第37話 責任のない死
その部隊は、誇りを持っていた。
命令がないこと。
階級がないこと。
評価されないこと。
それらは、自由の証だと信じられていた。
***
「撤退判断は?」
誰かが、前線で尋ねた。
答えは、ない。
命令する者がいない。
決める者もいない。
代わりに、
互いの顔を見る。
まだ、いける。
まだ、やれる。
そう“感じた”者が、
一歩前に出る。
***
敵は、組織だった。
指示が飛び、
退路が確保され、
補給が続く。
一方、自由参加部隊は、
散発的に動く。
勇敢な者から倒れ、
慎重な者は取り残される。
誰も命じていない。
だから、
誰も止められない。
***
戦場の端で、
伝令が走る。
「……撤退すべきです」
その言葉は、
誰にも届かない。
命令ではないから。
***
夜。
火は、点々と残っている。
だが、
それは焚き火ではない。
燃えているのは、
装備と、
遺体だ。
***
翌朝。
部隊は、存在しなくなっていた。
全滅。
指揮官も、
責任者も、
存在しない。
記録には、こう残る。
自由参加部隊は、
各自の判断で行動し、
結果として戦力を喪失した。
間違っていない。
だが、何も言っていない。
***
その報せを、
アルトは街道で聞いた。
通りすがりの噂話だ。
「……誰の責任だ?」
「誰の命令でもない」
「じゃあ、仕方ないな」
軽い声。
理解したつもりの声。
***
アルトは、立ち止まった。
胸の奥に、
重たいものが落ちる。
「……これが、
自由の使い切りですか」
ドレイクは、答えない。
言葉にすれば、
正当化してしまう。
***
後日。
帝国は、声明を出す。
自由選択の結果であり、
制度の問題ではない。
魔王軍は、こう言う。
志願者の尊い犠牲だ。
完全自由圏では、
誰も言及しない。
評価しないから。
***
誰も、嘘をついていない。
だからこそ、
救いがない。
***
アルトは、夜の焚き火を見つめる。
火は、静かだ。
だが、
あの日の谷の火とは違う。
あれは、
選び続ける火だった。
これは、
選ばせなかった火だ。
「……同じ言葉で、
ここまで違う」
それが、
最も残酷だった。
***
翌日。
使者が、アルトを訪ねてくる。
「各勢力が、
あなたの見解を求めています」
アルトは、顔を上げる。
拒否も、否定も、
もう遅い。
次は、
言わなければならない。
これは、俺の思想じゃないと。
火は、消えた。
誰も消していない。
だから、
誰も責任を取らない。
それが、
この世界が選んだ結果だった。
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