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第二話 戦乱近づく

2020年皇紀2680年8月1日

大日本帝国帝都東京都千代田区

内閣総理大臣官邸


「―――私だ。諏訪君か。どうした?」


『――――――』


「そうか、アルヴェニアの姫君は無事なんだな?。それで、先方には?」


『――――――』


「わかった。では私も近いうちに予定を開けて挨拶に行くとしよう。うむ。頼むぞ」


大日本帝国の首都である東京都。その中心部であり、日本の中央権力機関の密集地でもある千代田区には、皇居はもちろんの事、国の司法権の最高機関である最高裁判所、総理大臣官邸、内閣府庁舎、内閣官房庁舎、外務省庁舎、財務省庁舎、経済産業省庁舎などが存在し、国の立法機関である国会議事堂も存在する。

その中の一つである総理大臣官邸の最上階の五階にある総理執務室で、第99代内閣総理大臣、山内仙蔵はスーツ姿で執務を行っていた。

つい先ほどかかってきた電話の主は山内内閣で外務大臣を務めている諏訪健助大臣からであった。

内容は皇国(大日本帝国)の数少ない同盟国、亡国アルヴェニア。その姫君がつい先日発見され保護されたという内容で、詳細は国防大臣の鶴嵜勘三郎から報告書と本人からの暗号電話で既に知っており、諏訪大臣からはその姫君を無事アルヴェニア政府へ生存報告をしたという報告を伝えるためであった。


「しかし…一件落着、とはいかんだろうなぁ…」


とぼやきつつ机の上に置かれた厚さ1センチ程のA4サイズの書類の束を見る。表紙には

『㊙ 新タナ世界ニ関スル報告書 

   作成:内閣府特務機関『忍』 

   作成日:西暦2017年(皇紀2677年)4月1日』

と書かれていた。


(まさか、今は既に廃れた侵略国家が存在するとは…)


山内はその報告書の中にあった気になる記載…侵略国家の存在を匂わせる項目があった事を思い出していた。


(忍からの報告が正しければこの世界は我々がいた地球と比べ大きい。

そして現在われわれが把握している国家はわずか二割程度…その中にはアルヴェニア王国を滅ぼした『ラーバス皇国』なる侵略国家の存在…その国の面積と人口は中国とほぼ同じ。軍事技術は1970年代半ばに相当する…。そしてその間にはラーガスタ大陸と呼ばれる資源が豊富な大陸の存在。その埋蔵量は単純計算で1500年分。レアアースやレアメタルなどの希少鉱物も豊富。そしてアルヴェニア王国は西部に位置し自然豊かで豊富な海洋資源と豊富な鉱物資源で成り立っていた…対しラーバス皇国が存在する大陸には資源がほとんどなく植民地から徴収して維持をしている…か)


「それに加え、大陸東部、すなわち日本海側にはペルシャ湾の350倍もの石油が眠る…か。全く出来の悪い冗談だ…」


報告書の中身はあらかた読み終えほとんど頭の中に入っている。とは言え覚えておいて損はないが侵略国家は御免だと思っている。大体こういった場合宗教狂いか、○○人(○○には人種が入る)至上主義、或は目先の利益だけだ。


「いずれにせよ、戦乱は避けて通れそうにないか…」


山内はどことなくこの先、自分が総理大臣を務めている間にラーバス皇国と戦争に近い紛争か何かが起きるのではないかと言う将来が見えていた。

書類の束を机の引き出しに仕舞おうとしたその時、執務室のドアがノックされた。


「入っていいぞ」


「失礼します。総理、そろそろ国家安全保障会議(NSC)の時間です」


そう言いながら入室してきたのは秘書官であった。


「わかった。今日の内容は?」


「先日、ラーガスタ大陸東部で発生した満州共和国軍と謎の武装勢力との軍事衝突と今後の対応策です」


「そうか…」


実は先日、満州共和国の北部の国境が推定戦力6個師団、2個航空団に突破され満州共和国軍との間に発生した戦闘のことだ。この出来事はニュースで大きく報じられ、多くの日本国民や満州国民が驚愕し恐怖したニュースだ。結果は満州側の圧勝で終わったが被害のほうは甚大で、満州北部にあった都市が甚大な損害を被り、人員も推定でも軍民合わせ1万5400名が戦死傷、あるいは行方不明であった。特に満州共和国陸軍北部国境警備隊に至っては壊滅と言う設立以来初の大損害であった。

これから行われるNSCはどうするのか。またNSCで協議した結果を踏まえて非公式で日満首脳会談を行う予定となっていた。




皇歴1275年8月1日

ラーバス皇国皇都ゲルリヒト

ミルヴァス宮殿


大日本帝国から遥か北西に位置する大陸国家、ラーバス皇国。

この国は北部に険しい山岳地帯が、南部と東部は比較的なだらかな平地が広がっておりそこを中心に繁栄している。皇都であるゲルリヒトも例外ではない。

しかし繁栄とはいってもフランス(パリ)イタリア(ローマ)の様な街並みではなくどちらかと言えばスラム街に近いものがあった。もちろん新市街地区や歓楽街などあるにはあるが何れも観光地と呼ぶには乏しく、どちらかと言えばすすきのを『薄暗く』したような感じだ。

しかしそんなラーバス皇国だが唯一、誇れるものがあった。それはミルヴァス宮殿でこれだけはヨーロッパのヴェルサイユ宮殿やバッキンガム宮殿のように美しい外観に豪華な内装であった。この宮殿が建築されたのはラーバス皇国が嘗てまだ王国と呼ばれていた時代に作られたもので王歴835年の革命戦争後も現在まで残されている。

その宮殿の一室、その部屋はラーバス皇国の誇りともいうべき記念会議室が存在する。その中には過去に合った戦争…王国時代から続く戦勝の証が無数に飾られている。それはラーバス皇国軍最高名誉勲章であったり、ラーバス王国最高名誉騎士勲章と言ったかなり高位な勲章や賞状、過去の戦争で活躍した陸海空軍部隊の写真に、歴代のラーバス皇国皇帝の写真が飾られていた。そしてここはなんと金のない平民でも無料で入ることが唯一許された場所でもある。

しかし今日はその記念会議室にいるのは平民ではなくこの国の皇帝、アルメニス12世をはじめとした重要人物ばかりである。


「諸君、本来なら本日はこのような会議を開く日ではないことを承知しているだろうが我が内務省諜報機関が蛮族の残党の居場所を特定した。また蛮族をかくまう愚かな連中の存在も確認された」


そしてこの会議室で無数の勲章を制服に付けた男性、ラーバス皇国内務卿が会議の開始早々に宣言した。


「内務卿、それは真か?」


「はい。報告を聞いた私自身未だに信じられません。あのような蛮族をかばうとはあやつらの頭がおかしいとしか言いようがありません」


「内務卿、一つ聞くがアルヴェニアの様子はどうだ?あそこは未だに我々に刃向う愚か共がいると聞くが?」


「その点は心配ございません陛下。植民地アルヴェニアの反抗分子どもは鎮圧しつつあります」


「そうか、朕は嬉しいぞ」


「ハハッ!ありがたき幸せ」


皇帝がそういうと内務卿は礼をした。何時も無表情であることから『冷血』と言われたその顔には皇帝に褒められた事が嬉しいのか微笑んでいた。


「軍務卿、聞くが植民地軍のほうはどうだ?大陸侵攻作戦は順調だろうな?」


「ご心配ありません陛下。すでに植民地軍は大陸中部までを支配下に置きました。ですが…」


皇帝は次に軍務卿に現在進行中のラーガスタ大陸侵略作戦の進捗具合について聞く。指名された軍務卿は最初は何事もなく答えるが途中で口ごもる。


「む?申してみよ」


「はぁ、それが大陸中部まで進攻したのはよろしいのですが…その…そこから先に全く進んでおりません」


「それは…どういうことだ。軍務卿?」


軍務卿の口から出た言葉に皇帝は語尾を強く、かつ怒りを孕ませながら聞く。


「は、はぁ、そ、それが侵攻中に突如正体不明の軍勢に遭遇し、植民地軍の主攻6個師団のうち3個師団が半壊。またこれを支援すべき空軍も2個航空団が大損害を被り、現在膠着状態です」


おびえながらも答えた軍務卿。その顔は汗が大量に吹き出し、ややおびえているようにも見える。だが皇帝は軍務卿の顔から本当のことを言っているものと判断した。なぜなら彼の服の胸の部分にも大量の勲章が並んでおり、その中には皇帝自身が授与したものもあるからだ。そして何より軍務卿は嘘をつくことが苦手であった。


「植民地軍司令部からの報告に嘘はないんだな?」


「は、はい。私自身が四回も確認させました。ま、間違いありません」


「そうか…軍務卿」


「は、はい…」


「今回は許す…しかし…次はないと思え。良いな?」


「ッ!!」


皇帝の一言。その一言は心を槍で突くように、鋭い。


「さて、では増援を送らねばなるまい…外務卿、君はどう思う?」


「はぁ、大陸中西部以降は我々の勢力圏外のため憶測ですが…国が存在するのではないか…と」


「分かった。軍務卿、ラーバス皇国皇帝アルメニス12世の名において命ずる。わが本土軍及び最寄りの植民地より増援部隊6個師団2個機甲旅団。空軍5個航空団をラーガスタ大陸へと派遣せよ」


「ハハァ!!」


この会議で上がった正体不明の勢力。それは日本より5年早くラーガスタ大陸東部に転移を果たした満州共和国陸空軍による反撃であった。最初の通報は満州共和国軍国境警備隊からであった。当初は国境を突破されたが満州陸軍第二軍団、満州空軍第七、八航空師団が到着してから戦況は一気に満州側に傾いた。

彼らは米国製『M1A2改』、フランス製『ルクレールAZUR』や日本製『90式戦車改』などと言った戦後第三.五世代型主力戦車やF-15M改、F-16E/Fブロック60/62、MIG-29ファルクラムなどの第四、第四.五世代型主力戦闘機の活躍で数で勝るラーバス皇国植民地軍を質で圧倒しわずか2日と三時間ほどの戦闘で勝利した。


軍務卿は皇帝が下した決断、それが自分に与えられた最初で最後の名誉挽回の機会だと認識しながら礼をする。





もし失敗すれば…命はない。





2020年皇紀2680年8月1日

大日本帝国帝都東京都千代田区

内閣総理大臣官邸地下


官邸の地下一階に存在する会議室。そこでは日本の安全保障を決める会議、大日本帝国国家安全保障会議が開かれていた。通常は国防大綱策定などでは4大臣会議などだが今回は緊急性が高いので9大臣会議で山内内閣の大臣すべてが参加しており今回は長谷川国防省統合参謀本部本部長、山田陸軍参謀総長、山本海軍軍令部総長、吉田空軍司令官に永田国家安全保障局局長、及び国家安全保障局戦略班、同じく戦略情報班。そして内閣府特務諜報機関『忍』の連絡役が参加している。


「では、これより国家安全保障会議を開催します」


全員そろっていることを確認した進行役である陸軍中佐が開催を宣言した。


「まずは諏訪大臣。満州にいる邦人で連絡が取れたものは?」


「はい。現地大使に問い合わせ確認させました。現在満州にいる邦人の数は凡そ470名。このうち連絡が取れない者は今のところ確認はされておりません」


「そうか…それで満州国内にいる邦人は保護しているんだな?」


「はい。と言っても先ほど申し上げた通り現在連絡が取れた邦人のみですが…」


まず、満州にいる邦人すべてと連絡ができるのか、また安全は確保しているのかどうかであった。


「そういえば今満州には演習中の陸軍がいるんじゃないのか?」


「鶴嵜大臣」


「はい。現在満州には第四師団、第一空挺団、そして泣く子も強制的に黙らせる第二海兵旅団戦闘団が転地、及び満州軍との共同軍事演習を行っています。襲撃時には全部隊に警戒配備に移行していましたが現在は通常配備に変更。演習は一部内容を変更して行っています。邦人の保護は主に海兵隊がやってくれました」


現在日本は陸軍、海軍、空軍に次いで海兵隊を有している。このうち陸海軍は戦後に昭和天皇陛下からの命により組織が再編成された『新編大日本帝国軍』だ。また空軍は大英帝国王立空軍(ロイヤルエアフォース)――略称『R.A.F.』――を参考に組織され、海兵隊は1970年代後半にアメリカ海兵隊をモデルに組織している。この海兵隊は元々は海軍特別陸戦隊を再編成したものだがその際に『独立した』組織として編成されている。なので日本は『アメリカに次いで二番目に独立した海兵隊を有する国家』として知られる。


「そうか…海兵隊には感謝しなければな」


「まったくです」


「総理、このことは既にマスコミから国民に知れ渡っています。一部文屋(新聞社)は国民を焚き付けていますが…」


「それに日満安全保障条約もある」


日満安全保障条約とは米露冷戦時代に締結された条約で満州共和国にワルシャワ条約機構の構成国である中国、或は旧ソ連のどちらかが軍事的に進行してきた場合、日本が防衛のために動くものだ。異世界転移後もその条約は機能しており今回満州に攻撃が加えられたため満州政府の要請でこれが発動する可能性が高かった。


「はい。満州が下手に報復を叫ばなければいいのですが…もちろん我が国のメディアも含めますが」


「無理だな」


山内は半ばあきらめたように言う。実際国内のメディアには(主に新聞社)あれこれ書いて国民を先導するのが得意なメディアがあり実際日本国民を扇動しており、国会の前では座り込むデモが起きていた。幸いにも規模も小さく、石ころや腐った生卵を投げつけるなどと言った行為が行われていないのが救いで、警備に当たる警視庁機動隊に所属する隊員には唯一の(精神的な)救いとなっている。


「ですね」


「とは言え、いずれ国会に出す必要がある。最も十中八九可決されるだろうが…」


「となりますと、情報収集をしなければ」


「それに作戦立案に指揮系統の統一。動かす部隊の転地計画…」


「実は、今回の満州北部の攻撃に関して言っておきたいことがある」


腕を組み発言がいつもより少なかった山内が意を決したようにそう言った。山内はサッと『忍』の連絡担当官に目を向ける。それを受けた連絡担当官はうなずくと


「ですがその前に配布したい資料があります」


と言う。それを受けて総理秘書官は資料をすばやく閣僚や軍部の人間に配る。その資料は山内が受け取ったものと同一の物であった。


「総理…これは…?」


「私がだいぶ前に忍から受け取ったものだ」


「中身は?」


「読めば分かる」


山内にそう言われた関係閣僚はその資料を読み始める。資料の方はあらかじめ用意していたものらしくいくつか省かれてはいた(ラーガスタ大陸の資源など(一部公表済みのため))が、ラーバス皇国のことなどの国家などに関してはそのままとなっていた。

資料を読み終えた内、数人(主に軍関係)が手を震わせていた。


「総理…まさかと思いますが…この資料に記されている事は…本当ですか?」


「そうだ」


「満州の王大統領はこの事を?」


「いや。彼は知らない。だが、遅かれ早かれ向こうも気づく。満州にも優秀な諜報機関が存在するからな」


「確かに。彼方の諜報機関はCIAを元にしているからな」


「あの、話が脱線しているような気がするので今後の方針を決めませんと」


咳払いと共に進行役がそういうと閣僚達は思い出したかのように『あ…』と言った。


「軍部は動かす部隊の選定、情報部は忍と協力し情報収集を強化。また満州の諜報機関に情報を提供するように」


「経産(経済産業)大臣。国内の石油などをはじめとしたエネルギー資源の備蓄はどうか?」


「はい。石油をはじめとして国内の備蓄は大丈夫です。と言っても今のところ十年分ですが」


「十分だ。農水(農林水産)大臣。食料は?」


「はい。国内の備蓄は既に確保済み。ラーガスタ大陸様様です」


「財務大臣。すまんが…」


「はぁ…良いでしょう戦費の1兆円や10兆円くらいひねり出してみます。最も、帝銀(帝国銀行)含めその他諸々から陰口叩かれそうですが」


ある意味日本最大の天敵ともいうべき財務省(旧大蔵省)の財務大臣は渋々そういう。口ではそれなりのことを言っているが山内の頭の中では既に戦時体制時の緊急予算案の原案を組み立て始めていた。




同日

ラーガスタ大陸

満州共和国首都新京市国会議事堂


満州共和国大統領の王は既に大統領府内の閣僚会議室で関係閣僚を集め国家緊急安全保障会議が開かれ既に議会へ提出する案が出来上がっていた。むろん、日本との間に結ばれている日満安全保障条約の発動も含まれている。王大統領自身も自国の軍は信用しているのだが量と言う点からみれば小さい(それでも陸海空合わせて凡そ50万ほどあるのだが)。

そして王は今、自身が大統領に就任して以来…いや、満州独立後第二次大戦以来となる二度めになる戦争に入ろうとしていた。

後は議会で決議案が可決されるのを待つのみとなっていた。だが王は今とてつもなく疲れていた。それは今政権野党である人民党の党首があれこれ言っているのだがそのすべてが『的を外れた』発言をしており、議長はおろか、この場にいる全員が『お前はいったい何を言っているんだ?』と言う疑った目で見ていたからだ。


「閣下」


「何だ?」


「実は…」


「本当か?」


王が内心呆れながらも顔には出さないようにしていたが、彼の秘書官が耳打ちをする。


「はい」


耳打ちの内容は外務省からであった。









「所属不明勢力より『最後通牒』と思われる通知を確認したとのことです」

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