Special Offer!!
[CAUTION]本作はハッピーエンドではありません。
自作『「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~』と時代設定を共有する独立短編です。
ソロアサシンをご存知無くてもお読みいただけます。
ハッピーエンドではありません。
大学受験も無事に終わった、まだ冬だけど始まった長い長い春休みの頭。
目の前に置かれた真新しいVRマシンを前に、俺――山岸奏汰はにんまりと笑った。
母から渡された「オフィスグレード用にしてはちょっと多めの額」と、貯めていたバイト代やお年玉を合わせた金で買った、ゲーミンググレードフルダイヴヘッドギア。ハイエンドモデルには流石に手が届かなかったけど、そこそこ重たいゲームまでちゃんと対応しているVRマシンだ。
無事に第一志望に受かったら買ってもいいと約束されたこのVRマシンで、今日初めてのVRゲームデビューをする!
「さーて、買うならな~にがいいかな~。やっぱCCO?最近の流行りだとEFOとかだっけ?一人ゲーだと何があるかな~」
ひとまずネットの海に最近のおすすめを聞くべく検索に打ち込む。
VRゲーム ソロプレイ おすすめ
ふんふん。あーやっぱNPC挙動はMMOがいいのかー。デカいサーバーで一括計算してるから挙動が安定してるしキャラクターの生活感がちゃんとあってよい、なるほどなあ。自前計算だとNPC4人くらいが限界なのでゲームとしては微妙。ほー。NPCなしなら遊園地貸し切りゲームがおすすめ、へー、なるほど遊園地行き放題か。基礎パックは安いけど行ける箇所を増やすと高いタイプ、なるほどねえ、とりあえずお気に入りに入れといて。こっちは……ホラゲー、パス。ってかホラゲー多いな~。そっかNPCが全然いないフィールドにするとホラーっぽくなるのか……。あー、もしかして遊園地ゲームってNPC全然いない?マジで俺一人?それは流石に寂しくない?……あーなるほど、個人サーバーに入れて100人マルチまでできるの。俺くらいのスペックだと10人マルチプレイくらいまでは対応できる。なるほどねー、友達な~あいつらまだ受験終わってないんだよな~。一人は浪人がほぼ確定してVRマシンは遠のいたと絶望してたし。
う~~~~~ん…………お?
ソロMMORPGのススメ ~各MMORPGのソロプレイおすすめ度~
ほー。色んなMMOを3ヶ月くらい遊んだ感じのソロプレイおすすめ度?いいじゃんこういうの待ってた。
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●クリスタルシティオンライン
おすすめ度:☆☆☆(ログイン頻度低の場合:☆)
早めにペットを入手すればいける。戦闘用ペットを育て、自分はサポーターになるプレイがおすすめ。
ただログイン頻度が低いとペットがいなくなることがあるので、完全ソロペット運用をする場合高頻度プレイが必須。
ペット保管互助ギルドや課金アイテムがあるので、このあたりに手が出せるなら☆☆☆☆☆
ペット無しソロプレイはほぼ不可能、諦めて。
●エリシオンファンタジーオンライン
おすすめ度:☆☆(ギルド所属する場合:☆☆☆☆)
ストーリー型なのでメインストーリーが存在する。完全ソロでストーリー全クリアが結構きつい。(サブキャラクターを作れるので詰み対策はされている。)
『ストーリー用パーティ募集』と募集チャットに書き込むと結構上位の人が助けてくれるので、野良パーティに入れるなら大丈夫。
個人倉庫があまり大きくないので完全ソロでやろうとするとアイテムのやりくりがかなり大変。誰でも入れる系ギルドに入ると楽にはなる。
=<=<=<=<=
うーん……ギルドやクランに入らんとやっぱきついか……
MMOはPCゲーの方はいくつかやったことあるけど、知らない人のギルドに入るのはちょっとなー。臨公なら別にいいんだけど。
CCOでペット育成プレイにして、ペット保管は課金……課金か~。
そう思いながらスクロールすると、一番下のゲームに目が行った。
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●ファーストクロニクル
おすすめ度:☆☆☆☆☆
完全ソロにおすすめ。NPC交流だけでプレイできる。NPC交流だけは絶対に必須。
ユーザー倉庫を拡張する方法が課金以外も結構あるので、ソロプレイしやすい。倉庫は拠点判定が認められれば、そのタウン内では無料。
流浪プレイをする場合はゲームマネー10万Sを毎月勇者銀行に払うと、大都市判定のある場所でならどこでも倉庫を開ける。(10万Sはレベル100超えたら余裕)
=<=<=<=<=
おお、これじゃん。
あれか、一番のおすすめを一番下にもってくるタイプの記事か。
へーファーストクロニクル、えーと……ファークロ、これか。
ふんふん、ユーザー数もまあまあいる。ユーザーWikiも結構動いてるな。基本料金もそんなに高くない。最初の2ヶ月無料。支払いの休眠ストップ機能あり。なるほど。なるほど。いいじゃん。1ヶ月2ヶ月くらいやって、あいつらの受験終わったら合流してもいいし、何人かでCCOやろうぜーって話なら休眠してそっちに行ってもいいし。
ファークロのチュートリアル記事とかあるかな……。お、結構ある。
ふんふん、冒険者ギルドに登録して、とりあえずCランクくらいまではお仕事でちまちま稼げばいい感じか。ソロプレイだと何でも自分でやらないといけないから、戦闘スキルが育ちにくい。なるほどねえ。戦闘ほとんどしなくても楽しめるから、無理に戦わなくてもOK、採取系オンリーでCランクまでは上がる。へー。
〝相手はNPCだと必ず割り切ること〟?ああ、なんだっけ、NPCと結婚してトラブルとかあるんだっけ?
鼻歌混じりにゲームをダウンロードする。さーて。
いざ!VRゲームデビューだ!
「おー」
プレイヤー名:ソータ。スタート位置を「おまかせ」にしたら、石造りの全体的に白っぽい街に降り立った。
えーと、マップの開き方が、えーと、これか。ボルテスタ王国、外廊都市ジュリア・トニア。ふんふん。周囲に広い森を持つ人類生息圏の東端に近い都市。東の端っこにポップした感じか。
えーと、チュートリアル的には冒険者ギルドに登録してお仕事を貰えばいいんだよな?
すげー。ホントに街だわ。壁にも触覚がある。その辺の階段に座れる。風が頬を撫でる感覚がある。人のざわめく音がする。空に高く上がった日差しが眩しい。うわー。すご。
道端に露天とかある。すごい。へーこの露天出してるのNPC……あれ、あっちはプレイヤーマーカー出てる。へえ、ユーザーマーケットじゃなくてこういう直接交易もできるんだ!すっげー、露天のも全部買えるわけだよね?いや買わないけど。というか買えないけど。
冒険者登録をして、ビギナー向けっぽい薬草採取と弱そうなモンスターの討伐クエストを受ける。
ふんふん、ソロでも大丈夫かとか聞かれたわ。すげえ、NPCってちゃんと交流してくるんだー。まあとりあえずソロで行ってきます~。
薬草を見ると名前が浮かび上がってくる。実に異世界っぽい。ほー、すごい。雑草は雑草って出るんだけど、どうやらこれ植物学みたいなアビリティがあって育つと名前が出るようになるらしい。すごー。
で、薬草薬草。お、これか。むしり。むしり。引っこ抜くと自動でインベントリに収納されていく。
ほうほう、楽しい。むしり。むしり。これが金になるのか。家の庭の手入れも金にならんもんか。
「あの……もし」
「はい?」
多分俺にかけられたのだろう声に振り返ると、微妙な顔をした青年がこちらを見ていた。えーと、頭上のマーカー的にはNPCかな?
「えーと、はい、俺ですよね?」
「はい、あの、低級薬草を採ってらっしゃいますか?」
「そうっす」
「その薬草は、根ごと引き抜かないと薬効がないです」
「なんやと」
純朴そうな青年のNPCは俺の近くに近づくと、薬草の周りをすこしだけ掘って、根っこごともりっと引き抜いた。するとずるずるっと根っこが出てくる。マジかよ。
「ギルドの薬草図鑑に載ってますよ、見てこなかったんですか?」
「さーせん!教えてくれてありがとう!」
「いえ、あの、気をつけて」
青年はそれだけ言って街に向かって行った。
やっべすっげえ恥ずい。Wikiちゃんと見てから来るんだった~。納品前に教えてもらってよかった~!でも恥ずい~~!!!!相手NPCだけど結構恥ずい~~~~!!!!
恥ずかしい気持ちをショートソードに乗せてその辺のスライムへブーン!スライムは四散!小さな魔石をGET!よしっ、討伐クエストはOK!
♪ピピピ!
<Special Offer!!>
<植物学基礎ブック ●●●円 52%OFF!>
<購入期限 24:00:00>
<[購入ページ] [閉じる]>
……あー。なるほどね。基礎アビリティは買えますよどうっすか薬草の基礎分かってない初心者さん、ってことね。
これがチュートリアルサイトに書いてあった課金誘導ね。はいはい。閉じるっと。植物学みたいなのはやってりゃ自然発生するんだろ?そこは記事に書いてあったよ。
しばらく薬草を採取し直して、冒険者ギルドに納品して、シバルというゲーム通貨をもらう。ふんふん、ゲーム内の通過はシバルで、略称はSね。了解。
<称号【駆け出し冒険者】を入手しました!>
おー、称号だ。これ付けたら頭に出ちゃうのかな?流石にちょっと付けにくいな~。だって駆け出しって付いてるし……お、称号表示はオフにできる、よかったー。じゃあつけちゃお。効果はスタミナ微増、いいね、ザ・初心者向けっぽい。
さ……一旦ログアウトして、チュートリアルサイト見てこよっかな!!!!
「――――かなた~、夕飯……あれ、VR買ったのに結局PC使ってんの?」
部屋をばーんと開けた姉の香織が俺の姿を見て聞いた。
「いやーゲームやってたんだけど、ちょっとチュートリアルサイト見ないとむずくてさー。下調べ中」
「あっそ、でも夕飯」
「おう、もうすぐ行く」
「すぐこーい」
うーん、まあ突貫でレベル20くらいまでの知識入れたから、多分大丈夫かなあ。東エリアとボルテスタ王国内で出やすいクエストだけ分かってればとりあえずいいんだろうし。
ボルテスタの東端あたりは森の中に小さな集落がたくさんあって、交易プレイがおすすめらしい。お使いクエでレベル10まで上げたらそっちにシフトすると序盤は楽、ただし戦闘スキルが生えにくいと。ほうほう。序盤だけ楽しんで抜ける気だからいいかもな。
「かなた~!唐揚げ食っちまうよ~!」
「それは話が違うだろ!?」
階下から響いた香織の声に、慌ててPCを閉じた。
3日ほどソロでコツコツ稼いだ成果が現れている。
レベルは10に。布の服は革の防具に。初心者ショートソードは鉄の剣に。初心者ポシェットは冒険者のウエストポーチに。全部NPC店売りの安いやつだけど、とりあえず脱ビギナーって感じ。
あと【駆け出し冒険者】は【初級冒険者】に。冒険者ランクそのものも初期のFからEに上がり、植物学を始めとする「コツコツ3日プレイしたら手に入る」と言われている系の基礎アビリティはだいたい入手した。
魔法も覚えた!水魔法!まだ手元に水をダバダバ出せるだけだけど、薬草採取にちょっと便利。早く攻撃できるようになりてーなー。剣術極めるなら魔法覚えない方がいいらしいんだけど、エンジョイソロプレイだからね。気にしない気にしない。
「さーてと」
低級薬草。低級薬草から作れる下級ポーション。毒消しに、麻痺治し。あと交易用アイテムとかいう、芋を持った。
そんじゃ、集落交易に行きますか~。
「いや、町なんてどこにもないが」
森の中を彷徨うこと1時間。出会うモンスターを倒しながらの1時間とはいえどこにも着かない。これあれか、マップとか街で買っとかなきゃあかんかったやつか。
うーん、でもユーザーWikiにもそれっぽいマップ情報なかったんだよなー。集落って話だし、時々場所が変わったりすんのかなあ。森の奥に入ってけばそのうち着くだろ~くらいに思ってたから結構困るな。
んー……どうすっかな。一回帰るか?
そう思いながら藪を切った先に、人の足跡があった。
「おお、足跡、ラッキー」
足跡を辿った先に、木の簡単な柵と、小さな家が何軒か並んだ集落が見える。
「……あれ、あなたは」
「おお!この間助けてくれた人!どうも~」
集落の入口には、この間薬草の採り方を教えてくれたNPCの青年が立っていた。
再会したNPCのにーちゃんはデリックと名乗った。そんでここはナリア村と呼ばれているらしい。
らしいというのは、正式な村ではないんだって。この森の中にはそういう、まあ他所で食い詰めて出てきた人たちが集まった集落が沢山あって、国に登録とかもしてないので、ナリア村というのはつまり自称らしい。
「それいいの?」
「この森は、正しくはどこの国の領土でもありません。人類の生息圏の外側です。神々の怒りに触れないように細々と生きている、ただそれだけの場所です」
「そっかー、魔物とか大変じゃない?」
「まあまあ大変ですが、ジュリア・トニアの結界効果がぎりぎり届いているので、この辺はあまり強いのはいませんね。だからこの…街からこのくらいの距離のところに、似たような集落がぽつぽつあるんです」
「なるほどねえ」
「ここにいるのは色々な事情で街で働けないものばかりです。集落が変わると言われているのは、多分前の場所が人が減ったりして離散して、別の人が別の場所に集落を作っているんですよ」
なるほどねー。一定期間プレイヤーが来なかったらそういうことにして場所を移してる感じか?
「へえ。家ってどうやってるの?」
「土魔法でぼこっと。ドアとか窓とかは木を嵌めてますが」
「なーるほどねえ」
土魔法いいな。覚えようかな。
「ソータさんは、どうしてこんなところに?このあたりは僕達が自足するための畑しかないですけど」
「え、この辺に集落があるって聞いたから、なんか入り用のものとかないかなーって。何ていうの?行商?」
「本当ですか!?」
デリックは目を輝かせた。
「助かります!時々交易に来てくれる人もいたんですが、最近はいなくて……自分たちで街まで行くには人手が足りていなくて」
あー、序盤のおすすめプレイだから、序盤超えたらもう来ないんだろうな~。調べたら最近は第四都市ってとこがスタートとしては人気らしいし。
「何が必要かわかんなかったから、とりあえず低級薬草とかポーションとか、あとちょっと食料持ってきたんだけど、ぶっちゃけ何が入り用~?」
「低級薬草が一番助かります。薬師は居るんですが、薬草自体がこの辺には自生していなくて。あの、お金はあんまりなくて、物々交換でもいいですか?」
「もっちろん、何がある?」
「一番余ってるのは魔石です。小粒ですが数があります。村の中ではあまり使い道がなくて」
おおいいね。魔石はギルドで一番高く買い取ってもらえるから。
「あいあい、じゃあ」
「薬師のところに案内しますね!」
あ、はい。デリック君が交易してくれるわけではないのね。
案内されたのは少しばかり大きな土作りの家。
「リリナさん」と呼ばれた家主は、椅子の上にちょんと座った、愛らしい女性だった。
長いブロンドの髪。ほんの少し緑を混ぜた青い瞳。日に焼けていない肌は白い。生成りのワンピースが実に似合っていない。絶対にもっと美しいドレスを着ているべき女性だった。
なるほど、「事情があって街で働けない人間の集落」ね。
どっかの貴族のご落胤ってやつかなあ?
「――――薬草を売ってくださるの?助かります。どうしてもみんな小さな怪我が多くて」
「いえ、他に必要なものってありますか?」
「そうですね……野菜や布があったら嬉しいかしら」
「いいよ、今度持ってくるね」
「助かります。私たち外の人間は、街で買い物をすると買い叩かれてしまうから」
リリナさんはそう言って少し寂しそうに微笑った。
可愛い声。少し影のある美しい顔。多分悲劇系ヒロイン。
やばい、ドストライク!この際服が質素なのはむしろプラスだ!俺がこの子に服を買う!この子の心からの笑顔が見たい!
ソータ、ここに住みます!!!
――と、いうのは許してもらえなかったんだけど。
当たり前なんだよなあ、ファークロはNPC生活してるし。生活空間に突然知らんプレイヤーとか入れるわけないんだよな~。
ゲームなのに融通きかねーなーと思うけど、ここで融通効いちゃったらNPCの生活感がなくなっちゃうってのもそうなんだよなー。
さーて、まあマップにマーカーは付けたから、次からはまっすぐ来れる。とりあえず街に帰って色々買い込むか。
「ソータ、その荷物こっちに運んでくれ!」
「あいよ~」
「助かるよ、アンタのマジックバッグでかいね~」
「最近買い替えたんだよ~いいだろ?」
朝は10時から。魔石を売って食料や布や雑貨を買い、街の周辺で低級薬草を採って溜めて。昼の休憩を挟んで午後から森を抜けてナリア村に向かって、物を納品して魔石をもらう。
「柵のそっち抑えててくれ、縛っちまう。――よし、これでぐらつかないだろう」
「うまいもんだなぁ」
「はは、慣れだよ慣れ」
村の人たちと少しおしゃべりをしつつ、柵の修繕とか、ちょっとした魔物退治とか、そういう雑用を村のみんなとして。
「ソータ~!あーそーぼー」
「おーいトーマス!そんな高いとこ登ったらあぶねえぞ!」
「だいじょーぶだいじょーぶ!オレいっちばん高いとこまで登れるよ!」
「やめろ~!マジやめろ!」
すごーい、スローライフだ~。
村人ひとりひとりにちゃんと個性があるんだよ。ほんとにすごい。デリックはどこまでもお人好し。色々頼まれごとをされすぎてよくあっぷあっぷしてる。
ジョアンばあさんは物知りで、薬には使わないレベルの雑草――ごめんて、ハーブな、ハーブ。ハーブの効用なんかも詳しい。怒ると怖い。
ユーゴさんは弓の名人。一矢で一角兎くらいならさくっと倒しちゃう。
マルチェラさんは縫い物がすごく上手い。村のみんなの服はマルチェラさんが縫っているらしい。
トーマスはユーゴさんとマルチェラさんの子供で、木登りの名人だ。うんと高い所の木の実もするすると取ってくる。
小さい村でさあ、みんな顔見知りでいい人でさあ。外の物を持ってくる俺のことをみんな気にかけてて、喋って、遊んで、働いて。
VRMMOでスローライフが流行りってこういうことなんだなあ。
そんなこんなで足繁く村に通うこと3日。
今日はちょっとだけ懐に余裕ができて、リリナさんの目の色に近いほんの少し緑がかった青のリボンを買ってきた。
彼女は少し困った顔でそれを受け取ってくれて、それがものすんげえ嬉しい。
相変わらず周りは鬱蒼とした森だけど。でもこの村もいいもんだな~と思っていた時に、リリナさんの傍で薬草を洗うのを手伝っていたら、彼女がぽつりと言った。
「ありがとう、あなたが来てくれてからほんの数日だけど、村が明るいの」
「そう?」
「そうなのよ。何も聞かないでくれるのも、ありがとう」
「あー……まあ、話したかったら話してよ」
「ふふ。そうね。きっと、いつか」
<称号【ナリア村の何でも屋さん】を入手しました!>
……お?
おお!すごい何でも屋さん称号だ!
村開拓系の第一歩!全ての称号はここから始まるという噂の!何でも屋さん称号だ!!
お~すごい!これで俺も村の一員!!!
「一応、あなたの部屋を用意しようと思って」
「え、いいの!?」
「村の外れのあたりだけど、それでもよければ。あとでデリックに案内させるわ」
「わー、ありがとう、めっちゃうれしい」
そう言って彼女を見る。
彼女は、足が悪い。昔左足の腱が切れてしまったのだという。だから歩くには杖が必要で、あまり遠出もできない。
その話を聞いた時、目の前にSpecial Offerが表示された。回復の霊薬。結構なお値段だけど、彼女の脚は治せるらしい。
霊薬と付いているものはNPC用アイテムらしい。原則譲渡不可、例外としてギルド内でだけやり取りができる。ソロではリアルマネーで買うか自力で作るかしか入手方法がない。
作るには調合のアビリティレベルを相当上まで上げなければいけなくて、さらに言うとそこそこ高レベル目の素材が必要になるらしい。
でもなー、2ヶ月くらいのプレイ目標としては、割と良さそうなんだよな。
レベル上げて、霊薬の素材探して帰ってきて、調合アビリティ育てて、霊薬を作って、彼女を治す。
いい目標だと思う。うん。いい。これだわ。
ということで今はこの辺でのレベル上げ中。もうちょっと上げないと一人旅は辛そうなのよなー。あと今いい感じに金が貯まってってるから、次の装備に更新もしちゃいたい。
「リリナはさー」
「はい」
「脚が治ったらしたことってある?」
「……治りませんよ」
「えー治るかもしれないじゃん。霊薬ってあるんでしょ?」
「霊薬は作った者にしか使えないんです。亜竜の素材が必要なので、そんなものを手に入れられる人はここには来ません」
「来たら?」
「……来ません」
「ごめん言い方が悪かった。俺が持ってきたら?」
「…………お返し出来るものがありません」
むう、頑な。もうちょっと仲良くなってくれてもいいと思うんだけど、難しいな。
「いいからさー、脚治ったらなにしたい?」
「………………もし、そんな日が来たら」
「うん」
「ピクニックに行きたいです」
「いいね~」
「ジュリア・トニアの向こう側は、比較的天気もいいらしいので、そちらまで行って」
「うんうん」
「サンドイッチを広げて、川で魚を釣って」
「たのしそ~」
「そしたら雨が降って」
「え?」
「それで、みんなで走って帰るんです」
「…………そっか」
「はい」
「でも、雨は降らん方がいいかも」
「ふふ、そうですか?」
「雨なんて降らなくても、走ればいいよ」
「そっか……そう、なんですね」
綺麗にした薬草の根っこをすりつぶしながら、彼女はいつもよりも楽しそうに、微笑った。
「無理は」
「おう?」
「無理は、なさらないでください。私は、この暮らしも、嫌いではありません」
「ん~……」
「加護持ちは死を退けるとは言いますが、そんな機会すら、ない方がいいんですよ。あなたの苦しみの上に完成した薬が欲しいとは、思っていません」
「俺の楽しみの上で完成した薬だったら?」
「それは…………それなら、まあ……」
この村のスローライフもめちゃ楽しいけど、せっかくだからちょっと遠出して世界を見るのも楽しそうだしさ。
加護持ちは死なない。大丈夫、俺は楽しんで、そんで君の脚を治すよ。
「すぐに出るんですか?」
「いやー、もうちょっと路銀稼ぎたいんだよね。だからしばらくはこんな感じ」
「それは、よかったです」
「え?嬉しい?嬉しい?」
「村のみんなが喜びます」
「え~~~~」
そこからさらに数日後。
スローライフをしてると目標を忘れそうになるなあと思いつつ、でも装備は更新できた。
金属補強のあるちょっといい革の防具に、ちょっといいコート。剣はユーザーメイドの中古品でロウリンソードというのが手に入った。
剣技スキルはほどほどに育ったんだけど、魔法が結局あんまり育たなかった。土魔法楽しそうだなと手を出したら経験が分散してダメだったっぽい。まーしかたない、そういうこともある。
明日あたり出発かな~。レベル上げつつ西に向かって、霊薬素材を探しつつ、亜竜――ワイバーンの討伐が目標だ。
今日はそんな感じで村中の挨拶をして~今日こそリリナがリボン付けてくれたら嬉しいんだけどな~。結局あげたけど付けてくれてないんだよな~。……なんか、村が騒がしいな。
「よーっす、どうした?」
「ソータさん!ご無事でしたか」
デリックがほっとした顔をした。え、なにどうした?
「実は、野盗が出たそうです」
「やとう~?」
「畑が荒らされて……獣の荒らし方ではなかったので、おそらく」
「うわぁ……なんかする?」
「女子供は家の中に。男衆で見回りをしています。ソータさんは……その……ご出立、でしょうか」
「いやぜんっぜん、だいじょーぶ。俺も見回るよ」
出立予定だったけどね、中止中止。
やあねえ。エネミーに野盗もいんの。まあいるかあ。人型か~。
ま、でも俺がいる間にイベント起こってよかったわ。いない時にけが人出たとか、やっぱ寝覚め悪いし。
野盗は、弱かった。
薄汚れた服で、やせ細って、ギラついた目で、鍬みたいな武器を持って。食料と魔石を狙ってて。だけど、弱かった。
切った肉の感触。そして相手がどさりと倒れる。
一瞬、倒せていないのかと思った。魔石にならないから。
魔物じゃないと魔石にならないんだっけ?そのあたりあんまり詳しくないけど、どうやら野盗は倒しても魔石にならないらしい。
Gカット機能でマイルド表現されている死体が、地面に転がる。
しばらくそうして、多分3人くらい切って、そうして野盗の討伐は、思っていたよりずっとあっさり終了した。
「ありがとうございます、助かりました」
「いんや……それ、どうすんの?」
野盗の死体を村の奥に集めたデリックにそう問う。
「埋葬します。簡単にでも弔ってあげないと、アンデッドになってしまいますから」
「ああ、なるほど」
アンデッドもいるんだ、知らんかったわ。
「土を掘るので、手伝っていただけますか?」
「もっち」
穴を掘るの魔法じゃあかんのかと思ったら、土魔法で開けた穴は土ごとどっかに行っちゃうらしい。
開けた穴に死体を入れて、聖水じゃないんだけど気持ち程度水をかけて、掘り起こした土を被せて。
そうして、デリックが祝詞を唱えた。
なるほど、こりゃお人好しの職業は聖職者だ。元なのか、見習いなのかは知らないけど。
「――――ありがとうございます。これで彼らの魂は、神の御下に届くでしょう」
「神さんが受け取ってくれるかねえ」
「私たちだって、虫同士が共食いをしていたって、悪いことだなんて思っていないでしょう?」
「お前聖職者じゃねーの?」
「元、が付きますけどね。聖職の第一歩は主と我々の大きさの違いをきちんと知ることです。我々と神はそれほどまでに違う」
加護持ちにとっては、もう少し近い存在なのかもしれませんが、と笑った顔は、いつもより随分大人びて見えた。
<称号【ナリア村の何でも屋さん】が、【ナリア村の用心棒】に変化しました!>
ログアウトして、ちょっと食欲のない夕飯を食って。風呂に入って、最近ずっとVRじゃんと香織に言われて。
それからVRマシンではなくて、PCの前に座った。
野盗のポップ条件が知りたい。これから遠出で何日も、場合によっては一ヶ月くらい離れるから、俺のいない間に村が滅ぶのはできれば避けたい。
こういうのどこで調べたらいいんだ?ユーザーWikiの……エネミー一覧?イベント一覧?んーだめだイベントは多すぎる。エネミー検索で……ん?野盗ひっかかんねえな。あーこれもしかして、エリアごとに微妙に名前違うやつか?どうやって検索すんだ……。
とりあえず ファーストクロニクル 野盗 とつっこんだ検索画面に、村に野盗が現れたら、というユーザーWikiのページがひっかかった。なんだ専用ページあるんじゃん。――――は?
=>=>=>=>=
●野盗とは?
・・食い詰めた村人のこと。どこかの村が崩壊寸前になった時、周囲の村を襲撃しに来る。
・・野盗は自然ポップしない。
●野盗が現れたら
・・ほぼ確実に周囲の村で取り返しのつかないクエストが出ている。
●●王道ルート
>まずは周囲10kmくらいをとにかく走り回れ。
>ポーション、毒消し、交易用の芋なんかを持って走ると吉。対価を求めるな、とりあえず施せ。
●●邪道ルート
>来た野盗を縄で縛って元の村の場所を吐かせる。
>村を吸収合併しろ。奴隷化が一番後腐れ無くて楽だぞ。統治する気ならがんばれ。力こそパワーだ。
●野盗を倒しちゃったら
・・絶対に葬儀をさせるな。全力で妨害しろ。今ならまだギリ間に合う。
・・アンデッド化までだいたい10日くらいかかるからそれまでに蘇生しろ。
●葬儀しちゃった!
・・コモンルート入りおめでとうございます。君は立派な用心棒だ。英雄にはなれない、一般人。ご愁傷さま。
・・数日、夜は村に張り付くように。高い確率でお前の村は滅ぶぞ。
=<=<=<=<=
っ!?!?!?!?!?
なになになになに!?どういうこと!?
あ……今、今9時!?やばい、なに、何か分かんないけど、とりあえずログイン!
ログイン先はジュリア・トリアの外壁すぐ。
まっすぐ真っ暗な森に突っ込んで、数日ですっかり慣れた道を全力で駆け抜ける。
何も起こらないでくれ。何も。何も。起こってないでくれ。
夜の森に、人の大声が響いている。
近づくほどに視界にいやな靄がかかる。行動ペナルティじゃない。なんだ、霧?…………けむ、り?
村が、燃えている。
土作りの集落は、それでも扉や窓や屋根や家具で、あちこちに木や草が使われていて、原始的な構造の村は赤々と火を灯している。
どうして。
どうして。
「たまたま加護持ちに気に入られただけのくせに!!!!」
知らない声。
「お前のせいで、お前たちが!!!!」
女の声だ。若い、女の。この村に知らない人間なんていない。全員の声を、俺は間違いなく当てることができる。
知らない声が、叫ぶ。
「お前たちが!!父ちゃんを殺したんだろう!!!」
叫ぶ女が視界に入る。
薄汚れて細い体。
ギラついた目。
傍には弓と、先端の焦げた矢が落ちている。
ユーゴさんが取り押さえたその体を、デリックの刃が貫いた。
煙のくすぶる村の中。
村で一番大きな家の中に、彼女はいた。
少しだけ緑がかった青のリボンをしっかり握りしめて。
引火したのか、杖が焼け焦げて転がっている。
それで歩けなくて、床を這って。
燃えた扉が降ってきて。
「リリナ様……」
「リリナリア様……」
お前らさ、いつもは「リリナさん」なのに。こういう時は様っていうの。
彼女なら、こういう時、様なんて付けるなって、言ってくれそうなのに。
彼女は何も言わない。眠っているだけのような姿で、リボンをしっかり握りしめて、質素なワンピースを泥と煤で汚して、だけど本当に眠っているだけのような姿で。
本当は、このリボンと同じ様な青にすこし緑を垂らしたような色の瞳で。でも今もうその目は動かなくて。
霊薬を、渡していたら。
渡していたら、歩けてた。
「明日、葬儀を行います」
デリックの声が耳をかすめる。
「どうぞ、ソータさんも参列されてください。リリナさんも、その方が喜ぶでしょう」
葬儀。
まだ、彼女と、あの子は間に合う。
今なら、まだ。霊薬が間に合う。間に合ってしまう。
どの面下げて。
あの子の父親たちには使わなかった。
彼女だけ助けるのか?
彼女はそれをよしとするのか?
喉の奥がからりと乾いていく幻触。
視界が揺れる。
眠ったように動かない彼女の目の前で立ちすくむ俺に、システムメッセージが表示された。
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<※葬儀の終了しているキャラクターには使用できません>
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<※葬儀の終了しているキャラクターには使用できません>
<購入期限 11:59:55>
<※葬儀の終了しているキャラクターには使用できません>
<購入期限 11:59:54>
<購入期限 11:59:53>
<購入期限 11:59:52>
<購入期限 11:59:51>
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〝相手はNPCだと必ず割り切ること〟
信じていただけないかもしれませんが普段はVRMMOラブコメを書いています。本当です。嘘じゃないんです。
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