第九話 ラーガスタ大陸戦車決戦―序章―
大変お待たせしました。
それと連続投稿第一弾になります。
2020年皇紀2680年8月20日
大日本帝国帝都東京都
国防省統合参謀本部統合作戦指揮所
「ラーガスタ大陸派遣艦隊旗艦『加賀』より入電中…敵艦隊を撃破!!」
その報告に統合参謀本部の作戦指揮所では管制官や長谷川本部長が安堵した。
「やりましたね」
「ああ。だがこれからが正念場だ」
「敵の機甲師団と機甲旅団からなる敵主力の撃破…ですね?」
「そうだ」
長谷川は作戦指揮所の大型モニターを見ながらそう言う。モニターには敵の幾つかの部隊をつぶしたことを示す×印が付いている中、その後方の機甲部隊には指一本触れられていなかった。
日満連合軍の戦略は四段階に別れておりまず、
第一段階、敵飛行場を空爆し航空優勢を確保。
第二段階、空軍の近接航空支援による陸軍の援護及び出てくるであろう敵艦隊の撃破。
第三段階、海兵隊による敵飛行場の占領及び、敵部隊側面での陽動。
第四段階、敵主力部隊――機甲部隊――との決戦。
の四段階を用意してあるがもし、ラーバス皇国がこれでも停戦ないし講和に応じない場合、後二段階の作戦を実行に移して無理矢理停戦会談の椅子に着かせる。
現在は第一段階から第二段階の敵艦隊撃破までを終え、現在は空軍の近接航空支援を継続して行っている。ここで海兵隊が敵の飛行場を占領した場合、派遣している飛行隊を幾つか占領した飛行場に移し航空支援を継続させ、戦力比率を5:5までに持っていく。
だがここに来て想定外の事態が発生していた。それは攻撃ヘリとレシプロ攻撃機による攻撃であった。幸いにもレシプロ攻撃機と攻撃ヘリは各旅団、各師団配備の高射砲兵部隊保有の地対空誘導弾と車載型・設置型地対空レーダー、E-10J『ジャッジマン』や衛星とのデータリンクにより位置を正確に把握し未来予想位置に誘導弾を発射して撃墜しているが、今後の戦略を鑑みると邪魔になることは明白である。
そのため現在は元を潰すためS――帝国陸軍特殊作戦群――にまだ把握していない飛行場がないかどうか探させている。
2020年皇紀2680年8月20日
ラーガスタ大陸 ラーバス皇国本国軍勢力圏内
大日本帝国陸軍特殊作戦群SA
「時間合わせ、5秒前。3…2…今」
「時間合わせ良し。移動開始」
ラーガスタ大陸のラーバス皇国本国軍の勢力圏内ではSこと、陸軍特殊作戦群の部隊が動き始めていた。
まだ太陽が高いうちに行動を開始した彼らはラーバス皇国本国軍の勢力圏内の森林地帯で早くも風景に溶け込んだ。
彼らの装備は陸軍の一般兵が使用しているものとなんら変わりない。敢えて言うならば観測用の機材に攻撃目標指示用のレーザー照準器、対戦車無反動砲に対戦車誘導弾を装備している。
彼らの最初の任務はラーバス皇国本国軍の動きを地上から偵察し伝えることと、ラーバス皇国軍の補給路に対するゲリラ攻撃だ。
航空優勢を失い守勢に回ったラーバス皇国本国陸軍は特殊作戦群による補給路に対する攻撃により疲弊しており、そこに日満連合空軍による近接航空支援と日本陸軍お得意の機動打撃戦術によりラーバス陸軍歩兵師団や歩兵旅団を引っ掻き回していることもあり日満連合軍側の予想を上回る損害を与えていた。
彼ら陸軍特殊作戦群は公式に存在しており、彼らが関わった作戦や事件は殆どが不明とされているが幾つか確実なのは、カルト教団の撃滅作戦や朝鮮連邦との国境紛争、イラクでの対テロ作戦だけでそれ以外は謎に包まれている。
2020年皇紀2680年8月20日
ラーガスタ大陸 日満連合陸軍
戦車部隊集結地点
Sこと陸軍特殊作戦群が動き出した頃、日満連合陸軍の機甲戦力は前線集結地点に集合していた。
日本陸軍第7師団は重歩兵旅団戦闘団として再編成された第3師団を編入し戦力を確保している。第七師団は90式戦車改を主体とした二個機甲旅団戦闘団を主力としておりその数は250両にも及ぶ。傘下に二個機械化歩兵連隊を有しており、その車両も89式歩兵戦闘車Ⅱ型や73式装甲車改、03式装輪装甲車(12.7mm重機関銃搭載型)といった日本軍主力の装甲車が配備されている。
一方の満州軍も機甲戦力を整えていた。戦車こそ混成だが何れも強力な97式戦車、ルクレール、M1A1Mエイブラムズからなる混成機甲師団だ。97式は日本の90式戦車をベースに開発された満州初の国産戦車で、正式採用されたのが97年ということで日本ではマンシュウチハと呼ばれている。装甲車は日本製の89式歩兵戦闘車、アメリカ製M113A3が主力を務めている。
第7師団は重歩兵旅団戦闘団として再編成された第3師団を編入している為、部隊を再編成し、第71、72戦車連隊、第11機械化歩兵連隊、第71砲兵大隊、第1偵察中隊からなる第71機甲旅団戦闘団と第73、74戦車連隊、第12機械化歩兵連隊、第72砲兵大隊、第2偵察中隊の第72機甲旅団戦闘団の二個旅団戦闘団に加え第31、32重歩兵旅団戦闘団の四個旅団戦闘団編成でこれに補給部隊や後方支援大隊に師団及び各旅団本部が付き、陸軍航空隊から第7航空隊が付く。
第7航空隊はAH-64DJロングボウ16機とAH-64EJガーディアン16機、観測攻撃ヘリAOH-1Aニンジャ・スペシャルを6機の計38機もの戦闘ヘリ及び観測ヘリを運用している。そのヘリ部隊も集結地点に工兵隊や設営隊が突貫工事で作ったヘリポートに全機集結している。
一方で満州陸軍も派遣している第2、第5機甲師団はそれぞれ3個機甲連隊と2個機械化歩兵連隊を主力とする機甲師団で、戦車の数は日満合わせて凡そ740両近い。これだけの戦車を集中する事は殆ど無い上、戦車戦自体湾岸戦争の73イースティングの戦い以来だ。
皇暦1275年8月20日
ラーガスタ大陸中央部
ラーバス皇国本国軍派遣軍団本部
ほぼ連戦連勝の日満連合軍とは違いラーバス皇国本国軍派遣軍団本部では憂鬱な空気が目に見えそうな勢いで支配していた。
それは開戦初日の友軍飛行場空爆に始まった敵の予想外の攻撃であった。
いきなり飛行場を破壊されたかと思えば、敵空軍と陸軍の連携の取れた組織的攻撃。それに加え後方の補給路に対するゲリラ攻撃。極めつけは敵空軍による補給所や通信所を破壊されたことによる指揮系統の寸断及び物資不足による士気の低下。
この日満連合軍の予想外の反攻に軍団司令官エーウッド・ワルドレイン大将は頭を抱えていた。
通信網に補給所、補給路を破壊され手足を半ばもがれた状態の本国軍ではその行動が徐々に縛り付けられており、そこに植民地艦隊が敗北したという報告が入る。
幸いなのが本国陸軍主力である機甲部隊が未だ無傷と言うことだ。
そこでワルドレイン大将は機甲部隊を前に出し敵軍との決戦を決意した。空軍も二個航空団がアルヴェニアに無傷の状態で残っているし、最新の双発ジェット攻撃機を有する航空隊もある。まだ負けたわけではない。
うまくやれば五分までにはもっていけると判断した。
「機甲部隊全隊に連絡、決戦を仕掛ける。それとアルヴェニアで待機している航空団を前進させろ!!無事な基地はあるか?」
「は、我々の後方に1つだけあります」
「よし、そこを空軍の活動拠点とし、敵空軍と敵海軍に攻撃を与える。機甲部隊は現在いる地点から前進し、歩兵と共同しt…」
「将軍!!飛行場ラ・デルとの通信が途絶!!」
「そうか…そう長く持たないだろうと思っていたが…」
航空優勢を失いながらも最期の時まで旧式のレシプロ攻撃機と攻撃ヘリからなる航空部隊による敵軍への攻撃を続けていた古い飛行場との通信途絶の報告を聞いたワルドレインは心の中で敬礼を送った。
最後の最期まで戦い続けた戦士たちに。
「これで、頼みの空軍は二個航空団のみですな。それに前線部隊には航空支援が一切無い状況が続きます」
「ここで騒いでも何も始まらん。既に此方の戦略は破綻。なら戦術で何とかしなくては」
幕僚達とワルドレインは何とかして敵に一矢報いようと持てる限りの知恵を出し合う。その最中、通信兵が電文を持って現れた。
「将軍、テリヤ大佐の部隊より報告が…」
「なんだ?」
「旅団相当の部隊を確認したとの事です」
「何だと!?間違いないのか!?」
「間違いありません…」
「くそッ…テリヤ大佐に伝えろ。『我方、余剰戦力無し。現行の兵力で対処せよ』だ…」
「は、では…」
「それと…『追伸。許せ』」
「…承知いたしました」
ワルドレインは苦虫を噛んだような表情で電文を持ってきた通信兵にそういった。彼がもし第二師団の一旅団長でなければワルドレイン自身、彼を自分の右腕として従えたかったが、その願いは叶いそうに無いと悟った。
この電文が交わされたのはラーガスタ大陸戦車決戦が始まる2日前のことであり、後にアルファス半島の戦いと言う日本帝国海兵隊初の敗北の戦いとして歴史に刻まれることになる。
皇暦1275年8月20日
ラーバス皇国皇都ゲルリヒト
ミルヴァス宮殿 皇帝の部屋
アルメニス12世は自身の部屋で、アルヴェニアの植民地艦隊が敗北したと言う報告を軍務卿から聞いたが、珍しく怒鳴ることは無くそのまま退出を許した。
一方、軍務卿は内心では何らかの処罰が下るものとびくびくしていたが今回何も処罰が下らなかったことに逆に恐怖していた。
それには理由があり、アルメニス自体、植民地艦隊の敗北を聞いても何とも思わなかったこと、またアルメニスが進めている海軍増強計画で建造された大型巡洋艦のルブラシアが沈められたという報告でショックを受けたこと。そしてつい最近、気分が良くなると言う『薬』を服用していたことであった。
アルメニスが執務机でどうしたものかと頭を悩ませていた時、ドアをノックする音がした。
「陛下」
「む?開いているぞ」
「陛下、『導師』がお会いしたいと…」
ドアをノックし、アルメニスの自室に入ったのはアルメニスの腹心にして右腕の宰相であった。
「おお!そうかそうか。それで今導師はどこにいる?」
「はい。現在応接室でお待ちしております」
「うむ。では、伺うとしよう」
宰相は導師が来たということを伝えると、アルメニスは嬉しそうな表情を見せそう言う。
宰相の言う導師とは5ヶ月前にアルメニスに接触してきた人物だ。常に黒いローブを着ており、表情は常に伺えないが、声からして男性と言うことだけがはっきりしている。
そしてアルメニスが最近服用し始めた薬もこの導師がアルメニスに与えたもので、彼に大日本帝国と満州共和国という国の存在と場所を教えたのも彼だ。ただし、この2カ国の国力と軍事力などを伏せて、だ。
直ぐに身なりを整えたアルメニスは自室の直ぐ隣にある応接室へと繋がるドアを開ける。
「やぁ導師、お待たせして申し訳ない。さ、どうぞどうぞ」
笑顔で客人である導師を迎えるアルメニス。導師は座っていたソファーから立ち上がり会釈をし、アルメニスが座るように勧め、自身も向かいのソファーに座る。
「いえいえ、陛下もお元気そうで何よりです」
「ええ、導師がくださった薬もあってか、最近気分がスッキリとしていましてな」
「そうですか、それは良かった。ところでラーガスタ大陸の方はどうでしょうか?相当苦戦なされているようですが…」
「うむ。だが『神の矢』の投入も余の権限で決定させた。これで逆転できるだろう」
「そうですか。それは何よりです」
その後も二人は会話を交わす。だが、アルメニスは気づいていなかった。そのローブの内側では声の主である導師は哀れむように微笑んでいた。導師、そして『導師の上司』や『あの方』からすればアルメニス皇帝は全て此方の手のひらで踊ってくれる都合の良い操り人形でしかないのだから。
そしてアルメニスがつい最近、と言っても2日しかたっていないが服用している薬…その薬は最初は気分がスッキリし、気分が高揚する魔法の薬だが、服用すればするほど、脳を破壊し、幻覚を見せ、やがて死に至らしめるという危険な薬であった。
その薬は日本では一般に麻薬と呼ばれているものであった。
次回第十話 飛行場制圧作戦




