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父の楽譜と 恋するトランペット奏者 1

 新章のスタートです。 少しずつ増えるキャラにも、ご注目下さい。

  演奏による 《決闘》が終決してからというものの、ルシフェルの周囲は さらに騒がしくなっていた。


  元から、目立つ容姿のせいで、すでに 《普通科》の校舎内では 知らぬ人がいないほどの 《有名人》であったのだが。



「あの演奏のせいで、《音楽科》の連中まで 押しかけてくるとはな……」


  校門に着くなり、《白い制服の集団》に囲まれて 動けなくなっていたところを、救出したのは やはりナギだった。

「はー …… 助かったよ、ナギ」

「あのままじゃ、校舎に入るのもできなそうだったよな」

「…… お坊っちゃん育ちのクセに、何なの あのパワーは……」



  ここは、国立・アスタルテ学院。

  授業料は安いが、学力が高いために、庶民は よほど猛勉強しないと そう簡単に入学できない仕組みになっている。

  つまり、学院内の九割は 《お坊っちゃん》で構成されていた。

  ルシフェルの在籍する 一年六組だけは、庶民上がりの 《特殊》な連中が集まっており、学院内では 浮いた存在だといえよう。


「わざわざ 普通科までやって来て、彼らも相当ヒマなんだね。 そんな時間があれば、曲のひとつでも練習すればいいものを」


  朝っぱらから 氷の魔王――― 否、委員長ケイトは、盛大にため息をついている。

「…… っていうか、ケイト! 見ていたんなら、助けてくれればいいのに!」

「僕が? どうして? ナギという 《適材》がいるのに?」

「それは……」

「そもそも、君が自分で 《目立つような行動》を取るから、騒ぎになったわけだ。 いわば、自業自得だね」

「なんだよー ………」


  少ーし、優しい部分があるなー ……なんて、見直していたというのに。

「これに懲りたら、今後は 目立つ行動を控えて、出歩くときも 必ず誰かと行動すること―――― いいね?」

「うー ……」

「返事は 《はい》以外は、却下だから」

「はーい ……」


  何だよ、横暴なケイトめー ……。


  いつもの席に座りながら、ルシフェルが 口を尖らせていると、横から ナギの不思議そうな声がする。

「お前ら…… 何か、あったか?」

「はっ!?_」

「何か、以前と 雰囲気が違う気がする」

「はっ …… えっ…… どこが!? ぜーんぜん、いつもと変わりなく…… んぎゃっ」


  慌てたルシフェルが、お粗末な 《言い訳》を始めたために、ケイトが強制的に 《停止》させた。

「おバカさんは、黙っているように」

「ふぁ…… ふぁい」

  しゃべりたくても、頬をにょーんと引っ張られていれば、誰だってしゃべれないではないか。


「彼が入学してから、二カ月も経てば 僕だって慣れるよ。 騒々しさに慣れてきたから、そのせいじゃないか?」

「…… そうなのか?」

「毎日 バカ面を見ていれば、段々 腹も立たなくなってくるしね」

「いだだだだだっっ」


  一番 後ろの席で騒いでいても、クラスのメンバーは 別に驚かない。

  ああ、これでこそ 《我がクラスだ》と誰もが思う中で、ナギだけは ひとり 違うことを考えていた。


  絶対に、何か あった。

  しかも、それは 《決闘の日》だ。

  以前は、ケイトからは 絶対に 《ルシフェルの体》に触れることはしなかったのだ。


  ケイトは、基本的に 他人には《距離を置いた接し方》をしている。

  皆 それがわかっているから、今更 どうこう言ったりはしない。

  それがケイトの 《個性》なんだと、中等部の頃より理解して 受け入れている。


  ルシフェルに対しても、そうだったはずだ。

  しかし、視線は いつも彼を追っているのを、ナギは気付いている。


  そして、今朝は とうとう、ルシフェルの顔に触れた。


  男しかいないはずの 男子校ならば、当たり前の行為なのだが―――。


「ほーい、お前ら 席につけー。 出席の確認を…… あー、面倒だから、トニー やってくれー」

  担任である コルトが現れ、それぞれが 席につき、落ち着く中。


  …… やはり、ケイトは ルシフェルの秘密を《知っている》。

  そのうえで、何かあった ――― そう考えるのが、妥当だろう。


  脅されてなければ、いいけどな ………。


  なんだか、娘を見守る 《父》のような心境で、ナギは 密かに ルシフェルの様子をさぐるのであった。


※  ※  ※


  楽しみな ランチタイムが終り、午後の授業までは 少し間がある――― いわゆる 《昼休み》。

  追いかけてくる連中を ひととおりいて、ルシフェルは 中庭まで来て腰を下ろしていた。


  中庭を挟んで、普通科と 音楽科の校舎が 分かれている。

  花壇や 樹木がキレイに並んで、遊歩道もあることから、生徒の 憩いの場であると同時に、《隠れ場所》にも最適な場所だ。


  野鳥の声に 癒されるもよし。

  人前で演奏して 技術を高め合う 音楽科生徒の、楽器に耳を傾けるのもよし。


  散歩したり、ベンチに座ったり、芝生に寝転んだり…… 生徒は、思い思いに 中庭を満喫していた。

  人目を避けつつ、ルシフェルにも 《お気に入り》の場所で休憩していると―――。


  わりと近くから、《トランペット》の音色が聞こえ始めてきたのだ。


  この場所は、ほとんど人が近寄らない、中庭の端っこだ。

  練習するなら、もっと人が多い場所に行った方が、誰かに聞いてもらえて 上達するのに……。


  なんとなく興味を引かれて、ルシフェルは 音の発生源を 辿っていく。


  ルシフェルは、楽器は ピアノしか扱えない。

  音楽史も、音楽理論も、楽器の特徴や特性も、実は 何も知らない。

  音楽知識を学ぶ前に、両親が亡くなって生活が苦しくなってしまったからだ。


  だから、たまに 他の楽器に 興味が湧くときがある。

  もちろん、ピアノは大好きで、飽きない。

  けれど、他の楽器に触れてみたい…… という思いが、無いわけではなく。


  聞こえてきた トランペットは、ルシフェルを引き寄せるには充分なものだった。

  甘くて、優しくて…… 恋の歌をうたうような《音色》。


  トランペットは、激しくて、派手で、明るくて、楽しくて…… そんな イメージが大半であろう。

  けれど、ムードたっぷりに 甘く吹いたり、切なげに吹くこともできることは、知っている。


  音色には、演奏者の 《心》が、そのまま出るのだ。

  こんなに 甘い音を出すなんて、どんな人なんだろう。

  木々を抜けて、お目当ての 演奏者を見つけるのには、そう時間はかからなかった。


「……… ふぅ」

「こんにちは」


  邪魔しないように、演奏を止めたタイミングで、ルシフェルは 声をかけた。

  挨拶をしてみたものの、では 具体的に 何を話そうか…… 決めていたわけではない。


「あー …… えーと、ボク 一年の……」

  相手は、白の 音楽科の生徒で、タイは 緑色。

  つまり、高等部 三年を表している。

  年下ならば、先に名乗るのが 礼儀なので、声をかけた手前、自己紹介をしようとすると。

「うわっ! 《天使ちゃん》だ! 本物の、天使ちゃんだ!」


  いっきに 距離をつめられて、猛烈な勢いで 手を掴まれた。

「うわー、間近で見ると、すっげぇ 可愛い! キラキラしてる! お、俺は三年の ソルファンていうのね! いやぁ、まさか こんな場所で会えるなんて! この間の 《決闘》、見たよ! もう、すごく興奮してさ、俺 あの日 全然寝れなくって! やっぱり、音楽っていいよね~。 ああいう 勝負だって、お互いを高め合うわけだし、なにより 皆に聞いてもらえるし、もう 俺も演奏に加わりたくって、あの時 ウズウズしちゃってさ! 一緒に見に来た カイルに…… あ、カイルって、俺の友達なんだけど。 座ってろって、何度も 注意されちゃって! だって、楽しいことは 仕方ないじゃんね! 俺だって、これでも 音楽家の 《はしくれ》なんだし、あんな熱い 演奏を耳にしたら、もう 黙ってはいられないというか――― って、いってぇぇぇ!!」


  掴んだ手を ブンブンと振り回しながらの 《弾丸トーク》に、ルシフェルは クラクラと眩暈を起こしていた。

  そこに、現れた何者かが、目の前の トランペット男――― ソルファンに、正義の一撃を 与えてくれたらしい。

「いってぇぇ…… ひどいよ、カイル。 俺の頭、悪くなったらどう責任とってくれるんだよ!」

「…… もともと悪いのだから、多少のことは 問題は無い。 それよりも、お前のせいで 目を回している 《下級生》を救う方が、上級生として 優先である」

「なんだよー …… 相変わらず、頭 カタイんだからさー」

「もう一発、お前には 必要か?」

「いやいやいや、いらない! 頼むから、勘弁して!」


  正義の使者は、ソルファンの 話にも出てきた、カイルという先輩だったらしい。

「助かりました……」

「いや、こちらこそ、このバカが 迷惑をかけて、すまない」

「いいえ…… ボクの方から、声をかけたんで……」


  何だか、冷たい態度は ケイトにも似ているが、カイルという男は、また 違った雰囲気の持ち主だった。

「改めまして、一年の ルシフェル・ターナーです。 さっきの トランペット、すごく素敵でした」

「ホント? ありがとう! 俺は ソルファン・ルネル。 トランペット専攻で、副科では ピアノ取ってるんだけど…… この間の 君の《仮面舞踏会》、アレは 良かったよ~」

「へへ…… ありがとうございます」


  技術面で、褒められるわけがない。

  仮にも 相手は音楽科なのだ、それくらい 見抜くだろう。

  だから、純粋に 《芸術面》を褒めてくれるのは、とても 嬉しかった。

  それは つまり、聞いて 《楽しかった》ということに なるのだから。


「私は、カイル・エルナンドだ。 作曲科で、たまに ピアノも触る。 …… 確かに、君の演奏は 考えさせられた」

「もー カイルってば、素直に 《良かったよ》って、何で 言えないのさ」

「…… む、私は 良くないとは 決して言っていないだろう。 考えさせるということは、すなわち 演奏にたいする解釈や、それにまつわる 個々の音への解釈、作者への理解や、ひいては 歴史への―――」

「はい、そこまで! しゃべり始めたら止まらないのは、どっちもどっちだと 思うけどねー。 …… っていうことで、天使ちゃん? 初めまして~。 僕は、トーニャ。 トーニャ・ザワスキーだよ。 チェロを弾いてるんだ、よろしくね?」


  いつの間にか、カイルの背後に もう一人。

  ソルファンや カイルに比べたら、線の細い 少年体型の男だ。


「ごめんね、騒がしくて。 僕ら いつも こんな感じなんだ~」 

「三人で、よく 一緒に勉強したり、演奏したりしてるんだ」

「私的には、なぜ この三人なのか 理解できないのだが……」



「………… いいなぁ、楽しそう」  

  トランペットに、ピアノに、チェロなんて…… 三重奏ができて、羨ましい 組み合わせだ。

  うっかり 口に出してしまったが、こればかりは どうにもならない。


「天使ちゃんも、一緒に 演奏に加わらない?」

「ここには、ピアノが ないだろう」

「練習室に移動するんだっての!」

「そういや ソルファン、さっき吹いてた曲、アレ 何? 遠くからでも、すごい 気になったんだけど」

「…… 実は、私も気になった。 あの旋律、そして あの……」

「カイルは 黙ってて! へっへっへっ、実は 俺、《資料室》で 発見しちゃったんだよねー」

「…… ってことは、《卒業生の作品》ってこと?」

「しかもさ、途中で 楽譜が 《紛失》になってて…… 三枚目から、すっげー 気になってさ~」


  その言葉に、ルシフェルは 確信した。

「あの…… 先輩」

「え、何?」

「その曲 ――― ボク、全部 知ってます」

「そうなの …… って、えぇぇぇ!!」



  なぜならば、ソルファンが吹いていた、あの 《甘いメロディ》は。

  ルシフェルの父・ロイドが書いた曲だったからである。

 新キャラも登場し、父・ロイドが書いたと思われる《曲》の謎へと迫っていきます。

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