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父の楽譜と 恋するトランペット奏者 2

※誤字 修正しました

  ソルファンが 吹いていた、その曲とは。


「あれは、《恋するトランペット》というタイトルで、確か 父が、二年生の時の作品だって 言っていたはずです」


  ルシフェルの父・ロイドは、アスタルテの卒業生だ。

  父は ピアノ専攻だったが、副科では 作曲を取っていたはずだ。


「確か、《課題》であるんですよね? 楽器が 《お題》に出されて、それに合った 曲を作れ…… とか」

「…… 確かに、あるな。 正式には、《ルヴァンソーレ》といって、その楽器の 《特色》をいかに 生かすかが、作曲の基準になるものだ」


  現役 作曲科のカイルが、うなづきながら 補足説明をしてくれた。


「へー …… 確かに。 この曲、吹いてて すっごい自然で、気持ちいい音が出るんだよねー」

「…… ってことはさ、天使ちゃんの お父様は、トランペットの特性を よく掴んでいて、上手く 曲に生かしているってわけだ。 んー? そうなると……」

「ああ、《紛失》という 保管状態は、不自然だな。 そんな高評価の曲なら、卒業後も、厳重に 《カギ付きの棚》で保管されるはずだ。 間違っても、紛失など…… この学院において、あり得ない」

「そうは言ってもさー、実際に 俺が見つけたのは、《資料室》の、一般棚の列だよ? しかも、一枚目から、作者名のところが 破られていて……」


  ソルファンの言葉に、その場の全員の動きが、一瞬 止まった。


「…… どういうことだ?」

  カイルの瞳が、キランと 輝く。

「それって、まさか 意図的ってこと?」

  ソルファンは、自分の言葉に 動揺している様子だ。

「天使ちゃんの、お父様 …… お名前は? 専攻は 作曲科なの?」

  トーニャの質問は、なんだか 探偵みたいだと ルシフェルは思った。


「名前は、ロイド・ターナーです。 ボクの顔を、銀髪に変えたら、そのまま 父になります。 専攻は ピアノで、副科で 作曲を取ってたはずです」

「ロイド…… って―――」

「まさか……」

「?」


  ロイドという名前じたいは、そう 珍しくもない。

  ターナーという名字も、ありふれているはずだ。

  首を 傾げると、三人は 揃ってこちらを向いて、とても 真剣な顔で 近付いてくるではないか。


「な…… 何ですか?」

「ピアノ科で、ロイド・ターナーと 言ったね?」

「それは もしかして――― あの、《奨学生》でありながら、数々の 《偉業》を成し遂げたという、あの ロイド・ターナーのことなのか?」

「へ? い…… 偉業かどうかは知りませんけど、定期試験では、何度か 《パライエ》を取ったことがあると 聞いてますけど」


  《パライエ》、《スミカ》、《コルセオーサ》。

  古代語で、一位、二位、三位 という意味であり、音楽科の試験で 選ばれるということは、たいへんな 《名誉》であったのだが―――。


  父の 《昔話》くらいにしか認識していない ルシフェルにとっては、そんな 事情は、まったく 知らなかったのだ。

  ちなみに、古代語も苦手なので、パライエという言葉が 一位だとは、今まで 気付きもしなかった。

「甘いよ、天使ちゃん! 音楽科の定期試験はね、学年別じゃないんだよ? 中等部から高等部まで、一斉に 合同審査されるんだよ? その中で、パライエを取るってことが、どれだけ 難しいことか!」

「逆に言うと、上級生であれ、実力が無ければ 在校中に 一度も、そんな 《三役》には縁がないというわけだ」

「……… 音楽科って、怖いところなんですね」


  思い返してみると、ルシフェルが 伴奏することになってしまった、中等部三年の ヨシュア。

  そういえば、彼は あの試験で 確か《主席》を取ったから、大騒ぎになったはずでは……。


「…………… え?」


  《主席》――― すなわち、試験で《一位》のことだ。

  その話からすると、中等部三年で、全学年の中から、《一位》に選ばれた ヨシュアという少年は。

「じゃあ ヨシュアって、とんでもなく スゴイ事を しでかしたってことですか!?」


  ただの主席でも、相当なものだと思ったが、まさか 全学年の中から…… なんて、ルシフェルには とても想像がつかない。

「うわー …… うわー」

  そんな フルトー奏者の、伴奏を務めたなんて、すごい経験だ。


「…… ちょいと、天使ちゃん? その少年を パライエまで導いたのが、他でもない 《君だ》ってことに、なっているんだけどね?」

「はっ!? いや、ボクは全然 関係ないですよ?」

「あー …… 俺、納得したわ。 何で、ヨシュア君が、パライエに選ばれたのかが」

「確かに。 あの 《伝説》のロイド・ターナーの血を引く 《息子》ならば、なんか わかる。 この間の演奏だって、納得したよ」

「あの、ロイド・ターナーの息子とは…… 凄いな、なんて 偶然なんだ。 彼の話は、音楽科では 伝統のように受け継がれていて、誰もが 知っている。 そうか、君が……」


  何だか、先輩 三人で、すっかり盛り上がってしまっているが。

  ルシフェルが 問題にしたいのは、父の 《伝説ばなし》よりも。


  そんなに 《優秀》な父の楽譜が。

  なぜ、普通の棚に、無造作に置かれていたのか。

  そして、なぜ 名前が破かれているのか。


  疑問は、小さな 疑惑となって、ルシフェルの頭から 離れなくなってしまうのである。


※ ※ ※


「…… それで? おばかな 天使様は、いったい 何を考え込んでいたのかな?」


  午後の放課後の、保健室で。

  ケイトの冷たい声が、窓ガラスに反響していた。


  お昼休みの後、ルシフェルのクラスは 体育の時間だった。

  今は 球技大会の直前のため、授業は すべて、球技大会の練習にあてられる。


  ルシフェルの出場種目は、バスケット。

  身長は 皆よりも低いが、遠くから打つシュートが得意なために、この種目を選んだ。

  練習のために、コートに立って プレーしていたわけだが、昼休みの 《出来事》が どうしても頭から離れなくて。

  つい、ぼーっとしてしまったところへ、仲間のパスが 飛んできて、そのまま 顔面キャッチ――― という、恥ずかしい姿を披露してしまったのである。


  それでも、そこは 一年六組。

  普通なら、笑い倒して終るのだろうが、このクラスは 一味違う。

  我らが アイドル、《金髪天使》の顔に 傷が付いたとあっては、一大事。

  授業中にも関わらず、保健室へ運べ~ との、大騒ぎを経て、今に至るのだ。


「考え事をしながら バスケットができるほど、君は 賢くもなければ 器用でもないでしょうが。 何をそんなに、真剣に 考えていたのか ――― 洗いざらい、吐いてもらおうか?」


  医術に詳しいケイトが、結局 手当てを引き受けてくれたのだが、どうも 《それだけ》ではなかったらしい。

「えー ……」

「えー、じゃない。 君は、いったん 気になりだすと、とことん 気にするタチだろう?」

「それは…… まあ、そうだけど」

「そんなことで、明後日に行われる 化学の小テスト、できるわけがないだろう?」

「えっ…… 化学の小テスト、明後日 あるの?」


  そんな話、初耳である。

「はー …… 初耳のわけ、ないだろう。 君が聞いていなかっただけだ。 《決闘》のことで 頭がいっぱいで、授業中 ぽかーんとしているから、そういうことになるんだ」

「うえー …… 明後日かよ~。 絶対 ムリだ~」

「そもそも、毎回 きちんと 授業を受けていれば、小テストなど 解けて当たり前なんだから」

「解けるわけないだろー。 あんな、記号と数字ばっかり 並んでるヤツなんか」

「言い訳、無用」

「言い訳くらい、させてくれよ~」


  がっくりと うなだれたのは、もちろん ルシフェルの方だ。

「はー …… ほんと、この学校って、授業レベルが高過ぎ!」

「それを わかっていて、入学してきたのは 君じゃないのか、ルシフェル?」

「くっそー …… ああ、そうだよ。 うー、だから 毎日必死で 頑張ってるんじゃないかよー」


  くすん くすんと、泣いてみたところで、状況が 変わるわけでもなし。

  ルシフェルは、そんな無駄な 《体力》は 使わないことに決めていた。


「だから、さっきから言っているんだ。 今度は、いったい 何を考え込んでいるのかって。 正直に、僕に 教えなさい」

「あー 、もう。 だからさぁ―――」


  ケイトに言ったところで、問題が 解決するのか。

  疑問は 残るが、女であるとバレてしまった以上、父のことを話しても、支障はないのかもしれない。


「実はさ、ボクの 父さんのことなんだけどさ―――」


  そうして、ルシフェルは 気になったことを、そっくりそのまま 打ち明けたのである。


※ ※ ※


  そして、同時刻。


  音楽科の 《資料室》に、黒い人影が 二つあった。


「この楽譜、こんなところに 紛れていたのか」

「隠すつもりが、行方不明になって、今 また 戻ってきた…… というところだな」

「何にせよ、残りが 見つかって良かった。 後半と同じように、早く コレも 《処分》してしまおう」

「ああ、この楽譜に 気付いた生徒は、まだ数人だ。 しかも、前半しか知らないのだから、それ以上、興味を持つことは ないだろう」

「やれやれ ――― これで、回収できていない楽譜は、あと いくつあるのか、君は聞かされているか?」

「いや…… 知らない。 ただ、ヤツの名前に関するモノ、見つけ次第に 《処分》というだけだし、まだ 相当数 残っているんじゃないのか?」

「はあ…… さすが、伝説の男だな。 作品数だけでも、学生にしては 大量に書いているしな」

「しかも、その ほとんどが、アレに関する 《暗号》で作られているなんて―――」

「しっ、馬鹿、声に出すな! どこで、誰が聞いているか、わからないぞ! ウチの生徒は、みんな 耳がいいんだから……」

「そうだったな…… 少しでも情報がバレたら、俺たちの方が 殺されてしまう」

「ああ、そうだ、気を付けろ」

「じゃあ、目的のモノは回収したし、帰るとするか」

「明日の授業の、準備をしなくては」



  音も立てずに、資料室の扉を開け閉めして出ていく、中年の男、二人。

  どちらも、アスタルテ・音楽科の 教師であり、《黒幕》に 取り入るだけしか能のない、汚い連中だった。


  すぐに、しかるべき場所へと 突き出してやりたい。

  あの ――― ロイド・ターナーの 《直筆の楽譜》を、処分してしまった 《罪》で、八つ裂きにしてやりたい。


  けれど、今は時期ではないとわかっていた。

  まだ、証拠が すべて 揃っていないのだ。

  下っ端だけを 切って、黒幕は 無傷のままになってしまう。 それでは、意味がない。


  何のために、この学院に来たのか。


「ごめんなさい…… ロイド先生。 あなたの大切な楽譜、また 守れなかった……」



  けれど、いつか必ず、黒幕を 追い詰めてみせる。

  あなたが 残してくれた 《手掛かり》を、絶対に無駄にはしない。

  そして、あなたが 目指したモノを、そっくり そのまま、ルシフェルに伝えるから。


  だから、もう少し。

  心配だろうけど、天から 見守っていて下さい。


  空に祈るように、そして 自分自身に誓うように、両手を組んで、目をつぶる。

  再び 目を開けた時には、いつもの 《へらへら》とした、掴みどころのない 顔だった。


  あちこちを フラフラして、《夜の蝶》――― 《フェルミナ》という 異名が付いている、学院の有名人、チェ・ヨンハ。

「さて…… とりあえず、ここから 出るとするか」


  慣れた 動きで、隠れていた死角の場所から躍り出る。



  黒猫のように しなやかな姿は、音楽科の校舎へと 溶け込んでいくのであった。

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