表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘力ゼロで追放された俺、 最強じゃないのに周囲が勝手に従い始める  作者: 山奥たける


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/40

第6話 選ぶ者たち

 三日という猶予は、あまりに短い。


 集落の中央に集まった人々の顔には、不安と諦めが入り混じっていた。

 無理もない。帝国の私設部隊に逆らえば、どうなるかは分かっている。


 アルトは、皆の前に立たなかった。

 代わりに、壊れた井戸のそばに腰を下ろし、工具袋を広げた。


「……何をしているんだ?」


 年配の男が、恐る恐る声をかけてくる。


「井戸を見ています」


「そんなことしても、意味は――」


「あります」


 アルトは、滑車の軸を指でなぞった。


「この井戸、深さは十分です。水脈も生きている。

 ただ、支えが歪んでいるだけだ」


 男は、困惑した顔をする。


「直せるのか?」


「時間はかかります。でも、直せます。

 それと……畑の土、改良できます」


 周囲がざわついた。


「今さら、そんなことをしてどうなる!」

「三日後には、ここを出なきゃならないんだぞ!」


 アルトは顔を上げ、静かに言った。


「だからです」


 怒鳴らない。

 説教もしない。


「三日後に“価値がある”と示せなければ、終わりです。

 逆に言えば――示せれば、評価は動く」


 人々の目が、少しだけ揺れた。


「でも……私たちには、戦闘力も、後ろ盾も……」


「あります」


 アルトは即答した。


「あなたたち自身です」


 誰も、すぐには反応しなかった。


 アルトは工具を手に取り、井戸の修理を始めた。

 軋む音、金属が擦れる音。


 しばらくして、若い女性が一人、近づいてきた。


「……私、手伝えることありますか」


「この縄、張り直してください。力はいりません」


 次に、少年が来た。


「俺、土運ぶ!」


 気づけば、少しずつ人が集まり始めていた。


 ――選ぶ者が、増えていく。


 ***


 初日の夜。


 井戸から、澄んだ水が上がった。


「……出た」


 誰かが呟く。

 その声は、すぐに歓声に変わった。


 アルトは一歩引き、皆の様子を見ていた。

 自分が称えられる場面ではない。


 だが、その様子を、別の視線が見ていた。


 集落の外れ。

 私設部隊の陣営で、指揮官が報告を受けている。


「住民が、妙に動いています」


「放っておけ」


 指揮官は書類から目を離さない。


「数字は三日で変わらん」


 その言葉は、確信だった。

 評価制度に身を預けた者の、揺るぎない安心。


 ***


 二日目。


 畑に、変化が出始めた。


 水路を引き、肥料代わりの堆肥を混ぜる。

 収穫量は増えない。だが――損失が減る。


「これ、去年よりマシだ……」


「枯れてない」


 人々の声に、少しずつ熱が戻る。


 アルトは、作業の合間にさりげなく言った。


「明日、評価官が来ます」


「え?」


「私設部隊は、最終判断の前に、必ず記録を取る。

 評価官は数字しか見ない。でも――」


 アルトは、畑と井戸を見渡す。


「数字は、人が動けば変わります」


 それは、断言ではなかった。

 可能性の提示だった。


 ***


 三日目の朝。


 評価官が現れた。

 無表情で、記録板を持つ男だ。


「生産量、低。再編対象――」


 途中で、言葉が止まる。


「……水量、増加?

 損失率、減少……?」


 指揮官が、眉をひそめた。


「誤差だ」


「いえ」


 評価官は、淡々と続ける。


「短期改善としては、異例です。

 再評価が必要」


 その瞬間。


 集落に、静かなざわめきが走った。


 アルトは、後ろに立ったまま、何も言わない。


 ――勝った。


 いや、彼らが選んだ。


 評価制度の言葉で、評価制度を揺らしただけだ。


 指揮官は、アルトを見た。


「……お前が、仕組んだのか」


「いいえ」


 アルトは、はっきり否定した。


「彼らが、自分で選びました」


 沈黙。


 やがて、指揮官は視線を逸らした。


「……今回は、見送る」


 それ以上、何も言わなかった。


 私設部隊は撤収を始めた。


 ***


 人々が、アルトを囲む。


「ありがとう」

「あなたがいなければ……」


 アルトは、首を振った。


「俺は、きっかけを作っただけです」


 そして、少し困ったように笑った。


「選んだのは、皆さんです」


 その言葉に、誰かが泣いた。


 集落に、確かな変化が残った。


 評価が上がったわけじゃない。

 安全が保証されたわけでもない。


 それでも。


 ――この場所は、もう“何も選ばない場所”ではなくなった。


 アルトは、静かに荷をまとめる。


 ここに、留まる理由はない。


 だが、背後で誰かが言った。


「……また、来てくれますか」


 アルトは少し考え、答えた。


「必要なら」


 その答えが、どれほどの意味を持つのか。

 この時、まだ誰も知らなかった。


 ただ一つ。


 戦闘力ゼロの追放者は、

 人が“選ぶ理由”になる存在になり始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ