勢に入ったことに今、誰も気が付かなかった。



2020年皇紀2680年8月14日

ラーガスタ大陸 大日本帝国ラーガスタ大陸派遣軍 司令部


大日本帝国軍が編成したラーガスタ大陸派遣軍は全部隊が展開を完了。現在は待機状態にあった。一方満州共和国軍は陸軍第一軍団、空軍三個師団プラス二個航空団を展開させていた。

第一軍団は二個歩兵師団と一個機甲師団、二個旅団戦闘団を中核としており機甲師団には極東三大主力戦車――日本の90式、中国の99式、満州の97式の事――である97式戦車だ。この戦車は満州の国産戦車であり、第三世代型主力戦車でもある。

空軍三個師団(一個飛行師団に付き三個飛行隊編成)も西側主力のF-15系統F-15EM/FMやF-16系統F-16EM/FMと言った第一線級の機体を運用している。この他にもE-2C AEWやE-737 AEW&Cと言った早期警戒機や早期警戒管制機も充実している。


ラーガスタ大陸派遣軍司令部は大型のテントが八個ほど四×二で並び、そこに

『大日本帝国ラーガスタ大陸派遣軍司令部』と書かれた木製の看板が立て掛けられている。

そのテントの下では多数のデジタル通信機器や設置型大型状況表示端末や各種データリンク装置一式が設置されており通信兵や幕僚が走り回り装置の調整や情報整理などを行っていた。


「状況は?」


ラーガスタ大陸派遣軍総司令、山下昇大将はパイプ椅子に座った状態で幕僚の一人に司令部設置状況を聞く。


「は、既に九割が完了。あとは14式通信指揮車と接続すれば大丈夫です」


こういった軍団規模での作戦指揮をとれるのは本土の国防省地下中央作戦指揮所ぐらいで通信指揮車にはせいぜい師団規模までの通信指揮能力しかない。その為専用の設備を外付けと言う形で運用することで軍団規模での作戦指揮能力を付与することができる。


「そうか…なるべく急がせろ」


山下はそう命じると自身は腕を組むとそのまま目を瞑り、思考の海へと意識を落としていった。

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